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2024.03.10

1機37億円のシミュレーターから年間3000本以上のワインの試飲まで、シンガポール航空が業界トップを走る納得の理由とは?

エアラインの格付けで何度も世界トップに輝くシンガポール航空。高評価の理由のひとつはワインのクオリティが高いから。その背景も含め、シンガポールにて地上での準備を取材。小国なのに業界最右翼でいる理由を探ってきました。

CREDIT :

文・写真/大石智子

往路からワインを堪能あれ!

ズバリ、空の旅で飲む酒は旨い。特に海外への往路便での一杯は染みます。お酒の一番のつまみは旅への高揚なのでしょうか? ワインが上質なエアラインなら、なおさら染みます。そんな流れでご紹介したいのがシンガポール航空。なんと毎年3000本以上のワインや泡酒の試飲を経て銘柄を決めているというから、そりゃ美味しいはずです。

個人的にはモルディブやバリへのトランジットとして立ち寄る国でもあるシンガポール。というのも、基本はスターアライアンスに乗るため、そちらに加盟するシンガポール航空を優先したいから。たとえ乗り換えが10時間以上だとしても、シンガポールは空港から市街まで約25分なので、降りて遊ぶにも1泊休むにも気軽です。
そんな身近なエアラインから、ワインの発表会のお誘いを受け昨年10月に渡航。航空会社にして海外からメディアを呼ぶ主な理由がワインとは、どれほど力を入れていることか。約4年ぶりのシンガポール航空ビジネスクラスを楽しみにボーイング787-10に搭乗しました。
静粛性の高いボーイング787-10。
▲ 静粛性の高いボーイング787-10。
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シート配列は1-2-1。隣の女性と近く見えますが、中央の仕切りを出すとまったく気配を感じません。
▲ シート配列は1-2-1。隣の女性と近く見えますが、中央の仕切りを出すとまったく気配を感じません。
ウェルカムドリンクにシャンパンをいただき、次は前菜のチキンサテに合わせて赤ワインをお願いしました。今回の主旨は、シンガポール航空のワイン選びを見学すること。予習を口実にワインを飲む気に満ち溢れます。
赤はトスカーナ、南オーストラリア、スペイン・バジャドリードから3種を用意。
▲ 赤はトスカーナ、南オーストラリア、スペイン・バジャドリードから3種を用意。
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チキンサテに合わせて少しスパイシーさもある南オーストラリアのシラーを選択。
▲ チキンサテに合わせて少しスパイシーさもある南オーストラリアのシラーを選択。
プレミアムエコノミー以上に搭乗の際は、ぜひ特別メニューの「ブック・ザ・クック」の事前予約を。成田発のビジネスクラス以上の場合、チキンライスなどシンガポールらしい料理もあり、胃袋が現地へ先乗りできてしまう。なお、すき焼きや鯛茶漬けといった和食も揃えます。
「ブック・ザ・クック」からグルメバーガーを選択。具材は別々に搭載され、機内で再加熱してからクルーが盛り付けるとか。
▲ 「ブック・ザ・クック」からグルメバーガーを選択。具材は別々に搭載され、機内で再加熱してからクルーが盛り付けるとか。
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シンガポールスリング(左)もお試しあれ。
▲ シンガポールスリング(左)もお試しあれ。

抜かりない訓練が高評価を生む

シンガポール航空といえば、航空関連の格付け会社であるSKYTRAX社が発表した2023年度の“The World’s Best Airlines”にて堂々1位に選ばれたエアライン。1位から5位のラインナップを見れば、いかにハイレベルな中でトップに輝いたか想像できるかと思います。

1位 シンガポール航空
2位 カタール航空
3位 ANA
4位 エミレーツ航空
5位 JAL
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1位となるのは昨年で5回目。琵琶湖と同じくらいの面積の小国の航空会社であることを考えると、改めて凄い! では、なぜ高いレベルを維持できるのか? 搭乗までの背景にある見えない仕事を知ると、その理由が分かってきました。

まず訪れたのはスタッフのトレーニングセンター。訓練生たちが行き交うアトリウムには、1947年から現在に至るまでのシンガポール航空の軌跡を展示し、シンガポール建国の父、リー・クアンユー(1923-2015)の言葉も大きく記されていました。

「常識で考えたら私たちは航空会社をもつべきではない。国内便を運航するにはあまりにも小さい国で、(マレーシア航空との)分離後には国際便に乗り出した。あらゆる困難があっても、シンガポール航空は上手くやってきた。どのステージでも成功できたのは、能力の限界に挑んできたからだろう。私は日記をつけていない。でも、もし書くとしたら、シンガポール航空についてかなりの章を書けるだろう」
2階のホールに常設する展示。
▲ 2階のホールに常設する展示。
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いまも国民から尊敬されるリーダーの言葉がスタッフの自覚を強めるでしょうし、整ったトレーニング環境に入れば自然と身が引き締まりそうです。

施設を歩き始めると、未来のキャビンクルーたちに出会いました。身を包むのは1968年から続くバティック染めの制服“サロンケバヤ”。ひとりひとりの寸法を測って作る制服は、その立ち姿をしなやかで美しいものとします。
メイク講習も行われます。
▲ メイク講習も行われます。
1947年当初の制服。
▲ 1947年当初の制服。
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キャビンクルーたちがトレーニングを積むのは、ボーイング777からエアバスA380までのキャビンのモックアップ。ここで実際の機内と同じように、乗客に扮したチームメイトに食事を提供し、さまざまなリクエストに対応する訓練を受けます。
配列もすべて実物と同じ。
▲ 配列もすべて実物と同じ。
代わってパイロットたちが通うのは、飛行シミュレーター。カナダ製の1機37億円以上するシミュレーターを4機揃え、コックピットと同じ環境で操縦します。雨風も雷も乱気流も再現し、振動や音もリアルに感じるマシン。育成だけではなく、コロナ禍でフライトに出られなかったパイロットたちが、感覚が鈍らないようにここへ通ったそうです。他にも緊急着陸を再現する設備もあり、空の安全の裏には抜かりない準備や投資があると垣間見たのでした。
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かなり激しく揺れる飛行シュミレーター。
▲ かなり激しく揺れる飛行シュミレーター。
しっかり鍛える一方で、併設するフードコートは和やかでメニューも充実。フレッシュフルーツのカウンターもあるのが南国らしく、意外やお出汁の自販機などもあり、ヘルシーな職場環境がうかがえます。
定食は1食4シンガポールドル。
▲ 定食は1食4シンガポールドル。
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フルーツのカウンターのある会社に通いたい。
▲ フルーツのカウンターのある会社に通いたい。
そして、シンガポール航空の会議室の名前は、「ラクサ」「サテ」「チキンライス」「ガドガド」など。「は〜い!では15時にチキンライスで会議ね」と言ったやりとりを想像するとかわいいですね。
「ガドガド」とはピーナッツソースをかけた温野菜のサラダ。
▲ 「ガドガド」とはピーナッツソースをかけた温野菜のサラダ。
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最強のワイン・コンサルタントを揃えるエアライン

シンガポールというと、ウイスキーやワインが高いイメージをもっている人もいるでしょう。お酒にかかる税額が高いのでそうなるわけで、でも、現地では楽しくなったら好きなものを飲みたいですよね。かくいう私も今回の取材の1カ月前、シンガポールのレストランで調子づいて値段を見ずにクリュッグを2杯飲み、お会計でレシートを二度見(沈)。そう考えると、シンガポール航空が毎年3000本以上のワインを地上で試飲しているのは、本当に大きな投資です。

その結果、美味しいワインをフリーでいただけるので、上空でしっかり味わいましょう。以下3名のワイン・コンサルタントは精鋭揃いで、確かな実績をもちます。

オズ・クラーク 英国出身。フランス政府より「農事功労賞オフィシエ勲章」を授与されている。
マイケル・ヒル・スミス オーストラリア出身。同国初の「マスター・オブ・ワイン」の称号を獲得。
ジェニー・チョー・リー 香港出身。アジア人で初めて「マスター・オブ・ワイン」の称号を獲得。
右から、オズ・クラーク、ジェニー・チョー・リー、マイケル・ヒル・スミス。
▲ 右から、オズ・クラーク、ジェニー・チョー・リー、マイケル・ヒル・スミス。写真/シンガポール航空
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シンガポール航空は、全キャビンで年間約210万本ものワインとシャンパンを提供。年に2回は「ワイン・ウィーク」にて、ワイン・コンサルタントによるブラインドテイスティングを行い、見学した日も約100種の赤ワインが揃っていました。

ワイン・コンサルタントは毎年さまざまな地域のワイナリーを訪れ、小規模生産者とも関係を構築。これまで機内で調達できなかったワインも採用し、未知のワインと出会う楽しさを上空で教えてくれます。ソムリエバッジをつけたクルー“エア・ソムリエ”のいるフライトも多いので、出会ったらお気軽に問い合わせを。
クラシックから新たな小規模生産者までをテイスティングする3人。
▲ クラシックから新たな小規模生産者までをテイスティングする3人。
ただ美味しいワインを選ぶだけではなく、航路や搭乗クラスも鑑みて選ばなければいけません。例えば日本とシンガポール間であればニューワールドも含む幅広いラインナップとなるけれど、フランスとシンガポール間では、他国が出づらいのでフランス産が中心となる。

また、地上と機内では味が変わるとよく言われますが、テイスティングは機内と同じ環境でも行われます。「気圧の低下や地上に比べて酸素が少ないことも影響しますが、機内の乾燥が感じ方を左右します。喉や鼻の中が乾燥していると、ワインの香りを通常より感じづらい。香りが消えるのが早いとも考えています」というのが、ワイン・コンサルタントの見解でした。
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英国の雑誌『ビジネス・トラベラー』が定める「セラーズ・イン・ザ・スカイ アワード」の常連でもあるシンガポール航空。
▲ 英国の雑誌『ビジネス・トラベラー』が定める「セラーズ・イン・ザ・スカイ アワード」の常連でもあるシンガポール航空。
「ワイン・ウィーク」では、各国メディアが6種のワインを飲んで搭乗クラスを当てるテイスティングに挑戦。一番目の白ワインが気に入り、「ビジネスクラス!」と威勢よく手を挙げたところ、エコノミークラスでした。外しましたが、それほどエコノミークラスのワインも確かなクオリティということですね! ちなみにドイツ西部の白ワインの名産地、モーゼルのリースリング「Saar Riesling Kabinett」で、青りんごのような爽やかさに惹かれました。

また、誰もが「このワインはファーストクラス!」と一致したのは、ブルゴーニュの銘醸「LOUIS JADOT」による2019年のピノ・ノワール。ファーストクラス以上になると短いステムのついたラリックのグラスで提供されるようになります。
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空の上のレストランもこだわり満載

プレミアムエコノミークラス以上の機内食では、世界5カ国の有名シェフ監修のメニューを提供。日本からは京都「菊乃井」三代目の村田吉弘さんが各クラスに合わせた料理を考案しています。海外で濃い目の料理を食べた帰路、お出汁を使った和食を食べるのもまた空の旅の幸せ。

プレミアムエコノミークラスは焼鳥丼や豚丼(路線や時期によりメニュー変更あり)、ビジネスクラスは桜がテーマの懐石、ファーストクラスは京懐石を用意します。
ビジネスクラス用の「花恋暦」。「ブック・ザ・クック」から事前予約を。
▲ ビジネスクラス用の「花恋暦」。「ブック・ザ・クック」から事前予約を。写真/シンガポール航空
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ファーストクラス以上ではキャビア1瓶の提供があり、シャンパンは「クリュッグ グランド キュヴェ ブリュット」や「テタンジェ・コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン」。
▲ ファーストクラス以上ではキャビア1瓶の提供があり、シャンパンは「クリュッグ グランド キュヴェ ブリュット」や「テタンジェ・コント・ド・シャンパーニュ ブラン・ド・ブラン」。
機内食はチャンギ国際空港からクルマで5分ほど離れたキッチンで調理。毎日5万2000食が作られていると聞き、機械作業メインと思いきや、見学すると手作業が多かったのが驚き。11のキッチンに860人ものスタッフが働き、火入れや盛り付けは特に手作業で行われていました。

機内で提供される食事はすべて調理から24時間以内に搬入されたもので、5℃に保ったものを再加熱して提供。作る人、運ぶ人、提供する人etc.さまざまな人の手を渡って届く温かな料理を上空で食べられるって、それだけでありがたいですよね。
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強い火力で仕上げられる中華の厨房。
▲ 強い火力で仕上げられる中華の厨房。
ビジネス以上でオーダーできるチキンライスは各路線定番の人気メニュー。
▲ ビジネス以上でオーダーできるチキンライスは各路線定番の人気メニュー。
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最新ラウンジで出国間際にワインデートを!

デート旅なら優雅に出国するに越したことはない。チャンギ国際空港第3ターミナルにある「シルバークリスラウンジ」と「クリスフライヤーゴールドラウンジ」なら安心です。2022年、約56億円をかけリニューアルし、デザインを刷新して面積も計6100㎡へ拡張。顧客の声をリサーチしたうえでのリニューアルで、さらにブランドの価値を上げる空間となっています。

特に「シルバークリスラウンジ」内のファーストクラス搭乗者限定エリア「ザ・プライベートルーム」の優雅さは世界最高峰。バーにはシンガポール航空の制服に描かれている花が咲き、それがラリック社製のクリスタルだから華やかさもひとしおです。
カウンターの柱にラリックが咲きます。
▲ カウンターの柱にラリックが咲きます。写真/シンガポール航空
フードも充実で熱々のラクサを食べられますから、帰り際に焦って街でラクサをかきこむ必要もありません。個人的にはラクサを食べるとワインを飲みたくなるので、“つまみラクサ”が叶うこのラウンジは貴重な場所。他にもバクテーやチキンサテも揃い、ローカルフードとワインのペアリングがシンガポール最後の思い出となります。
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もちろん、搭乗後にも上質なワインの旅は続きます。深夜便であれば寝酒として最後の乾杯をならし夢の世界へ。

以上で現地リポートを終了。国際便のみの航空会社こその、グローバルな評価を意識した緻密なこだわりを目の当たりにしました。安全かつ優雅な空の旅を体験できるのは、抜かりない地上での仕事があってこそ。

シンガポール建国の父の言葉を裏切らず、誇りとも感じられるハイレベルなサービスは、今後も貫かれるでしょう。やっぱりシンガポール航空はエスコートするのに手堅いブランド。GWの南国方面のフライトとしても検討あれ。
「ブック・ザ・クック」は往路・復路で異なり、帰りは海老麺を選択。
▲ 「ブック・ザ・クック」は往路・復路で異なり、帰りは海老麺を選択。
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■ シンガポール航空

大石智子(おおいし・ともこ)

● 大石智子(おおいし・ともこ)

出版社勤務後フリーランス・ライターとなる。男性誌を中心にホテル、飲食、インタビュー記事を執筆。ホテル&レストランリサーチのため、毎月海外に渡航。スペインと南米に行く頻度が高い。柴犬好き。Instagram(@tomoko.oishi)でも海外情報を発信中。

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