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2021.11.06

1000円以上の「高級海苔弁」がいま大人気!

銀座の一等地で庶民的弁当の代表格の海苔弁をやったら面白いのではないか、そんな思いつきから2017年にGINZA SIXで開業した「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」。東京駅、新橋駅、築地直売所、上野駅、品川駅(2021年12月予定)など出店が続くその好調の理由とは?

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文/圓岡志麻(フリーライター) 撮影/梅谷秀司

記事提供/東洋経済ONLINE
▲ 2017年、GINZA SIXの開業とともに突如現れ、たちまち大ヒット商品となった「刷毛じょうゆ海苔弁山登り」を購入できる築地直売所。 ガラスの引き戸などがどこか懐かしい外観は、多くの人が海苔弁に抱く“郷愁”を表現している。
「海苔弁」と言えば、価格が安い割に満足感が高い、庶民的なお弁当の代表格だ。しかし今、1000円以上する高級海苔弁の人気が急上昇。ちょっとしたブームを引き起こしている。

その仕掛け人が、「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」(以下、「海苔弁山登り」)である。2017年にGINZA SIXで開業し、その後エキュート東京、新橋駅、築地直売所、上野などと展開を広げている事業だ。
▲ シャケをメインとした「海」(1080円)。シンプルな味つけながら、海苔の香ばしさに引き立てられ、食材そのものの味が力強く口内に広がる。箸休めもていねいに作られており、残さず平らげることができる。またバランやアルミカップなどの仕切り材は使用されていないため、弁当箱がきれいにカラになるのも爽快感がある。
定番のメニューはシャケをメインにした「海苔弁 海」のほか、鶏の照り焼きの「山」、野菜で構成される「畑」の3種類だが、うなぎ弁当や押し寿司など、月ごとに新作を発売している。

海苔ごはんの上にシャケの塩焼き、ちくわの磯辺揚げなどがのった、イメージどおりの海苔弁そのもの。しかし味わってみると、海苔弁、そして「弁当」そのものの概念が覆ってしまった。その驚きに満ちた味の秘密はどこにあるのか。

そしてこのヒット商品はどのようにして生まれたのだろうか。
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「スープストックトーキョー」の系列会社

同社の母体は「スマイルズ」。飲食やアパレルなどのブランドを複数展開するほか、コンサル・プロデュース事業を行う企業である。

展開ブランドの中でも「スープストックトーキョー」は「スマイルズ」の黎明期である1999年より営んでいるメイン事業。20年でじわじわと広げてきた全国62店舗を堅持しつつ、冷凍スープの卸売・小売り、ECなど新たな領域へと成長中だ。
▲ 築地直売所では昼のみ、数量限定で「消費期限2時間」の弁当も販売される。通常は菌の繁殖を抑えるために冷やす工程を挟むが、あえてその工程を省くことにより、シャケや鶏の照り焼きなどをよりふっくらとした状態で楽しむことができる。
そのほかネクタイブランド「giraffe」やファミレスの「100本のスプーン」など、多様に展開しているところが同社の特徴だ。なお、「スープストックトーキョー」は2016年、「海苔弁山登り」は2021年4月に「スマイルズ」から分社化している。

では、こうした他のブランドと比べてもちょっと異質に感じられる「海苔弁山登り」はなぜ生まれたのだろうか。株式会社「海苔弁山登り」社長の我妻義一氏に聞いた。

「当社は社員一人ひとりの発想ややりたいことにチャレンジしていこうという社風が強い会社です。実は9年ほど前にJALの機内食として海苔弁を提案、搭載していただいたこともあり、私自身、弁当という形には昔から思い入れがありました。直接のきっかけとなったのは、2016年のGINZA SIXからの出店依頼。銀座一等地で庶民の弁当の代表格である海苔弁をやったら面白いのではないか、そんな思いつきからです」(我妻氏)

海苔弁は家庭でつくる弁当の最高峰であるというのが我妻氏の持論。高校生のときに食べた母親の海苔弁は冷めていてもおいしかった。しかし1980年代、「ほっかほっか亭」が誕生して以来、一般認識として、「温かさ」が弁当のおいしさの大きな部分を占めるようになった。コンビニで弁当を購入し「温めますか?」と尋ねられる度に、我妻氏は「弁当の本質とは何か」について考えを巡らせたという。

最終的に至ったのが「おいしさは物理的な温かさではなく、心の温かさである」という結論だ。

「受験生ならカツを入れるし、新婚ならでんぶでハートを描く。このように作り手の気持ちが伝わってくることがおいしさにつながっているんです。また海苔弁も、安さが売りというステレオタイプがあります。しかし、私の思い出の中にあるような、家庭でつくる弁当の最高峰としての海苔弁を追い求めたいと思いました」(我妻氏)
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こだわり抜いたのが、弁当の主役となる海苔

目指したのは、広く販売されているような食欲を満たすだけの“弁当”や、ステレオタイプの“海苔弁”へのアンチテーゼとしての海苔弁。

ブランドではないが、吟味された食材を用い、一つひとつていねいに手作りする。容器もプラスチックは避け、懐かしさを感じさせる自然素材を採用した。

こだわり抜いたのが、弁当の主役となる海苔だ。有明産で上位1%と言われる最高級海苔を使用。初摘みの新芽でやわらかく、青のりが混ざる海域に育ったことから、特有の香りがするのが特徴とのこと。
▲ 海苔は有明産の上位1%と言われる最高級海苔を使用している。
この香りは広告の役割もしてくれるほどだそうで、店舗で海苔の上からしょうゆを塗る際、ふわっと立ち上る香りににつられて自然と周囲に客が集まってくるのだという。

こうして同社が新たに提案した海苔弁は、1日に2000〜3000食を販売する、大ヒット商品となった。東京駅の弁当販売数ランキングでは「海苔弁 海」が2位とのこと。ちなみに1位は「シュウマイ弁当」とのことだ。「海苔弁山登り」はさらに展開を拡大。2021年12月には品川駅にもオープン予定だ。

このように見てくると、「海苔弁山登り」大ヒットの理由は、誰にとってもなじみ深い商品ながら、既存のイメージを塗り替えるほどのインパクトを与えたことにあるように思われる。

こうしたブランド創出の土壌となっているのが、同社における「スープストックトーキョー」を軸にした多角的な運営だ。ここからはさらに、「スマイルズ」という企業の核となっているブランド、「スープストックトーキョー」について説明していきたい。

「スープストックトーキョー」は1999年、「女性が一人で食事できる場所」の実現を求めてスタート。さらに化学調味料・保存料に頼らないというこだわりや、週替わりのバラエティーに富んだメニューなどが女性の支持を受け、着実な運営を継続させてきた。
▲ スープストックトーキョー東急プラザ銀座店。コロナで店舗利用の割合は低下したものの、2004年から取り組んでいる冷凍食品通販や店頭販売が伸びたおかげで、売り上げへの影響が緩和されているそうだ。
同社社長の松尾真継氏は、運営方針について次のように説明する。

「出店の話は多くいただいてきたが、人材育成を大切にしながらお客様に愛されるブランドに育てたかったので、無理な拡大を目指すことはありませんでした。長く続くためには、変えるところと変えないところをきちんと切り分けることが大事。

当社で言えば、添加物に頼らず手間暇をかけてスープを料理する、煽情的なCMや値下げで集客しないなどのスタンスは創業以来変えていません。一方で、スープをご自宅で楽しんでいただくために冷凍や通販を取り入れるなど、時代に合わせて便利さも追求していく。このようにして、共感されるブランドであり続けることが大切だと考えています」(松尾氏)
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コロナ禍で有利に働いた調理方式

通販や冷凍食品に早くから取り組んでいたのは、同社のスープに保存料などを使わないという特徴があるため。主に静岡の提携工場でベースを製造し、冷凍にして各店舗に届け、調理する方式をとってきた。こうした技術的な基盤があったため、冷凍食品として早く展開することができたのだ。ブランド力を維持するため、販売チャネルは高級スーパーや百貨店に限った。また客の評価を受けて直営の物販専門店をスタートさせ、現在10店舗を展開している。
▲ 定番の「オマール海老のビスク」(手前)と、10月の期間限定商品「梨のラッサム」。スープ2種類とご飯(またはパン)のセット1012円の人気が高いという。
これらのことがこのコロナの状況では有利に働いた。もともと店舗利用の割合が高く、それ以外の通販・冷凍の売り上げが2割程度だったところが、2020年は売り上げ全体の4割超えへとアップし、店舗利用の落ち込みを下支えしたという。

1品500円程度と、ふだんの食事で毎日とるには高価格だが、“自分へのごほうび”や、贈答用途の割合が高いそうだ。お見舞いの品や、もともと女性からの評価が高いことから、出産祝いとしても人気があるという。

このように基軸となるサービスを活用しながら、新しい分野を開拓し続けられることが同社の強みのようだ。

最近新たに売り出したのがレトルトカレー。カレースープは同社にとっては、スープの売り上げが下がりがちな夏場の救世主的存在でもあるが、その人気は高く、カレー専門店「YELLOW」を立ち上げたほど。

「レトルト食品は殺菌のため高温に加熱する必要があり、天然素材でだしをひいた繊細な味わいを大事にするスープには向かない。ただ、スパイスを混合して味わいを出しているカレーならレトルトでも、店舗で提供しているのと同等の味を楽しんでいただくことができます。外出できない時期にご自宅でも人気のカレーを味わってほしいと、コロナ禍が始まった去年の春に急遽開発し発売しました」(松尾氏)
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すぐに売り切れた「猫のためのスープ」

またこの夏、新たな領域への挑戦として発売したのが「猫のためのスープ」だ。6個入り3000円(送料込み)と猫の食べ物としては高く感じられるが、発売時の生産分はすぐに売り切れたとのこと。

「Soup for all、“誰にでもおいしいスープを”、というのが当社で大切にしている思いです。allには大切な家族であるペットもその中に入るのではないかと、長年猫と暮らすスタッフがアイデアを出してくれました。見渡してみると彼以外にもシェフなど、当社社員にはけっこう猫と暮らしている人が多かったんですね。

そんなメンバーが集まって開発したスープです。発売後はインスタグラムに飼い猫がスープを食べている様子をお客様がたくさんアップしてくださるなど、大変好意的な反響をいただけました」(松尾氏)

猫のためのスープの成功を受け、犬向けのスープも検討中だという。
▲ スープストックトーキョー社長の松尾真継氏(写真左)と海苔弁山登り社長の我妻義一氏。
そのほか近々に発売を予定しているのが、本格的なフリーズドライスープ。また店舗で提供されるスープについてはハラールやベジタリアン向けを含め、メニューを20~30種類に増やしたいと考えている。さらにスープの「消化によい」という特徴を生かし、病院関係へのビジネス展開も予定しているそうだ。

スープは世界各国において食べられている基本の料理であり、調理のバリエーションが広い。栄養素が凝縮され消化もよいため、子どもや高齢者、病人などにも向く。汎用性が高くさまざまなビジネスが考えられる素材と言えるだろう。

太い幹からいくつもの枝葉が生い茂っていくように、「スープストックトーキョー」を軸とした同社の多彩な展開は今後もヒットを生みだしていきそうだ。
当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です

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