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2022.05.24

羊の達人に訊く「ラムは食べるほど痩せるってホント?」

低脂質でヘルシーなラム肉は女性に人気。食べれば食べるほど痩せるっとホント? 日本ではいつから食べてるの? 羊肉をこよなく愛す「羊齧協会」代表の菊池一弘さんに聞きました。

CREDIT :

文/秋山 都  写真/吉澤健太

巷で聞く「ラムは食べれば食べるほど痩せるから、たくさん食べても大丈夫」という声。つい、この数年前まで「羊肉は独特の香りが苦手なの~」と言って敬遠していた女子たちも、今や、ラムなら罪悪感なしに食べられるとパクパク。つい、この前まで嫌ってたくせに変わり身が早いんだから……と、女ゴコロの現金さにはいつもながら驚かされます。

この羊肉人気の一端を担っているのが「羊齧教会(ひつじかじりきょうかい)」代表の菊池一弘さん。羊肉はなぜこんな急に人気になったの? そもそも「羊齧協会」ってなに? おすすめのお店はどこ? などなど担当直入な質問をぶつけました。
▲ 菊池一弘さん、お気に入りの店のひとつ「羊香味坊」(東京・御徒町)にて。

「日本で古くから羊肉を食べていた町で生まれました」

——菊池さんと羊の出会いについて教えてください。

「ぼくは岩手県出身なんですが、生まれ育った釜石市は遠野なんかと同じく、古くから家庭で綿羊を飼ってきたエリアなんです。その目的は主にホームスパン*1なんですが、もちろん羊肉も食べます。だから家庭で焼き肉といえば、牛でも豚でもなくて、羊。ぼくにとって羊は大変身近な食材でした」
*1 家庭で紡いだ糸で織る織物のこと。この場合は毛織物(ウール)を指す。
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▲ 「羊香味坊(ヤンシャンアジボウ)」は、中国東北地方の料理に特化した同グループにあって、とくに羊肉料理にフィーチャーしたお店。最近「孤独のグルメ」に登場したことでますます人気が高まっている。
——羊を食べるといえば北海道が浮かびますが……。

「もちろん北海道も有名ですね。でも、羊肉と聞いてみなさんがいちばん最初に頭に浮かぶであろうジンギスカン発祥の地は、岩手県遠野市*2だと地元では言い張っているんですよ(笑)。戦後に満州から引き揚げてきた安部(あんべ)さんという人が遠野で精肉店を開き、中国東北部で食べていた羊料理を日本で再現しようと生まれたのがジンギスカンだと。だから昭和30年代から、遠野といえばジンギスカンの町だったんです。家庭に綿羊がいたことも、広まった理由のひとつでしょうね。いまはホームスパンをする家もなくなり、羊も食べつくしてしまいましたが(笑)」。
*2 諸説あり。たとえば「味付きジンギスカン」発祥の地は北海道滝川市だと言われています。
▲ 「羊香味坊」で羊肉料理を食べる人が必ずといってよいほどオーダーする「老虎菜(青唐辛子とパクチー、きゅうりのサラダ)」770円。
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——岩手県から中国へ留学されたんですよね。

「1997年から4年間、北京外国語大学で学びました。そこでもまた羊とのご縁があって、ぼくが住んでいたエリアはウイグル族居住区・魏公村(ぎこうそん)のそばだったんです。もともとイスラム教を信仰しているウイグル族の人々にとって、羊は大切な家畜であり、生活の糧でもあります。その村で食べる羊料理の美味しさにハマって、夜な夜な通いつめるうちにだんだん羊に侵されてきました(笑)」

——帰国後、日本でも引き続き羊を食べていたんですか?

「帰国後は東京に住むようになりましたが、日本での羊肉への偏見の強さに驚かされました。くさい、固い、美味しくない……。ぜんぜんそんなことはないのにね。そこでぼくが幹事となって、中国東北料理を中心とした『羊を食べる会』を年に数回主催するようになりました。それが徐々に規模を拡げていって、2012年に『羊齧協会』発足へとつながります」
——「羊齧協会」とは、どんな団体なんですか?

「一言で言えば、羊を愛し、美味しく味わいたい消費者たちのコミュニティを創造する団体です。月に数回のレストランイベント、年に1回の『羊フェスタ』などのイベント開催や、羊肉に関する正しい情報発信やPRが主な活動でして、現在の会員数は1800名ほど。パンデミックでここ2年ほどイベントが開催できていませんでしたが、今年はいよいよ活動を再開できそうで、楽しみにしているところです」
▲ 「ラム肉炒め(クミンor山椒or黒胡椒)」1100円。
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「羊は晩餐会で使われる高貴なお肉なんです」

——その地道な活動が実を結んだのでしょうか。この10年で羊肉はずいぶん人気になっています。

「もちろんぼくらの活動もお役に立ってるかもしれないけれど(笑)、いちばんの理由は羊肉をめぐる流通の改善にあるのだと考えています。昔はラムやマトンはすべて冷凍でしたが、今は凍結寸前の温度で保存するチルドの技術が進んだことで、一度も冷凍されない『生ラム』も流通するようになりました。これが味わいに劇的な変化を与えてくれましたね。

一番感慨深かったのは、あの『サイゼリア』で羊肉が『アロスティチーニ』(ラム肉の串焼き)*3としてオンメニューしたこと。399円でおいしいラムが食べられるなんて、以前だったらありえないことです」
*3 イタリア・アブロッツォの郷土料理。ラム肉を串焼きにし、スパイスをつけて食べる。
▲ こちらは「サイゼリア」ではなく、「羊香味坊」のラムの串焼き。ラムショルダー(塩orタレ)2本396円。
——最近のラム人気の裏にはヘルシー指向もありそう。「食べれば食べるだけ痩せる」って言われてますが……ホントなのかなぁ。

「ホントなわけないでしょう(笑)。食べ物なんですから、食べれば食べた分だけ栄養は吸収されます。でも羊肉は牛や豚に比べれば脂質は低いし、鉄分や、脂肪を燃やすL-カルチニンは豊富。肉類の中では、まあヘルシーだと言えるんじゃないですか」
鳥羽周作 Hotel's フレンチトースト クロックムッシュ 朝食
▲ 「草しか食べない羊は環境負荷の低い食材でもあり、注目が集まっています」と菊池さん。
「日本ではあまり注目されてこなかった羊肉ですが、グローバルに捉えると羊肉のポジションはかなり上なんです。たとえば中国由来の熟語では『羊頭狗肉』*5という言葉がありますよね。つまり羊肉は上質なものとしてとらえられている。それから、世界の王室や政府が主催する晩餐会では、メイン料理として供されるのはだいたいラム肉。これは世界の宗教の禁忌*6にひっかからないという理由が大きいでしょうが、ラムといえばご馳走肉というイメージが日本以外では定着しているんです」
*5 羊の頭を看板に掲げながら、羊の肉を売らずに犬の肉を売る、との意。 看板は上等でも、実際に売る品物が劣悪であること。そこから転じて、見せかけや触れ込みは立派でも、中身が伴わないことを表す。
*6 豚肉を食べないイスラム教、牛肉を食べないヒンドゥー教などそれぞれ禁忌はあるが、羊肉を禁忌としている宗教はない模様。
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▲ 菊池さんのイチ推しである「チチハル風おから炒め」440円。食べてビックリするラムの香りと味わい。
——では日本でも、もっとご馳走肉として認知されてほしいですね。最後に菊池さんおすすめの羊料理店を教えてください。

「まずは『味坊』。中国東北部出身の梁宝璋(りょうほうしょう)さんによる料理は、どれも中国ではごく当たり前に食べられている家庭の味なんですが、日本で食べられるのはここだけ。なかでも羊料理に特化した『羊香味坊』は羊のさまざまな部位を食べ比べることもできて楽しいし、まず一度は来ていただきたい名店です」

羊香味坊(やんしゃんあじぼう)

住所/東京都台東区上野3-12-6
電話/03-6803-0168
営業時間/11:00~23:00(22:30 L.O.)、土12:00~23:00(22:30 L.O.)、日・祝]12:00~22:00(21:30 L.O.)
休/なし

「さらにジンギスカンなら『羊サンライズ』*6。チルドにこだわり、生産者と密にコミュニケーションをとることで鮮度の良い羊肉がここに集まってきます。さまざまな産地、月齢の羊肉を食べ比べることができるのもここならではの楽しさです。また、モダンオーストラリア料理の『Ironbark Grill & Bar 』*7も羊肉の扱いが上手い。ラムをそのままローストするだけではなく、ハンバーグにしたり、ソーセージにしたり。やはり長らく羊と親しんでいるオセアニアならではの味わい方です」

*6  東京都港区麻布十番2-19-10 PIA麻布十番Ⅱ3F
*7 東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX6F
 
ちなみに菊池さん、このほど「白酒(ばいじゅう)」*8の魅力を知らしめる「日本中国白酒協会」の発起人にも名を連ねたのだとか。「ガチ中華にはガチ中国酒を!」を合言葉に、世界でもっとも飲まれている蒸留酒「白酒」を日本でもっと広めたい! ということですが、「白酒」と羊肉の相性も間違いなく「ウメ~ッ」に違いないわけで、羊肉の未来はますます「前途羊々」というところでしょうか。

おあとがよろしい羊(よう)で。
*9 白酒とは、高梁や小麦、豆類、とうもろこしなどの穀類を原料とする中国の蒸留酒の総称。

● 菊池一弘 (きくち・かずひろ)

羊齧協会代表。株式会社場創総合研究所代表取締役。一般社団法人来来県 代表理事。
羊肉料理を素人がおいしく楽しく食べられる環境を作るべく、月例イベント、羊フェスタ、羊齧落語、羊齧合コンなど、切り口を変えた羊肉普及のためのイベントを開催。日本初のラム肉レストラン本『東京ラムストーリー』(実業之日本社)を監修。

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