• TOP
  • PEOPLE
  • 「マルベル堂」が見つめてきたスター2500人の笑顔

2021.10.19

「マルベル堂」が見つめてきたスター2500人の笑顔

コロナ禍によって人と人とのリアルな繋がりが大きく毀損され、コミュニケーションは大きな危機を迎えています。でも、こんな時だからこそ、我々オトナは笑顔を忘れてはならない。そんな思いを込めて、笑顔について考える特集。今回は大正時代から昭和、平成にかけて多くのスターの笑顔を見つめてきた「マルベル堂」をご紹介します。

CREDIT :

文/秋山 都 写真/吉澤健太

プロマイドや生写真という言葉をご存知でしょうか? 「知ってる、知ってる、下敷きにはさんでた」というあなた、昭和生まれでしょう? インターネットが普及していなかった当時、雑誌に付録でついてきたスターのポスターを部屋に貼ったり、生写真を買って手帳にはさんだり……憧れの彼(彼女)を身近に感じたくて涙ぐましい努力をしてたっけ。レコードもお小遣いでは買えないから、貸しレコード屋で借りたり、テレビの前で歌番組をエアチェックしたり。そんなときに限って親が「宿題やったの?」「ごはん早く食べちゃいなさい」と声をかけてきて、「録音してたのに~っ(怒)」と悔しい思いをしたという方、きっとあなたも昭和生まれに違いありませんね。

今のようにネットですべてが手に入るような時代ではなかったあのころ、スターは遠い存在でした。物理的に遠いのはもちろん、私生活についても情報がとぼしく、アイドルはトイレに行かないと半ば本気で信じられていた時代です。
▲ 浅草の商店街に佇む「マルベル堂」。中には昭和のスターのプロマイドがずらり。
そんな昭和の雰囲気をいまも濃厚に漂わせているのがこの「マルベル堂」。店内に入ってみると、トシちゃん、マッチ、聖子はもちろん、秀樹やひろみ、五郎、そして裕次郎や健さんなど、さまざまな世代のスターがそれぞれ流し目や笑顔を投げかけてくれています。そう、ここはプロマイドの専門店。いままでに実に2500人ものスターの笑顔を捉え、プロマイドとして販売してきました。そこにはさまざまな物語が秘められていることでしょう。6代目のカメラマン兼店長を務める武田仁さんにお話を伺いました。

プロマイド or ブロマイド? どっちが正しい?

「マルベル堂は大正10年に浅草で創業し、昨年100周年を迎えました。創業者である三ツ澤実四郎は無類の映画好きで、外国映画のスチールやスターのポートレートをたくさんコレクションしていたんだそうです。そのころのスターといえばもちろん映画スターのことですが、 そのスターの写真をプロマイドと名付け、日本で最初に販売した会社のひとつがマルベル堂だったというわけです。当時の高級印画紙『ブロマイド』を使ったスターの写真を売る業者がほかにも何社かあって、業者間で決めた呼び名が『プロマイド』だったのです。だから、正解は『プロマイド』。今でも残っているプロマイド店はこのマルベル堂だけなんですよ。
▲ あなたは誰のファンでした?
PAGE 2

「レンズの向こうにアナタのファンがいるんです」

「『スターとファンの間に立って、若人の夢を満たしてあげるのだ』——これは三ツ澤実四郎の言葉です。プロマイドは言うなれば夢。時代とともに物価や材料費が上昇しても、1枚のプロマイドはおよそコーヒー1杯の価格をキープしてきました。学生でも買える価格でプロマイドを販売できるよう、生産スタイルを合理化したり、多角経営に乗り出した諸先輩方の苦労があって、現在のマルベル堂があります。

いままで撮影したスターの数はおよそ2500人余り。アイドル全盛期にはお互いにとても忙しくて、学校帰りに制服で寄ってもらい、そのまま撮影したこともありましたし、マルベル堂のカメラマンが撮影所に常駐していたこともあります。ヘアメイクなんていないし、そのまま撮影していたんですよ。え、画像加工? ない、ない。一切していません。当時から、みなさん肌や歯がキレイでした。さすがですよね。

なかには疲れて不機嫌なスターもいたかもしれません。そんなとき、私の師匠であった中村孝は『このレンズの向こうにアナタのファンがいるんだよ』と声をかけていました。するとみんな、ふっとうれしそうな笑顔になるから、すかさずシャッターを切る。そんな現場をいくつも見てきました」
▲ 懐かしのたのきんトリオ。

プロマイド第1号は誰?

▲ マルベル堂最古のプロマイドは栗島すみ子(1902₋1987)。
「2500名以上のスターのなかで、一番最初に撮影した方は誰でしょう? これ、わからないだろうなぁ。栗島すみ子さんは日本映画草創期の大スターでした。小津安二郎監督や、成瀬巳喜男監督の作品に多く出演しており、『流れる』(成瀬巳喜男・1956年)ではちょっとハスキーな声で下町の料亭の女将役を好演しています」
PAGE 3

昭和の大スターで、いちばん多くプロマイドを撮ったのは?

「これもわからないかなぁ。実はね、美空ひばりさん(1937-1989)なんです。彼女だけで1486種のプロマイドを撮影しています。晩年は歌手としての印象が強いでしょうが、実は約150本もの映画に出演している大スターでもあったんですね」
▲ 左から石原裕次郎、高倉健、菅原文太のお三方。
「そしてもちろんタフガイの愛称で活躍した日活のスターである石原裕次郎さん、2014年に惜しまれながら亡くなった高倉健さん、同じく菅原文太さんなどのプロマイドもたくさんあります。え、あんまり笑ってない? そうね。当時のプロマイドは役柄の扮装で撮影したものも多く、ちょっとクールにキメているのが多いかな。なかでも菅原文太さんはあまり笑わないので有名な方でした」

手を添えるのにも、きちんと理由があるんです。

「プロマイドには手を顔の周りに配しているポーズが多くみられます。これはポーズが決まりやすいのもあるのだけど、『ファンはスターの指先まで見たがるものだ』という代々師匠の教えによるものなんです。指は長いのか、爪はどんな形をしているのか。そんな些細なことまで、この小さな一枚の写真で伝えたいという僕らの熱意の現れなんですね」
▲ 左から、竹本孝之、西城秀樹(1955-2018)、太川陽介。
「昭和50年代あたりから、アイドルブームが到来します。髪型やファッションなんかもレトロで懐かしいでしょう。プロマイドは当時の世相を反映する貴重な社会的資料としての側面もあると思います。昭和中頃くらいまでのスターがすまし顔のポートレートを残しているのに比べると、アイドルは白い歯を見せて微笑んでいるものが多いですね。身近なお兄さんという感じに演出しているのかもしれませんね」

自分でもプロマイドを撮影してみたい! と思ったら

実は現在、この「マルベル堂」ではプロマイドを撮影してもらうことができるんです。スタジオは完全貸し切りで、昭和の小道具や衣装も完備されているから、身ひとつで行けばOK。成人式や卒業式の記念や、遺影(!)などの目的で訪れる人も多いのだとか。
取材に訪れた私とカメラマンの吉澤氏もこのプロマイド撮影を経験させていただいたのですが、これが想像以上に楽しい。昭和レトロな衣装に身を包み、武田さんにポーズをつけてもらうと、ちょっぴりスター気分。背筋が伸び、血行が良くなり、2、3歳は若返ったような感じ。「アハハハハ!」と、こんなに大声で笑ったの、いつ以来だったでしょうか。
▲ 昭和のスター……ではなくて、「マルベル堂」でプロマイドを撮影してもらった一般の方々。アイドルと仁侠映画のスターのようですね。
撮影してもらい、出来上がった自分のプロマイドに大笑いしながらも、あのころ、大好きなスターの写真を下敷きにはさんでいたピュアな気持ちさえ取り戻したような心持ちに。1枚のプロマイドがもたらしてくれる効用は思いのほか、大きなものがありました。

私とカメラマンもプロマイドに挑戦してみた!

「もしもし、おかあさん? 私、今日遅くなるから。アッコの家で試験勉強するの」
(早く電話終われよ~。さっさとしけこもうぜ)
……てな感じのちょい不良(ワル)シチュエーションで。

●マルベル堂

住所/東京都台東区浅草1-30-6
電話/03-3844-1445
営業時間/11:00~16:00.土日祝10:30~17:00
定休/なし
プロマイド撮影の予約・問い合わせ

登録無料! 最新情報や人気記事がいち早く届く! 公式ニュースレター

人気記事のランキングや、Club LEONの最新情報などお得な情報を毎週お届けします!

登録無料! 最新情報や人気記事がいち早く届く! 公式ニュースレター

人気記事のランキングや、Club LEONの最新情報などお得な情報を毎週お届けします!

この記事が気に入ったら「いいね!」しよう

Web LEONの最新ニュースをお届けします。

SPECIAL

    おすすめの記事

      SERIES:連載

      READ MORE

      買えるLEON

        「マルベル堂」が見つめてきたスター2500人の笑顔 | 著名人 | LEON レオン オフィシャルWebサイト