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2019.10.11

ワールドプレミアを世界3カ所で同時開催

ポルシェ初のEV「タイカン」は、何がすごいのか?

9月上旬、ポルシェは初の量産EVスポーツカー「タイカン(Taycan)」を北米、ヨーロッパ、中国で世界同時プレミアした。カイエン・ハイブリッドやハイブリッドでのルマン3連覇、フォーミュラEへの参戦など電動化で実績を重ねてきたポルシェが満を持して発表した「タイカン」とは、どんなクルマなのか?

CREDIT :

文/島下 泰久(モータージャーナリスト)

記事提供/東洋経済ONLINE
ポルシェ EV タイカン
ポルシェ初のフル電動スポーツカー「タイカン」はワールドプレミアを世界3大陸で同時に開催した。写真は中国で行われた発表会の様子(写真:ポルシェ)
9月上旬、ポルシェがブランド初の電動スポーツカーとなるタイカンのワールドプレミアイベントが、北米、ヨーロッパ、中国の世界3カ所で同時に開催された。もちろん、この3つの地域はタイカンにとって主要市場なのだが、実は会場には、その中でも再生可能エネルギーの活用を積極的に推進している地域が選ばれていた。

北米の舞台はアメリカ・カナダ国境のナイアガラ。水力発電が盛んだ。ヨーロッパはドイツ・ベルリン近郊の太陽光発電に力が入れられているノイハルデンベルクが選ばれた。そして筆者も臨席した中国の会場は、福建省は平潭島の風力発電施設のそば。福州市の市街からバスで2時間近くも揺られて、ようやくたどり着いたのだった。ともあれ水力、太陽光、風力の3種類の再生可能エネルギーがそろえられたのである。

ドイツ・ポルシェAGのプロダクト&コンセプト担当副社長、ゲルノート・ドエルナー氏は「EV(電気自動車)は再生可能エネルギーで走らせなければ意味がありません」と断言する。ポルシェにとっての、そんなモビリティの未来に向けた決意が、この3極同時発表には秘められていたと言えるだろう。
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電動化で実績を重ねてきたポルシェ

「ポルシェにとって今はピュアスポーツカーカンパニーからエクスクルーシブでスポーティーなモビリティの最も成功したプロバイダーへと転換していく重要な時期にあります。電動スポーツカーはブランドに完全にフィットします」と言うのは、ポルシェAG取締役会のオリバー・ブルーメ会長である。

実際、市販車では2010年にカイエン ハイブリッドを登場させ、またポルシェにとっては重要なモータースポーツの分野では919ハイブリッドにて2015~2017年のル・マン24時間レース3連覇を達成。今年からは電動レーシングカーで戦われるフォーミュラEにワークスチームを出場させるなど、ポルシェはプレミアムスポーツカーメーカーの中でも電動化にいち早く取り組んできたのだ。

そして、いよいよ市販が開始されるタイカン。そのデザインやコンセプトは、2015年のフランクフルトショーでお披露目されたコンセプトカー「ミッションE」に忠実と言っていい。サイズは全長4963mm×全幅1966mm×全高1378mm。同社の4ドアスポーツカーであるパナメーラより短く、幅広く、少し低い。誰が見てもポルシェであり、それでいて未来的なデザインは見事である。

それはインテリアも同様だ。昨年デビューした新型911にも似た水平基調のダッシュボード空冷時代の911へのオマージュ。しかしながらドライバーの目の前には16.8インチの湾曲タッチスクリーンディスプレイが置かれ、911では回転計のみ残されているアナログ計はついに廃されている。

その脇のダッシュボード中央、その手前、さらには助手席の前にまでタッチスクリーンが置かれるが、各種機能の呼び出しは「Hey, PORSCHE」と呼びかけるだけで起動できる音声入力でも可能だ。
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「大事なのは直線の速さだけではない」

今回、まず発表されたのはタイカン ターボ、そしてターボSの2モデル。改めて言うまでもないが、両車とも本当にターボチャージャーが搭載されているわけではない。ポルシェにとってのターボは、ラインナップの最高峰であることを示す記号なのである。

いずれも前後アクスルにそれぞれ1基ずつ計2基の電気モーターを搭載する基本レイアウトは共通。リアモーターには2段ギアボックスが組み合わされ、各ギアが発進から100kmまでの鋭い加速と、その先の巡航を担うことで効率性を高めている。スペックはターボSで最高出力761ps、システム最大トルク1050Nm。0-100km/h加速は2.8秒、最高速は260km/hに達する。

詳しい人なら、この加速性能がテスラ モデルSに負けていることに気づくだろう。しかしながら前出のドエルナー氏は「大事なのは直線の速さだけじゃなく、総合的なパフォーマンスです」と、まったく意に介していない。さらに、その加速が単発に終わらず何度繰り返しても衰えないと強調する。

事実、ポルシェが7月に試作車を飛行場に持ち込んで行ったテストでは、静止状態から200km/hまで26回以上連続して加速を試みても平均加速は10秒を切り、最も速いタイムと遅いタイムの差は0.8秒にすぎなかったという。また、高性能車の指標となっているドイツ・ニュルブルクリンクでは7分42秒という最速ラップタイムを記録し、4ドアEV世界最速の座についた。
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実は発表に先立って、筆者は上海で開催されたタイカンのテクニカルワークショップに参加。その際、テストドライバーが操るタイカンの助手席で、その走りを体感してきたのだが、世界中のプレスを乗せて1日中走行し続けていたタイカンは、アクセルオンとともに強大なトルクを発生してすさまじい加速を示し、さらに何度もドリフト走行を披露していた。

真夏のサーキットにもかかわらず、すぐにパワーがタレてスローダウンなんて素振りはまるで見せなかったのだ。

もう1つ気になる満充電航続距離はWLTPモードでターボが381~450km、ターボSが388~412kmとされている。車体のホイールベース内フロア下にずらりと並べられたリチウムイオンバッテリーの容量は93.4kWhである。

タイカンではとくに高速走行時の実燃費にフォーカスが当てられていることは間違いなく、実際にアウトバーンでは相当なテストが行われたようだが、それに加えてポルシェ自慢の800V高電圧システムを搭載することにより、現時点で最大270kWの高出力によって5%から80%まで、わずか22.5分で充電することが可能。2時間で350kmを走行でき、充電に30分とすると平均時速は140km/h。十分な速さと言っていい。

興味深いのは「ポルシェ ターボ チャージング プランナー」で、目的地設定の際に充電ポイントも定め、その地点に着くまでにバッテリー温度を最適な状態に近づけることで充電時間を短縮できるという。例えば外気温0℃のときには、これを使うと使わないでは充電時間に1.5倍もの差が生じるそうだ。

これらにより実際の使用条件下では十分なパフォーマンスと使い勝手を実現しているというのがポルシェの主張である。こればかりは実際に試してみなければ断定はできないが、楽しみなことは間違いない。
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急速充電器の開発を推進

ただし日本では現状、急速充電としては50kWのCHAdeMOしか選択肢がない。そこでポルシェジャパンはABBと共同で、150kWまで対応する次世代CHAdeMO急速充電器の開発を進めている。タイカンの日本導入時には、ポルシェ販売店のほぼ半数に、そして最終的には全店舗に設置される予定だ。また、都市部を中心に販売店以外のいくつかの場所にも設置していく計画だという。
ポルシェ EV タイカン
タイカンはポルシェにとって新しい時代の幕開けとなる(写真:ポルシェ)
タイカンは単なるテスラ対抗馬でもアドバルーンの一環でもない。ポルシェは電動化に対して本気だ。もちろん内燃機関(ICE)の火を絶やすことはしないが、今後のパワートレイン戦略としてはICE、PHEV、EVの3本立てで行くと公言している。

前出のドエルナー氏は言う。「EVはICEやPHEVのモデルとは別の専用プラットフォームで開発していきます。すでに発表しているとおり、次期型マカンはEVになります。911ですか? おそらく911がEVになるのは最後の最後でしょうね。今のところは、そういう計画はありませんが」

ともあれポルシェにとって新しい時代の幕開けであることは間違いない。その真価については実際にステアリングを握ったのちに改めて報告するつもりだ。
当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です

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