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2020.12.10

「ワイン会にどんなワインを持参するか?」 友人からの相談事例

5000本以上のコレクションを持つ日本随一のワインコレクターで、多い時は月に3桁の金額をワインに費やす超愛好家だからこそわかる、真にスマートで男女問わずモテるワイン道ってどんなもの? ちょっとイタいワインおたくや面倒くさい半可通など、周囲の反面教師からも学ぶ、ワインのたしなみ方入門です。

CREDIT :

文・写真/吉川慎二 イラスト/Isaku Goto, オキモトシュウ(吉川慎二氏)

今年もいよいよ12月、2020年は市場まれに見る大激動の一年でした。それでも自分を含め世の中のワイピの皆さまはしっかりとワインを楽しんでおられるようでしたから、ワインがいかに人々の生活と切り離せないものなのかがよくわかりますね。

さて、今回はワイン選びにおけるケーススタディをご紹介します。このコラムは、極力特定のワインの銘柄や造り手の推奨につながるような記述は避け、ワインに関する考え方やライフスタイルにフォーカスすることを基本方針として参りました。今後もその基本方針は維持して行くつもりですが、今回は事例研究ということもあり、固有名詞が登場しますことをご了承ください。ただし、決して推奨との趣旨で取り上げるものではございませんのでご理解をお願いします。

モテるワイン道入門~ ケーススタディ(友人からの相談)

ワイン会に持っていくワインの選び方のヒントについては、このコラムの最初の方で何回かにわたって取り上げました。でも、これらは所詮教科書の公式のようなもので、実践はまた別世界です。また、自分自身を題材として事例研究も一度やりました。

しかし、「既に何千本ものコレクションがあってその中から選ぶのだから、そりゃあ選択肢も多いよね。参考にはなりそうにないよ」とのお声もいただきました。ごもっともです。そこで、今回は友人からの相談事例をご紹介します。皆さまにより身近に感じていただけるのではないでしょうか。

ワイン会の前提条件は以下の通りです。

✔ 相談してきたのは少し年下の友人X氏。会社経営者。食通でもあり、本人のワイン経験値も低くはないと思われるが、今回は次のような状況でもあり筆者に相談があった。

✔ ワイン会のメンバーは総勢4~5名。期日は約3週間後。会社経営者仲間の集まりで全員X氏よりも先輩格。

✔ 他の参加者も全員ワイン好きで、相当な強者である模様。特に、リーダー格のY氏は自他共に認めるBourgogne通とのこと。ワイピランクで言えば最上級なのは間違いなさそうだ。X氏は最年少メンバーということもあり、愛着の意味も含めてか「期待してるよ」とか「ハズさないでね」とプレッシャー含みのコメントもいただくなど、前哨戦も既に始まっているようである(笑)。

✔ 会場は有名な猟師料理の和食店。ここで鴨料理に合わせて各自がワインを持ち寄るというのが今回の趣向らしい。

✔ そして、後述の過程で判明するのだが国や地域は問わないが「赤ワイン」限定とのことでした。

✔ X氏は自分の立ち位置を考えて、あまり出過ぎないように価格帯上代1万円台くらいを目安にワインを購入して持参したいとのこと。
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そこで、筆者がX氏との会話の中でアドバイスした内容は次のようなことです。

✔  猟師料理の和食店ということは、料理の傾向として野性味を売りにしたものになるのだろう。和食なので、ソースと言うよりも塩、味噌、醤油などの味をベースに食べる可能性が高い。

✔ 今回は、鴨料理に合わせて各自1本の持ち寄りなので、すべての味に合うというものよりも個性的なワインに絞るのもひとつの趣向か。

✔ セオリーから言えば、鴨のような「二本足のジビエ」にはBourgogneの赤ワインだが、Bourgogne通の先輩との対決図式になる可能性もある。会社の二次会のカラオケで新入社員が部長の十八番の曲を歌ってしまうような状況になりかねず、避けた方が無難であろう。

✔ そうなると、フランスのローヌ、ラングドック、南西地方、もしくはイタリアで比較的落ち着いた感じの赤ワイン。もしくは、ボリューム感のある白ワインも面白い。
  → ここで、前述の「赤ワイン」縛りが判明したので白は断念。

✔ しかし、今回持参するのは自分自身ではなく、X氏である。ということは、3週間後のワイン会に間に合う形で購入可能なワインであることが大前提。

✔ということは、品揃えの豊富なワインショップの在庫を前提に選定を進めた方が現実的に違いない。
▲千手観音のごとく救済の手を差し伸べる(?)、ソムリエF氏の肖像。
ということで、筆者が日頃から頼りにしている某老舗百貨店地下1階のワインショップのソムリエF氏にバトンタッチすることにし、上記の内容を伝えました。幸いにしてX氏とF氏も1~2度会ったことがあるとのこと。
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バトンを引き継いでくださったF氏のワイン選定は以下の通りでした。

「おすすめのワインは何本かあるが自分にとってのイチオシはなんと言っても次のワインである」
生産地:フランス・ローヌ地方
生産者:E. GUIGAL (ローヌ地方でも有数の生産者で世界的にも有名)
ワイン(A.O.C.):Saint-Joseph Rouge Vigne de l'Hospice (サン・ジョゼフ ヴィーニュ・ド・オスピス)
ヴィンテージ:2016年
価格:12,000円程度
F氏おすすめの理由は次の通りでした。

✔ まず、F氏としても前提となる上記2の条件には概ね賛同するが、このワインはそれらの条件にマッチする。

✔ F氏自身がこのワインを好きであり、ご自身や周りの方のフィードバックから、和食・中華などオールマイティに相性が良い味わいだと感じていた。

✔ 特に肉の脂とのマッチングが素晴らしく、かつ、若いヴィンテージでも飲めるので「まだ飲み頃ではない」との批判も受けないだろうと想定していた。

✔ ワインのスペックとしても、フランス・ローヌの一流生産者のものであること。看板ワインのCote Rotie(*1)ほどベタではないこと。モノポール(単独所有畑)(*2)であることなどから、ワイン通受けが良いと思われた。
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さて、結果はどうだったのでしょうか?  X氏から後日お話を聞いたところでは「最初はローヌワイン、しかも2016年という若いヴィンテージということで、メンバーの中には浮かない表情を浮かべる人もいたようだ。しかし、いざ各自のワインを飲み比べてみると、ワインそのものの美味しさや飲み頃感、鴨肉との相性など総合的に見て、自分の持参したワインが一番であったと感じた。自画自賛するわけには行かずにどうしたものかと思っていたところに、ワイン通でリーダー格のY氏が『今日のMVPワインはX君持参のもの』と言ってくださったので大変誇らしく、相談してよかったと思った」と大成功裏に終わったそうです。

それにしても、このような難題に、マジシャンのようにおすすめワインを提案するF氏の引き出しの多さはさすがとしか言いようがありません。また、そのワインの価値を理解して称えるY氏の鑑識眼と度量も素晴らしいものがあると感じました。

私としても、相談を受けて一肌脱いだ甲斐があったというものです。
ケーススタディはいかがでしたか? 今後も時々お送りしたいと思います。

(*1)
E. Guigalの生産するCote RotieはLa Mouline(ラ・ムーリンヌ)、La
Landonne(ラ・ランドンヌ)、La Turque(ラ・テュルク)の3種類がある。3ヶ所の異なる畑をそれぞれ単一畑ワインとしてボトリングしたもので「三つ子の兄弟」とも呼ばれ、Robert Parker Jr.が主宰するWine Advocate誌の評価で100点を連発して名声を高めたことで有名。

(*2)
モノ・ポール(=monopole、単独所有畑)とは、ひとつの畑の区画の全部分を単一所有者が独占して保有することを言う。代表的なものはBourgogneのGrand CruであるRomanee ContiとLa Tacheで、いずれもDomaine de la Romenee Conti(=DRC)が単独保有している。

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● 吉川慎二 / Shinji Yoshikawa

1962年三重県生まれ。
東京大学法学部卒業後、三井住友銀行、メリルリンチ自己勘定投資部門のアジア太平洋地域統括本部長を経て、現在は投資家・経営コンサルタント。
2007年、日本ソムリエ協会のワインエキスパート資格を取得。12年にシニアワインエキスパートへ昇格し、同年に開催された第5回全日本ワインエキスパートコンクールで優勝。14年にはエキスパート資格者で初の日本ソムリエ協会理事に就任、2018年まで2期4年務めた。漫画「神の雫」に登場する吉岡慎一郎のモデルともいわれ、プロフィールイラストは「神の雫」作画のオキモトシュウ氏によるもの。

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