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2019.11.24

元祖、小さな高級車 「BMC ADO16」を知っていますか?

1960年代初めから1970年代半ば辺りまで生産された英国の小型乗用車、BMC・ADO16シリーズを知っていますか? あの、ミニ(ADO15)の成功を受けて開発されたもので、ピニンファリーナがデザイン。オースチン、モーリス、MG、ウーズレー、ライレー、バンデンプラと、なんと6種のブランドで販売されていたという伝説のモデル。今回はその名車を手に入れたときのストーリーをお届けします。

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第120回

元祖、小さな高級車 「BMC ADO16」

「小さな高級車」といえば、そのものズバリのキャッチコピーを使っていた「トヨタ・プログレ」を思いだす人も少なくないだろう。

でも、僕の頭にすぐ思い浮かぶのは「BMC・ADO16」シリーズ。1960年代初めから1970年代半ば辺りまで生産された英国産の小型乗用車だ。

ミニ(ADO15)の成功を受けて開発されたADO16は、いわばミニの上級シリーズといえるポジションのクルマだが、ピニンファリーナが描いたルックスは多くの心を惹きつけた。

4人の大人が余裕で乗れて、革新性と保守性を巧みにミックス&バランスさせたルックスは、今なお魅力的な輝きを放っている。

ADO16は6種のモデル名で売られたが、一応その名を列記しておこう。オースチン、モーリス、MG、ウーズレー、ライレー、バンデンプラの6種だが、廉価な大衆ブランドから、スポーツブランド、高級ブランドまでをカバーしていたということ。

ふつうに考えれば、こんな展開はあり得ないし、成立しっこないのだが、AD016は成立した。少なくとも僕はそう思っている。

とくに、MGやバンデンプラの成立は、ひとえにピニンファリナのデザインのお陰だろう。
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浮気性の僕と兄は、ADO16 にもすぐ魅了され、早々に手に入れた。

僕はスポーティ・ブランドのMG を、兄は高級ブランドのバンデン・プラ・プリンセスを選んだ。

MGは当初1100だったが、後に1300にアップグレード。その流れで、結局、僕は2台のMGを買うことになった。

2台とも中古で買ったが、伊勢丹オート(新宿伊勢丹百貨店の地階にあった)の仲介だったので、共にコンディションは文句なしだった。

1台目の1100はブリティッシュグリーンとオフホワイトの2トーン。これはオリジナルのまま乗った。2台目の1300はオフホワイトのモノトーンだったが、退屈なので塗り替えることにした。

色は深みのあるワイン系の赤とオフホワイトの2トーン。ホワイトの部分も塗り替えた。

お願いしたのは、板金、塗装、磨きの凄腕職人が揃った名門「わたびき」。今も昔も「知る人ぞ知る」存在であり、多くのロールスロイスやフェラーリ等がお世話になっている。

そんな名門工場にMG1300ごときを持ち込むのは抵抗もあったが、伊勢丹モータースとは太いパイプがあったため、喜んで引き受けてくれた。

むろん費用はかかったが、素晴らしい仕上がりは費用以上の満足感を与えてくれた。

赤白2トーンも大成功。街でも多くの人目を引いたし、仲間にも自慢できた。

クルマ仲間に「いいね!」といわれたとき、「わたびきで塗装したんだ」と返すと、「いいね!」のトーンはさらにハネ上がった。

そう、「わたびきで塗装する」ことは、クルマ好きの間では「ステイタス」だったのだ。

ウッドとレザーで仕上げられた内装も、わたびきの塗装に見合うレベルの雰囲気だったし、僕のMG1300は、まさに「小さな高級車」と呼ぶに相応しい装い/佇まいだった。
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走りもよかった。ミニ・クーパーSと基本的には共通のエンジンは、一回り大きな車体をも活発に引っ張ってくれた。

ラバーと液体を使った独特の前後輪関連懸架装置=ハイドロラスティック・サスペンションも快適な乗り心地と、高いレベルの身のこなしをもたらしてくれた。
ミニクーパーSのようなヤンチャさはないが、
峠を走り抜けるアベレージはかなり高かった。
「MG」ブランドを背負うに不足のない走りだった。

兄はADO16シリーズの最上位に位置したバンデン・プラ・プリンセス1300を買った。深く艶やかなグレー系のボディと、威厳あるフロントグリルは、小さいながらも周りを圧倒する雰囲気があった。

ウォールナットと最上の革を使った内装も「ミニ・ロールス」のニックネームに負けないものだったし、前席背後のピクニックテーブルも高い演出効果をもたらしていた。

基本を共有する小さなクルマが、大衆車ブランドのオースチンやモーリス、スポーツ・ブランドのMG、中級ブランドのライレー、ウーズレー、高級ブランドのバンデン・プラを演じきる、、、よくできたものだと思う。

これを、当時のカローラやサニー、あるいはルノーやフィアットに置き換えてみれば、どう考えても「無理」だと誰もが思うだろう。

高額を払って、カローラを「わたびきで塗装」する気になるだろうか。これまた、どう考えても答えは「ノー」。

「なぜか?」、、僕は、基本的な違いは「気品とエレガンスをもった佇まい」の有無にあると思っている。そう、謎解きのヒントは「ピニンファリーナ」にあるということだ。

1964 年、初めて海外に出たとき、ロンドンにも2週間ほど滞在したが、その時の足に使ったのがバンデン・プラ・プリンセス1100。

怖いもの知らずで恥知らずの若いバックパッカーが、BMCでプレスカーを借りたのだが、思いだすだけで赤面する。

知人の日本人に紹介され、すぐ仲良くなった若い自動車好きのロンドンっ子に、「このクルマ、君には似合わないよ」、「君の乗るクルマじゃないよ」と言われたことを思いだす。

初めはなにを言われているのかさっぱりわからなかった。が、「このクルマ、小さなロールスロイスって呼ばれているんだよ!」と言われて、ようやく気づいた。

クルマを交換するのが面倒くさかったのでそのまま乗り続けた。が、、以後、周りの目がすごく気になってしかたがなかった。安い場末のホテルに駐めるのが恥ずかしかった。その気で周りを見ると、確かに場違いだった。

そんなことを思い出しながらADO16のあれこれを考えると、改めて「すごいクルマだったんだなあ!」と思う。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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