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2022.02.27

【第2回】「共楽」(銀座)

銀座で60年続く奇跡のラーメン店「共楽」

日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。

CREDIT :

文・写真/山本益博

銀座は飲食店、とりわけ鮨屋の聖地である。客層は商用接待の顧客、常連客、さらに地方からの客と広く、バー、クラブが密集しているから夜遅くまで営業出来、かつての築地、今の豊洲と早朝の仕入れが近いと、営業の条件が揃っている。それだけに競争が激しい。
銀座には、表通りを入った横丁、露地に小さな飲食店がいくつもあった。1丁目の塩さば定食が評判だった「タイガー食堂」(ご主人が寅年で、名付けられた)、5丁目の麺も料理もどれもいけた中華食堂「アンジュ」、8丁目の席に座るだけで誰もが注文せずに食べられた海老天丼一本の「津ゆ木」などなど、どの店も昼から通し営業で、銀座で働く人々の胃袋と財布を支え、舌と心を満足させてきた。

だが、今はどの店も姿を消してしまっている。ラーメン屋ではあるが、「共楽」が銀座で60年も営業を続けているのは、小さな奇跡と呼んでいい。
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私がこの店を知ったのは、「あさめしひるめしばんめし」という雑誌に折り込まれていた「東京のラーメン屋」の紹介記事で、小宮山さんという某会社社長が趣味で食べ歩くガイドだった。同じページには神田「さぶちゃん」東池袋「大勝軒」築地「井上」などが載っていたと思う。海老天丼の「津ゆ木」も同じ折り込みの天丼特集で初めて知った。

私のガイドブック「東京味のグランプリ」1984版と85年版では、「共楽」を次のように紹介した。
「東京味のグランプリ1984」1つ星 中華そば350円
共楽:銀座のド真ん中にあるラーメン専門店。
めんは中太、スープはしょうゆの味で煮干しのアクセントが強いが、飲みすすむうちに気にならなくなる。具はチャーシューと、よく煮込んだシナチクで、とてもおいしい。客は好みに応じて「油っこく」「めんかため」などと注文している。

「東京味のグランプリ1985」1つ星 中華そば370円
共楽:銀座のまんなかにあり、いつも混みあっている。
めんはちょっと太めで、ツルっとしていておいしい。スープもだしがきいて、コクがあり、とてもおいしい。チャーシューもおいしい。これで化学調味料を控えたら、素晴らしいラーメンになると思う。

東京人は、じつは「ド真ん中」と言わず「まん真ん中」という。若気の至りで、誠に恥ずかしい。

2022年1月の品書きには「中華そば」800円、「竹の子そば」950円、「ワンタンメン」1000円、「チャーシューメン」1100円とある。

「共楽」は建て替えで一時休業ののち、等価交換で新しくなった店で、2019年5月営業再開。店頭にも店内にも小さな白いのれんが掛かっているが、これは屋台の名残りで、実際「共楽」は屋台から出発したという。
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「共楽」

住所/東京都中央区銀座 2-10-12
営業時間/月~金曜11:00~18:00、土曜~16:00
定休日/日・祝日
TEL/03-3541-7686
※写真は2代目と3代目

この店に改めて出かけるきっかけとなったのは、SNSで「東京とんかつ会議」を一緒にやっている河田剛さんの強力なお薦めがあったからである。

現在は2代目とその子息3代目の二人がカウンター内で交代交代に中華そばを作っている。そして、その味は、以前の味をはるかに凌ぐ味わいである。まずは、うまみ調味料の味がしない。丁寧なスープの取り方によって、深みが感じられる。麺も自家製麺になった。伝統を大切にしながら、それを「守る」のではなく、新たな伝統を「創る」意思が感じられる中華そばである。これは、立派な小さな革命と呼んでいい。
 私はここでは、麺とスープと具を一通りいただいてから卓上の胡椒をふりかけ、スープが三分の一程度になったところで、今度は酢を少々かけまわす。味の変化が楽しめて、スープを仕舞いまで飲み干してしまう。卓上には、胡椒や酢のほかタレまで用意されている。
40年前から続く古参格のラーメン店がいまだ何軒もあるが、西荻窪の「はつね」と並んで双璧と呼んでいい。
 
一口に言って「郷愁」をそそる醤油味のラーメンだが、壁に貼られた「背脂あり〼」を加えていただくと、口頭で伝えて運ばれてきた「中華そば」はスープがなめらかでマイルドな味に変わり、アップデイトされた「ラーメン」に変貌する。

「郷愁の味」については、いつか西荻窪の「はつね」をご紹介する時に自説を披露したい。
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※次回は3月13日予定です。

● 山本益博(やまもと・ますひろ)

1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique

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