2016.04.18

欧州ファッション・リポート Paris編

2016年1月から2月にかけてイギリス、ミラノ、パリなどヨーロッパ各地で開催されたファッションショーについて、LEON編集部取材班が見て気になったブランド&アイテム、その着こなしについて考察します。

文/石井 洋(本誌)

2016年1月20日〜24日

パリコレクション Fashion Weeks Paris

インターネットの普及。我々はその便利さを享受する一方で、「新しきを新しきとして受動すること」「情報の偏向が生む特異性」を失った……。

なんてエラそなことを思っていたりしたのですね、最近まで。実際、ランウェイで発表された作品は即日、いや即時で、世界のどこに居てもライブ中継が見られるし、ロンドン、ミラノ、パリ……という国別の切り口はほとんど意味をなさないのも確か。

ですがどっこい、今回のパリでは、新しきものが生まれる胎動と、今の時代だからこその特異性をしっかりと感じることができて。要は、パリが面白かった!のです。
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その面白さは多分に極私的な感情によるものかもしれませんが、それもファッションの大いなる楽しみ方。自己の思いや感情を乗せて好きに解釈をして、好きに着こなし、思いきり楽しむことこそが究極なのではないかなぁ……、と、長〜い言い訳をしながら(笑)、

極私的にパリコレクションを振り返りたいと思います。

ヴァレンティノ [VALENTINO] 

まずは「ヴァレンティノ」から!昨今のヴァレンティノは、パリコレクションの初日に行われるショーにしてハイライトとも目されるほど、重要な位置付けにあります。それは、ロンドン、フィレンツェ、ミラノ、パリと続くファッションサーキットを新提案の連鎖と捉えた時、ここでいったんの集約ができるのはないかと思えるほどさまざまなクリエーションが提案されるから。

冷静に考えれば、それはそうなのかもしれませんよね。世界最高峰のオートクチュール・テクニックを背景とするメゾンなわけで、表現したいことを表現するための技術がある=自ずと幅の広い提案ができる、ということですから。今回の2016秋冬コレクションでも、その真価を十二分に発揮しました。
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これでもか、というほどシンプルなのに、ゾクゾクするような気品と色気を醸し出すブラック&ホワイトのルックは「これしか着ちゃダメって言われたら、究極どんな服を着る?」という、業界あるあるな質問に対してのひとつの答え、でしょう。

世界中のどこででも同様の賞賛が受けられるルックだと思いませんか?
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一転、色落ちしたデニムのセットアップにナバホ調の民族柄マントを羽織った、ナーバスなタフマン、を想起させるルックも大のお気に入りでした。この春リリース中のデニムも本誌で紹介しましたが、最近はクチュールテクニックを用いたデニムも得意としていますよね。一見したら気がつかないほどの生地の切り替え、繊細なスタッズ使いなど、見どころも満点。

しかしながら、本当にスゴいのは、このふたつのルックの幅、ですよね。まさに両極のスタイル……。今回のヴァレンティノは世界中を旅する男、がテーマだったそうですが、前述したようにそのテーマを具現化できてしまう技術力とクリエイションのマッチングこそ最大の驚きポイントかと。

古着やミリタリーでファッションに目覚め、モード大好きっコとして青春を過ごした42歳のボクにとってはまっこと刺さるコレクションだったのでした。

ドリス ヴァン ノッテン [DRIES VAN NOTEN]

お次は「ドリス ヴァン ノッテン」。このブランドのショーを見ると、どうしたわけかセンチメンタルな気分になります。シーズン毎に無論テーマは異なるのですが、繊細さと大胆さ、静けさとパッションなど、相反するものの共存がいつも感じ取れ、そうした儚さにも似た部分が、センチメンタルな気分にさせる理由なのかなぁ、と勝手に思っていたり。

さて、気になる今回のショーは、なんとオペラ座の舞台裏(!)にランウェイを用意。共存主義(と勝手に呼んでみます)のミリタリーを打ち出しました。
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サイケデリックアートの先駆者、ウェス ウィルソンによるイラスト柄がとっても注目を浴びたショーでしたし実際それもとっても良かったのですが、個人的にはマキシ丈のミリタリーコートがとっても印象に残っていて。

本来ミリタリーアイテムのマキシ丈というと、権威、圧倒、威丈高といった言葉で表現されがちですが、写真に代表されるドリス ヴァン ノッテンのそれらは、まったくもってエレガントで、これまたどこか切なかったのです。

少しふっくらとさせた素材使いや、オーバーシルエットの雰囲気がそう見せてくれたのでしょうか。パリ同時多発テロ事件から間もなくのショーでしたから、因果関係の有無はわかりません。

ですが、ショーの来場者たちははっきりと、平和へのイメージを受け取ったようでした。こうした深読みはさておき、ピックアップした2ルックはいずれも実際に着たい、羽織りたい!と強く感じさせてくれるもの。

LEONのコア読者世代の大人がさらりと着こなせば、相当に格好いいと思うのですが、いかがでしょう?

サカイ [sacai]

「日本のブランドって、スゴいだろう?」と海外のジャーナリストやエディターに自慢したくなるのがご存知「サカイ」。アイデアに溢れ、着てみたい、という気持ちを純粋に刺激してくれるブランドでもあります。その確立されたオリジナリティは「あのブランド、サカイっぽいよね」という言葉を聞くほどに逆説的に証明されているな、と感じるんですよね。
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2016秋冬コレクションを俯瞰すると、ムートンのアイテムが非常に多く見られたのですが、こんな楽しげでアイデアに溢れたムートン・アウターを使ったコーディネートはなかったなぁ、と。ダッフルコートとのミックスなんて、通常は思いつきませんもの。服飾業界の方やそれに準じる向きにファンが多いというのも納得ですよね。それでいて、一般層にも刺さる、いい意味でのポップ感がある。

コンサバティブなもの、クラシックなものを美しく着こなすこともファッションなら、こうしたありそうでないものを自由に纏うこともファッション。そんな当たり前のことを思い起こさせてくれるルックでありました。
Maria Valentino at MCV Photo
Maria Valentino at MCV Photo
こちらのルックもレイヤード感覚が楽しげで最高。いまだかつて、こんなにもフレッシュでスタイリングに馴染むライダーズがあったでしょうか。レジメンタルストライプの布帛が若々しく、上下に配されたツイード調のヘリンボーン生地が一体感の源です。

そしてパンツのシルエットと丈の長さがこれまた新鮮で。そんなディテールひとつをとってみても久しぶりにブーツが履きたくなったりなど、どんどん広がりが生まれるという……。作り手の服に対する愛情や温かさがストレートに伝わるショーでありました。

ジバンシィ バイ リカルド ティッシ [GIVENCHY BY RICCARDO TISCI]

一方、「ジバンシィ バイ リカルド ティッシ」はマチズモ&エレガントな魅力がさらに増幅中。ラグジュアリー・ストリートと呼ばれる、昨今の大きな流れを初めてカタチにしたのもこのブランドです。繊細で華奢な雰囲気のモデルが多勢を占めるなかタフでしなやかで、マッチョなモデルを起用したのも、そう。

リカルド・ティッシは、歴史あるメゾンが有するエレガンスにいつも必ず新しい何かを上乗せし、混ぜ込んで、確固たるカタチにしてきたデザイナーなんですね。今シーズンは、タフ・エレガンス(と、これまた勝手に呼びますが)に溢れるコレクションで、最高に格好良かった。語彙力のなさからの、格好良い、という表現ではないのです(確かにあまり語彙力はありませんが……)。

それは大人の男が素直に「いいよね〜!」と共感できる種類のもので、解釈やロジックを矢鱈と振りかざさずとも、ドンドンッ!と心をノックしてくる感覚のもの。
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例えば、こちら。デニムやジージャンを補強するために使用されるリベットとクロコ素材をアクセントに使用したトップスはアメリカンカジュアルのカバーオールを彷彿とさせる点で、我々世代にドンのズバリ。なのにこんなにもラグジュアリー。

トップボタンまで留めた着こなし方をはじめ、ストレートシルエットのパンツとの組合わせはアメカジを通ってきた向きなら、思わずニヤニヤしちゃいそうなシロモノです。
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シックでエレガントなのに、フリンジの効かせ方やフーデッドのコートなど、独創性に溢れたルック。
でもです、こちらもアメカジや古着を通ってきた人ならニンマリしちゃうはず。

ストリートの着こなしを大人の男向けに解釈したような、そんな感覚がありますよね。ラペルの返りの美しさやしっかりショルダーの気高さはまったくもってメゾンのそれ。美しく格好良い、そんなルックに溢れておりました。

ホワイトマウンテニアリング [White Mountaineering]

最後にご紹介するのは「ホワイトマウンテニアリング」。ブランドが立ち上がってから、今年で10年、20回目のシーズンに、ブランド初のランウェイショーを開催。ミニマルで切れ味鋭いショーでありました。

当日、ボクは別ブランドの展示会からホワイトのショー会場へと急いでいたのですが、その時、まさか、自らのショー会場へと急ぐデザイナーの相澤氏を発見……。「え、ていうか、準備とか、大丈夫なの?」と声を掛けると「大丈夫ですよ。最後の確認をして、あとはやるだけですから!」との弁。

この気負いのなさというか、いや、やる気は漲っているのに普通の状態でいられる感じに、とっても頼もしさを覚えたものです。

皆さんご存知かと思いますが、相澤氏は同ブランド以外に「アディダス バイ ホワイトマウンテニアリング」「バートン サーティーン」のデザインも手がける才人。想像を絶するクリエイションの量だと思うのですがそれを飄々とこなし、そしてそのいずれにも本気で挑んでいる。いや〜、胸が高鳴りますね。熱くなりますね〜。
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とりわけ好きだったルックがこちら。アウトドアやスポーツという今の時代を象徴する方向性をブランド初期からやり続けているブランドだけに、「そう来たか〜!」と目頭が熱くなりました。民族調の柄を配したデニムとの合わせや、レイヤード感覚はボクのファッション原体験とも重なり、感無量。バッファローチェックを改めて着たくなりました。
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こちらのルックは、前述した感覚の延長にありつつ都会的でクールな方向に発展させたもの、と捉えました。アイテムのひとつひとつに、新しさと懐かしさが同居する感じがとても心地よくて、なのに新鮮だな、と。毎回即完売するというアディダスとの共作はもちろん今回初めてお披露目されたアグとのコラボブーツなど男心をくすぐるトピックも満載で、明らかに時代と次代を感じさせるショーでした。
とまぁ、ここまで長々と柄にもなくファッションリポート(風)のことを書いてみましたが、そこで改めて感じたのは、装うことへの執着をなくしちゃいけないな、ということ。それは、ファッショニスタ的な視線ではなくてどんなシチュエーションであっても基本的に洋服を来る生き物なのだから、
そこに気を使おうよ、ということ。

気を使うという言葉が違っているならばそこを前向きに楽しもうよ、ということでしょうか。装いにコンシャスになることで、背景が滲む人間性が得られたり素直に「素敵ね♥」って褒められたり。はたまた「シブイっすね〜!」でもなんでもいいんです。

要は、限られた人生が楽しくなる確率を上げる行為としてボクたちは、ファッションを取り上げていきたいな、と。そんな本音であり宣言を持って、シメ!とさせていただきます。押忍!

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