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2019.12.08

ランドクルーザーは世界一タフだった

シドニーからエアーズロックを往復する「砂漠の旅」に選んだクルマはトヨタ・ランドクルーザー。往復で6000kmもある距離、ましてや荒れた路面や砂漠を走りきる改めてタフだと感じるランクルのポテンシャルとは?

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第122回

ランクルは壊れなかったが、人が壊れた

僕はランクル(トヨタ・ランドクルーザー)を世界一タフなクルマに指名する。この指名に異議を唱える人はいないだろう。もしいても、ごく少数に限られるはずだ。

僕は、若い頃、よくーオーストラリアに走りに行った。仕事でもプライベートでも。

でも、行く先はシドニーやメルボルンやゴールドコーストではない。デザートエリアばかり、、つまり砂漠を走りに行ったのだ。

いろいろなクルマで、あるいはバイクで走ったが、タフさという点ではランクルが圧倒的だった。

ある時、広告代理店の仕事で、シドニーからエアーズロックを往復する「砂漠の旅」を依頼され、受けたのだが、主役を演じるクルマには迷わずランクルを選んだ。

ランクルのタフさなら仕事に支障が出ないし、映像を観る人が「すごい!!」と思ってくれる派手なパフォーマンスもしやすいからだ。

マネージャーが1人、撮影関係者が3人、そして僕という小さなチームはいいが、砂漠経験者が僕1人というのがちょっと心配だった。


現地のガイドを雇う提案をしたのだが、経費面で厳しいということで却下。結局は僕がガイドを兼任することになったのだが、あれこれ経験があったので、とくに不安はなかった。

ランクルも伴走車もシドニーで調達されたが、「絵になる」との理由で選ばれたのは、たしか「40系?」だったと思う。

40系は1960年代から80年代まで、あれこれ進化しながら作り続けられたが、いかにもタフな姿は今見てもカッコいい。趣味としてのランクル愛好者にもっとも愛されているモデルも、たぶんこの40系だろう。
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ハッキリ覚えてはいないが、エンジンは4気筒・3ℓのディーゼルだったと思う。トランスミッションは4速MT。

ボディカラーは明るい紺色。かなり使い込まれてはいたが、「長い間、風雨にさらされて頑張って来ました!」といった雰囲気が、よりタフさを押し上げていてカッコよかった。

伴走車は、フォード・ファルコン・ステーションワゴン。こちらはピカピカのレンタカー。当然ながら、ランクルと並べると弱々しく、タフな路面が多いエアーズロックへの長旅にはちょっと不安を抱かせた。

ちなみに、僕は3万キロくらいオーストラリアを走っているはずで、その8割方は砂漠。とにかく、砂漠を走るのが好きだった。

前にも、このコラムで触れたことがあるが、砂漠好きとはいっても、「月の沙漠」のイメージのような乾ききった砂漠は好きではない。

オーストラリアの砂漠は、まばらだが草木もあるし、草原的なところも多い。砂漠と言うより「土漠」といった方が当たっている。

もっとも、草木とは言っても、とげとげしく、毒々しいものが目立つのは、やはり過酷な環境に生きるものの宿命だろう。

まず目指したのはアデレード。寄り道せずに走れば1500キロくらいの距離。基本的には幹線道路を走り、ディレクターが「この辺りでちょっと撮ろう」と言うと幹線を外れて砂漠の道に入る。

砂漠の道とはいっても、フォード・ファルコンがお供なので無理はできない。で、「この辺りで撮ろう」となると、ランクルの単独行動になる。
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ディレクターとカメラクルーがランクルに乗り、「絵になる場所」まで分け入る。

ディレクターもカメラクルーも、この種の撮影は初めてで、ランクルのタフな振る舞いを目の前で見ると、「こんなことまでできるんだ!」と本当に驚いたようだった。

そして、カメラを回すのだが、回を重ねる毎に注文はエスカレートする。「ランクルならなんでもできる」と思いこんでしまったのだろう。もちろん、ダメなものはダメと断ったが、かなりきわどいところまでトライした。

アデレードからは進路を北にとりアリススプリングスを目指した。おおよその距離は1600キロ。オーストラリアの主要な幹線道路の一つだが、当時はまだ未舗装部分が多く、行き交うクルマの巻き上げる土煙に悩まされた。

とくに、鉱石や石油や家畜を運搬する、通称「100トン・トレーラー」の巻き上げる土煙は猛烈で、視界はほとんどなくなる。

しかも、3~4両を連結したトレーラーが100k m/h 近くで突進してくるのだから、その迫力は超弩級。すれ違うときの風圧もすごい。

初めてオートバイでここを走ったとき、その風圧で飛ばされ、転倒してしまった恐怖の経験がある。以後、バイクでは道路端に停止してやり過ごすことにした。

荒れた路面でもランクルはタフだったが、乗り心地もタフ。身体中のエネルギーがどんどん吸い取られてゆくような乗り心地だった。強いキックバックを抑え込みながらのステアリング操作にも体力は奪われた。
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僕はそんな状況への耐性ができていたので大丈夫だったが、未経験者は大変だった。体力を奪われただけでなく、ステアリングを握る手もやられた。腕から肩の筋肉はパンパンに張り、手首は捻挫状態になってしまった。

それもアリススプリングスまで道半ばといったところでだ。結局それ以後、ランクルは全行程を僕が運転することになってしまった。

アリススプリングスからエアーズロックまでは500キロほどだが、すべて未舗装路。100トントレーラーとは遭わなかったが、土煙とランクルとの体力勝負は変わらなかった。

エアーズロック周辺での撮影は日の出から日没まで続いたが、素晴らしい映像が撮れた。エアーズロックの神秘的な姿を見ているだけで、エネルギーが湧いてくるような気がした。

帰路も、ちょっとした寄り道以外は往路と同じ道を走った。「往きはよいよい帰りは怖い」という諺があるが、この時は逆だった。

オーストラリアの砂漠の走行に関して、僕以外はみな初体験。それも想像を超えた過酷さと恐怖を往路で体験したから、帰路は少なくとも精神的にはかなり楽になったのだろう。

往路では誰からもでなかった笑顔が、帰路はみんなからでるようになった。

長くタフな砂漠の旅はこうして無事終わった。

シドニーに着いたランクルは出発するときと、なにも変わらなかったが、乗り手はかなり痛めつけられた。

一方のフォードも洗車をしたらきれいになったが、全体にはかなりのガタがでていた。

レンタカー屋からはなんのクレームもなかったと聞いたが、オーストラリアでは珍しいことではないのだろうか。

それにしても、世界から喝采を受けるランクルのタフさを、身を以て体験した貴重な旅だった。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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