2019.07.03
今、高級スーツブームは日本以外の“アジア発”なのを知っていますか?
高級スーツを基本としたクラシックスタイルが、いまアジア各国で大ブームを巻き起こしています。それが「クラシコ・アジア」。かつて日本で大流行した「クラシコ・イタリア」のブームを超えるといわれる、その現状と背景を探りました。
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写真/椙本裕子(YUKIMI STUDIO) 文・編集/池田保行(04)
アジアは今、空前の高級スーツブーム
やがて日本での高級スーツブームは収束し、メゾンが手掛けるラグジュアリーブランドや、ストリートカジュルといったファッションの一カテゴリーとなってしまいました。
ですが、現在のアジア各国では、現地の富裕層や余裕のあるビジネスマンを中心に、クラシックな高級スーツファッションが大いに熱気を帯びているのです。

ピッティでもクロージングを纏うアジア勢が一大勢力に
ピッティ協会の公式レポートにも、アジア圏からの来場者数が増加していることが指摘されており、お馴染みの会場スナップでもアジアのファッショニスタが目につくようになりました。

台湾はもとより、フィリピン、タイにも高級クロージングショップが続々オープン
また、日本との交流も盛んなようです。アジア発のスーツブランドが、日本のお店にデリバリーされていたり、アジア各店のテーラーが来日してトランクショーを開くことも多いとか。日本のテーラーがアジアの各都市に招かれてトランクショーが行われることも頻繁だそうです。


ブームを牽引するのは富裕層の第二世代
「『アーモリー』のオーナー、マーク・チョー(注2)をはじめ、クラシコ・アジアの代表的なウェルドレッサーは、資金的に恵まれている富裕層のご子息です。親世代は会社経営などで得た資産があり、子どもたちをヨーロッパの学校へ留学させています。そこでクラシックスタイルに触れた若者たちが帰国して、本場のクラシックを自国で展開する事業を立ち上げているのです」。
モト氏も香港に留学経験があり、若い頃から現地のテーラーでスーツを仕立てていたのだそうです。
「私の行きつけは『ウィリアム・ユー』という1953年創業の老舗テーラーでした。この店で服を仕立てていたのは富裕な第一世代です。裕福でお洒落な父親を間近に見て育った息子たち第二世代が、グローバルな知識とセンスをもつエリートとなって、自分たちに相応しい服を選ぶようになったのです」。
そんな彼らに憧れる若い人たちがクラシックなスーツスタイルに傾倒していく……。そしてさらに大きなムーブメントがアジア発で生み出されているのだそうです。

アジア発の高級スーツブームは、日本のスーツ事情とは何が違うのか?
それは「ルールの不在」です。日本のクラシコブームは「ルールありき」で広まりましたが、現在のアジア発のクラシックスーツのブームは「ノールール&フリースタイル」なのだとか。
「たとえば日本では、スーツにはレースアップシューズを合わせなければならないとか、シャツの袖が1cm覗いていなければならない、など、”せねばならない”というルールを前提にしたクラシックスタイルから始まりました。そのため最初からレベルの高いスーツスタイルが展開された反面、敷居が高いことに手を出しにくいと感じた人たちも少なくなかったと思うんです」。
1960年代のアイビーブームから、日本のメンズスタイルは「コレにはコレを合わせるのが鉄則」「コレとコレを合わせてはいけない」など、ルールを先行させることで、馴染みの薄い欧米のファッションスタイルをわかりやすく取り入れる道筋が作られてきました。そんなルールがあったからこそ、クラシックなスーツスタイルが広まったのもまた事実です。
アジア発の高級スーツブームには、楽しく自由な雰囲気がある
「これは日本人が苦手とするフリースタイルですが、実はいまの欧米で主流のドレスとカジュアルの垣根を超えた、クラシックミックスに通じるセンスなのです。ルールはともかく、楽しくカッコよければOKという意識が先行しますから、誰もが参加しやすく爆発力もあります」。
「誰もが自由にクラシックな服を楽しもうという空気感が充満しているアジアには、日本のスーツブームを遥かに超える、大きなエネルギーがあるようにさえ思えるのです」。
アジアのスーツブームを感じることができる場所が日本にも
今後、日本のクラシックスタイルがアジア各国と交流することで、再びクラシックムーブメントが盛り上がるかもしれません。日本でもモトさんのように若い世代のウェルドレッサーが増えれば、その機運もさらに広がるのではないでしょうか。




おせっかいな解説 今回紹介したアジアの名店
(注01)
Oak Room(オークルーム)
http://oakroom.com.tw/
台湾を代表するセレクトショップ。オーナーのロビン・チャンは日本在住歴があり日本語も堪能。靴はクロケット&ジョーンズやオールデン、ジョン ロブなどがメイン。クロージングでは、リングヂャケットやオラツィオ ルチアーノ、ダルクオーレ、アンブロージ、ペコラ銀座などの取り扱いあり。
(注02)
The Armoury(アーモリー)
https://thearmoury.com/
香港を拠点に、アジア発の高級スーツブームを牽引するリーダー的存在。実業家のマーク・チョーが率いる名店。セントラル地区に2店舗を構え、ニューヨークにも出店しています。日本との交流も多く、日本ブランドの展開や日本人テーラーのトランクショーも盛ん。
(注03)
B&Tailor(ビーアンドテーラー)
https://sarto.jp/ordermade/btailor_mtm/
韓国からは、マスターテーラーのパク・ジョンユルと、その二人の息子を中心としたビスポークテーラリングハウスが有名。日本では伊勢丹メンズ、サルト銀座などでも取り扱いあり。職人歴50年を超えるパク・ジュンユル氏は、韓国のVIPのスーツを手がける重鎮として知られています。

今回お話を伺ったのはコチラ
モト・クウォック(Moto Kwok)
サルト銀座店 アートディレクター
日本、上海、香港で学んだ後、不動産業界へ。中国・香港・台湾の顧客への不動産売買などを経験し、その後、Web・システム制作をするITベンチャー企業へ。勤務の傍、香港テーラーやブランドのエージェント業務を開業。ほぼ同時期に、サルト銀座店のマーケティング業務に業務委託として参加。1年半ほど兼業を続け、2018年サルトへ入社。現在、Webや販促物などのデザイン制作業務、海外事業展開、広報などを担当。
■ サルト銀座店
TEL/03-3567-0016
HP/https://sarto.jp