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2020.04.11

世界初ミシュラン「星獲得」の店が突如移転

「蔦」が一つ星を手放し3550円ラーメンに挑んだ訳とは?

ラーメン店として2015年に世界で初めてミシュランの星を獲得した「Japanese Soba Noodles 蔦(つた)」。連日大盛況だったが昨年11月に突如として閉店すると同年12月に同じ店名で東京・代々木上原へ移転オープン。「1杯3550円」という超破格のラーメンを看板メニューに掲げてリニューアルしたのだ。

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文/井手隊長(ラーメンライター/ミュージシャン)

記事提供/東洋経済ONLINE
※取材は緊急事態宣言前に行われています。
『ミシュランガイド』で一つ星を獲得している「Japanese Soba Noodles 蔦(つた)」。新店舗で新たに挑んだメニュー「黒トリュフチャーシュー味玉醤油Soba」は破格の3550円だ(筆者撮影)
タイヤメーカーのミシュランが発行する『ミシュランガイド』。おいしい飲食店のお墨付きとなる「星」を、ラーメン店として2015年に世界で初めて獲得した「Japanese Soba Noodles 蔦(つた)」(一つ星)が、劇的な変革を打ち出した。
2012年1月のオープンから構えていた東京・巣鴨のお店を昨年11月に突如として閉店。同時期に発行された『ミシュランガイド東京2020』には非掲載となり、5年連続の栄誉とはならなかった。一方で、同年12月13日に「Japanese Soba Noodles 蔦」という同じ店名で東京・代々木上原へ移転オープン。「1杯3550円」という超破格のラーメンを看板メニューに掲げてリニューアルしたのだ。

どんな飲食店・レストランにとっても最高の栄誉であるミシュランの星をいったん手放しただけでなく、1000円台を超える高額のメニューを設定しづらいラーメンのジャンルにおいて異例の高価格を打ち出すという2つの変革には、どんな意味があるのか。「蔦」をあまり知らない人のためにも、その生い立ちからミシュラン一つ星獲得の歴史も踏まえて解説していこう。

父のラーメン店で修行、アパレル勤務経験も

「蔦」の店主、大西祐貴さんは高校を卒業後、藤沢で父が営むラーメン店「七重の味の店 めじろ」で4年間修行。その後、1度アパレル会社などに勤め、5年間はラーメンの現場から離れていたが、再び「めじろ」で3年間修行した。

独立に向けて動く際、2006年にオープンし、後にミシュラン一つ星を獲ったラーメン店「SOBAHOUSE 金色不如帰」(東京都新宿区)の山本敦之店主から「やるなら都内で勝負したほうがいい」とアドバイスを受け、山手線内で坪数・立地・家賃の条件がそろうところを探し、巣鴨の物件を見つけた。小料理屋の居抜き物件だったが、自家製麺用の製麺機も置くことができ、そのままオープンとなった。

お店の看板には日の丸と横文字の店名(筆者撮影)

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横文字の店名や、和洋中が自然と融合したようなメニューなど、当時としては画期的な取り組みとして話題だったが、「蔦」は実は開店当初から海外を意識した店作りをしていた。

大西さんは、かつてのアパレル時代に、出張のため海外で食事をする機会が多かった。欧米は、パスタやハンバーガーなどソースで食べるものが多く、ダシをきかせた食べ物に出会うことが少なかった。そんな中、自分の作ってきたラーメンは、日本を世界に発信できる食べ物なのではないかという思いが湧き始めたのだ。

開店当初は「醤油そば」と「煮干しそば」の2本柱だった。意欲作として作った醤油そばよりも、オーソドックスな煮干しそばばかりが出たので、煮干しをやめ、自分のやりたいメニューに絞った。

店内にずらりと並ぶミシュランの盾(筆者撮影)

地鶏を4種類使ったマイルドなスープに、魚介や乾物などのダシを重ねていった。調味料に頼った旨味ではなく、「ダシを重ねたもの」。これが海外にアピールできる1つの答えだった。当時は『ミシュランガイド』にラーメン部門はなかったが、結果として海外を意識した「蔦」のラーメンがミシュランに届いたのだ。

2014年の『ミシュランガイド東京2015』でビブグルマンを獲得、翌年の『ミシュランガイド東京2016』でラーメン店としては世界初となる一つ星を獲得したのは前述の通りである。

『ミシュランガイド』においてビブグルマンは星が付かなくても、「5000円以下で特におすすめの食事を提供している」お店に与えられる。そして星の位置づけは下記の通りだ。

一つ星:そのカテゴリで特においしい料理
二つ星:遠回りしても訪れる価値のあるすばらしい料理
三つ星:そのために旅行する価値のある卓越した料理

「蔦」の看板メニューとなった地鶏を使った旨味あふれるスープにトリュフオイルを合わせた醤油ラーメンは、ミシュラン一つ星の獲得を機にラーメンファンのみならず海外の観光客まで多くの人が訪れ、多くのメディアに取り上げられた。
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一つ星獲得後、連日の大行列でパニックに

ただ、2015年にミシュラン一つ星を獲得した後は、連日の大行列でパニック状態となる。

近隣からのクレームが毎日のように寄せられ、整理券を配って時間を区切って列が長くならないようにするなど対応を講じるものの、それも限界を迎えた。大繁盛してしまったからこそお店を続けられないというパラドックス(逆説)に陥ってしまった。

地下は一定の湿度が保ちやすく、食材管理に適している(筆者撮影)

こうした情勢を受けて、大西さんはかねて移転を検討していたが、どうせならば新しい調理器具を導入し、よりよい食材を仕入れ、これまでのラーメンの常識を覆すようなメニューを出せるお店を作ろうと考えた。

新たに代々木上原でオープンした「蔦」は広々とした厨房にラグジュアリーな店内。3550円の超高級ラーメンもメニューにラインナップしている。物件は地下を選んだ。天候に左右されにくく、食材を管理するための湿度が一定に保ちやすいのが理由だ。

ラーメンには「1杯1000円の壁」があると言われている。どんなにおいしくとも、どんなに高級食材を使っていても、ラーメン1杯の価格が1000円を超えると食べ手は心理的に「さすがに高い」と感じてしまう。多くのラーメン店は原価や人件費などを鑑みながら、1000円という価格と戦っている。

そこに大西さんは風穴を開けようと挑戦を始めた。ベーシックな醤油ラーメンと塩ラーメンこそ1300円ながら、最高で3550円のメニューも作った。その名も、「黒トリュフチャーシュー味玉醤油Soba」「黒トリュフチャーシュー味玉塩Soba」。
3550円のメニューが目玉だが、ベーシックな塩ラーメン(右、1300円)や「チャーシュー味玉醤油Soba」(左、1950円)などもある(筆者撮影)
思い切った価格設定をした理由は、原価を惜しまない上質な食材を使っているからだ。厳選された小麦を使った自家製麺や、スープに使う青森シャモロック、天草大王、名古屋コーチンなどの地鶏、そして香りの高い黒トリュフはラーメンの上にダイレクトに削って乗せる。

「昔は一般的な食材しかなかなか手に入らず、その中には粗悪なものが多かったですが、今はおいしい食材が手に入りやすくなりました。体にとっても安心で、かつおいしいものが作れる世の中になったので、『1000円の壁』は気にせずおいしいものを作っていこうとしています」(大西さん)
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食べたい人に食べに来てほしいメニューを

かつてのイメージを引きずらずに、食べたい人に食べに来てほしいメニューを新たに作った。かつて巣鴨のお店でやりたいメニューに絞って受け入れられたのと、本質は同じである。

高級ホテルのザ・ペニンシュラ東京では昨年夏より、「博多一風堂」とのコラボによってルームサービスとして1杯3400円のラーメンを売り出した。大西さんがこれを直接意識したわけではないだろうが、大西さんは「庶民的なラーメンはもちろん必要ながら、高級なラーメンも両方共存することがラーメン界にとってもいいことである」と考えている。

店内にはこんなメッセージが(筆者撮影)

「蔦」は日本では代々木上原1店舗に腰を据えながら、シンガポール3店舗、香港2店舗、マニラ1店舗、サンフランシスコ1店舗、タイ1店舗と海外にも展開している。

ただ、「蔦」だけでなく、今のラーメン店すべてに言えることとして、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、世界的に人の移動が制限され、外食産業に限らず経済全体が影響を受けているのは心配事項だ。客足のほか食材調達などにかかわる難局を乗り切ってほしい。

「蔦」は、これからもお客の味覚の進化を考えながら、つねに味をブラッシュアップし続けるという。ミシュランに認められてもその味を変えていく。ミシュランのためにラーメンを作っているのではなく、お客のために作っているからだ。移転も高級メニューもそのための一手にすぎない。
当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です

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