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2026.05.17

バルバレスコにひと目惚れして20年。日本人が営むワインバーが、小さな村にありました

昨年の「The World’s 50 Best Restaurant」は、6月にイタリア・トリノで行われました。本アワードをきっかけに開催地に魅了された筆者が、トリノをはじめとするピエモンテ州の見どころを3回に分けてお伝えします。最終回は、バルバレスコで日本人オーナーが営むワインバーをご紹介!

BY :

文/大石智子(ライター)
CREDIT :

編集/森本 泉(Web LEON)

世界有数のワインの村に、日本人オーナーの店がある!?

イタリア・ピエモンテ州に位置するバルバレスコ

イタリア・ピエモンテ州に位置するバルバレスコ。人口680人ほどの小さな村ですが、ネッビオーロ種から造られるワインの名産地として、世界中のワイン好きを惹きつけています。


バルバレスコのワイナリー「MARCHESI DI GRESY(マルケージ ディ グレジー)」にいた筆者は、徒歩で村の中心地へ向かいました。目指したのは、「Koki Wine Bar」。そこは、日本からやってきた佐藤宏紀さんが営むワインバー。以前、『ヒトサラ』編集長の小西克博さんにお薦めされて気になっていたのでした。


20分ほどブドウ畑の間を歩いたあと、バルバレスコの中心地に到着。久しぶりに人が集まる建物を見ます。村という言葉の意味を改めて思い出すような場所です。長閑な村ですから、中心地も10分あれば通り過ぎてしまうほど、こぢんまりしています。そういう場所に、「Koki Wine Bar」は立地。ほんの20mほど先には、イタリアワイン界の絶対王者「GAJA」のワイナリーがあります。

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村役場が管理する建物を特別に借りて作った店舗。

▲ 村役場が管理する建物を特別に借りて作った店舗。

店に入ると、ランゲ地方を中心とするグラスワインの豊富さに驚きます。到着時は店主の佐藤さんはいなかったのですが、翌日、同じく佐藤さんが営む「MUSUBI VINO & COBACHI」でワインバーの話を聞きました。

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店主の佐藤宏紀さんは、日中はこの店にいる率が高いとか。10:30〜22:30(水曜休み)

▲ 店主の佐藤宏紀さんは、日中はこの店にいる率が高いとか。10:30〜22:30(水曜休み)

「グラスワインですと今は60種類くらい。そのうちバルバレスコが約15種類。うちはバルバレスコが主流ですが、バローロもピエモンテ以外のワインも置いています。グラスワインの金額は6ユーロから100ユーロ。グラスじゃなかなか飲めないものも多いと思います」

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グラスで飲めるお宝の一例は、「Gaja Gaia & Rey 2020」「Gaja Barbaresco 2021」「Produttori del Barbaresco Riserva 2017」など。ボトルは約1000種類、約6000本を揃えます。ワインショップも兼ねるので、日本に送るボトルを一気に買うにも最適です。佐藤さんに会えたら、日本語で解説を聞けるのも大きなメリット。ランゲ地方を旅するのに最高のスタート地点になるのです。

アルベザーニを拠点とする老舗Piero Bussoの「アルベザーニ ボルジェーゼ 2000」。

▲ アルベザーニを拠点とする老舗Piero Bussoの「アルベザーニ ボルジェーゼ 2000」。

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美味しいワインが揃うのはもちろん、同店のカルネクルーダ(タルタル)も衝撃でした。生肉好きで、欧州では必ずタルタルを食べる筆者。「こういう生肉料理を食べたかった!」という完全な理想系だったのです。他店のカルネクルーダは挽肉状もあるなか、こちらは手切り。いわば牛のブツ。それもピエモンテ特産のファッソーネ牛です。

カルネクルーダ(12ユーロ)。

▲ カルネクルーダ(12ユーロ)。

肉の輪郭や歯応えをしっかり感じられて、噛めばなんとも清らか。「塩胡椒とオリーブオイルを加え、ニンニクを刺したフォークで混ぜているだけ」とのこと。そのシンプルさと繊細さがありがたい。ファッソーネ牛のヘルシーな旨みに、ネッビオーロが相性抜群なのは言うまでもありません。綺麗な土地で綺麗な肉とワインを口にして、浄化された気分になります。

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バルバレスコの生産者組合による「バルバレスコ・リゼルヴァ・アジリ 2013」と、チーズとハムの盛り合わせ。

▲ バルバレスコの生産者組合による「バルバレスコ・リゼルヴァ・アジリ 2013」と、チーズとハムの盛り合わせ。

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バルバレスコにひと目惚れして、“いつか住みたい”と夢を抱く

小さなバルバレスコ村で佐藤さんは稀な外国人住民。移住は大胆な決断に思えますが、話を聞けば、実に自然で強い理由がありました。


原点は札幌での料理人時代に遡ります。1979年に札幌で生まれた佐藤さんは、調理師学校在学中にイタリアンでアルバイトを始め、卒業後は市内のイタリアンに就職。90年代後半、札幌にもイタリアンが増え始め、佐藤さんはその世界にどんどんのめり込んでいきます。


「北海道はやっぱり食材が美味しいので、魚介類のパスタとかも本当に美味しいし、修業をするにつれて、まあハマりました。同時にワインも知らなきゃいけないないと思い、独学で勉強していきました」

ランゲ・ロエロ地方とモンフェッラート地方のワイン産地5地区は、世界遺産にも登録されています。

▲ ランゲ・ロエロ地方とモンフェッラート地方のワイン産地5地区は、世界遺産にも登録されています。

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2000年に入ると、日本でイタリアンやイタリアワインはさらに盛り上がり、『ワイン王国』をはじめとするワイン雑誌は現地特集を組むようになりました。そんな頃、佐藤さんが夢中で読んだのがピエモンテ特集です。


「バローロやバルバレスコの生産者の写真が載っていて、“うわ〜っ!”と憧れるわけです。言ってしまえば、サッカーファンが雑誌で有名選手を見るのと同じ感覚。僕の場合は、ワインの生産者に“かっけえな”と痺れていました。それで、もう直接行ってみようという気持ちが生まれました」


雑誌から生まれた憧れが原動力となり、佐藤さんは2004年に初めてピエモンテへ渡ります。いざ現地へ行くと、誌面以上の世界が広がっていました。


「5日間だけ、ランゲ地方のバローロ、アルバ、バルバレスコをひとりで旅しました。日本でイタリア全州のワインをテイスティングしていたなかでも、ネッビオーロというバローロやバルバレスコで造られるブドウ品種にハマっていまして、実際に現地を訪れたらすべてに衝撃を受けました。コッリーナ(丘)に広がるブドウ畑も空気も本当に素敵で、この地にひと目惚れ。“いつか住みたい”という夢を抱き帰国しました。他の色んなブドウ品種も美味しいですけど、ネッビオーロは自分に合っているなというのが決定打になったんです」

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ワインに導かれて、ピエモンテのランゲ地方へ

「ネッビオーロに集中しようと思いました」(佐藤さん)。

▲ 「ネッビオーロに集中しようと思いました」(佐藤さん)。

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日本に戻ると、2年間をイタリアに渡る準備に費やします。資金調達やイタリア語学習、ワインの勉強やホールの経験、ソムリエ資格の取得を経て、2006年に渡伊。


ランゲ地方に来ると、レストランを転々としながら伝統料理と言葉を学び、2009年からはトレイゾ村の名店「La Ciau del Tornavento」で働き始めます。2年目からはソムリエを任され、計4年在籍。その後、帰国予定でしたが、同店のオーナーシェフから「一緒にワインバーをやろう」と誘いがあり残ることに。2013年に店長として店を始め、2017年春に独立して「Koki Wine Bar」が誕生します。


修業時代からランゲ地方のワイナリーを回り続け、さまざまな生産者と知り合った佐藤さん。まさに、憧れの人たちとの対面の日々が続きます。


「雑誌や本で見た生産者たちに会うと、心からうれしくなって、その気持ちが毎日のように続くんですよ。ランゲ地方にいるということは、いまこの瞬間に彼らと同じ空気を吸って、ここで成長していくということ。自分で店を開けたら、生産者たちが僕のところに来てくれるんです。こんな最高なことはないです」

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バルバレスコの小規模生産者カシーナと。

▲ バルバレスコの小規模生産者カシーナと。

数多くの生産者との出会いのなかで、佐藤さんにとっての“特別なワイナリー”を聞くと、「みんな好きなので、難しい質問ですね」と言いながらも、ある人の名前を答えてくれました。

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「リヴェッラ・セラフィーノというバルバレスコのワイナリーのテオバルド・リヴェッラ。彼のワインが特別ですね。ワインを開けた時にテオバルドの顔が思い浮かぶようなワインです。もう80歳近いのに、畑仕事からすべて自分で造る人。


例えばガヤとかブルーノ・ロッカとか家族経営でもちろん美味しいですけど、規模が大きいから畑仕事までしているわけではないんです。でも、テオバルドの所は小規模だから、気候に左右されながらも、剪定はどうしようかとか、1年のサイクルのあらゆる仕事を本人がやってしまう。どちらがよいかではなく、僕はそういう人のワインを飲むのが好きです。気持ちが味に出ている感じがして、人としても憧れます」

モンテステファノという急斜面に畑をもつRivella Serafino。

▲ モンテステファノという急斜面に畑をもつRivella Serafino。

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できれば4泊はしてほしいランゲ地方の旅

11世紀の城「カスティッロ・ディ・グリンツァーネ・カヴール」の窓から。

▲ 11世紀の城「カスティッロ・ディ・グリンツァーネ・カヴール」の窓から。

ランゲ地方に約20年住む佐藤さんに聞きたいのが、この地域の巡り方。まずは、最低でも何泊が理想でしょうか?

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「やっぱり、ゆっくりするなら4泊はしてほしいですね。ここはご飯を食べてワイナリーに行くことがメインになるエリアですが、どちらもレベルが高くて行く場所がたくさんあります。アルバやバルバレスコ、バローロ、モンフォルテ・ダルバ、ラ・モーラ、セッラルンガ・ダルバ、トレイゾ、この辺りを巡ることになるかと思います」


アルバ近郊にある11世紀の城「カスティッロ・ディ・グリンツァーネ・カヴール」など、観光名所も点在。ただ悩ましいのが、交通機関がほぼなく、自走するにもワイナリーを巡る旅であること。


「タクシーはかなり高いですし、あまりおすすめしないです(離れた所から呼ぶので15分ほどの移動でも50ユーロ超)。リピーターの方はだいたいレンタカー。それで一度はワイナリーが経営しているホテルに泊まるのが、とてもいいと思います。


MARCHESI DI GRESYもそうですが、ホテルから歩いて彼らのワイナリーを訪問できます。気持ちがいい場所だから、暑すぎなければ徒歩移動を挟むのは凄くいいですよ。アルバ拠点も便利ではあるけど、行ったり来たりになってしまう。一番の理想は、一週間ぐらいの滞在でレンタカーを借りて、郊外やワイナリーのホテルに泊まることですね」

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ゆったりとアグリツーリズムを楽しむのがランゲ的。生産者の情熱を直に感じて、ワインを味わい、ブドウ畑に囲まれる時間は、豊かな滞在そのものです。では、どこを目指せばよいのか? 今回、佐藤さんは泊まれるワイナリー3軒とレストラン3軒を教えてくれました。


【泊まれるワイナリー】

「Cascina delle Rose」

「Guido Rivella」

「Casa Boffa」

「Cascina delle Rose」のInstagramより。

▲ 「Cascina delle Rose」のInstagramより。

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【おすすめのレストラン】

「Reppublica di Perno」

「La Ciau del Tornavento」

「Osteria Tre case」

「Osteria Tre case」のInstagramより。

▲ 「Osteria Tre case」のInstagramより。

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貴重なおすすめリストに加え、こんな核心も口にしていました。


「旅をして綺麗な写真を撮るのもいいし、僕もしますよ。でも、それをしなくても、旅では人生を通して心に残ることがあると思います。ランゲ地方では、ワインとその人とのつながりが残ると思います。ワインってやっぱり人が作るものなので」

佐藤さんの場合は、心に残った体験が新たな夢を生み、人生を変えることに。いまもなお、ランゲ地方を「素晴らしいところですよ」と話します。そんな場所の景色や空気を体感することは、自分の蓄えになるはず。旅がもたらす豊かさを、ワインと共に感じてみては?

大石智子(ライター)
出版社勤務後フリーランス・ライターとなる。男性誌を中心にホテル、飲食、インタビュー記事を執筆。ホテル&レストランリサーチのため、毎月海外に渡航。スペインと南米に行く頻度が高い。柴犬好き。Instagram(@tomoko.oishi)でも海外情報を発信中。

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