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2020.10.07

ワイン界に激震を走らせた「パリスの審判」を映画で解説

5000本以上のコレクションを持つ日本随一のワインコレクターで、多い時は月に3桁の金額をワインに費やす超愛好家だからこそわかる、真にスマートで男女問わずモテるワイン道ってどんなもの? ちょっとイタいワインおたくや面倒くさい半可通など、周囲の反面教師からも学ぶ、ワインのたしなみ方入門です。

CREDIT :

文・写真/吉川慎二 イラスト/Isaku Goto, オキモトシュウ(吉川慎二氏)

秋の気配も次第に深まり、猛暑の頃には敬遠しがちであった濃く力強い赤ワインにも惹かれる季節です。芸術の秋にちなんで今回から「映画とワイン」について考えてみたいと思います。個人的にも映画は大好きで、新型コロナウィルスの感染拡大前は、年間30回以上映画館に通っていた私です。まずは洋画からとり上げます。

モテるワイン道入門~映画とワイン(洋画編)

元々、ワインが欧米を中心に普及したからなのか、映画の中にはよく登場します。映画のテーマ自体がワインの場合、そうではないがワインがクローズアップされる場合、はたまた、ワインが登場するシーンは一瞬なのに妙に印象に残る場合など、色々あると思います。まずはワイピであればぜひ一度観ておくべき映画をご紹介しましょう。
 ■『ボトル・ドリーム』(原題 Bottle Shock、2008年・アメリカ)
有名な「パリ・テイスティング」(「パリスの審判」とも言われる)が題材です。
カリフォルニアワインの歴史上も重要なこの「事件」を簡単にご説明しましょう。

ー アメリカ建国200周年を迎えた1976年、パリでフランスワインとカリフォルニアワインが対決する試飲会イベントが行われた。

ー 対象ワインは白がシャルドネ(カリフォルニア6アイテムvs. ブルゴーニュ4アイテム)、赤がカベルネ・ソーヴィニオン主体のワイン(カリフォルニア6アイテムvs. ボルドー4アイテム)。

ー 前評判ではフランスワインの圧勝、カリフォルニアは健闘すれば良いくらいに思われていたが、蓋を開けてみると白・赤共にカリフォルニアワインが第1位。その実力に世界中が驚愕した。

という有名な出来事です。
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映画では白ワインで第1位となったシャトー・モンテレーナ(Chateau Montelena) 1973を焦点に話が進みます。カリフォルニアで弁護士から転職してワイン造りに精を出すワイナリー・オーナーのジョー・バレット役をビル・プルマン(「インデペンデンス・デイ」シリーズの大統領役)が、時代を反映したヒッピーっぽい遊び人の息子ボー・バレット役をクリス・パイン(「ワンダーウーマン」シリーズのスティーブ・トレバー役)、そして、パリ対決のイベントを推進するワインスクール主催者のスティーブン・スパリュア役をアラン・リックマン(「ハリーポッター」シリーズのスネイプ先生役やダイハードのハンス役)がそれぞれ演じます。
映画としての見どころは、カリフォルニアのブドウ畑の光景だったり、バレット親子や関係者のワイン造りに対する情熱、ボーとヒロインのサム(女性)のプチ・ロマンスなど色々ありますが、ワイピとしてぜひ注目いただきたいポイントは次のとおりです。

ー 「パリ・テイスティング」を推進したスティーブン・スパリュア氏が作品中でパリに開校するワインスクール、アカデミー・デュ・ヴァンは日本の有名ワインスクールの発祥であり、同校の校長は今でもスパリュア氏(*1)。同氏のワイン業界への貢献は素晴らしく、イギリスの有力ワイン誌『Decanter』が選ぶ2017年のマン・オブ・ザ・イヤーにも選出されている。

ー 当時としては画期的な、先入観の入らないブラインドティスティングという方法で白赤各10アイテムのワインを比較試飲している。

— スパリュア氏が揃えた審判団10名。同氏以外の9名は全員フランス側の人たちで、DRC (Domaine de la Romanee-Conti、ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ社)の共同経営者を始めとする、そうそうたるメンバーであった(*2)。
もっともドキュメンタリー映画ではありませんので、演出上事実と異なる点も多々あります。たとえば……

ー 映画ではボー・バレット氏がカリフォルニアからパリまで出かけて立ち会う設定でしたが、実際には同氏はパリに行っていません。このことは2015年5月にボー・バレットが来日した際パーティーでお会いして直接確認しました。この時はご夫婦での来日でした。同氏の奥様はスクリーミング・イーグルやダラ・ヴァレ、グレース・ファミリーなど名だたるカルトワインの醸造を手掛けたことで有名なハイディ・バレット女史です。

− 映画ではテイスティングイベントは郊外風の屋外で行われてますが、実際の会場はパリの中心部にあるインターコンチネンタルホテル(室内)でした。

− また、この映画では赤ワイン部門で第1位になったスタッグスリープ ワインセラーズ (Stag’s Leap Wine Cellars) 1973については「赤ワイン部門もカリフォルニアが第1位になり……」と言及される程度で詳しく触れらてれいません。同ワイナリーはそのことに満足していないようで、2016年6月に訪問した際にパリ・テイスティングの赤ワインにフォーカスした映画制作を働きかけているとの会話になったことがありました(笑)。

− なお、原題の『Bottle Shock』というのはワインの瓶詰めや運搬の際、ワインに動く力が伝わるため、その本来のバランスが一時的に崩れるとされる現象のことです。お知り合いの上級ワイピが「空輸でお目当てのワインが届いた。早く飲みたいけど、少し休ませないと」などと言ってるのを聞いたことある人も多いと思いますが、これぞ正しくBottle Shockを気にしてのことです。
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ワインと映画、いかがだったでしょうか?
話題がてんこ盛りで1作品しか紹介できませんでした。続きは次回以降のお楽しみに!

(*1)

そのこともあってか、アカデミー・デュ・ヴァン青山校に併設のワインショップ名はスパリュア氏が1970年にパリにオープンしたワインショップと同名のレ・カーヴド・ラ・マドレーヌ(Les Caves de la Madeleine)となっている。

(*2)

審判団の顔ぶれば次のとおり(アカデミー・デュ・ヴァンのウエブサイトより転記)。

ピエール・ブレジュー:AOC委員会の統括検査員
クロード・デュボワ・ミヨ:グルメ雑誌『ゴー・ミヨ』誌の販売部長。
オデット・カーン:ワイン誌『ルヴュ・デュ・ヴァン・ド・フランス』の
編集長
レイモン・オリヴィエ:パリの三ツ星、ル・グラン・ヴェフールの
オーナー・シェフ
ジャン・クロード・ヴリナ:パリの三ツ星、タイユヴァンのオーナー。
クリスチャン・ヴァネケ:パリの三ツ星ラ・トゥール・ダルジャンの
シェフ・ソムリエ
ピエール・タリ:シャトー・ジスクールのオーナー。ボルドー・グラン・
クリュ協会事務局長
オーベール・ド・ヴィレーヌ:ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ社の
共同経営者
ミシェル・ドヴァズ:アカデミー・デュ・ヴァンのフランス語講座講師

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● 吉川慎二 / Shinji Yoshikawa

1962年三重県生まれ。
東京大学法学部卒業後、三井住友銀行、メリルリンチ自己勘定投資部門のアジア太平洋地域統括本部長を経て、現在は投資家・経営コンサルタント。
2007年、日本ソムリエ協会のワインエキスパート資格を取得。12年にシニアワインエキスパートへ昇格し、同年に開催された第5回全日本ワインエキスパートコンクールで優勝。14年にはエキスパート資格者で初の日本ソムリエ協会理事に就任、2018年まで2期4年務めた。漫画「神の雫」に登場する吉岡慎一郎のモデルともいわれ、プロフィールイラストは「神の雫」作画のオキモトシュウ氏によるもの。

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