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2017.08.22

ポルシェ、VW、メルセデス。続々と欧州勢が参戦するEVの現在と未来。

ドイツにおけるディーゼルの諸問題などもあり、いま、世界中のカーメーカーがEVへシフトする動きを見せている。しかし、航続距離や電力供給など、解決すべき問題が存在するのも事実だ。EVの現在と未来について、モータージャーナリスト島下泰久氏がひも解く。

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文/島下 泰久

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2015年のフランクフルト・モーターショーでポルシェが披露したEVのコンセプトカー「ミッションE」

ドイツ勢は揃って将来に向けてEVにシフト

今、自動車を取り巻く話題でもっともホットなものと言えば、自動運転と電気自動車=EVだろう。とりわけ電気自動車については、ここ数年の間に2020年代以降の自動車の主役として、一気に脚光を浴びだしたという感がある。
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BMWが2013年に発表したEV、「i3」。軽量化のためボディの大部分にカーボン樹脂が用いられている
日産「リーフ」、BMW「 i3」、そしてテスラ「モデルS」と、それぞれに個性的、魅力的なEVの市場投入で盛り上がりつつあった機運を、さらに強力に後押ししたのが、ここに来て鮮明になってきたドイツ勢の将来に向けたEVシフトの流れだ。来年以降、メルセデス・ベンツが「EQ」、フォルクスワーゲンが「I.D.」というサブブランドからのEVラインナップの発売をすでに明らかにしているし、ポルシェは現在ミッションEと呼ばれる電気仕掛けのスポーツカーを開発中。もちろんBMW iにも次のプランが控えている。
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メルセデス・ベンツが2016年パリ・モーターショーでお披露目した「EQコンセプト」。同車は、EV専門のサブブランド「EQ」を立ち上げる予定
ドイツ勢以外にも、ジャガーはEVの「I-PACE」を来年発売予定だし、アストン・マーティンやマセラティも電動化を表明。ボルボも子会社ポールスターをEV専業メーカーに変貌させるなど、一層注力していく姿勢を明らかにしている状況だ。
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フォルクスワーゲンのEVコンセプトカー「I.D. コンセプト」。同社は2018年以降、「I.D.」というサブブランドからEVをリリースする予定
こうした動きの背景には、テスラモーターズの躍進が大きく影響したことは言うまでもないだろう。プレミアム市場でのテスラの凄まじい勢いは、既存のプレミアムブランドにとってはまさに脅威となり、参入を大いに後押しした。
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ポルシェ「ミッションE」は4ドアクーペのボディに600psを超えるモーターを搭載し、航続距離は500km以上を誇るといわれている
さらにドイツ勢は今、ディーゼルエンジンを取り巻く諸問題にも直面している。EVシフトというアピールが、そこから目を逸らすことになると考えたかどうかはさておき、実際に内燃エンジンだけでは将来を見通せないと彼らが考えはじめているのは確かだ。特に重要な中国市場を考えれば、絶対に避けては通れない。
 
しかし何より拍車をかけているのは、その走りの魅力という情感に訴える部分かもしれない。一度EVに慣れてしまうと、エンジンがかかるクルマが野蛮に思えてしまうという部分は、エンジンを愛し続けてきた筆者にすらある。しかも周囲へのアピール力だって今やダントツなのだ。環境云々という話以上に、そうした要素は大きいに違いない。
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ジャガーが2016年のロサンジェルス・モーターショーで発表したEV、「I-PACE」。2018年に発売される予定

EVが解決しなければならない問題

さらに、EVにとっての永遠の課題だった航続距離の短さ、そして充電所要時間の長さについても、急ピッチで解決に近づいている状況だ。航続距離をブレイクスルーしたのは、やはりテスラだった。1回の充電で500km以上を走れるとなれば、もはや十分に実用的と評せる。この航続距離が後発のライバルたちにとってはひとつのベンチマークになっている。
 
充電所要時間の問題も、やはりテスラが風穴を開けた。専用の超急速充電器、スーパーチャージャーは、モデルSの場合、30分の充電で約270kmの走行を可能にすると謳われている。
 
当然、それ以外のメーカーもアライアンスを組むなどして超急速充電ネットワークの確保を検討中だ。たとえばヨーロッパではドイツ主要メーカーを中心に最大出力350kW、要はスーパーチャージャーの3倍近くにもなる超高速充電ステーションを展開するとしている。これが実現すれば計算上、5分の充電で150km走ることをも可能になる。日本で普及しているCHAdeMOも、やはり現在の3倍の速さとなる新仕様を投入する。
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トヨタが2014年に投入した、量産セダンとしては世界初となる燃料電池車「MIRAI」
つまり、かつて懸念されたすべての問題は解決済み、あるいは解決に向かっており、EVの未来はバラ色。経済誌、新聞などが盛んに言うようにハイブリッドや燃料電池自動車(FCV)に力を入れるトヨタなどは時代遅れの存在………と、本当に言っていいのだろうか? いや、実際にはEVにも、考えておくべき要素、解決しなければいけない課題は、まだまだいくつもある。
 
筆頭に挙げるべきは、EVを走らせるための電力をどうやって確保するかという話だ。たとえば今はまだ乗用車全体の1%程度のシェアしかないEVが、30%になったらどうだろう。単純に稼働台数が30倍になるとして、それだけの数のクルマが、昼時などに一斉に急速充電を行なったら、今の電力インフラでは当然賄いきれない。
 
EVを走らせるためにベースロードを増やし、そのため原発を増設するなんてナンセンスだ。かと言って火力発電を増やすのも意味がない。やはり究極的には、太陽光などの再生可能エネルギーで発電した電気でクルマを走らせるようにしていくという方策が必要だろう。そうじゃなければEV化なんて無意味と言ってもいい。
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国産EVの草分けとして2012年に発売された日産「リーフ」。この9月にはフルモデルチェンジが予定されている
また単純に、充電設備が絶対的に不足してくることも懸念される。日産によれば現在、日本国内の急速充電器はおよそ7千基。高速道路のSA/PAの40%に設置されているという。それでも今でさえ混雑時には充電器が空くのを待たされることがあるのだから、台数が2倍、5倍、10倍、30倍…となったら、どうなるかは考えるまでもない。
 
超急速充電器は期待できる解決手段だが、しかもこれはコストが高く、また一気にきわめて多くの電力を消費する。クルマの台数と同じように増やしていけるかという面では疑問が残るのだ。
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エネルギーに関するビジョンを掲げるテスラ

それらを勘案するならば、EVは今後も飛躍的に台数を増やしていくに違いないが、しかし10年後には販売されるクルマの30%がEVになっているかと訊かれたら、相当難しいのではと筆者は答える。少なくとも電力をどう確保するかは喫緊の課題である。
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テスラにおける2車種目として2012年にデビューした「モデルS」。500km以上の航続距離を誇る
その点でも明確な方向性を示しているのがテスラだ。太陽光パネルメーカーのソーラーシティを傘下に収め、家庭用・業務用蓄電池とのパッケージで商品化している。残念ながらEVで追随しようというメーカーに、こうしたエネルギーに関するビジョンを掲げられている所はほかにはそうはない。
 
筆者は、ここで水素の可能性に注目している。太陽光や風力などの再生可能エネルギーにより発電し、その電気をどれだけ必要になるか解らない大量のバッテリーではなく、水素に変換して貯めておくのだ。こうすれば電力需要の増減にフレキシブルに対応できるし、EVを中心に将来的にはFCV(燃料電池自動車:搭載した燃料電池で発電し電動機の動力で走る車を指す。主に水素燃料車)も増やしていくようなシナリオも描けるだろう。
 
実際、EVシフトという姿勢を見せる一方でドイツ勢、そしてアメリカ勢はFCVの開発も進めており、今秋辺りからはいよいよ市販車も登場してきそうな様子だ。EV一辺倒ではなく、適材適所の考え方が必要なはずである。
 
とは言いつつも、プレミアムカーのセグメントではEVがこれから数年のあいだに多数、投入されてくる。有り体に言えば、テスラ包囲網である。いわゆる高級車はEV化が進み、実用車は内燃エンジンが中心。そして双方にまたがってハイブリッドやプラグインハイブリッドが、一番大きな割合を占める。あるいは近い将来の自動車のパワートレインは、そんな勢力図になっていくのかもしれない。
 
いずれにしてもマーケットがますます活気づいていくことは間違いないし、魅力的なEVも多数出てくるだろう。そうすれば、それが技術開発の促進に繋がり、さらにクルマにとっての明るい未来が待っている……そう期待したい。
● 島下泰久(しました やすひさ)

モータージャーナリスト 2017-18日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。1972年神奈川県生まれ。1996年よりモータージャーナリストとして活動を始める。燃料電池自動車や電気自動車などの先進環境技術、そして自動運転技術を中心に、走行性能、ブランド論までクルマを取り巻くあらゆる事象を守備範囲に自動車専門誌、一般誌、ファッション誌、webなどに寄稿。その他、さまざまなメディアへの出演、講演を行なう。世界のモーターショー取材、海外メーカー国際試乗会へも頻繁に参加しており、年間渡航回数は20回を超える。2011年6月発行の2011年版より、徳大寺有恒氏との共著として「間違いだらけのクルマ選び」の執筆を開始。「2016年版 間違いだらけのクルマ選び」より単独での執筆となる。近著に「2017年版 間違いだらけのクルマ選び」(草思社)。

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