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2017.08.19

過熱するブームのなか、本当に美味しいジビエ料理を食べるには?

文/木原 美芽
写真/菊地和男(ルンゴ)
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写真/アタゴール
ヒートアップが止まらない肉ブームのなかで、ここ数年、特に注目が高まっているのが「ジビエ」。ジビエとは、狩猟によって捕獲された野生の鳥獣やその肉のこと。牛肉のランクや豚の銘柄に拘ったその次は、「違う種の肉を食べたい!」と、肉マニアの飽くなき好奇心&食欲は全開なのです。

元々日本でも山間部ではイノシシや鹿肉を食べる文化がありましたが、一般的にはなじみの薄いもの。しかし、実は野生の鳥獣が農作物を食べる被害が年200億円にものぼっているなど、日本の野山を駆け巡る鹿やイノシシなどの存在は社会的な大問題に。10年ほど前から国や地方自治体がその対策に徐々に本腰を入れ始め、この7〜8年ほど前からは野生の鳥獣を捕獲するだけでなく、「それじゃもったいない!肉として売ろう!」という流れができました。

ということで、「獲って売りたい」側と「美味しいものを、もっと知りたい・食べたい」側との利害が一致&スパークしているのが、今というワケなのです。

オフィス街の居酒屋にも登場! カジュアルな入門編が大盛況

◆ 「ルンゴ」

ジビエを食べられる場所といえば、以前はまず、フランス料理レストランを思い浮かべたもの。しかしこの1〜2年で一気に、焼き肉店や居酒屋、バルなど、幅広いジャンルで見かけるようになりました。こういった店は価格もカジュアルなのが、うれしいところ。2017年2月、大手町にオープンした「ルンゴ」はまさにそんな店のひとつです。
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ルンゴ名物と銘打った肉豆腐は3種類で、イノシシのバラを使った「しし豆腐」は780円。肉にくさみはなく、ぷるんぷるんの嬉野豆腐と一緒に食べれば、ジビエ初心者でもまったく抵抗感はないはず。
「ルンゴ」は、佐賀の地酒とジビエ料理が売りの居酒屋。看板は肉豆腐と炭焼きとなじみ深い料理ですが、ちょっと違うのがここにジビエを使っていることです。「しし豆腐」(780円)は、佐賀県・武雄のイノシシのバラ肉を使用。かつお節やさば節、干ししいたけをベースにした出汁にしょう油やたまりじょう油、ザラメを加えて豆腐を煮込み、最後にさっとイノシシ肉に火を通して和えたもの。ほんのり甘めな味つけが、肉の脂身の甘さとよく合います。
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じびえ炭焼き。いのししの山椒七味醬油焼き880円(右)、夏鹿の150年床ぬか漬け焼き780円。それぞれ工夫を凝らして味つけした肉を、じっくり炭火で焼き上げる。
「じびえ炭焼き」は時期により入荷する肉が変わります。夏の今は、「いのししの山椒七味醬油焼き(佐賀県産)」(880円)と「夏鹿の150年床ぬか漬け焼き(大分県産)」(780円)を提供。オリーブ油とニンニクでマリネしたイノシシ肉に味付けをしたり、味噌漬けした鹿肉にぬか床の風味をプラスするなど、いずれもひと工夫あり。どの料理にも共通するのが、「食べやすさ」です。
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ぱりぱりピーマン 自家製ジビエ肉味噌マヨ480円。鴨やイノシシ、鹿などの肉に豚を少々加えてミンチにし、豆板醤やしょう油、みりん、酒などでじっくり煮てから自家製マヨネーズで和えた一品。
「ジビエというと、クセがありそう、においが強いのでは?と思う方も多いでしょう。でもウチで食べていただいたお客さまはみな、『食べてみたら、おいしかった!』とおっしゃって下さいます」

こう語る「ルンゴ」料理長の後藤啓太さんはその理由を、信頼できる会社から仕入れをする肉の、丁寧な下処理にあると言います。また、後藤さんは元々イタリア料理人のため、ジビエを扱うことに慣れており、和洋に縛られないアレンジを利かせられるのも大きなポイントです。
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大手町パークビルの地下1階にある店は、通路側の仕切りをすべて開け放った作りで開放的。ちゃぶ台を囲む座敷席もあるが、カウンター席が多いので、ふらりと入りやすいのも魅力
後藤さん曰く、「ルンゴ」でジビエを楽しむお客に男女差はあまり見られないそう。大手町のオフィスビルの地下街という、最大公約数的お客が多いロケーションで、ジビエがごく普通に「居酒屋料理のアイテムのひとつ」として受け入れられつつあるのです。ジビエはまだ食べたことがないという女性を、「軽く一杯つき合ってよ」と誘いやすい味と場所なので、ぜひ足を運んでくださいね。

夏の間は鹿とイノシシに限定されますが、10月以降、猟期が始まれば、クマや鴨なども入荷予定。鹿のハツなど、内臓も定期的に仕入れが可能なルートをもっているので、その時々でオンメニューされるそうです。

◆ ルンゴ

住所/東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビル B1F
営業時間/11:00〜14:00(L.O.)、17:30〜22:30(L.O.)
土・祝12:00〜20:30(L.O.)
定休日/日曜
予約・お問い合わせ/☎03-6551-2503

●鹿レバーペースト カラザウ添え 480円、鴨ハツの唐揚げ 680円、日本ワイン・グラス 550円、ボトル 3000円〜

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自らが獲って捌いた肉を調理する、レアスタイル・レストランも登場

◆「 ELEZO HOUSE(エレゾ ハウス)」

美味しい料理は、まず、いい食材があってこそ。ジビエももちろん、この黄金法則どおりです。北海道・十勝の食肉料理人集団「エレゾ」は、ジビエを始めとする北海道の食肉をすべて自社で手がけ、名だたるレストランに供給する企業。代表である佐々木章太さんはハンターであり、フランス料理人で、自社のことを“食肉料理人集団”と標榜しています。その「エレゾ」が、渋谷・松濤に紹介制レストラン「エレゾハウス」を開店したのは、昨年のことでした。
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鹿のコンソメ トリュフ風味。鹿の骨や肉で丁寧に取られた香り高いコンソメスープは、「エレゾハウス」不動のスターター
「エレゾハウス」は、狩猟、解体、調理までをすべて自社で一気通貫で実施。日本のみならず、世界的にも珍しいスタイルの店です。ディナー料理は、おまかせコース(12960円)と特別おまかせコース(16200円)の2本立てのみ。提供されるジビエは鹿が中心ですが、後者のコースをお願いすると、時期によって入荷するヒグマや鴨、ハトなどが合わせて登場することもあります。
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自家製シャルキュトリーの盛り合わせ。北海道・十勝の自社ラボラトリー内で製造されるテリーヌや生ハムなどを数種類組み合わせて提供する
肉はすべて、「エレゾ」独自の厳密なルールに則って狩猟・解体・加工されたもので、くさみなどは一切なし。内臓も一部メインディッシュになるほか、自家製シャルキュトリーなどに余すところなく使われます。

身体にダメージを与えないために、撃つのは首や頭だけ。鹿なら4歳までのメスと3歳までのオスしか獲らない。捕獲から自社の食肉処理施設で行う一次加工までを2時間で完了させる。これらはエレゾ・ルールのわずか一部ですが、いずれもこれまでの狩猟ではなかなか実践されていなかったこと。特に、性別や月齢をここまで細かく規定した例はほぼありません。「エレゾハウス」では時折、鹿肉が、性別違い・月齢違いで供されますが、それが可能なのもこのルールがあるからなのです。

ちなみに、「エレゾ」のスタッフは全員、狩猟免許を保持。通常の狩猟は専属ハンターである尾崎松夫さんや約30名いる会員ハンターが行いますが、「命を丁寧に押し頂くこと」を徹底するため、他スタッフも定期的に山へ入るそうです。

「鹿は通年で提供していますが、もちろん冷凍モノではありません。春夏は若々しくさっぱり、秋冬はうま味が強まるなど、四季で変化する肉質を楽しんでいただきたいですね」と、代表の佐々木は言います。

一見、普通の話のようですが、四季での食べ比べが可能なのも、自社で肉を供給できるから。また「エレゾ」は近年、牛や豚などの家畜生産も手がけており、「エレゾハウス」での料理にもそれらを織り交ぜて供しています。ジビエをそれだけでなく、牛肉などと食べ比べることで、各々の美味しさが楽しめるのも、うれしいところ。食経験値の高い女性をお連れしても、従来にない満足を感じてもらえるはずです。
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鹿肉のロティ 季節のキノコ添え。コースや時期によっては、メインにヒグマや和牛などが組み合わされることも
「紹介制にしているのは、『命を食べ物として、最初から最後まできちんといただく』という思いを、我々と共有していただきたいから。また我々自身も、共有していただけるお客様がどんな方々か、理解したいのです。門戸を狭めたり、敷居を高くする理由からではありません」 

そう、佐々木さんは笑います。ご興味をもたれた方、ぜひ訪問したい方は、「LEON.jpを見た」とメールにてご相談してみてくださいね。
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一軒家を使った店舗は、1階にカウンター席と個室1室、2階に個室が同じく1室ある。2階ではシガーや食後酒を楽しめる部屋もあり

◆ ELEZO HOUSE

住所/非公開
営業/18:00〜19:30までの入店(木・金・土のみランチ営業あり、12:00〜13:00までの入店)
定休日/日・月曜
予約・お問い合わせ/☎非公開。予約は、「LEON.jpを見た」とe.house@elezo.comまでメールでご相談下さい

●価格/ランチ8100円、12960円。ディナー12960円、16200円

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鴨やベキャスなど、より奥深いジビエの世界を知るなら、このフレンチ

◆ 「アタゴール」

鹿もイノシシも何度も食べて、その美味しさはよく理解済み。もっとジビエの世界へ踏み込みたい!という女性をお連れするなら、さらに目眩く世界をご紹介しましょう。

木場にあるフレンチレストラン「アタゴール」は、青い車両が目印。オーナーシェフの曽村譲司さんはホテルオークラ、在ベルギー日本大使館・公邸料理人を経て、オリエント急行で腕を振るった方。オリエント急行のシェフを務めた、唯一の日本人です。海外での修業時代にジビエのおいしさに開眼、帰国後に開業した自店でも、多彩なジビエ料理を提供しています。
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フランス産ヤマウズラ
「自分の知らないことを経験したい。そう思って料理人をやっています。だから海外で馴染みのなかったジビエに出合った時はまさに、『これだ!』という思いでした」(曽村さん)

曽村さんは決めたら、とことん突き詰めるタイプ。そして時流に流されることのない頑固さが彼の身上でもあります。2005年に恵比寿で「アタゴール」を開業して以来(2012年に木場へ移転)、メニューは「お客さんが好きなものを、好きなように選べるように」と、プリフィクススタイルが中心。狩猟シーズンである秋冬はもちろん、現在は夏でもほぼ、このメニューブックにジビエが登場しています(4〜5月の鹿の出産時期には、お休みになります)。
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南房総のうりぼう
夏の今は、長野・下諏訪産のニホンジカを使った料理がお目見え。スコットランド産が解禁になる9月になればライチョウ、10月以降はフランスから鴨やウズラ、キジなどが、11月末には同じくスコットランドからベキャスがやって来て、「アタゴール」のテーブルを彩る予定です。
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下諏訪産夏鹿内もも肉 モリーユ茸のフォルスティエール風。曽村さんの料理には、どの皿にも野菜がたっぷり添えられるのも特徴。恵比寿時代からずっと、鎌倉農連市場まで自らが買い出しに行く徹底ぶり。
「海外産ジビエは信頼の置ける輸入元から、国産は同様に『この人のものをぜひ使いたい』と思うハンターさんから直接仕入れています」(曽村さん)

曽村さんがお付き合いしているのは、前述の長野・下諏訪の他、青森・秋田で猟をする方、千葉・房総で活動されている方など。いずれもジビエに情熱を傾ける曽村さんが色々なご縁を経て出会った、熟練のハンターさんばかりです。

「例えば下諏訪の竹内清さんは、家の庭先に完全な食肉処理施設を作り、肉や内臓はもちろん、角までもすべて使い尽くそうとされる人。ジビエの捕獲・解体・販売まで、信念を持ってやってらっしゃる、“本当に格好いいおじい”ですよ」(曽村さん)

その方から届く肉は、もちろん最上のもの。それを時にガチのクラシック手法で、時には東南アジアのエッセンスを交えて、曽村さんは特別なひと皿へと仕上げていくのです。

9月・10月からは、本格的なジビエシーズンの到来。鹿やイノシシはもちろんのこと、ライチョウやハトなど、未経験なジビエに挑戦するなら、「アタゴール」へぜひ! 更なる新しい美味の世界が拡がりますよ。
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かつて日本版オリエント急行と謳われた特別車両が、「アタゴール」の目印。ダイニングの食事後に、車両内でコーヒーや食後酒を楽しむことができる。また、時によっては車両内で食事ができるタイミングもあるので、まずはお問い合わせを

◆ アタゴール

住所/東京都江東区木場3-19-8
営業時間/11:30~13:30(L.O.)、17:30~21:30(L.O.)
定休日/火曜
予約・お問い合わせ/☎03-5809-9799

●ディナーコース(プリフィクス)5500円〜

食のトレンド的には、ジビエはトップを越えて、なだらかに一般化の方向へと進み始めています。国をあげてジビエビジネスを後押しするまでに至った今では、お金の匂いをかぎつけて残念な肉を流通させたり、美味しいとは言えない料理を提供する人が出てきているのも事実。だからこそ、真に美味なるものをいただくには、お店の選択が重要になってきているのです。

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