2017.10.18

昭和のオトナのレストラン『ダイニズテーブル』

文/LEON.jp 前田陽一郎
南青山の『ダイニズテーブル』がこの10月27日に閉店すると聞いて、急いで伺いました。頻繁に行くお店ではなかったけれども、僕にとってとても大切なお店でした。
それは僕にオトナと都会の空気を教えてくれたお店でもありました。
ブログ、という形式からは少々逸脱しますが、“場”としてのレストランやバーやクラブについて、ちょうど2年前に本誌LEONで書いたコラムがあったので再掲載させていただきます。
興味をもたれた方はぜひ、閉店までに足を運んでおくことをオススメします!
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「星の数で“場”の魅力は測れない」(2015年LEON11月号より)
 
西麻布の『レッドシューズ』にはじめて入ったのはまだ大学生の頃、90年代のはじめだったと思う。誰と行ったのかもよく思い出せないが、とにかく居心地が悪かったことは覚えている。
レッドシューズといえば、遊びなれたオトナたちが集う超有名店(カフェバーとカテゴライズされるが、僕の記憶だとクラブに近かった印象)だ。当然お店の雰囲気が悪かったわけではない。むしろ問題はその“場”の空気にどう考えても不釣り合いな小僧の自分だった。それでも田舎から出てきてまだ数年の自分にとって、夜の東京を感じるいい機会だったことも確かだ。
二度目に訪れたのは2002年だったか。南青山に場所を移してリスタートを切った年だったはずだ。ある取材がきっかけでよくしていただいたシーナ&ロケッツのシーナさんに誘っていただいた。
レッドシューズの常連だったシーナさんは、店に入るや否やスタッフや数人と声を交わすと、僕に店長を紹介してくれ、さらに「鮎川と会ったことない?なら、紹介するよ」と鮎川誠さんをご紹介いただいた。シーナさんと鮎川さんのまわりには次々に人が集まり、その雰囲気そのものが店の雰囲気に直結しているように感じた。
その夜はたくさんの人たちを紹介してもらった。何人の人と話したろう。僕もそれなりにオトナになったようで、もう居心地の悪さはなかった。いい時間だった。
 
先日、青山にある『ダイニズテーブル』が創業35周年と新シェフの就任を機に、新しいメニューをはじめたということで伺った。
ダイニズテーブルがある南青山の6丁目あたりは、今でこそ家具店やカフェなどが軒を連ねる活気ある場所だが、僕がその存在を知った25年ほど前はこのエリア自体がちょっとアングラな匂いのする場所だった。骨董通り沿いに『ブルー』というクラブがあり、僕の大好きな場所だったが、それでも通りにして1ブロック先にあるダイニズテーブルまでは足が伸びなかった。地下へ続く階段の暗ささえ、小僧を近づけない雰囲気を感じた。
はじめて伺ったとき僕は30代後半になっていたが、そこはかつて自分が想像していた空気感そのものだった。南青山の中華の老舗としていまでは紹介されるが、僕にとってはどこかオトナの匂いのする特別な“場”だった。
それは35周年を迎えた今も変わらない。基本的な内装の設えは開店当初から変わることなく、また古くからの常連が今も通い詰めてくれているとオーナーの岡田大貳さんから聞いた。岡田さんとお会いしたのは今回がはじめてだ。南青山の35年間を見てきた氏はまさにその人自身がダイニズテーブルそのものといった佇まいがある。
 
逗子にある『サーファーズ』は以前から一度行った方がいいと近しい方々から言われている。
昨年から風紀の乱れや住民からの要望もあって、アルコールの提供やライブイベントなどへの営業規制が厳しくなった逗子にありながら、地域との共存と海を思う人たちの努力で連日、ライブやイベントで盛況だという。
僕にサーファーズを奨めてくれているのは、およそ世代でいうと僕の先輩にあたる方々ばかりで、海とそこにまつわるカルチャーを、厳しさを伴った優しさで守り伝えてきた先達たちだ。ずいぶんとメジャーになって、噂を聞きつけた若者たちが方々から来店するようになったらしいが、スタートから6年を迎える今も、地域共存とサーフカルチャーをもっとも大切にしているそのスタンスは変わらないという。僕はそんな話を聞くたびに、あのレッドシューズを思い出す。
 
かつては入るのに独特の敷居を感じる“場”があったように思う。
昔がそうだったのか、もしくは僕がオトナになったからか、今ではそういう“場”に出くわすことはそうなくなってしまった。
 
その“場”には千客万来の開かれた雰囲気はない。美味い料理や酒があっても、それは料理専門誌やウンチクを披露したいツウたちのものではなく、いいサービスはインターネットの情報サイトの星の数を稼ぐためのものではない。むしろそれらはすべてオーナーのこだわりのもとに、常連たちや“場”を求める者のためだけにある。だから時に少々近づき難い空気も発する。ある人にとっては居心地の悪い店であるかもしれない。でも、それは“場”と人との相性の問題だ。人が“場”を作り、その“場”が次の人を呼び寄せている以上、ある意味仕方のないことだ。
むしろ人の匂い、カルチャーの匂い、時代の匂いがする“場”というものはそうでなくてはならないと、僕はちょっと背伸びをしながら思っている。
 
※2015年11月号掲載のため、日時にズレと加筆があります
 
■DAINI’S table (ダイニズテーブル)
住所/東京都港区南青山6−3−14 サントロペ南青山B1
営業時間/11:30〜15:00(L.O.14:30)、17:30〜23:00(L.O.22:00)
※定休日・日曜日
お問い合わせ/☎03−3407−0363
URL/http://www.dainis-table.com/

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