2019.08.18

スカンジナビア、白夜の旅

先週につづき、北欧を旅したときのエピソード。今回は、真夏のノルウェー。白夜の彼の地はどんな様子だったのか?

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第108回

白夜の旅、、ノールカップへ

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先週は「真冬のスカンジナビア」の記憶を辿ったが、今週は「真夏のスカンジナビア」の記憶を辿ることにする。

玄関口のオスロやストックホルム、あるいはヘルシンキへは何度も行った。軽く二ケタに乗るくらいは行っている。

が、ユーラシア大陸最北の地、ノルウェー北部の「ノールカップ」まで行ったのは1度だけ。真夏の7月だったと思う。

出発地はヘルシンキ。白夜のスカンジナビアをクルマで縦断する旅だった。距離はほぼ1500kmほどだったと思うが、3日で走った。

なにしろ、1日20時間くらいは真っ昼間状態。「夜になっても灯りは要らない」程度にしか暗くならない。その上、道路は行程のほとんどが空いている。なので、3日で1500kmはなんの苦にもならない。
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ヘルシンキは真夏でも15度前後。しかもカラッとしている。真夏の東京から着いた身には最高に快適だった。

夕食の後、ひとりで街に出た。22時近かったと思う。一応、ヘルシンキでの日の入りに近い時間だが、明るい。人出もかなりあった。ひとりで歩いていても寂しくない。

東京からの長旅で疲れているはずなのだが、穏やかで透明、そして闇のない夜の帳の中に身を置くことが心地よく、ついつい長い散策を続けてしまった。

ホテルの部屋に戻っても、照明を点けるのがもったいなくて、カーテンを開け放ったまましばらく「明るい夜」を眺めていた。

寝るときは念入りにカーテンを閉めた。都市の大きなホテルは遮光対策がしっかりしているので、人工の闇が旅人の睡眠をしっかりサポートしてくれる。

翌日、ホテルを出発したのは8時頃か。僕はTシャツに長袖のシャツを重ねたが、ちょうどよかった。

真夏のスカンジナビアの陽射しは明るく眩しい。高い空から一直線に地上に突き刺さる、、そんな感じで降り注ぐ。でも、とても爽やか。

エアコンを切り、窓を開けて走った。風が気持いい。軽やかに優しく撫でるようにキャビンを吹き抜けてゆく。陽射しも気持がいい。

大きな町でも小さな町でも、多くの笑顔と笑い声に出会った。子供の姿も多かった。一日中ほとんど人気のない真冬のスカンジナビアとは真逆の光景。

一日目は夕方早めにホテルに入り、軽い食事をして早々にベッドに入った。仮眠を取って白夜を走るためだ。

泊まったのは田舎町の外れにある小さなホテル。民宿に近いような。部屋も小さく、質素だったが、清潔だし、ベッドのリネンは文句なし。清潔さとベッドの心地よさは、北欧の旅でいつも感じることだ。

朝食?は22時。22時半頃にはホテルを出た。外は明るい。太陽は地平に沈んではいるのだが、「夕暮れ時」といった明るさのまま。戸外活動にもなんの不自由もない。

そして、北に進むほど日の出は早くなり、日の入りは遅くなる。ちなみに、ヘルシンキの真夏の日照時間は19時間ほどだが、北端地域の日照時間は24時間。陽は沈まないということになる。

「明るい夜中」のドライブは妙な感じだ。
走ったのが夏休みの時期と重なっていたこともあるのだろうが、夜中でも人が多い。

もちろん店は時計に合わせて開店し、閉店しているから、商店街に人がいるということはない。でも、公園とか、湖とか、河辺とか、、そんなところには多くの人が集まっている。
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散歩やジョギングしている人、公園で肩を寄せ合っている人、自転車に乗っている人、ボールゲームに興じている人、釣り糸をたれている人、、、その中には子供も多い。

外が明るく、しかも夏休みなら、戸外で時を過ごす人が多いのは当たり前なのだろう。でも、午前1時とか2時とかに、公園で多くの人がいろいろなことを楽しんでいる、河では釣りを楽しんでいる、、親子一緒に。

白夜の下で生活している人たちには、そんな行為も生活のリズムの中にしっかり溶け込んでいるのだろうが、、東京から来たばかりの人間には、どうもスンナリと腑には落ちなかった。

この白夜の旅で、1度だけ辛い夜を過ごした。なにかというと、ホテルのカーテンが遮光カーテンではなかったのだ。

町から離れた小さなホテルで、部屋も小さい。
でも、清潔だし、ベッドも心地よい。ここまではよかったのだが、寝る前にカーテンを閉めようとしたら、薄いペラペラのカーテン一枚しかない。「ウソだろう!」と思った。

遮光カーテンと2重になっているのがふつうだし、常識だと思うが、そのホテルは違った。

また、まずいことに、寝ようとしたとき、太陽は僕の部屋のほぼ正面に位置していた。薄いカーテン一枚ではどうにもならない。

さらにまずいことに、ベッドは窓と正対した位置に。だから、窓からの光りは一直線に僕の顔に射す。目を閉じても、瞼の中が赤く染まるほど明るい。

結局、アイマスクもなかったので、タオルで目を覆って寝た。でも、熟睡はできず、なんとなくうとうとしただけで目覚ましが鳴った。

目的地のノールカップとは、「ヨーロッパ最北端の地にある岬」。この断崖の上に立ち、北の海に描き出される壮大かつ神秘的な白夜ショーの中に身を置くのは、忘れられない体験になった。

「スカンジナビア、白夜の旅」は、誰にとっても素晴らしい旅になると思う。

行き方はいろいろあるが、時間の余裕があれば、僕のしたように、ヘルシンキからのクルマの旅をお勧めしたい。多くの自然、町や村、人々との出会いは、楽しさを、想い出を最大化してくれるはずだからだ。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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溝呂木 陽先生の個展が開催されます

本連載のイラストをずっと手がけて戴いている溝呂木 陽 先生の個展が、9月に開催されます。イタリア、パリの街角と、そこに佇むクルマをおなじみの繊細なタッチの水彩画で描いています。ぜひその画を直に見て戴ければと思います。
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日時:2019.9.7(土)〜9.28(土) 10:00〜18:00
火曜定休 入場無料
場所:FIAT CAFFE松濤
東京都渋谷区松濤2-3-13
03-68049992

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