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2021.02.18

三浦彰の「ラーメンはファッションだ!」

サヴィル・ローを思わせる職人仕事の中華そば「銀座 八五」

長年ファッション業界紙で編集長を務めてきた三浦彰さんが、ファッションと同じくらい、いや、ファッション以上に愛しているのがラーメン。その偏愛を語ります。

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文/三浦 彰  写真/秋山 都  

フレンチ・オートクチュールを連想してしまうラーメン(銀座「魄瑛」)、そしてイタリアン・ファッションを思わせるラーメン(市ヶ谷「ドゥエ・イタリアーノ」)と紹介してきたが、今回はロンドン・サヴィル・ローのテイラーを思わせるような端正な中華そばが食べたくなった。

最近は、ナポリあたりのイタリアン・クラシコに押されているサヴィル・ローだが、ブリティッシュ・ジェントルマンの支持を味方に、単なる着易さではない男前の威厳を主張する点では、やはりサヴィル・ロー・テイラードに一日の長がある。
▲ 「銀座 八五」の中華そば850円(税込)
こんなことを連想させる実に端正なラーメンがある。東銀座に店を構える「銀座 八五(ぎんざはちごう)」である。まだ2018年12月8日にオープンしたばかりだが、すでに圧倒的な支持を集めている。昼の部と夜の部の2部制で、店内はわずかにカウンター6席ということもあって、いずれも開店前から行列ができている。
▲ 「銀座 八五」(東京都中央区銀座3-14-2 Tel.03-6228-4141)
▲ 混雑回避のため、現在は整理券を配布している。くわしくはお店までお問合せを
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変わった店名だが、8.5坪の店の広さに由来している。店主の松村靖さん(61歳)は、「もうひとつ意味があって、八の字は富士山。五はいつまでも五合目の気持ちを忘れずに、の意味もあります」と話す。そのやわらかい口調はラーメン店の店主というより、老舗オーダーサロンの熟練フィッターという感じなのである。
▲ 店主の松村靖さんは、「京都全日空ホテル」の総料理長を務めたのちラーメン界に転身した異色の経歴の持ち主
言葉のイントネーションからしてそうだが、松村氏は京都生まれで、京都全日空ホテル(現ANAクラウンプラザホテル)の総料理長にまでなった人物。定年前に独立し、小さなフランス料理店を経営後、ラーメンの世界に入った。どうもイタリアンやフレンチのシェフたちをも魅了する何かがラーメンにはあるらしい。現在この店のほかに「中華そば 勝本」(水道橋)、「つけそば 神田勝本」(神保町)、「中華そば 勝本」、「てんせんめん」(ともに虎ノ門ヒルズ)の4軒を経営している。この「八五」では、銀座で自分が考える中華そばの最高峰を目指していると言い、毎日同店で陣頭指揮を執っている。
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この「八五」は2018年12月8日にオープンしてすぐにミシュランガイド2020ではビブグルマン(安くてコスパのいい店)に選ばれているが、ラーメン部門で一ツ星獲得(今まで「蔦」「金色不如帰」「創作麺工房 鳴龍」の3店が獲得)の次の最有力候補であろう。
▲ 「銀座 八五」の特製そば1050円(税込)
この店の中華そばの最大の特徴として、いわゆるタレ(かえし)を使わないレシピが挙げられる。一般のラーメン店ではタレを丼に入れて、これにスープを注ぎ、これに茹で上げた麺を投入するのだが、「銀座 八五」ではタレ作りをせずに、最初から味付けしたスープを作っている。

タレ、スープのふたつの要素をひとつにすればそれだけ集中できるということだろうか。まず鴨、名古屋コーチンをベースにして、イタヤ貝、昆布、ドライトマト、干し椎茸などを透明なスープになるまで2日間煮込んでベースを作りさらにイタリア産の高級プロシュートとフランス産ゲランドの塩で仕上げるという凝り方だ。このスープをなんと表現したらいいのだろう。複雑な旨味が凝縮されているのだが、洋でもあり和でもある。和魂洋才とでも言おうか。サヴィル・ローで修業した日本人が銀座でオーダーの店を出したという感じだろうか。
とにかく、現在考えられる最高水準の中華そばである。徹底した職人仕事生み出す一杯の中華そば、そこに盛り込まれた美食の小宇宙にただただ感嘆するばかりだ。松村氏がフレンチから中華そばの世界に越境して来た気持ちが分かる。
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料理だけではない。凛とした佇まいの入口、カウンター割烹を思わせるような真っ白いカバーをかけられた6脚の椅子、磨き上げられたカウンター、木村硝子製のうすはりグラスなどなど。その細心の気遣いが素晴らしい。
▲ 高級割烹のように凛とした佇まいの「銀座 八五」
こういう見事な店で、値段のことをとやかく言うのは野暮というものだが、この1杯が850円(味玉入りでチャーシューが2枚になる特製は1050円)。

銀座という場所で、この妥協を許さないレシピや店の雰囲気で、その値段では、そんなに儲かっているはずはないと心配にもなる。「ひょっとしたら、『八五』という店名に合わせて1杯850円に決めたのではないですか。失敗したなと思っていませんか?」と冗談めかして尋ねてみたら、松村さんは優しく苦笑いしていた。    

● 三浦 彰(みうら・あきら)

ジャーナリスト。福島市生まれ。慶應義塾大学卒業後、野村證券を経て、1982年WWDジャパンに入社。同紙編集長、編集委員を務めた後、2020年9月に退職。現在は和光大学で教鞭をとる。

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