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2017.10.03

スポーツウエアブランドは“現代のモード”か?

ファッションのカジュアル化が進む中で、年々注目を集めるのがパーカやスニーカーなどのスポーツウエア。信頼性のある技術力に加えて、高いデザイン性を手に入れたそれらのブランドこそ、モード=最先端なのかも知れない。

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写真/鈴木泰之(Studio Log)
取材・文/川田剛史
この写真は話題になったナイキラボACGのもの。最新テクノロジーの詰まった素材をベースに、スポーツウエアらしからぬフォルムとグラフィカルに配されたロゴなど、どこかモードの香りすら。この一枚に象徴されるように、最先端のファッションデザイナーがスポーツウエアをデザインする時代が到来している。
アメリカのライフスタイルを日本に紹介したムック本『Made in U.S.A カタログ』が発行されたのが1970年代。この頃、本来は運動着であるスポーツウエアや、登山着であるアウトドアウエアを、あえて街で着るのがファッションだという流行が日本でも生まれた。

後にヘビーデューティーと呼ばれるようになるこのスタイルは、やがてファッションが成熟するにつれ、”当たり前”のこと、つまりファッションであることの意識は薄くなっていたように思われる。

ところがここ数年であらためてスポーツ&アウトドアウエアをファッションとして楽しむ傾向が再熱しつつある。

著名デザイナーとスポーツブランドの共同開発が台頭

現代のスポーツウエアは、本来の目的はもちろん、タウンウエアとしても十分に使えるファッション性を取り入れつつある。それはデザイナーとスポーツブランドによるコラボレーションがすっかり定着したかのようないくつかの裏側を見ても明らか。例えばアディダスと山本耀司やステラ・マッカートニー。ナイキとキム・ジョーンズ、リカルド・ティッシ。これらは、代表的なカップリングの例だろう。

スタイリストから見たいまのスポーツウエア

LEONをはじめ、多数の男性ファッション誌で活躍する、スタイリストの坂井辰翁は、初めてスポーツとファッションの融合を意識したのは2002年に登場したY-3(※1)だったと振り返る。
Y-3 2017FWコレクションより
「違和感はなく、それが自然な成り行きだと感じられたし、意識せざるを得ませんでした。最近はファッションブランドや著名メゾンもスニーカーを作っています。しかし、ファッションブランドがテクニカルなものを作るには開発費が必要になりますよね。近年は両者が自社だけではできない開発、つまり技術とデザインを補い合う関係が生まれています」
(※1)2002年に発表されたアディダスと山本耀司のコラボレートによるブランド

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ストリートの洗礼を受けたデザイナーがファッションの最前線に

ストリートの洗礼を受けたデザイナーがファッションの最前線に

ファッションとスポーツ。両者の関係性以外に、現代のデザイナーの感覚や大人の装いの変化も現状の背景にあるのではないかと坂井は見る。
 
「著名メゾンのコレクションを任されるような第一線で活躍するデザイナーのなかに、日本のストリートカルチャーを発信する人たちから影響を受けたと公言する人が現われています」
 
ストリートカルチャーにとってはスニーカーをはじめとするスポーツアイテムは欠かせない存在。確かに、最新のテクニカルな素材を用い、より自分たちの感性に沿ったスポーツウエアを作りたいと思うのは、ストリートカルチャーの影響を受けたデザイナーなら自然なことだろう。そんな新しい感性と技術の融合から生まれるスポーツウエアが、デザイン面でもスタイルアップしてくるのは自然な流れだ。
 
「また、いまや大人の装いがショートパンツやジャージ姿でもOKとされるような社会環境になったことも大きいのではないでしょうか。かつての富裕層は仕立ての良いスーツを着こなすのをよしとしてきましたよね。でもストリートファッションを経験した、新世代の富裕層は、一見装いを気にしていない雰囲気を演出しながら、最新のスポーツウエアにリシャールミルのような高級時計を合わせ、フェラーリのような高級車に乗るわけです」

デザイン性の高さは現代のプロダクトに必須

では、実際にファッションを生み出すデザイナーは、この変化をどのように見ているのか。伝統的な紳士服から現代的な機能素材を使ったウエアまで、幅広い洋服をディレクションするクリエイティブディレクターの坂田真彦さんは、Y-3のほか、ロロ・ピアーナのストームシステム®(※2)に、新しい流れを感じたと話す。

現在のスポーツウエアとファッションの近しい関係について聞くと、次のような答えが。
 
「世の中全体のデザインの水準が向上したことによるものではないでしょうか。いろいろな分野でデザインがキーになっているのです。それによってスポーツウエアでもデザイナーが起用されているのでしょう。さらに言えば、コラボレーションによって生まれたデザインは、うまくインライン(通常の製品)にも吸収できています」とのこと。
(※2)天然繊維に最先端技術を組み合わせ、完全防水・防風性を実現した天然ファブリック

スポーツウエアは“モード”になった?

スポーツウエアは現代のモードになったのかを聞いたところ、坂田の答えはNOだった。
 
「モードとスポーツは影響を受けあっていますが、イコールにはならないと思います。そもそもの成り立ちを言えば、モードは時代を捉えながらも大多数とは違うものを求める天邪鬼的な解釈をするもの。対してスポーツウエアは本来アスリートのためのものですから。モードのなかでも頂点のオートクチュールとなれば、1年365日のうちたった2時間だけのパーティーで着られればいい手仕事を駆使したウェアもあるわけです。対してスポーツウエアがいくら素晴らしくとも、そうしたシーンは想定されていませんよね。だからイコールとは言いづらい」

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注目はナイキラボACG

注目はナイキラボACG

いまやファッションデザイナーが関わるスポーツウエアはたくさんあるが、なかでも坂田の目を引いたのがナイキラボACGだそうだ。同ブランドでは、ドイツを拠点とするアクロニウムを手掛け、ストーンアイランドの外部デザイナーでもあるエロルソン・ヒューをデザイナーに起用。ハードな局面にも対応するようなテクニカルな素材を使いながら、都市で着るウエアを提案した。
 
坂田はコレクションについて「良質で想像もつかないようなものを提案している」と高く評価する。

紳士服の歴史から見たスポーツウエア

最先端のものにも目を向ける一方で、坂田はファッション史になぞらえて今の状況を説明する。
 
「150年前はシルクハットをかぶって、あれを着てこれを付けてと厳格なドレスコードがありました。当時でいえば3ピースのスーツですらカジュアルウエアだったくらいですから。そんな3ピースからベストがなくなり、現代のビジネススーツの基本である2ピースへの変化の流れすらもカジュアル化のひとつなんですよね。そう考えると、スポーツウエアが普段着のなかに入り込んでくるのは当然といえば当然。今日僕が着ているポロシャツだって、テニスウエアだったわけですからね」」

白いパタゴニアのウエアの意味

では現状をセレクトショップではどのように提案・展開しているのかが気になる。消費者が直接接する現場の事情を、あのビームスはどのように見ているのだろうか。
アウトドアにも造詣が深いコミュニケーションディレクターの土井地博は、スポーツウエアのみならずアウトドアウエアを例に出しながら話してくれた。曰く、パタゴニアから白のアウトドアウエアが発売されたときの衝撃を今でも象徴的な出来事として記憶しているのだとか。
 
「雪山で事故が発生した時、白いウエアは周囲と見分けがつかなくなります。命にかかわることを考えれば、山で着るウエアには分かりやすい色が使われるのが当然で、白はタブー視されていました。つまり、街で着てほしいという考えが浸透したからこそ、パタゴニアが白いウエアを提案したと言えます。これはファッションへの歩み寄りだったのか、挑戦だったのか、わかりませんが、とにかく新しいと感じました。ほかにもアークテリクス(※3)からクリームベージュのウエアが発売されたのも同じことだと思います」。
(※3) クライミング、スキー、アルパイン分野向けの製品を展開するカナダ発のブランド。

NYのファッション関係者も今、パタゴニアを愛用している

「最近ではニューヨークコレクションへ出かけた際、業界関係者がパタゴニアのフリースを着用しているのを多数目撃しました。自分の目で見たことでアウトドアブランドがファッションの一部として定着しているのを実感しています」と土井地。
 
アークテリクスが話題になり始めたころ、当時の価格はアウトドアブランドとしては飛びぬけて高額だった。しかし、2001年にビームスではアークテリクスとの小売り業界初となる別注を成功させている。革新的な取り組みを好む企業として知られるアークテリクスだが、なかでもアーバンウェアとして開発されたアークテリクス ヴェイランスは土井地も高く評価する。実際にファッション感度の高い人ほど好評で、海外の著名百貨店でもファッションアイテムとして取り扱われているそうだ。

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ブランドの意識が柔軟になった

ブランドの意識が柔軟になった

このようにアウトドアウエアが身近な存在としてファッションに取り入れられている状況をブランド側も理解するようになっていると土井地は言う。
 
「山に行く人だけじゃなく、より広いターゲットを各社が探るようになってきました。ザ・ノース・フェイスやグラミチといったブランドの考え方が変わったことで、私たちへの対応も柔軟になり、共同開発のチャンスが増えつつあることも要因ですね」。
 
土井地が一例に上げたのは1982年にカリフォルニアでロッククライマーにより創設されたグラミチ。もとはロッククライミングの際の開脚など、ダイナミックな動きに対応したディテールがブランドの特徴だ。現在ビームスではこのブランドのクライミングパンツをジャケットとうまくコーディネイトできる細身のテーパードモデルに別注し展開、着回しに重宝する汎用性の高さはファッション好きや関係者にも好評だそうだ。
 
「アウトドアが野暮ったい服から、いまはスタイリッシュでモテる服に様変わりしました。シンプルなので上品に見えるし、クオリティも高い。過度にファッションを意識している風に感じさせることもありません」
 
確かに、上質で快適、LEONが推奨するようなラグスポ(ラグジュアリースポーツ)にミックスするにはうってつけと言えそうだ。今後はもっと着やすく、もっとお洒落なスポーツウエアへの期待が高まることだろう。こうした時代の気分をブランドやファッションデザイナーたちが見過ごしてはいないのは、現状を見れば明らかだ。
 
コレクションブランド、人気ショップ、スポーツ・アウトドア企業が一つになって魅力ある製品を開発する。この分野はいま最もホットで、ファッションの最先端といえるカテゴリーに成長しつつあることは間違いない。これまでダンディズムを追求してきた大人の男性諸氏も、ぜひ最先端のスポーツウエアを手に入れて、流行の最前線に立ってみてはいかがだろうか?(文中敬称略)

坂井辰翁さん/スタイリスト

1976年岐阜県生まれ。2004年よりフリーランススタイリストとして独立。LEONをはじめ、メンズファッション誌、広告、アーティスト等のスタイリストとして活躍中。ファッション以外にも、クルマ、インテリアなどライフスタイル全般のスタイリングを得意とする。

坂田真彦さん/アーカイブ&スタイル代表

1970年和歌山県生まれ。高校卒業と同時に上京し、バンタンデザイン研究所に入学。卒業後、いくつかのコレクションブランドを渡り歩く。2004年にはデザインスタジオ「アーカイブ&スタイル」を設立し、06年から13年までは青山でヴィンテージショップのオーナーでもあった。現在は、複数の人気ブランドのディレクションを手掛ける。国内外問わず、オリジナルの生地開発からプロダクトデザイン、空間ディレクションまで幅広く活躍中。

土井地 博さん/ビームス コミュニケーションディレクター

大阪のショップスタッフを経て、メンズPR担当として上京。PR業務を行いつつビームスが実施する各コラボレーション事業やイベントの窓口として担当。洋服だけではなく周年事業やFUJI ROCK FESTIVALをはじめとした音楽イベント、アートイベント等を手掛ける中心人物として長年業務を行う。現在はビームス グループ全体の宣伝・販促を統括するディレクターでもあり、社内外における「ビームスの何でも屋さん」というネーミングを持つ仕掛人。土井地 博 / Hiroshi Doiji(hiroshi_doiji)•Instagram photos and videos

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