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2018.08.17

マセラティのチーフデザイナーに聞いた「美しいスポーツカー・デザイン」とは

クラシックカーの世界有数の祭典『グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード』。その期間中に開催されたレヴァンテのV6エンジン搭載の2019年モデルの国際試乗会で、チーフデザイナーが語ったマセラティのカーデザインの重要なポイントとは?

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取材・文/前田陽一郎(LEON.JP)

『グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード』は世界でも有数のスポーツカーのイベントとして知られる。

スポーツカーといっても、そこに集まる車両は20世紀初頭から最新のフォーミュラ、オンロードからオフロードに至るまで多岐にわたり、しかもそれらが敷地(主催のリッチモンド公爵の所有する領地。江戸川区に相当する1万2000エーカー)内に設けられた各エリア(ヒルクライム、ラリーセクションなど)で実際に走って見せるのだから、すごい。

ほか会場には世界から集まった自動車メーカーの展示ブース、工具やミニカー、クラシック・カーのレストアショップなどのショップエリアも用意され、開催3日間で訪れる20万人が飽きることなく、スポーツ・カーとの時間を楽しむ工夫がなされている。
そんな『グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード』期間中に、マセラティが『レヴァンテGTS』と『レヴァンテ トロフェオ』の公開を行うとともにV6エンジン搭載の2019年モデルの国際試乗会を開催した。

新たに搭載されたエアサスペンションの初期動作の良さ、アップデイトを重ねて格段にユーザビリティの向上したADAS(運転支援システム)などお伝えしたいトピックはあるが、(自動車専門メディアではない我々として)興味深かったのは、現在マセラティのチーフ・デザイナーを勤めるクラウス・ブッセが話してくれた、マセラティのエクステリアデザインの基本だった。
マセラティはここ数年、ブランドコミュニケーションの主軸に“グランドツーリング”を掲げている。

グランドツーリングとはヨーロッパのカーカルチャーの根底に流れる「国境を越えて走り、旅する」ことを指し、GTカーとはグランドツーリングのためのスポーツカーだ。マセラティはだから、『グラントゥーリズモ』しかり、『クワトロポルテ』、『ギブリ』しかり、そしてSUVカテゴリーに属するレヴァンテも「グランドツーリングを楽しむスポーツカー」とコミュニケーションしている。
ここで、クルマに一家言ある人なら「GTはGTの定義がある」と指摘されるだろう。が、その定義をデザインに落とし込んだらどうなるか、という話が前述のクラウスのマセラティのデザイン論だ。
本題に入る。
美しいスポーツカーデザインの基本とされる、ロングノーズ&ショートデッキ。こと1950〜60年代のツーリングカーにはこのカーデザインの不文律に即した美しいクルマが多く見られるが、そのベストバランスとも言われるのが、1954年式のマセラティ『A6GCS/53ベルリネッタ』のサイドビューだ。
マセラティ A6GCS/53ベルリネッタ
A6GCS/53ベルリネッタ。世界でもっとも美しいGTカーのひとつ
『A6GCS/53ベルリネッタ』が最も美しいスポーツカーだとはいうことは、昨年の夏、『モントレーカーウィーク』の『ザ・ペニンシュラ クラシックス ベスト オブ ザ ベスト』で世界最高のクラシック・スポーツカーとして選出されたことでも明らかだが、実は現行のマセラティのデザインはすべて『A6GCS/53ベルリネッタ』に習っているそう。
下のスケッチはディナーの席でブッセが手元のネームカードの裏に書き起こした『A6GCS/53ベルリネッタ』のサイドビューだが、ポイントはAピラーの位置(イラストでは三角窓に見えるが、A6GCSはフロントウィンドウが大きくラウンドしているため、三角窓の垂直線が本来のAピラーに当たる)。もちろん現在のモデルには三角窓は付いていないが、「この(仮想の垂直線の)位置が車軸の中央に位置していて、ドライバーはそれより後方に必ず位置すること」がマセラティのデザインをスポーツカー足らしめているのだという。
マセラティ A6GCS/53ベルリネッタ
マセラティのチーフデザイナー、クラウス・ブッセ氏のA6GCSの”落書き”!サラサラと、でも、完璧なバランス!
確かにマセラティの現行車種のサイドビューを見ると、クワトロポルテを除くすべてのモデルの(仮想の三角窓からの)垂直線がおよそ車軸の中央に位置しているのがわかる(実はクワトロポルテにしても、先代はこの垂直線が限りなくセンターに位置していた)。
さらにもう一枚、今度はメニューカードの裏を使って説明してくれたのが同じく『A6GCS/53ベルリネッタ』のフロントのデザイン。
マセラティ A6GCS/53ベルリネッタ
こちらもディナーの席でクラウス・ブッセがメニューカードに書いた落書き。A6GCSのデザインがGTカーとフォーミュラカーの融合であることを説明してくれた
ここで彼が言う“顔まわり”のデザインのポイントは、「なるだけ高い位置にライトを置き、グリルは低く位置させること」だそうで「それはGTカーとフォーミュラカーのデザインの融合」だと言う。これをやはり基本に据えながら、現代のモデルをデザインしているのだそうだ。なるほど、例えば現代のドイツ勢と比較すると、マセラティの面構えは「ハイライト、ロウグリル」となっているように見える。
加えて「GTカーにはカーデザインのエレガンスが、フォーミュラカーにはアグレッシブさが備わっていると考えます。つまり、マセラティのデザインで心がけているのはエレガントでアグレッシブな印象です」「それは静と動のような?」と返すと「クラシックとロックンロールのような感じかな」と笑って話してくれた。
2003年のピニンファリーナの復帰以降、マセラティはイタリア車に求められる“美しくて早い”イメージを完全に取り戻して現在に至るが、そのデザインの継承はこうして、具体的かつシンプルに行われているようだ。
それでも、世界をマーケットにする自動車メーカーにとって、コストと機能、安全性を担保したうえで、美しいデザインを実現させることは簡単ではない。これについては『レヴァンテ』のチーフデザイナーのパブロ・ダスティーノのコメントがポイントだ。「マセラティはデザインチームにかなり大きな裁量が与えられています。例えば、一台の車両の開発工程において。現代の自動車は安全性能や環境性能など、技術的にクリアしなければならない問題も多いので、常に各部が連携しているのはどのメーカーも同じだと思います。でも、マセラティの場合、それがどんな小さなパーツであれ、デザインの承認が得られている場合、基本的にはコスト管理部と技術部門はそのデザインを実現するために最大限の努力をしなければなりません。他のメーカーに比べて、圧倒的にデザイン実現の比重が大きいのです」
マセラティ レヴァンテ
こちらはレヴァンテのチーフデザイナー、パブロ・ダスティーノのスケッチ
実はパブロには意地悪にも、彼の上役にあたるチーフデザイナーのクラウスにしたのと同様に「あなたがベンチマークにしているマセラティはありますか?」と質問してみた。すると即答で「もちろん『A6GCS/53ベルリネッタ』ですね。カーデザイナーにとってもマセラティにとっても、とても重要なクルマだから」と。
冒頭でも書いたように『グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード』は「美しいクルマの走る祭典」。そこでマセラティが訴えようとしているのは「走る」ことと「美しいこと」の両立だと見てとれる。
マーケットの拡大と社会性の両立のなかで、クルマのデザインが均一化しつつある現代、それでも美しいクルマを作ろうとするカーデザイナーたちと、それをブランドのバリューと考えるマセラティは、ある意味“イタリアらしい”メーカーとも言える。はたして他のメーカーのデザインコードを探っていくと、きっとまた新たなクルマ選びの面白さが見えてくるはずだ。

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