2016.04.18
欧州ファッション・リポート Paris編
2016年1月から2月にかけてイギリス、ミラノ、パリなどヨーロッパ各地で開催されたファッションショーについて、LEON編集部取材班が見て気になったブランド&アイテム、その着こなしについて考察します。
2016年1月20日〜24日
パリコレクション Fashion Weeks Paris
インターネットの普及。我々はその便利さを享受する一方で、「新しきを新しきとして受動すること」と「情報の偏向が生む特異性」を失った……。
ですがどっこい、今回のパリでは、新しきものが生まれる胎動と、今の時代だからこその特異性をしっかりと感じることができて。要は、パリが面白かった!のです。

極私的にパリコレクションを振り返りたいと思います。
ヴァレンティノ [VALENTINO]
冷静に考えれば、それはそうなのかもしれませんよね。世界最高峰のオートクチュール・テクニックを背景とするメゾンなわけで、表現したいことを表現するための技術がある=自ずと幅の広い提案ができる、ということですから。今回の2016秋冬コレクションでも、その真価を十二分に発揮しました。

世界中のどこででも同様の賞賛が受けられるルックだと思いませんか?

しかしながら、本当にスゴいのは、このふたつのルックの幅、ですよね。まさに両極のスタイル……。今回のヴァレンティノは世界中を旅する男、がテーマだったそうですが、前述したようにそのテーマを具現化できてしまう技術力とクリエイションのマッチングこそ最大の驚きポイントかと。
古着やミリタリーでファッションに目覚め、モード大好きっコとして青春を過ごした42歳のボクにとってはまっこと刺さるコレクションだったのでした。
ドリス ヴァン ノッテン [DRIES VAN NOTEN]
さて、気になる今回のショーは、なんとオペラ座の舞台裏(!)にランウェイを用意。共存主義(と勝手に呼んでみます)のミリタリーを打ち出しました。

本来ミリタリーアイテムのマキシ丈というと、権威、圧倒、威丈高といった言葉で表現されがちですが、写真に代表されるドリス ヴァン ノッテンのそれらは、まったくもってエレガントで、これまたどこか切なかったのです。
少しふっくらとさせた素材使いや、オーバーシルエットの雰囲気がそう見せてくれたのでしょうか。パリ同時多発テロ事件から間もなくのショーでしたから、因果関係の有無はわかりません。
ですが、ショーの来場者たちははっきりと、平和へのイメージを受け取ったようでした。こうした深読みはさておき、ピックアップした2ルックはいずれも実際に着たい、羽織りたい!と強く感じさせてくれるもの。
LEONのコア読者世代の大人がさらりと着こなせば、相当に格好いいと思うのですが、いかがでしょう?
サカイ [sacai]

コンサバティブなもの、クラシックなものを美しく着こなすこともファッションなら、こうしたありそうでないものを自由に纏うこともファッション。そんな当たり前のことを思い起こさせてくれるルックでありました。

そしてパンツのシルエットと丈の長さがこれまた新鮮で。そんなディテールひとつをとってみても久しぶりにブーツが履きたくなったりなど、どんどん広がりが生まれるという……。作り手の服に対する愛情や温かさがストレートに伝わるショーでありました。
ジバンシィ バイ リカルド ティッシ [GIVENCHY BY RICCARDO TISCI]
リカルド・ティッシは、歴史あるメゾンが有するエレガンスにいつも必ず新しい何かを上乗せし、混ぜ込んで、確固たるカタチにしてきたデザイナーなんですね。今シーズンは、タフ・エレガンス(と、これまた勝手に呼びますが)に溢れるコレクションで、最高に格好良かった。語彙力のなさからの、格好良い、という表現ではないのです(確かにあまり語彙力はありませんが……)。
それは大人の男が素直に「いいよね〜!」と共感できる種類のもので、解釈やロジックを矢鱈と振りかざさずとも、ドンドンッ!と心をノックしてくる感覚のもの。

トップボタンまで留めた着こなし方をはじめ、ストレートシルエットのパンツとの組合わせはアメカジを通ってきた向きなら、思わずニヤニヤしちゃいそうなシロモノです。

でもです、こちらもアメカジや古着を通ってきた人ならニンマリしちゃうはず。
ストリートの着こなしを大人の男向けに解釈したような、そんな感覚がありますよね。ラペルの返りの美しさやしっかりショルダーの気高さはまったくもってメゾンのそれ。美しく格好良い、そんなルックに溢れておりました。
ホワイトマウンテニアリング [White Mountaineering]
当日、ボクは別ブランドの展示会からホワイトのショー会場へと急いでいたのですが、その時、まさか、自らのショー会場へと急ぐデザイナーの相澤氏を発見……。「え、ていうか、準備とか、大丈夫なの?」と声を掛けると「大丈夫ですよ。最後の確認をして、あとはやるだけですから!」との弁。
この気負いのなさというか、いや、やる気は漲っているのに普通の状態でいられる感じに、とっても頼もしさを覚えたものです。
皆さんご存知かと思いますが、相澤氏は同ブランド以外に「アディダス バイ ホワイトマウンテニアリング」や「バートン サーティーン」のデザインも手がける才人。想像を絶するクリエイションの量だと思うのですがそれを飄々とこなし、そしてそのいずれにも本気で挑んでいる。いや〜、胸が高鳴りますね。熱くなりますね〜。


そこに気を使おうよ、ということ。
気を使うという言葉が違っているならばそこを前向きに楽しもうよ、ということでしょうか。装いにコンシャスになることで、背景が滲む人間性が得られたり素直に「素敵ね♥」って褒められたり。はたまた「シブイっすね〜!」でもなんでもいいんです。
要は、限られた人生が楽しくなる確率を上げる行為としてボクたちは、ファッションを取り上げていきたいな、と。そんな本音であり宣言を持って、シメ!とさせていただきます。押忍!