2026.05.09
沖縄県・宮古島
あの一杯に出会うために「ローズウッド宮古島」へ旅をしよう
宮古島の自然や祭り、伝統工芸をカクテルに落とし込む「CHOMA Bar」。名門ホテルバーで腕を磨いた井崎宇太郎氏が、“飲める文化体験”として表現する一杯とは。「ローズウッド宮古島」で出会う、島の記憶を味わう夜へ。
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文(カクテル解説)/児島麻理子
一杯のカクテルを飲むために沖縄・宮古島へ⁉
今やすっかり一般的になったデスティネーション・レストランという言葉。コレ、もともとは『The Japan Times』*¹が2021年に‟日本の地方の隠れた名店を発掘する”として始めたプロジェクト名でもありました。最近ではそこを訪れ、食事をするために日本や世界を旅することが人気ですが、国内の代表的なデスティネーション・レストランとしては富山の「L'évo(レヴォ)」*²や、和歌山「ヴィラ・アイーダ」*³)、鳥取「かに𠮷」*⁴などなど……フーディーたちのSNSでは、「わざわざX時間かけて出かけた」、「やっと予約がとれた!」、「今年のコース(価格)が20万円超えた!」などの熱い投稿が日々飛び交っています。
*1 日本人による初の英字新聞として1897年に創刊された英字新聞。
*2 谷口英司シェフによるイノベーティブ・フレンチ。富山県南砺市利賀村の山奥にあり、3棟のコテージとサウナも付設。
*3 小林寛司シェフによる、自家菜園の有機野菜と地場の食材を使用したイタリアン。2025年よりメニューを完全に野菜ベースへと移行。
*4 鳥取で、その日に競り落とされた極上の松葉ガニが食べられる専門店。シーズン中の特別コースは非常に高価なことでも有名。

▲ カクテルやお酒のおいしさはもちろん、絶景やロケーション、ホスピタリティなどそこでしか味わえない唯一無二の体験を求め、旅したい。
ひと皿の料理を味わうために千里の道をいとわない美食家たちの情熱には感心しますが、時代はデスティネーション・レストランから、「デスティネーション・バー」へと、進化しています。 つまり、「この一杯」を飲むために出かけようと思えるバーが遠方にも出来ているのです。
【ローズウッド宮古島】
その舞台となるのは、沖縄・宮古島。沖縄本島(那覇)のほか、東京(羽田・成田)、大阪、名古屋、福岡からの直行便が飛んでいます。東京からおよそ3時間……遠いと思いますか? でもね、バーだけでなく宿泊やスパなどトータルなエクスペリエンスとして考えれば、ぜんぜん遠くない。いえ、むしろその“遠さ”が魅力のひとつとなっています。

▲ 宮古島の空港からクルマでおよそ20分。大浦湾の岬に位置し、ふたつのプライベートビーチを擁する「ローズウッド宮古島」
「ローズウッド宮古島」は、世界25カ国で42以上のプロパティを展開するウルトラ・ラグジュアリー・ライフスタイル・ホテルブランド「ローズウッド」が日本初上陸したホテル。2025年に開業したその概要についてはこの記事がくわしいのでそちらをご覧いただくとして。

▲ 宮古島特産である宮古上布の原料となる麻の一種から名付けられた「苧麻バー」。
今回の主役となるのはカクテルですので、まずはバーのご紹介から。「ローズウッド宮古島」には3軒のバー(メインバー「CHOMA Bar」、プールサイドバー「YUKUU」、カジュアルシーフード「MAAS」)がありますが、今回の“デスティネーション”は「苧麻(ちょま)バー」です。
宮古島の風土、文化、歴史を1杯のカクテルへ

▲ かつて「パーク ハイアット 東京」(東京・新宿)のバー部門で約20年活躍した井崎宇太郎さん。
「苧麻バー」ほか「ローズウッド宮古島」のバーを統括しているのは井崎宇太郎さん。「宮古島の文化を飲む」という明確なテーマを掲げ、島の自然だけではなく、祭りや織物、民謡といった土地の風土や物語を、1杯のカクテルへと昇華させています。
井崎さんがつくったカクテルで、最もユニークだと感じたのはユネスコ無形文化遺産にも登録されている宮古の奇祭をモチーフにした「パーントゥ」。泥を塗ることで厄払いをする祭りになぞらえ、グラスの縁には“泥”に見立てたチョコレートを塗り、地元の購買店でのみ販売されている古酒を使用しています。単に味や香りを楽しむだけでなく、器や所作まで含めて、まるごと文化体験として設計されているのが面白い。
▲ 地元「金城陶芸」に特注したマグカップに泥にみたてたチョコレートを塗って供するカクテル「パーントゥ」。
▲ 宮古上布が1日に織られるサイズ(30×40センチ)にリスペクトを表し、味わいを重ね、織りつむいだカクテル「30×40」。
▲ 宮古島に伝わる、蛍を呼ぶ童謡から名付けられた「やームぼう」。青く沈む夜のビーチで幻想的に光る1杯。
▲ 春まだ浅き3月の取材でしたがビーチにグラスを運んでカクテルタイム。海風が最高に心地よい!

▲ 地元「金城陶芸」に特注したマグカップに泥にみたてたチョコレートを塗って供するカクテル「パーントゥ」。

▲ 宮古上布が1日に織られるサイズ(30×40センチ)にリスペクトを表し、味わいを重ね、織りつむいだカクテル「30×40」。

▲ 宮古島に伝わる、蛍を呼ぶ童謡から名付けられた「やームぼう」。青く沈む夜のビーチで幻想的に光る1杯。

▲ 春まだ浅き3月の取材でしたがビーチにグラスを運んでカクテルタイム。海風が最高に心地よい!
千葉出身の井崎さんはこれらカクテルを開発するにあたり、宮古島特有の飲酒文化「オトーリ」に参加することで地元の人々と親交を深め、宮古の風土や歴史への理解を深めたのだとか。「オトーリ」とは、宮古島で古くから伝わる泡盛の回し飲みだそうですが、車座になってエンドレスに盃が回ってくるというおそろしい儀式(笑)。二日酔い覚悟で参加してみたい。
スターを招いて一期一会のバーエクスペリエンス
井崎さんが情熱的に取り組んでいるのはユニークなカクテルづくりのみならず、宮古島の素晴らしさを島外へと伝えていくこと。その取り組みとして月に一度、島外からトップバーテンダーを招くゲストシフトをスタートさせています。そして今年3月、特別ゲストとして招致したのは、我らが後閑信吾さん。実は井崎さんと後閑さんは特別なご縁があったそうで……その辺りをバージャーナリストの児島麻理子さんに聞きました。
「2012年、後閑信吾さんは当時29歳の若さで『バカルディレガシー カクテルコンペティション』で世界優勝を果たしました。その後、凱旋帰国をした際に最初にゲストシフトをしたのが、井崎さんが当時勤めていた『パーク ハイアット 東京』内の『ニューヨーク バー』。つまり、今回、井崎氏がディレクションを手掛けた『CHOMA Bar』に後閑さんが駆け付けたのは旧縁を温めるためでもありました。この日は「ローズウッド宮古島」の開業1周年でもあり、その記念すべき日に多忙の合間を縫って駆けつけたことに、バーコミュニティのブラザーシップを感じます。 時代が巡っても、今もともに影響しあえる存在であり続けるのは素敵な関係性ですよね」

▲ ゲストルームを始め、レストランやバーもコテージになっている「ローズウッド宮古島」。敷地内をブラブラと散策するだけで小さな旅をしている気分に。

▲ 「苧麻バー」における後閑信吾さんのゲストシフトで供された「STRAWBERRY HOTPOT」(右)と、「WAX ON, WAX OFF」(左)。撮影/児島麻理子
この日の「苧麻バー」にはホテル滞在のゲストのみならず、島内のお酒好きも多く訪れ、大盛況であったとか。ついでにこの日供された後閑さんによる5種のカクテルも児島さんに解説してもらいましょう。
TOMATO TREE
「The SG Club」のオープニングから提供されているシグネチャーカクテルのひとつ。グループ各店でも展開されており、ニューヨークの「Sip & Gazzle」でも1日30杯以上はでるというお店を代表する1杯。ウイルキンソンジンをベースに、クリアに仕立てたトマト、ギリシャの樹液由来のリキュール「マスティカ」、さらにエルダーフラワーのニュアンスを重ねた、低アルコールでリフレッシングな味わい。「トマトの木」という名の通り、フレッシュな枝葉や花を思わせる青さと香りが広がる、独創的なジンカクテル。
BANSHLOO & TONIC
“バンシルー”とは沖縄の言葉でグァバのこと。土地に根付いた呼び名があることからも分かるように、グァバはこの土地にとって身近な存在。高級なマンゴーが外向けの贅沢品なら、グァバは日常に寄り添うもの。庭で実れば近所に配るようなコミュニケーションツールとしての役割があります。そのグァバも後閑さんの手にかかれば洗練されたカクテルに。クリアに仕立てたグァバに炭酸を加え、マリーゴールドの風味を加えた華やかな1杯。
STRAWBERRY HOTPOT
“苺火鍋”と名付けられたカクテルらしからぬ一杯は、まさに火鍋の風味をまとった最近の後閑さんのスペシャリティ。辛味とセイボリーさ、そしてスパイシーさがある複雑な風味は、炭焼きシュマルツ(備長炭スモークの鶏の精製食用油)やゴマ油、唐辛子などによるもの。そこに余市ウイスキーと苺が加わると、まさに“苺の火鍋”という雰囲気に。いわゆる苺のカクテルとは一線を画す、旨味と爽やかさが共存する新感覚の味わい。
WAX ON, WAX OFF
この言葉を聞いてピンとくる方は、映画通のはず。1985年に公開された映画「ベスト・キッド」で師匠のミヤギさんが空手を教える際に放ったあのセリフをカクテル名に冠したもの。沖縄に多い「ミヤギ」という名前にちなみ、SGグループの泡盛「AWAMORI DE LEQUIO」をベースに、トンカ豆、柑橘のメローゴールド、さらにウイスキーの「宮城峡」に蜜蝋を漬け込むことで作り上げた、甘やかで奥行きのあるカクテル。グラスの淵にはWAXを連想させるチョコレートでデコレーション。
COFFEY VESPER
締めに選びたいのは、SGグループの各店舗でいろいろなバリエーションで出している「コーヒーヴェスパー」。今回は、ニッカの「カフェモルト」をベースに、オーガニックのココナッツオイル、パナマ産のゲイシャ種のコーヒーを使用。シェリーの酸味で全体を引き締めた一杯。貝殻に添えられた黒糖ピーナッツが南国らしい余韻を演出。ウイスキーカクテルでありながら軽やかで、酸味と甘味が絶妙なバランスで調和した仕上がりになっています。
う~ん、どれもおいしそう! 一部のカクテルは後閑信吾さんが手がける「El Lequio(エルレキオ)」(沖縄・那覇)を始め、渋谷やNYでも飲めるそうですが、それでも「苧麻バー」で海風に吹かれ、夜空を眺めながら飲むカクテルは格別だったことでしょう。この一杯を味わいに宮古島へ……最高に贅沢ではありますが、抗いがたいほど魅力的です。
◆ ローズウッド宮古島
休日はこちらへの美食旅、いかがでしょ?

















