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2020.02.10

それは自動車の歴史そのものだった。ダイムラー・ベンツ、100歳の誕生会

世界の自動車メーカー首脳たちが、これほど多く一同に会したのは、後にも先にもこの時しかないであろう、100周年で行われた盛大なダイムラー・ベンツの祝賀会を回想する。

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第127回

ダイムラー・ベンツ、100歳の誕生日

「100歳の誕生日!」、、人にとっても、会社にとっても、ブランドにとっても、大きな節目であり、多くの人々を招いて盛大な祝賀会を開くのは珍しいことではない。

僕もそんな祝いの席に招かれたことは何度もある、、が、そんな中で、もっとも強く印象に残っているのは「ダイムラー・ベンツ100歳の誕生日!」。

それは、「ガソリン・エンジン駆動の乗り物=自動車」が初めて世に出た、、いうならば、世界的な記念日ともいえる。

1986年1月29日、僕はシュトゥットガルトのホテルで目覚めた。雨も雪も降らなかったのは幸いだったが、雲に覆われた空模様と、かなり寒かったことを覚えている。

式典第一部が行われたのはキレスベルグ・フェア会場。シュトゥットガルトでの国際見本市や展示会に使われる巨大な会場だが、世界中から招待された人々で埋まっていた。

招待されたのはおよそ3000人と聞いたが、その顔ぶれがすごかった。世界の自動車メーカー首脳たちが、これほど多く一同に会したのは、後にも先にもこの時しかないだろう。

新聞や雑誌でしか見たことのない顔に次々出会う。日本メーカーからも、たぶん全社の首脳が参加していたように思う。

自動車に関係する様々な分野をリードする立ち場の方々の顔も多く見られた。その中には、もちろんモータースポーツ関係者も含まれる。

僕が知る限り、自動車界を牽引する重要人物がこれほど多く集まったのは、「前代未聞のこと」だったはずだ。

その中に僕がいることには、ちょっと不思議な感覚を覚えた。でも、もっとも小さな3000分の1だったとしても、そんな場に招かれたことには誇らしい気持ちでいっぱいだった。
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以下、式典の模様は、新潮文庫から出版された僕の著書「MERCEDES BENZ」(1988年)から引用させていただく。

・・・午前11時15分、会場の灯りが消え、一条のスポットライトが壇上のグランドピアノを浮かび上がらせた。シンと静まった会場に流れ出したのは、偉大な生命の誕生を思わせるような神秘的で荘重な調べ。

感動的な演出だった。

そして、多くから祝福のスピーチがあったが、
その間をつなぐ間奏曲は、徐々に軽快なメロディに変わっていった。

自動車の発展が人々の生活を向上させ、人々はクルマと共に人生を楽しみ、恋をし、幸せを築く、、そんな歩みをささやきかけるかのように僕には聞こえた。

スピーチに続くプログラム、「目で見る自動車100年史」も素晴らしかった。

会場には歴史の1頁を飾る名車がズラリと並べられ、さらに、その間のクルマの、多彩な物語と文化の変遷を伝える数々のコレクションが、所狭しと並べられていた。どれもため息の出るようなものばかりだった。

その夜行われた式典第2部の会場は、ハンス・マーチン・シュライヤー・ホール。

第1部よりさらに多い4000名の招待客がダークスーツとカクテルドレスに身を包んで集まった。

19時50分、ワイツゼッカー西ドイツ大統領が入場、式典は始まった。

第1部と趣は大きく変わり、華やかで鮮やかな色彩に彩られたショーが展開された。プログラムは23時過ぎまで続いたが、途中で会場を後にする人はいなかった・・・。


以上、僕の著書からの引用だが、参加者の多く、いや、参加者のすべてが、改めて「ダイムラー・ベンツ」の偉大な足跡を思い起こし、深い感銘を受けたに違いない。

それは、単に自動車の生みの親としての足跡に対してだけの感銘ではなく、数多い伝説の足跡に対してだけの感銘でもない。

「自動車を高みに押し上げ続ける信念と努力」を100年に亘って持ち続け、前進し続けたことに対する畏敬の念を併せ持った感銘だったに違いない。
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公式プログラムはここで終わったが、ジャーナリストには、さらに特別なプログラムが用意されていた。

それは、100周年を機に新装されたミュージアムに場を移して行われた深夜のプログラム。

ダイムラー・ベンツが生んだ歴史的なクルマの数々が展示されている。

僕はあまり歴史の詳細を追うタイプではない。その種の記憶力に優れてもいない。が、それでも、ミュージアムに並ぶメルセデスを見ていると、多くの物語が浮かび上がってくる。

新装なったミュージアムでの深夜の散策は、多くの夢想を呼び起こした。このクルマたちが、どんな人たちと、どんな場所で、どんな物語を紡いだのだろうか、、と。

メルセデスの車内から、世界を変えるような大きな歴史の数々が生まれただろうことも容易に想像できる。

「100歳の誕生日」からもう34年経っている。自動車の世界は大きく様変わりしようとしている。そうした中で、自動車の祖が、未来に対してどんな道筋を考え、歩んで行くのだろうか、、注目しないわけにはゆかない。

「150歳の誕生日」の様子は、おぼろげながら夢想できないこともなさそうだが、「200歳の誕生日」をどんな形で迎えるかは夢想すらできない。

もし、ダイムラー(2007年10月からの社名)に優れた夢想家がいたら、ぜひ直接聞いてみたいものだ。素晴らしく胸躍る話しが聞けるかもしれない。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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