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2019.03.10

英国の名車「MGB」をレストア!? 人気連載 岡崎宏司の「クルマ備忘録」第86回

自動車ジャーナリストのレジェンド岡崎宏司氏が綴る、人気エッセイ。今回は、クルマ好きなら一度は憧れるだろう、旧車のレストア。多くのクルマに出会ってきた著者が意外にもたった一度だけ! というレストア車両の思い出を語ります。

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

カンガルー クルマ イラスト

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第86回

MGB、レストアの顛末

僕はクルマ大好き人間だが、趣味人といえるような類には入らない。好きな1台と長く付き合うといったこともないし、クラシックモデルに魂を奪われることもない。

そんな僕が、1度だけ「レストア」なる趣味人的作業に取り組んだことがある。対象は初期型(1965か66年モデル)のMGB。1994年頃だったと思う。

ベース車探しは、いろいろとお世話になっていた業者に仲介をお願いした。かなりの台数が生産されたモデルなので簡単に見つかると思っていたのだが、そうはゆかなかった。

僕の出した条件は「ボディがしっかりしていること」だけだったが、これがいちばん難しかったようだ。

結局、国内ではなかなか見つからず、海外まで捜索範囲?を拡げることになってしまった。
その際、仲介者には「アメリカならわりに早く見つかると思いますが、左ハンドルでもいいでしょうか?」と聞かれた。

僕は躊躇することなく「いいですよ!」と答えた。英国車は昔から好きだったし、何台も所有した、、が、「だからオリジナルの右ハンドルがいい」といった感覚はなかった。

アメリカに範囲を拡げたとたん、候補車は数台でてきた。その中で、ボディと幌がいちばんしっかりしているものを、と、お願いした。

最終的にピックアップされたものの写真が送られてきたが、けっこう「きれいそう」に見えた。仲介者も「いろいろ取引がある相手なので大丈夫だと思います」とのこと。

ボディカラーがブリティッシュグリーンだったのも決め手の一つになった。気に入らないボディカラーなら塗り替えてもいいとは思っていたが、その必要はなさそうだった。

さらには、「アメリカはけっこうMG系のパーツもあるし、手慣れたレストア業者もいるので、内外装はアメリカでやるのも手ですよ」との仲介者の勧めも受けることにした。
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ホイールは見たことのないデザインのアルミだったので、スピンナー型センターロックのワイヤホイールに替えてもらい、ブリティッシュ オフホワイトのハードトップも注文した。
ここは、少し拘って、「純正」または「純正に準じたデザイン」のものを頼んだ。

オーダーしてから、確か4ヶ月ほどでMGBは日本に送られてきた。4ヶ月の待ちは長かったが、オーダーしたクルマをワクワクしながら待つのも悪いものではない。

「僕のMGB」との初対面は仲介者の店頭。ボディはピカピカに磨き上げられていた。コクピットフロアにもチリ一つなかった。そんな状態での初対面だったが、新車を受け取るときよりずっと緊張したし嬉しくもあった。

ダッシュボード周りもきれい。フロアカーペットは新品。シートは白いパイピングの入った黒のレザーで張り替えられていた。

「アメリカでのレストアはピカピカにしすぎるのが難点」といわれることがあるが、まさにそんな仕上がりだった。僕もピカピカすぎることに少し違和感をもちはしたものの、嬉しい気持ちのほうが強かった。

エンジンルームもトランクルームも万全の状態。ワイヤホイールも新品でタイヤも新品。
ほんとうにピカピカだった。

ステアリングホイールを、ナルディの3スポーク・クラシックウッドに交換しただけでコクピットは完成した。

ボディ/シャシーはしっかりしていたし、エンジン、トランスミッションにも問題はなかった。若い頃乗っていたMGBマークⅠの感覚と大きなずれはなかった。
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僕は、MGBを趣味の飾り物にするつもりはなかった。日常的にも乗るつもりだった。そして、日常のドライブを快適にするためにあれこれ手を入れることにした。

いちばんの問題はオーバーヒート対策。ふつうに走るには問題はないが、ひどい渋滞に遭うと耐えられないことがわかった。

そこで考えたのは冷却能力の引き上げ。親しくしていた日産のエンジニアに相談したら、カルソニックに話を持ちかけてくれ、カルソニックもすぐ引き受けてくれた。

カルソニックが考えたのは、あれこれちょこちょことやるのではなく、ラジェーターを新しく作ってしまうことだった。僕の元に帰ってきたMGBには、なんと、アルミ製の美しいラジェーターが装着されていたのだ。

研究用試作ということで作ったと聞いたが、これってよく考えればすごいことではないか。だって、ラジェーター分野では世界で屈指のメーカーが、僕のクルマのために最新技術を使ったラジェーターを作ってくれたのだから。

このラジェーターのお陰で、オーバーヒートに関してはなんの不安もなくなった。ひどい渋滞に遭遇しても、涼しい顔をしていられた。

その辺で止めておけばよかったのだが、僕は日常使いの快適さをさらに高めようとした。

さらに、、とは、夏を快適に過ごすためクーラーの装着を考えたのだ。そして、いろいろ調べたら、軽自動車のクーラーなら装着できることがわかった。夏場はハードトップを付け、クーラーを効かせて快適に走ろうということだ。
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ところが、それが大きな誤算だった。カルソニックのラジェーターは余裕でクーラーを受け容れたし、クーラーは予定通りコクピットに冷気を送り込んでくれた。そこまでは計算通りだった。

しかし、僕は大きな間違いを犯したことにすぐ気づいた。クーラーの装着が、スポーツカーとしてのMGBの走りのフィールを大きく損なわせてしまったのだ。

クーラーに食われるパワーははっきり体感できるほどのものだったし、エンジン回転は重苦しくなり、エンジンのマウンティングバランスも崩れた。そう、スポーツカーであるMGBがスポーツカーではなくなり、重苦しく、パワーのないトラックのようなフィールになってしまったということ。

クーラーを取り外せば問題は解決するはずだったが、僕はそうしなかった。躊躇せずにMGBを手放した。僕には「旧いクルマに乗る資格がない」と思い知ったからだ。

その後も、今も、好きな旧車を見ると「側に置きたい」と思うことはある。でも、その度に「お前にその資格はない」と言い聞かせている。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

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