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2023.01.29

【第24回】「郷愁」ラーメン

ラーメンの「郷愁(ノスタルジー)」とは何か?

日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。

CREDIT :

文・写真/山本益博 編集/森本 泉(LEON.JP)

ノスタルジックラーメン 山本益博 LEON.JP
昨年末、このところ毎年恒例のBS-TBSの番組「郷愁の街角ラーメン」を見た。ラーメンファンにはたまらない番組で、3時間があっという間に過ぎていったが、深夜にラーメンが食べたくなって仕方がなかった。この番組の監修をされているのが山路力也さんで、番組タイトルの英訳「Tokyo Nostalgic Ramen」とあるように「ノスタルジックラーメン」の名付け親である。

青木健著「教養としてのラーメン」には次のように説明されている。

「ノス」:山路力也氏の著書で名付けられた「ノスタルジックラーメン」の略称。代替わりをするなど、何十年もその町の顔として愛されているような店。懐かしさ、郷愁感を覚えるラーメン。

そこで「ラーメンの郷愁とは何か?」を考えてみたい。
春木屋 中華そば 880円
▲ 「春木屋」の「中華そば」(880円)。
春木屋 ラーメン

春木屋

住所/東京都杉並区上荻1-4-6
営業時間/11:00~21:00
定休日/無休
HP/荻窪中華そば春木屋 (haruki-ya.co.jp)

まず、思い浮かべるのは、荻窪の「春木屋」である。暖簾に「荻窪中華そば」(春木屋昭和24年創業)とある。中央線を鋏んで反対側にある「三ちゃん」は「荻窪の味三ちゃん」と書いてある。まさに、「代替わりをするなど、何十年もその町の顔として愛されているような店」である。地元の人が昔ながらのラーメンを日常的に食べるというより、久しぶりに食べると「懐かしさ」を覚える味ではなかろうか。
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「はつね」のラーメンは「誠実」「丁寧」を絵にかいたような仕事

私にとっては、昭和36年創業、西荻窪の「はつね」がまさしくそれに当たる。ラーメン650円、海苔、ナルトはあるが、メンマがない、中細麺でとてもシンプルな醤油味のラーメンである。
ノスタルジックラーメン 山本益博 LEON.JP はつね
▲ 「はつね」の店構え。
カウンターわずか6名分の席があるだけの小体な店で、造りは古いが、雑然としたところが一切なく、こざっぱりとした「清潔」な店である。ご主人は代替わりしているが、平成12年(2000年)から引き継いだ濱秀幸さんは寡黙で「誠実」「丁寧」を絵にかいたような仕事をする。

その一例が、チャーシューをその都度、切り分け、食べやすいようにこまめに「隠し庖丁」を入れる。そして、このチャーシューの美味いこと! 滋味あふれる豚肉である。
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はつねラーメン 650円
▲ 「はつね」の「ラーメン」(650円)。
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初代のラーメンについて「東京・味のグランプリ200」(1982年)では、次のように書いた。

「西荻窪駅から0分の距離にあって、七人しか入るスペースがない小さいラーメン専門店だから、いつも満員の盛況である。この店のラーメンは、めんとスープのバランスがとてもよいことで、細めのめんに澄んだスープがよく合っている。これだけなら実力的に二ツ星なのだが、具にチャーシュー、のりが入っていながらシナチ
クがないことが致命傷なのである」


いまから思えば、随分と生意気なことを書いた。当時、ラーメンは350円だった。

続いて、「東京・味のグランプリ1985」(1985年)では、「西荻窪駅すぐ近くにある、小体で清潔感にあふれたラーメン屋である。七人しか腰かけられず、なかでは夫婦二人マイペースでラーメンをつくっている。 めんは細め、スープは丁寧にとられ、澄んでいて、相性が素晴らしい。チャーシューも上出来である。現在の、東京のラーメンの水準を超えた、誠実さにあふれたラーメンである」
ラーメン はつねワンタンメン
▲ 「はつね」の「ワンタンメン」。
ラーメン はつね 店主 濱秀幸さん

はつね

住所/東京都杉並区西荻南3-11-9
営業時間/11:00〜16:15、土・祝 11:00〜16:00
定休日/日・月曜日
TEL/03-3333-8501
※写真はご主人の濱秀幸さん

当時は醤油味が主流だったから、あらためてそのことに言及していないが、郷愁の味とは醤油味であることが必須かもしれない。

改めて「郷愁派」と呼ばれる荻窪「春木屋」、湯島「大至」、銀座「共楽」ほかいろいろと食べ歩いてみると、どうやらメンマ、のり、ときにナルトが定番のトッピングのようで、「はつね」のようにメンマがないのは珍しい。

そして、味わいは、どこのラーメンも淡麗素朴簡潔。それはひとことでいうと「懐かしい昭和」なのかもしれない。昭和を知らない世代は、どんな思いで食べているのだろう。
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大至ラーメン 780円
▲ 「ラーメン 大至」の「大至ラーメン」(780円)。
ラーメン 大至

ラーメン 大至

住所/東京都文京区湯島2丁目1-2 佐藤ビル 1F
営業時間/平日11:00〜15:00 、17:00〜 LO20:45。土曜は昼のみ営業
定休日/日・祝日
公式Twitter

中華そば 共楽 中華そば 800円
▲ 「中華そば 共楽」の「中華そば」(800円)。
中華そば 共楽

中華そば 共楽

住所/東京都中央区銀座 2-10-12
営業時間/月~金曜11:00~18:00、土曜~16:00
定休日/日・祝日
TEL/03-3541-7686

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山本益博 LEON.JP  ラーメン革命!

● 山本益博(やまもと・ますひろ)

1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique

山本益博 YouTube  MASUHIROのうまいのなんの!

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YouTube/MASUHIROのうまいのなんの!

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