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2024.01.28

【第48回】 佐野実は「麺は男。スープは女」と呼んだ

カリスマ製麺師・不死鳥カラスさんを訪ねて、麺について考えた

日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。

CREDIT :

文・写真/山本益博 編集/森本 泉(LEON.JP)

山本益博 ラーメン革命! LEON.JP
先日、TBSで「発表! 神の舌が選んだガチランキング! ラーメン番付SHOW」がオンエアされた。「ソムリエ12人が日本中食べ歩きトップ30発表」という2時間の特番。このラーメン番組の売りは、味覚嗅覚の訓練が行き届いたソムリエが選ぶ点にある。全国のラーメンの名店の中からソムリエ協会の全国支部の支部長さんらが30軒を選び抜き、それを日本ソムリエ協会の会長であり、1995年世界最優秀ソムリエコンクールで世界一に輝いた田崎真也さんが食べ歩くというもの。
お供は、TVチャンピオンでラーメン王に輝いた経歴を持つ石神秀幸さんで、行く先々で、一緒に目の前のラーメンを論評する。この時の田崎さんのコメントが素晴らしかった。さすが、ワインの香りを日常的に分析しているだけあって、スープや元ダレの食材をことごとく推理しながら当ててしまうのだ。どのラーメン店主もその驚きを隠せなかった。番組のタイトルに「神の舌」と出ていたが、嘘偽りのない「舌」の神業を見せていただいた。
だが、物足りなかったのは、石神さんのコメントである。田崎さん同様のスープについてのコメントはあったが、麺についてのコメントはほとんどと言ってよいほど聞かれなかった。田崎さんのスープ評に石神さんの麺評が添えられていれば、選ばれたラーメンは一層輝きを増したに違いなく、残念だった。
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山本益博 ラーメン革命! LEON.JP
 ▲ 2021年7月、「東京ラーメンストリート」の「ご当地ラーメンチャレンジ」第1弾として「支那そばや」が出店した際には佐野氏の写真が店頭に飾られていた。
かつてラーメンの鬼と呼ばれた佐野実は「らぁ麵とは、麺は男。スープは女。俺はこの言葉を掲げて日々らぁ麺と向き合っている」と言っていた。つまり、ラーメンの麺とスープは一対で対等の価値と考えていたのだろう。

ほとんどの人が、目の前にラーメンが運ばれてくると、スープを一口含んでから、やおら麺をたくし上げて啜る。そうして、スープと麺の相性、絡み具合を楽しみながら、具をアクセントとして間に挟んで、ラーメンを平らげてゆく。
そこで、私も改めて「麺」について考えてみようと、「麺」作りのスペシャリスト不死鳥カラスさんをお訪ねした。カラスさんが「麺」作りに励んでいるのは、台東区元浅草にある「開化楼」で、ラーメンファンなら、あちこちのラーメン屋さんで「開化楼」の名がプリントされた麵箱を見かけたことがあるに違いない。
山本益博 ラーメン革命! LEON.JP
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カラスさんにまず伺ったのは、「私が子供のころ、中華そばと言っていたラーメンの麺は、どこでも縮れていました。それが、今では、ほとんどがストレート麺です。それはなぜでしょうか?」
カラスさんの答えは「いまどこでも麺をきれいに揃えて、どんぶりの中に流しますよね。その影響があるんじゃないでしょうか」だった。盛り付けもヴィジュアルが大切で、ラーメンもデザインの時代に入ったということなのだろう、私はなるほどと頷いてしまった。
山本益博 ラーメン革命! LEON.JP 不死鳥カラス
▲ 不死鳥カラスさんは、老舗の製麺所・浅草開化楼のカリスマ製麵師にして営業担当&フリープロレスラー。

2問目は「そのストレート麺は、かなり長めのものも出てきていますけど」と投げかけると、「お店からの注文で、長さを指定してきたのは『八五』が最初でした。なにか理由があってのことでしょうね」。
実をいうと、私は長い麺を啜るのは苦手で、カッコよく食べることがむずかしい。YouTubeで、啜る途中で麺をカットするシーンを見た視聴者から「見苦しい」と言われたことがある。
3問目「麺の原料である小麦ですが、実は国産の小麦を使うようになったのは最近のこととのことですが?」

「そうなんです。以前は国産の小麦だと色味が若干くすみが出たりして、美味しそうに見えなかった、ということもあったと思います。今では、全国の小麦がラーメンの麺になっています」
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山本益博 ラーメン革命! LEON.JP 中華そばひしお
▲ 「中華そばひしお」のご主人細谷和彦さんと。
そのカラスさんが私を案内してくださったのが、つくばの「中華そばひしお」だった。実は昨年12月に続いての2度目の訪問。1度目の「塩」が忘れられず、今一度、出かけた。
目の前に運ばれたどんぶりを眺めると、前回となにかヴィジュアルが違う。店主の細田さんいわく「前回、宿題をいただきましたので、具は同じなんですが、バランスを少し変えてみました」。こういう真摯な姿勢が素晴らしい。
中華そばひしお LEON.JP 山本益博
▲ 昨年12月にいただいた「中華そばひしお」の「奥久慈しゃもの特製中華そば(塩)」。
中華そばひしお LEON.JP 山本益博
▲ 今回新たにいただいた「奥久慈しゃもの特製中華そば(淡麗)」。
いただくと、スープも麺も品格が漂っていて、しかも、具が目立ちすぎず、以前よりスープと麺の存在感を高めている。改めて絶賛すると、「とてもうれしいですが、今回も課題をいただきたいです」と、褒めるだけでは、店を後にはさせてくれなかった。

わずかな宿題を出し、またまた、出かけなきゃいけない羽目になってしまった。焚き付けた現場を確かめに行くというわけで、これを「味の放火魔」という。
山本益博 LEON.JP  ラーメン革命!

● 山本益博(やまもと・ますひろ)

1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique

山本益博 YouTube  MASUHIROのうまいのなんの!

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日本初の料理評論家、山本益博さんが、美味しいものを食べるより、ものを美味しく食べたい! をテーマに、「食べる名人」を目指します。どうぞご覧ください!
YouTube/MASUHIROのうまいのなんの!

「山本益博のラーメン革命!」、他の記事はこちらから!
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