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2019.11.29

9月に開かれたイタリアのイベントに参加

フェラーリだけの「モーターショー」開催の理由

時代の変化とともにモーターショーのあり方も大きく変わろうとしている。旧来的な大規模で画一的なショーが次々と姿を消すなかで、メーカーも様々な趣向を凝らした新しいショー(イベント)の形を模索している。そんななか、フェラーリが9月に行ったイベント「Universo Ferrari」の様子をリポートする。

CREDIT :

文/越湖 信一(PRコンサルタント、EKKO PROJECT代表)

フェラーリが9月にイタリアで開いたイベント「Universo Ferrari」の会場で(筆者撮影)
東京モーターショー2019では、海外参加メーカーの減少や来場者数の低迷という逆風の中、生き残りを賭けてさまざまな取り組みが行われた。高校生以下を入場無料としたのもその1つであるし、幅広い層にアピールするために今までにない新しい企画が多数導入された。その努力が功を奏し、総来場者数130万900人(2017年は77万1200人)という成績を達成することができた。

しかし、黄金期と比較すれば、誠に情けない数字であるし、9月に開催されたフランクフルト・モーターショーにおいても、日本、アメリカ、フランス、イタリアの主要メーカーが参加を取りやめ、前回比で30%という落ち込みだ。

今やモーターショーという存在自体に多くの自己矛盾を内包するようになってしまった。もちろん、自動車需要の喚起のため、クルマにスポットを当てることは重要なことであり、すばらしいことだと思う。しかし、今のモーターショーにスタンドを構えることが、メーカーの売り上げにつながるのだろうか。また、モーターショーへ訪れる来場者は、クルマを買ってくれる顧客となりうるのだろうか。
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ニューモデルの発信方法は多彩な時代

誤解を恐れずに言うならば、モーターショーにコストを投入する自動車メーカーの目的は、自社プロダクツの販売促進であり、決してモーターショーの活性化ではない。

各モーターショーは、そこで何台のワールドプレミア(ニューモデルの発表)が行われるかをその“売り”としてアピールする。そう、モーターショーはニューモデルを発表し、広くその魅力を発信するための場であった。しかし、今やニューモデルの発信方法は多彩な時代である。

同時期に露出されるメディアの総枠が限られているとすれば、モーターショーというたくさんのモデルが1度に発表される場で情報発信することは、マーケティング的に正しいのだろうか。中にはメディア露出を多くするために、あえてモーターショーを避けてニューモデルを発表するメーカーもある。そう考えるとモーターショーに明るい未来はあるのだろうか。

ところが、マーケットが拡大している中国をはじめとするアジア諸国以外でも、実は大きな存在感を保っているモーターショーが存在する。国際モーターショーの1つである、スイスで行われるジュネーブモーターショーだ。
今年開かれたジュネーブモーターショーの様子(筆者撮影)
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スイスは自動車メーカーを持たないため、ジュネーブ空港に隣接した展示場の運営会社「パレクスポ」がショーを主催する。そのため、開催国メーカーの思惑に左右されず、ニュートラルな運営に徹することができるのだ。会場はコンパクトで各スタンドも比較的質素だが、多くの出展メーカーが世界中から集まるのが特徴だ。名前も初めて聞くような少量生産メーカーが突然現われたりもする。

時代は屋外複合型モーターショーへ

なぜ、このジュネーブモーターショーが毎年大盛況なのか(現在、多くのモーターショーは隔年開催)。

それは、世界中の自動車業界関係者が集まり、もれなくメーカーの方向性をアピールできること、新しくレアなモデルを見つけて、その場で注文を入れる“上客”がそこに集まることにある。スタンドの規模にも制約があるため、出展コストもトータルでは抑えられ、ハードルが低いこともその理由であろう。

また、世界的なトレンドとして、屋外の複合型モーターショーへの流れが見受けられる。イタリアは、日本などと比べて比較的、自動車への関心が若い世代でも高いと感じるのだが、そこでもモーターショー劣勢は否めない。カーデザインのトレンドセッター的な存在であったトリノモーターショー、そして隆盛を誇ったボローニャモーターショーもすでに消滅してしまった。

しかし、イタリアにおけるクラシックカーのコンクールデレガンスや公道ラリー、サーキットイベントなど、クルマに関わるイベントの多さには驚く。近年はトリノモーターショーの系譜を引き継ぎ、トリノ市街の公園や旧市街のスクエアをベースとして開催された「パルコ・ヴァレンティーノ・モーターショー」は、大きな盛り上がりを見せた。
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イタリアで開かれたパルコ・ヴァレンティーノ・モーターショー(筆者撮影)
「モーターショーはコストがかかりすぎます。各メーカーがスタンドの豪華さを競い、ごく短期間の展示のために多額をかけてスタンドを設営し、終わるとすべてが破棄される。これはメーカーも、そして来場者も求めていないことです」と、主催者のアンドレア・レヴィ氏は語る。

パルコ・ヴァレンティーノ・モーターショーは、すべて同一規格の展示場所を用意し、ひたすらイコール・コンディションでクルマを楽しんでもらうというのが、1つのコンセプトだ。また、屋外であるから、スタンド自体も極めてシンプル。
パルコ・ヴァレンティーノ・モーターショーの主催者であるアンドレア・レヴィ氏(筆者撮影)
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「観客は豪華なスタンドではなく、クルマが走る姿を見たいのです。モーターショーでも、ファッションショーでも、皆、ライブ感が重要です」とレヴィ氏。

クラシックカーから最新のハイパフォーマンスカーまでさまざまなクルマがトリノ市街をパレードランする姿を楽しみに、世界中から観客が訪れるまでになった。

ちなみに6回目となる来年度からは「ミラノ・モンツァ・オープンエア・モーターショー」として、さらに規模が拡大される。ミラノ中心部とモンツァサーキットを中心としたモンツァへと会場を移し、開催されることが決定している。

フランクフルトモーターショーを見送ったフェラーリ

フェラーリ、ランボルギーニ、マセラティなどのハイパフォーマンスカーメーカーが本社を構えるエミリオ・ロマーニャ州モデナ周辺でも同様なオープンエアモーターショー、「モーターヴァレーフェスタ」が今年、初めて開催され成功を収めた。
モーターヴァレーフェスタの様子(筆者撮影)
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こちらはモデナ市が音頭を取り、自動車を中心に地域の物産や文化、観光資源など多彩なアピールを行う。来年の開催も決まったようだ。

さて、高い趣味性と希少性を売りとするキング・オブ・スーパーカー、フェラーリはモーターショーに関して本年、大きなチャレンジを行ったことが話題となった。例年、出展していたフランクフルトモーターショーへの出展を取りやめたのだ。

一方、同カテゴリー内で近年、大きく販売台数を伸ばしているライバル、ランボルギーニは、フォルクスワーゲングループの一角として、自国のモーターショーであるフランクフルトで大きなスタンドを構え、颯爽とニューモデルを発表するという。いったいフェラーリはどうするのだろうか。話題になるのは当然だ。すると、こんなプレスリリースが流れてきた。

「今年9月、フェラーリの故郷、イタリア・マラネッロで特別なイベントが開催されます。Universo (イタリア語で“宇宙”の意)Ferrari は、フェラーリの世界に特化した史上初のエキシビションで、一般公開日も予定されています。

フェラーリは、世界中のクライアントの方々に、最新モデルをプライベート・ビューイングで観ていただくエクスクルーシブな機会をご用意しました。また、Universo Ferrari では、初めてブランドのファンとティフォッシの方々にもこの機会を広く提供します」

そして9月9日。そう、まさにフランクフルト・モーターショーの報道機関向けプレスディの前日に、そのUniverso Ferrari会場にてプレスカンファレンスを行うという連絡が入ったのだ。

世界中の自動車ジャーナリストもフェラーリから招待があれば、行かないわけにいかないし、その場所がフェラーリ本社隣接のフィオラノ・サーキットにあるUniverso Ferrariなる前述の期間限定会場で行われるならば、是が非でも行ってみたいと思わざるをえない。

ちなみに、フランクフルトモーターショーへの配慮からか、参加したジャーナリストにはフランクフルトモーターショーのプレスディに間に合うよう、チャーター便が用意された。用意周到である。
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世界観を伝えるためのイベント

さて、そのUniverso Ferrariなる会場へ行ってみると、仮設ながらも堂々とした規模の展示ファシリティであった。フェラーリF1のヒストリーからクラシックモデル、限定モデルの展示がいくつかのプレゼンテーションルームに振り分けられ、各種オーナー向けサービスも紹介される。“フェラーリのオーナーとなったらこんなに楽しいのだよ”と、念入りなアピールだ。

最後の部屋を抜け、暗幕が開くと、そこにはまさにモーターショーさながらの、いやモーターショーのスタンドよりもスケールが大きく、ゆったりしたスペースが用意され、最新の「SF90ストラダーレ」をはじめとする現行ラインナップ全モデルが並んでいるではないか。

なるほど、フェラーリは自らの“ワンオフ”モーターショーをやりたかったのだな、とその意図を明確に理解できた。つまり、メディア向けのカンファレンスのみならず、重要顧客から一般顧客までを、もれなくフェラーリだけのモーターショーに1カ月間をかけて招待するのだ。一般の入場も、予約により時間差を設けて、決して混雑してぎゅうぎゅう詰めにはならない。ラグジュアリーブランドとしての配慮は完璧だ。

この企画は、フェラーリ・ジャパン元代表のリノ・デパオリ氏がプロデュースしたという。
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フェラーリ・ジャパン元代表のリノ・デパオリ氏(筆者撮影)
「既存のモータ-ショーにフェラーリが出展をしない、ということでは決してありません。今回は、一般のユーザーの方を対象としたフェラーリの世界観を理解していただくこのイベントとフランクフルトモーターショーのタイミングがちょうど重なったので、ショーへの参加を取りやめたのです。それにお見せするものもたくさんあるので、スペースも必要ですから」と彼は語る。
プレゼンテーションルームでは、シアター型の客席でプレゼンを聞くことができた(筆者撮影)
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続いて、そのモーターショーのスタンドのような展示を抜けて、さらに奥のプレゼンテーションルームへ招かれる。そこで新型8気筒モデル「F8スパイダー」が世界初公開されるというのだ。

確かにモーターショーでは、狭いスタンドのまわりを多くのメディアが取り囲む。プレゼンテーターの顔すら見えないし、クオリティーの高い写真を撮るのも至難の業だ。それが、今回はシアター型の客席に座ってゆったりとプレゼンを聞くことができた。

さらにサプライズのワールドプレミアが

さて、8気筒モデルの説明が終わり、普通ならクルマのまわりになだれ込んでのフォトセッションなのだが、進行から「まだ続きがありますから席を立たないでください」との指示が。すると、座っていた客席がアトラクションさながらに動き始めた。今度は目の前に、裏側に隠れていたもう1台のワールドプレミアカーが現われるという仕掛けであった。

「モーターショーのスタンドという、限られた広さで満足のいく展示をするのは、難しいものです。さらにフェラーリのようなクルマには、お伝えしたい世界観がたくさんありますから。また、フェラーリの顧客の皆さんは近年、モーターショーへいらっしゃらなくなっていますしね」とデパオリ氏は語る。

モーターショー期間の周辺で独自のプレスイベントを行うメーカーはあるが、ここまで徹底するとは……。まさに究極のモーターショーとも言えるものであった。

もはや、情報の発信方法も大きく変わり、ユーザーの受け止め方も同時に変化している。モーターショーが本当に求められているものは何なのか。送り手であるメーカー側と受け手である来場者の両サイドから再考すべき時期にきているのは間違いない。
当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です
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