2020.03.06
雛祭りにはハマグリを。美味しい暦のナゾ
雛祭りや七夕、お盆にお正月……1年のなかには様々な行事がありますが、なぜその日に行なうのかを考えたことがありますか? ちょっと立ち止まってみると、面白い発見があるかもしれません。
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岸澤美希(LEON.JP)
さて先日、3月3日といえば雛祭りですが、私は初午(はつうま)行事に参加してきました。

初午は稲荷信仰と深い関係がある祭りで、伏見稲荷大社の祭神が降臨した日とも言われますが、農耕に関する祭祀と結びついて盛んに行われるようになったと見る向きもあります。調べてみると、稲荷はトランプのジョーカーやブラックホールのような神様で、五穀豊穣をはじめ、商売繁盛、家内安全、交通安全、芸能向上など、神社によって様々なご利益が謳われています。そのなかの一要素が火伏(火災を防ぐこと)で、初午に火伏神事を行なう神社がちらほらと見受けられます。
実は、1年のうちで火災の発生が最も多い月は3月(消防庁調べ)。空気が乾燥し、強風の日が多いからだそう。そう考えると、火伏神事を2月(新暦では3月)に行なうのも合点が行きますね。

で、ここで気になるのが、暦の複雑さ! そもそも、日本における新暦(グレゴリオ歴)の導入は超強引で、明治5(1872)年の11月9日に「同年12月3日を以って明治6年1月1日する」と、明治政府が公布したのです。つまり、季節が約ひと月分前倒れしたわけです。
お盆が7月の地域と8月の地域があるのもこのため。旧暦では7月15日付近に行なわれていたものが、暦よりも季節感が優先されて、ひと月ずらした8月に行われているのです。
同じ年中行事においても、3月3日や5月5日などの五節句のように数字の並びが優先されて新暦にシフトするものと、旧暦のままGOするものがあるのは、季節感として分かちがたいか否かなのでしょう。


その旬は、3〜5月(地域差アリ)。そもそも婚礼にも欠かせなかった食材でもあり、一方で、女の子の行事である雛祭りと旬の時期が重なって、欠かせないものとなったのかもしれません。といっても、先ほどの新暦・旧暦の話を聞いてからだと、その旬も実際何月なのかこんがらかってしまいますけどね(笑)。
ちなみに、ハマグリのお吸い物は、汁を飲むだけで身は食べてはいけなかったそうですよ。
現代人にとっては、1日の始まりは午前0時。もしくはざっくりと朝起きた時間でしょうか。しかし、時計で時間を管理していなかった時代においては、ほかのサイクルも存在したようです。
まず、日の出から日没までを人間の1日、日没から夜明けまでを神の1日と考えていたとする見方。そして、古語にアシタ(=朝)・ユフベ(夜)があることから、1日は日没から始まるとされていたとする見方。これは平安時代の物語に見られ、ユフベに始まりコヨイ(今宵・今夜)を過ごしてアシタになるという流れです。現代を生きる我々からすると、日没が1日の始まりと言われてもにわかには受け取りがたい話ですよね。
で、何が言いたいのかというと、"当たり前"だと思っているものも、調べてみると揺らいでくることがある。歴史の中の変遷が垣間見えることがある、ということ。
暦や時間は自明のものと考えがちですが、そもそもは人間が確立させたものですから、不都合を整えながら制度化させてきたのですね。
となると、日頃から触れているもののなかに、面白い発見がある可能性があるのです。「そんなもんだ」と思考停止せずに掘ってみると、新たな発想の源が湧いてくるかもしれませんよ。それではまた次回のブログにて。