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2022.11.24

地方、すごいかも! 佐賀の底力を感じさせる美食イベントに行ってきた

日本三大美肌の湯と称され1200年以上の歴史がある温泉の町、佐賀県嬉野市で「美術館に飾るような器で佐賀の美食を楽しむ」プレミアムなレストランイベントが開催されました。これがすごいんです。日本中の美味い物が集まっているはずの東京でもできない特別な美食体験なのでした。

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文・編集/森本 泉(LEON.JP)

地方出張の楽しみが「食」にあるという人は多いと思います。筆者もそのクチで、たまに地方に行くとそれぞれの土地の名酒や名物料理、地元の野菜や魚の旨さに驚かされることばかり。日本という国の美食のポテンシャルに感じ入ることが多々あります。

それは単に食材だけでなく、地域の景観や街の佇まい、使われている地元産の食器から、店員さんの方言まで、すべてが一体となって「美味しい旅」の魅力となります。

これらを味わう「ガストロノミ―ツーリズム」(※1)という言葉も数年前から盛んに使われるようになり、今では観光誘致の有効な施策としてさまざまな自治体で取り組みが始まっています。
※1  ガストロノミーツーリズムとは、「その土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食を楽しみ、その土地の食文化に触れることを目的としたツーリズム」であり、地域の伝統や多様性をサポートするだけでなく、文化の発信、地方経済の発展、持続可能な観光の実現等にも資するものです。(観光庁HPより)
▲ 会場となったのは観光ホテル「和多屋別荘」敷地内のレストラン「SHINZO」。
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歴史ある温泉の街で佐賀の美食を楽しむレストランイベント

今回お邪魔したのは、そんな企画のひとつ、佐賀県の嬉野(うれしの)市で行われた「USEUM SAGA(ユージアム サガ)」というイベント。「美術館に飾るような器で佐賀の美食を楽しむプレミアムレストラン」という趣旨で、「MUSEUM(美術館)」と「USE(使う)」を合わせて「USEUM」という新語まで作ってしまったのです。

佐賀県が主宰者となって県内の料理人が佐賀の食材と器への理解をより深め、磨いてきた自身の技術や感性などを表現・発信する場として2021年から始まり、今回が3回目の開催となりました。

舞台となった嬉野市は、日本三大美肌の湯と称され1200年以上の歴史がある温泉の町。霧深い山々に囲まれ、江戸時代には長崎街道の宿場町として栄えた嬉野市は、お茶の栽培に適していたことから「うれしの茶」の生産が盛んであり、また日本を代表する焼き物の産地、有田もすぐ近くです。
▲ 「SHINZO」の中の様子。
会場は嬉野温泉屈指の観光ホテル「和多屋別荘」敷地内のラボキッチン「SHINZO」。天井の高い広々とした空間にゆったりと長テーブルが並べられ、シンプルな内装ながらラグジュアリーモダンな晩餐会といった雰囲気です。

まずは今回供される料理やデザートを担当するシェフ2名が登壇。ひとりは海外の著名なレストランを渡り歩き、今年7月に縁あって佐賀の「SHINZO&arita huis」のシェフに就任した池田孝志さん。そしてもうひとりは銀座のイノベーティブ・イタリアンの名店「FARO」のシェフパティシエであり、今年、パリ発のレストランガイドブック『ゴ・エ・ミヨ ジャポン2022』でベストパティシエ賞を受賞し、世界でも注目を集める加藤峰子さんです。今回はこのふたりがコラボした食事イベントなのです。
▲ 今回のシェフ、加藤峰子さん(左)と池田孝志さん(右)。
ふたりはそれぞれに佐賀の食材や食文化の素晴らしさを語りつつ、今回のテーマが「森」であることを発表。「美しくて素晴らしい佐賀の森の裏には、日本の森全般に通ずるいろいろな問題が隠れています。温暖化による自然災害や生態系の崩壊、さらには森の管理が出来ていないという社会問題など。それらの現実を知りつつ、私たちの冒険的なメニューで、佐賀の味を楽しんで色々な気づきを感じていただければ」と挨拶がありました。
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2つの才能が結実した斬新でアートフルな料理の数々

供される料理は佐賀の食材をふんだんに使ったコース仕立ての全10皿。また、すべての皿には「FARO」のソムリエ・桑原克也さんによって、佐賀県産の地酒や世界の名だたるワインなどがマリアージュされます。
▲ 1皿目「肥前吉田焼400/嬉野茶500/嬉野温泉1300」。左端の黄色い石は有田焼の原料となる陶石。
期待にワクワクしながら待つなか、最初に登場したのは「肥前吉田焼400/嬉野茶500/嬉野温泉1300」と名付けられたアミューズ。これが初めから想像の斜め上を行く料理でした。

美術館に飾るような器を使用とありましたが、杉板の上に置かれて出てきたのは有田焼の原料となる陶石で、これを器に見立てるという遊び。隣には嬉野温泉の名物でもある温泉湯豆腐、さらに枝ぶりの良いチャノキをはさんで氷出しの嬉野茶。この地域の3つの名物を、まずは挨拶代わりに一枚板に盛り込んで見せるという趣向なのでした。
▲ 2皿目「無花果 香の記憶」。器は有田焼の陶租・李参平の住居跡に開業した窯元・李荘窯のもの。ペアリングは光栄菊酒造「光栄菊 黄昏オレンジ」。
2皿目「無花果 香の記憶」、3皿目「同調  自然-芸術」、4皿目「菩提樹」といずれも野菜やハーブをアレンジした皿が続きますが、どれも佐賀の自然の鮮やかな色味を見事に皿の上に再現して見せた斬新なメニュー。フォークを使うのがためらわれる程に美しく、その味わいも心に沁みるように優しく、しかし複雑で奥深さを感じさせるものでした。
シェフの池田さんはコペンハーゲンの「ゼラニウム」やスペインの「アスルメンディ」、「ムガリッツ」など時代の先端を行くレストランで修業を積んだだけあって、その土地の文化を大胆にアレンジする能力が卓越していると感じました。

また「FARO」の加藤さんも花やハーブを使った繊細で美しいデザートが有名ですが、その鋭い美的センスはここでも見事に発揮されていて、思わず見とれてしまう素晴らしさ。ふたりのタッグで、なんともアートなメニューが出来上がっていきます。
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あのダチョウに似た、大きくてやたら足の速い“飛べない鳥”

▲ 5皿目「GuziとGuza」。器は「KIHARA」。有田焼の産地商社で伝統にとらわれない時代に合わせたオリジナルの器を展開している。
5皿目の魚料理「GuziとGuza」は「ぐじ(甘鯛)」を「GUZA」という地元産のどぶろくに漬け込んだ料理。どこかで聞いた絵本のタイトルのようで思わず微笑んでしまいますが、料理は淡白ななかにも上品な甘みがあり口の中で身がほどけていくような美味しさです。
▲ 6品目「森の出汁」。器は李荘窯。ペアリングには地元天山酒造の「七田 山廃旨口純米」を。
6品目「森の出汁」はシェフの想いが凝縮された一品。杉や檜など植物のエキスを13種も取り入れたスープで、ほのかな甘みと深遠な香りが印象に残るひと皿です。
▲ 7皿目「エミュー 価値ある放棄地」。杉の間伐材を皿替わりに使用。
そして7皿目の肉料理は「エミュー 価値ある放棄地」。あのダチョウに似た、大きくてやたら足の速い“飛べない鳥”の肉を佐賀で食べることになるとは(笑)。佐賀牛で無難にいくこともできたはずですが、あえてのエミューはシェフの心意気の表れと見ました。もちろん初めて食べましたが、赤身の肉は噛み応え十分でしっかりとした味わい。このエミューは佐賀県基山町の耕作放棄地で飼育されたのだそう。なるほど、ここでもテーマは生きています。おかげで記憶に残るディナーとなりました。
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「美味しい気づき」をもたらしてくれる価値のある時間

その後は「風そよぐ茶畑」「佐賀の森 東京の森」「花のタルト」と加藤シェフの美しくも個性的なデザートが続きます。その名からしてもわかるように、ひと皿ずつにコンセプトが明快で、さらにそれらが繋がって一連の流れとなり、より大きなメッセージが伝わっていくという見事な構成です。

「食べる」ということ自体の意味に無頓着ではいられない今の時代だからこそ、「美味しい気づき」をもたらしてくれる今回のような試みは、特段に価値のある時間だと思いますし、食事の後には大きな満足感が広がりました。
▲ 1皿目に合わせて出されたシャンパーニュ「ジャクソン キュヴェ n°74」のマグナム。
そしてもうひとつ、食の楽しみを倍加させてくれたと言えばペアリングのお酒も忘れてはいけません。全10皿に合わされた桑原さんのセレクトの素晴らしさと言ったら! 食前酒として供されたのは、ナポレオンが愛したことでも知られるシャンパーニュ、「ジャクソン キュヴェ n°74」のマグナム。

ほかにも「GuziとGuza」に合わせた最高峰のスプマンテとして知られる「ジュリオ・フェッラーリ」のロゼや、エミューの肉にはイタリアワインの至宝「サッシカイア」などマニア垂涎の酒が惜しげもなく供され、「FARO」、大丈夫か? と思わず心配になるほどの大盤振る舞いで嬉野の夜は更けていったのでした。
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世界の美食家を満足させるコンテンツづくりができるのか

最初に触れたように、美食は観光誘致にとって強力な武器。地元の食文化をうまくコンテンツ化して、これをガストロノミーツーリズムとして体系化できれば、地方にとって大きな可能性が広がることは間違いありません。

そして、ここ何年も各地でさまざまな試みがなされていますが、持続的に成功している例は少なく、そこには色々な問題点もありそうです。
すでにいくつかの地方都市には世界中からフーディを集める求心力のあるレストランも生まれていますが、それをある程度の規模感で持続的に行おうとすれば、やはり個の店だけに任せるのではなく、自治体がうまく支援する形で道筋をつけることが求められるでしょう。

とはいえ、そのような、日本、そして世界の美食家を満足させるだけのコンテンツづくりができる自治体はかなり限られているのも現実です。その中で佐賀県は、この日、県知事の山口祥義さんも参席されていましたが、知事の理解と優秀なスタッフに恵まれているようで、かなり先を走っていると感じました。
今回のイベントも佐賀の食材や食文化をベースに置きつつ、そこに東京の美食文化の中心にいる銀座「FARO」がコラボレーションしたことで、料理に洗練と華やかさが加わり、一気にイベントの格がアップしたと感じました。PR次第では、全国の食通たちが喜んで駆け付けるだろうクオリティをすでに間違いなく実現しています。そんな仕掛けをできることが素晴らしいのです。

同様の取り組みを行おうとする多くの自治体にとっては良い参考事例になるのではないでしょうか。この12月には奈良で「UNWTOガストロノミーツーリズム世界フォーラムin奈良」(※2)が開催されますし、「USEUM SAGA」も来年に第4弾が開催されるそうなので、そちらも注目したいところです。

日本の地方は美味しい! その潜在能力の高さを改めて実感したイベントでした。
※2   UNWTOは国連世界観光機関。「UNWTOガストロノミーツーリズム世界フォーラムin奈良」では、国内外から食と観光に携わる専門家、事業者、行政関係者等が集まり、講演やワークショップ等が行われる。
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