2020.06.20
なぜミニバンではなくSUVに3列が必要なのか
「3列シート」のSUVが世界中で増えている理由
ひところミニバンの専売特許だった3列シートだが、このところミドルサイズ以上のSUVでも3列シートを備えるモデルが多くなってきた。日本と世界の市場における3列シートSUV事情を探ってみた。
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文/岡本幸一郎(モータージャーナリスト)

これまでの流れをふりかえると、日本車ではトヨタ「ランドクルーザー」や三菱「パジェロ」などの大柄なクロスカントリー4WD車は早くから3列シートを採用していた。
乗用車ベースのクロスオーバーSUVでは、初代トヨタ「ハリアー」をベースとする「クルーガー」が2003年のマイナーチェンジで設定したのが最初だと記憶している。スタイリングが少々やぼったかったせいか日本ではあまり数は売れなかったが、すでにミニバンのかわりにSUVを求める人が増えていた北米では、そこそこ売れた。
ミドルサイズといっても日本車と比べれば大柄だが、デュランゴ以降、同クラスのアメリカンSUVでは3列シートが一般的になった。
実は同じ頃に北米市場で注目された日本製の3列シートSUVがある。スズキの「XL7」だ。同車は2代目エスクードのホイールベースを延長し3列シートを収めたという成り立ちで、少し遅れて2000年から「グランドエスクード」として導入された日本での販売はあまり芳しくなかったものの、北米ではけっこう売れた。
当時、ミドルクラス3列シートのアメリカンSUVが一気に増えた背景には、このクルマの存在も小さくないといえる。
レクサスRXやCR-Vにも3列仕様を設定

2018年には、ホンダがすでに北米や中国で爆売れしていた「CR-V」を日本国内に投入するなどして、ミドルサイズSUVは3列シートが当たり前になってきた。海外でも似たような動きが見られる。
そして、しばしのインターバルののち、2012年にアウトランダーがモデルチェンジして、初代よりも車内空間を拡大して登場。2013年には、日産「エクストレイル」が3代目にして初めて3列シート仕様を設定し、さらに、2017年末にはマツダ「CX-8」が登場したほか、レクサス「RX」も3列シート仕様を追加。
さらには、メルセデス・ベンツのニューモデル「GLB」(日本未発売)も、コンパクトクラスながら3列シートが設定されている。このクラスで3列シートというのは日本車のお家芸だったが、時代が変わりつつある印象を受ける。
一方で、ちょっと意外なのがジープだ。かつて2006年~2010年にフラッグシップとして据えた「コマンダー」は3列シートを備えていたが、1代限りで終わり、その後は中国専売で3列シート車が存在するものの、グローバルモデルには3列シート車が存在しない。
また、日本でも絶好調のボルボも、3列シートの設定があるのは「XC90」のみだ。いずれも「グランドチェロキー」や「XC60」あたりの次期モデルには、3列シートが設定されるかもしれない。
メルセデス・ベンツ「GLB」(写真:Daimler)
メルセデス・ベンツ「GLE」(写真:Daimler)
BMW「X5」(写真:BMW)
プジョー「5008」(写真:グループPSAジャパン)
ランドローバー「レンジローバースポーツ」(写真:ジャガー・ランドローバー)
ボルボ「XC90」(写真:ボルボ・カーズ)
メルセデス・ベンツ「GLB」(写真:Daimler)
メルセデス・ベンツ「GLE」(写真:Daimler)
BMW「X5」(写真:BMW)
プジョー「5008」(写真:グループPSAジャパン)
ランドローバー「レンジローバースポーツ」(写真:ジャガー・ランドローバー)
ボルボ「XC90」(写真:ボルボ・カーズ)
超高級ブランドのSUV事情は異なる

そもそも3列シートを持つSUVが増えたのは、ユーザーの要望を受けてのことにほかならない。
もともとSUVは、北米で「サッカーマム」などと呼ばれたミニバンに食傷気味となったユーザーの受け皿として、たくましいルックスが受けて人気を得た。その意味では3列シートのあるSUVが好まれるのは不思議ではないし、実際に近所の子どもたちをフルに乗せても、ごく短時間だけ移動するぐらいの使い方なら、ミニバンでなくても十分、事足りる。
日本で販売されるミドルサイズの3列シートSUVには、2列シート仕様と同じ車体に3列シートを詰め込んだものが多いが、海外メーカーでは専用にロングボディを用意するケースもある。
また、日本メーカー車であっても、海外で生産・販売し、日本では販売していない例もある。それは、日本ではミニバンが市民権を獲得しているから、あえて導入しなくてもよいと判断したと思われる。
3列シートSUVへのニーズはまだまだ高まる?
従来の「MPV」や「ビアンテ」、「プレマシー」のユーザー受け皿として、しっかり使える3列目が必要だと考えたからだ。実際に専用ボディを持つCX-8は、2列シート仕様と同じ車体で3列シート仕様としたクルマとは、3列目の居住性が段違いに高い。

受け取り方はいろいろあるだろうが、価格の違いを考えると、CX-8がかなり健闘しているように思える。価格差を上回る価値を感じるユーザーが、それだけ多いということだろう。
レクサスRXは、現行型が登場した当初、3列シート車は存在しなかった。しかし、北米市場からの要望を受けて、発売約1年後に追加され、それが2017年末に日本市場にも投入された。
ただし、ホイールベースを変えずにオーバーハングを延長するという手法をとったため、3列目の居住性が高くない。それが災いして販売が伸びなかったことから、2019年秋のマイナーチェンジでアレンジを工夫し改善を図ったという経緯がある。
SUVに求められるのは、より優れた実用車であることにほかならない。3列目の居住性も高いにこしたことはないが、いざとなれば座れること自体が強みになる。「商品力」の高いクルマとして、今後もますますSUVは3列シートが好まれるようになっていくに違いない。