2020.06.14
ライバル不在の「SUVクーペ」という新形態
新型ハリアーにみるRAV4とまったく異なる価値観
トヨタ「RAV4」の兄弟車でありながら、まったく異なるキャラクターをもつ新型「ハリアー」がいよいよ6月17日に発売となる。爛熟したSUVブームの間隙を縫うように「SUVクーペ」という見た目のスマートさを優先させた新形態に挑む新型「ハリアー」に勝算はあるのか?
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文/鈴木ケンイチ(モータージャーナリスト)
では、この新型ハリアーは今回のフルモデルチェンジでどのように進化し、どんな特徴を持っているのだろうか。
兄弟車「RAV4」の存在
一方、ハリアーは都会派。ルーフもリアに向かってぐっと下がっている。実用性を考えれば、車体後方を高くしたほうが、室内空間は大きくとれる。しかし、ハリアーはそうした実用性よりも、見た目のスマートさを優先させているのだ。ハリアーとRAV4は、同じメカニズムを共有する兄弟車には、まったく見えない。
メルセデス・ベンツやBMWなど、ヨーロッパのプレミアムブランドでは、このようなモデルを「SUVクーペ」と呼び、ここ数年で一気にラインナップを増やしている。新型ハリアーは、そうした欧州プレミアムたちほど徹底したクーペスタイルにはなっていないが、それでも狙う世界観は同じ。SUVクーペ的なモデルが新型ハリアーなのだ。
車格でいえば、マツダ「CX-5」、スバル「フォレスター」、日産「エクストレイル」、ホンダ「CR-V」がライバルに該当する。もちろん兄弟車のRAV4も同じクラスだ。いずれも2.0~2.5リッターのエンジンを搭載し、ディーゼルで勝負するCX-5を除けば、ハイブリッドも設定される。価格は、どれも300万円台が中心だ。
しかし、そうした国産SUVのほとんどは、4WD性能や実用性を重視しており、SUVクーペと呼べるほどのルックス重視の姿勢はない。
そんな中で、あえてライバルを1台挙げるとなればマツダのCX-5だろう。CX-5の特徴のひとつは、魂動デザインと呼ぶ優美なルックスにあるからだ。しかし、そんなCX-5もSUVクーペというほどではない。
もっとも近いのは「CX-30」だが……
これらのモデルは、実用性よりもデザイン重視で作られている。つまり、同じSUVクーペと呼べるような存在だ。
中でも「マツダ3」と基本的なメカニズムを共有するCX-30は、2019年10月にデビューしたばかりという比較的フレッシュな存在である。また、マツダ自慢の魂動デザインの洗練も進んでおり、SUVクーペとしてハリアーの強いライバルになるのではなかろうか。
また、そもそもの販売力は圧倒的にトヨタのほうが上だ。そうやすやすとハリアーの顧客がCX-30に流れていくことはないだろう。
つまりハリアーには、ほとんど強力なライバルが存在しないのだ。アウトドア志向を強めたRAV4が登場したからこそ、トヨタはハリアーをより都会的でライバルのいないSUVクーペというジャンルに踏み込むことができたと言える。
また、国内の自動車市場では、SUVブームは爛熟(らんじゅく)ぎみだ。すでにSUVを所有しているオーナーも多く、車種も増えてSUVが当たり前の存在となってしまった。SUVであるだけで個性を主張できる時代はピークを越えたと言え、さらに個性的なSUVが求められているのだ。
そうした動きに目ざとく対応しているのが、メルセデス・ベンツやBMWといったドイツ勢をはじめとした、ヨーロッパのプレミアムブランドである。
メルセデス・ベンツでいえば、「GLC」と「GLE」にそれぞれ「GLCクーペ」「GLEクーペ」をラインナップするし、BMWでは「X2」「X4」「X6」がSUVクーペとなる。
売れそうなところに、いち早く該当モデルを用意する嗅覚の鋭さは、さすがプレミアムブランドといったところだ。
SUVクーペの元祖は「X6」だが、BMWはヒットの兆しが見えたことでいち早く「X4」「X2」といった下位モデルを展開。ライバルもそれに追随した格好だ。もはやプレミアムブランドにSUVクーペは、欠かせない存在となっている。
2020年のベストセラーSUVになる可能性も
新型ハリアーのヒットを受け、「SUVクーペは国内でも売れる」という認識が広がれば、各社からさまざまなサイズのSUVクーペの新型車が登場してくるだろう。日産やホンダ、スバルなどから、新型SUVクーペが投入される可能性も十分に考えられる。
そうとなれば、国内SUVマーケットはさらに活気づき、よりSUVが存在感を増すことになるだろう。新型ハリアーの登場で、マーケットの活性化が期待できる。2020年代の国内マーケットに向けて、大きなインパクトを与えるモデルが新型ハリアーなのだ。