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2023.01.29

目利きが推すMyベスト名品【無藤和彦編】

装う喜びがいつまでも色褪せないエルメスのタイとパニコのブレザー

世に名品は数あれど、長く服飾業界にてモノを吟味してきたマイスターは、一体どんな名品に惚れ込んでいるのでしょう。ポイントは素材? カタチ? それとも値段? その道を極めたからこそ見つけることができた至極のアイテムを、エピソードを踏まえつつ熱~く紹介していただきました。

CREDIT :

写真/田中駿伍(MAETTICO) 文・編集/長谷川 剛(TRS)

無藤和彦

フレンチらしい華やかさが胸元を軽妙に引き立てる

色とりどりのシルクプリントによるエルメスのタイ
▲ 色とりどりのシルクプリントによるエルメスのタイ。確かに他のブランドにはない、エスプリとでも呼ぶべきオリジナリティを感じます。
セレクトショップの殿堂であるビームスにおいて、クラシックスタイル等をベースに、その時々の洒落感を込めた品格ある大人のためのレーベルとして誕生したブリッラ ペル イル グスト。無藤和彦さんは、そんな高感度レーベルのディレクターとして長年活躍し、現在もバイイング等で得た円熟の経験と知識にてレーベル全体をバックアップしているご意見番。特にクラシックの歴史をモダン解釈し、新世代トラッドスタイルを数多く提案してきた手腕は業界でも指折りのもの。それだけに名品についても深い見識を持っているに違いないのです。

無藤和彦(以下、無藤) やっぱり名品と聞いてまず思い浮かぶのは、長年変わらず使い続けられるもの。数シーズンで飽きてしまうものは名品とは呼べないでしょう。さらに長年愛用できるものでありながら、確固たるオリジナリティを強く備えているアイテムが名品の大きな条件のように思います。僕の中ではそういった要素を持ったアイテムが、エルメスのネクタイです。
無藤和彦 エルメスのタイ
自身がビームスに入社し大人の男性スタイルをアレコレ模索している1980年代後半、よく訪れていたのがエルメスのショップだと無藤さん。なかでも目に留まったアイテムがシルクのネクタイだったと語ります。

無藤 今も昔も僕自身のドレススタイルはそれほど変わっておらず、スーツはネイビーやグレーのシンプルな無地が基本。それゆえにその時の気分を装いに盛り込むのはVゾーンがメインとなるのです。ストイックに伝統柄のタイで真面目に着こなす場合もありますが、夜間のパーティーなど華やかなシーンでは、できるだけ遊び心をアピールしたい。そういった時にパリの洒落感漂うエルメスのタイは非常に効果的なのです。長年のスカーフ開発で蓄積したデザインセンスもきっとあるのでしょう。英国やイタリアの伝統柄にはない、小粋な洒落感がスーツスタイルに備わるのです。
エルメスのタイ
▲ あまりディンプルを深く設けず、さらりと結ぶのがフレンチタイを軽妙に見せるコツだと無藤さん。
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付けることで気分がアガることも名品の大事な要素


加えてエルメスのタイは、フレンチタイの流儀に沿って両面を起毛させた厚手の芯地を使用しており、ソフトで柔和なエレガンスを放つところもポイントだと指摘します。

無藤 そういったタイは英国や伊国のソレのようにガシッとディンプルを設けて構築的に締めるより、フワッと軽く結ぶくらいがエレガンスを引き立てるのです。この軽妙な洒落感はエルメスの色使いや柄デザインとも絶妙にマッチし、他のネクタイでは出せない色気となってVゾーンを彩ってくれるのです。

もちろんエルメスですからシルクのクオリティも抜群。打ち込みの効いた匁の重い絹地はラグジュアリーな光沢を放ち、装いの格を質の面からも底上げしてくれます。また、エルメスのタイを今日は締めているという事実自体が、気分をアゲてくれるところもエルメスならでは。ある種の自信を持ってパーティに臨める拠り所としても特別な存在のように感じます。
エルメスのタイ
▲ 1980年代後半から1990年代に買い集めたエルメスのタイ。馬車のタグにも気品を感じます。
エルメスのタイ
▲ イギリスやイタリアでは見かけない意匠がポイント。手前の羊柄などは、ちょっとした会話の切っ掛けになる女性ウケも上々のデザインだとか。
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ナポリの名匠が手掛けた最高に“普通”の紺ブレ

無藤和彦(ブリッラ ペル イル グスト バイヤー)
▲ セーターはヴァンドリ、ジーンズはPTトリノ。シューズはポルペッタの別注モデル。すべて無藤さんの私物。
そんな洒落感を何よりも重視する無藤さんが挙げる二番目の名品がネイビーブレザーです。なんとあのイタリアの名匠、アントニオ・パニコにてオーダーした思い出深い一着とのこと。パニコといえば、世界中の洒落者が憧れるナポリテーラーのトップクラス。伝統技を尽くした完全ハンドメイドはもちろんのこと、着る人の個性や体型まで華麗に引き立てるテクニックは、レジェンド級と謳われる名手です。

無藤 先ほども申し上げたとおり、長年飽きずに愛用できるものが名品の重要な条件です。しかもこのブレザーはあのパニコ自らが手掛けた一着ということで、僕のワードローブのなかでも特に別格の存在となっているのです。

2000年代は毎シーズンのようにピッティ展示会に出張で出掛けていた無藤さん。そのタイミングに合わせて、時々ナポリまで足を伸ばしパニコのサロンを訪れたと言います。それまでにもパニコでは数々のアイテムをオーダーしてきた無藤さんですが、2004年の訪伊の際は、特に胸に期するものがあったとのこと。
アントニオ・パニコ ネイビーブレザー
▲ マニカカミーチャなどナポリ的なディテールを説明する無藤さん。見るからに軽く寛いだ仕立てであることが分かります。
無藤 職業柄パニコを始め、いろいろなテーラーやサルトでオーダーをしてきました。しかしそれまでを振り返ると、せっかくのオーダーメイドの機会という思い入れから、リクエストを盛り込みすぎであったと気付いたのです。ちょうど前シーズンに本当にシンプルなグレイフランネルのスーツをアットリーニで仕立てており、これが本当に使い勝手が抜群。ことあるごとに着用しており、本当に使える理想のオーダーとはこういうことかと気付かされたのです。そこでパニコさんにも、今回は長年ずーっと使えるアイテムがほしいとシンプルにお願いしたんです。

そこでパニコさんの回答は“英国のビンテージフラノを使ったスタンダードなネイビーブレザーを作ってみたら?”とのこと。無藤さん自身もそれは面白いと考えオーダーを決意。
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アントニオ・パニコ ネイビーブレザー
▲ 前身よりも後ろ身頃の生地を広く使って仕立てるのがパニコ流。アイロンワークも手伝って、肩線がやや後方に振られています。
アントニオ・パニコ ネイビーブレザー
▲ 「お前はまだ若い」のひと言で、有無を言わさず3つとなってしまった袖ボタン。熟練サルトとのやりとりが見えてくるような味わい深いエピソードです。
無藤 とにかくパニコさんが選んでくれたビンテージのフラノが非常に良い生地でした。確か1990年代頃に製造されたもので、英国らしくキッチリ織り込まれており重厚な張り感をもちつつ、ほど良く油が抜けてビンテージな味わいが全面に出た素材だったのです。パニコさんと言えば、細腹を設けず背中の中心線もあえて排すステッチレスな仕立てがシグネチャー。ですが、今回はスタンダードを強く意識していたので、ダーツや各所に切替えがある王道のサイドベンツ仕様にて仕立てていただきました。それでもパニコさんらしいカミーチャ風の袖付けや背中の広い男らしい仕立ては取り入れており、非常に着心地の良い一着に仕上がってきたのです。

オーダーメイドですから無藤さんのリクエストを反映した作りとなるのは当然のこと。しかし、ディテールはパニコさんの主導で決まっていくところは、さすが大御所ならでは。
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15年以上気負わず心地よく着続けられることが嬉しい

無藤 ボタンは金銀どちらにするかと聞いてくれたのですが、ボタン自体の意匠のバリエーションまでは教えてもらえませんでした(笑)。結果、ベタな錨デザインのものとなりましたが、それはナポリのテーラー作という意味なのでしょう。また、袖口のボタンは4つを希望したのですが、“お前はまだまだ若いんだろ”と3つにされてしまいました……。その時でも40歳をゆうに越えていたんですけどね(笑)。

2004年にオーダースタートとなった特別なネイビーブレザー。紆余曲折を経て仕上ったのは2006年。以降、2023年の現在まで“一軍”の紺ブレとして活躍していると無藤さん。長年着用していて改めて思うことがあると言います。
アントニオ・パニコ ネイビーブレザー
▲ Panicoの銘が見て取れる内タグ。「2006」「MUTO」の文字もしっかりと。
アントニオ・パニコ ネイビーブレザー
▲ 一生の思い出に残る名品となったアントニオ・パニコのネイビーブレザー。ラペルには、無藤さんのカラオケ姿の缶バッジが。遊び心十分です。
無藤 やっぱりスタンダードを意識しオーダーしたのは正解だったと感じています。今日のように普通に気負わずサラりと着用できますから。いわゆるザ・紺ブレといったスペックですが、見る人が見ればナポリスタイルであること、オーダーメイドであることが分かります。生地もしっかりしているので15年以上着続けていますが、まったくヘタれていません。今日はポップなレタードセーターにダメージジーンズといった完全ドレスダウンにて合わせています。しかし、そこによくある既成の紺ブレではなく、世界最高峰のパニコの一着というメリハリが、なんとも洒落ているように自分では思います。僕にとって二つとない名品であること間違いないですね。
無藤和彦(ブリッラ ペル イル グスト バイヤー)

● 無藤和彦(ブリッラ ペル イル グスト バイヤー)

1965年東京生まれ。21歳でビームス入社。渋谷の店舗でキャリアをスタートし、1992年にドレス部門のバイヤー、2003年には遊び心のある大人に向けたレーベル「Brilla per il gusto」のディレクターに就任。50歳を過ぎても「モテるためにはどうすべきか」をテーマに、自然体でカッコいいスタイリングを意識しながら、商品のバイイングに生かしている。

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