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2021.11.12

PARCEL ギャラリーディレクター 佐藤 拓 × アーティスト 小畑多丘 対談 後編

いまアートを買う人が増えている!? 日本人に起きている変化とは?

近年、日本のアートシーンが変わってきている? アート初心者はどのように作品を選んで購入すべき? そんなお話を、parcel ギャラリーディレクターの佐藤 拓さんと、アーティストの小畑多丘さんに教えていただきました。

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写真/椙本裕子(YUKIMI STUDIO) 文/井上真規子

アートをどのように楽しみ、購入すべきか?

▲ (左)アーティストの小畑多丘さん、(右)「parcel」ギャラリーディレクター佐藤 拓さん
これまで、多くの人のアートとの付き合い方は、美術館で鑑賞することでした。しかしながら、近年では購入して家で楽しむ人も増えつつあります。中でも注目を集めているのが、ストリートアート。

前編では、東京のギャラリーシーンに精通し、馬喰町「PARCEL」でギャラリーディレクターを務める佐藤 拓さんと、B BOY(ブレイクダンサー)をモチーフとした木彫やドローイングなどを制作するアーティストの小畑多丘さんに、進化を続けるストリートアートについて、本音を混じえてたっぷり語っていただきました。

後編では、日本のアートシーンで起きている変化や、アートの購入の仕方を伺います。
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「日本人は美術館には行くけど、購入まではなかなか踏み出さない」(佐藤)

── なぜ今、アートを買う人が増えているのでしょうか。

佐藤 拓さん(以下、佐藤) 元々、日本人の生活と絵は近かったんです。日本建築には、軸や花を飾るための床の間があったし、来客用の応接間にも絵が飾ってあったわけですから。それが洋式のマンションになった途端、みんな絵の扱い方がわからなくなってしまった。それ以降は、一般の人は美術館には行くけど、買うというところまではなかなか踏み出さないんです。
▲ 日本の民家にある床の間。これは「本床の間」と呼ばれるスタイルで、縁側沿いの開口部と床の間があり、その横の床脇という空間に違い棚と天袋棚がある。 参照元/Wikipedia
佐藤 日本の家が狭いことも理由のひとつとされていますが、でもパリなんかでは、狭い家でも床から天井までパンパンに作品が飾ってあったりするんです。下の方とか、絶対蹴っちゃうじゃんって思うんですけど(笑)。欧米は、家に人を呼ぶ文化が盛んですから、やっぱり絵を飾ろうとなりますね。

日本でも、最近はコロナ禍で外出しにくいし、集まるとなったら家に人を呼ぶことになる。お金も家の中に使うとなって、絵を買い出した人も多いと思います。家に呼ぶ人は基本信頼できる人なので、ある程度高価なものを置いてもいいですからね。
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「アートを購入する世代は、確実に広がってきています」(佐藤)

── 小畑さんはアーティストですが、ストリートアートを含め、実際にアートシーンが盛り上がっているという実感はありますか?

小畑 あります。俺の作品は、はじめはこんなに売れなかったんですが、2018〜2019年あたりからだんだん売れ始めて。2019年にGINZA SIXの「Artglorieux GALLERY OF TOKYO」で開催したグループ展「KUROOBIANAKONDA01KIRIMI」では、展示前にドローイングの作品が完売したんです。完売は初めてだったのでうれしかったですね。

佐藤 すごいですよね。ここ10年ぐらいは日本のお客様は本当に少ない状況が続いていましたが、この2〜3年でオークションも活況を見せているし、PARCELでも国内客が圧倒的に増えてきました。PARCELは2019年にできたのですが、僕がその前に勤めていたギャラリーでは作品の半分以上を海外に発送していましたから、その差は歴然です。

長年コレクターをやってきた年配の人はもちろん、新規の若い人が増えています。購買層の世代も広がって、30〜50代がメイン。流れが変わる潮目の真っ只中という感じがありますね。
▲ ギャラリストの佐藤 拓さん。
── ストリートに限らずアートシーン全体で、注目度が高い作家や作品の共通点はありますか?

佐藤 うーん、良くも悪くも日本では「わかりやすいもの」は盛んに動いている印象です。大雑把にいえば、アニメっぽい、色が綺麗、わかりやすい、っていう要素を満たしているものです。

でもこれは、アートに新しいコレクター層と資金が入っているとも言えるのかもしれません。ポップアート初期から行われていることですが、既存のキャラクターや人、商品や作品をモチーフにしたり、元々あるイメージを使ったりする作品もありますし、日本的なアニメっぽい作品もあります。

小畑 でも、それって知ってるものに反応しているのであって、作品に反応しているわけではないと思うんですけどね。とにかく今は、そういうわかりやすい作品も多く売れています。多分、ブームとして始まったばかりだからだと思います。それは悪いことではなくて、誰でも最初は、わかりやすいところから入るから。

── ワイン初心者に対して、葡萄の風味がわかりやすいものから始めるのが良いですよと言う、みたいな話でしょうか。

佐藤 そうですね。風味のわかりやすいものから飲み始めて、自分の好みがわかってくるとワインを選べるようになりますよね。凝る人はナチュールに走ったりして。アートも同じですよ。
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「欧米では作家に関係なく、純粋に作品だけを見て評価する」(小畑)

── アートを購入する日本人が増えているとのことですが、皆さんはどのように買っていくのですか?

佐藤 日本に限らずではありますが、みんながよく知ってる、見たことのある作家を買おうとする傾向はまだ強いかもしれませんね。周りを見て買うというか、有名かどうかも大事にする。それはある側面では正しくて、作家の知名度も美術的評価と比例している場合もありますし、さっきも言った通り、アートを初めて買う方が増えているということかもしれません。

それから、作家のことをきちんと下調べしてギャラリーに来る人も多いですね。特に高価格帯の作家になるほどその傾向があります。

小畑 作家が誰で、どういうものを作っているかってことが重要とされているんだよね、きっと。

佐藤 でも最近では、その作家を初めて見て買う人や、コレクターの友達に勧められて展示を見に来て、すごく良いと思ったから買うって人も増えてきたように思います。友人としてご紹介頂いたりすると、ギャラリーとしても信頼できるので助かります。でも、海外のアートの買い方はだいぶ違いますよね?
▲ アーティストの小畑多丘さん。
小畑 欧米では作家に関係なく、純粋に作品だけを見て評価することが多いかも。以前、ロンドンの大学で展示をしていた時、3人のお客さんが俺のことを全然知らずに入ってきて「やばいコレ、欲しい!」って気に入ってくれて、それで誰がその作品を買うかで揉めて(笑)。それを見て、このノリは日本にはないなって思ったりして。

佐藤 ロンドンやニューヨークは、元からヒップホップのカルチャーが根付いているから、パッと見の理解度が高いということもあるかもしれないですね。

小畑 そうかもね。以前、大学に呼ばれてロンドンへ行った時に、学生が展示するタイミングで一緒に出展してほしいと言われて出したんだけど。そうしたら、一緒に展示をした20代の現地の学生が、僕の作品を気に入って買ってくれて。僕は自分が大学生の時に、誰かの作品を買おうと思ったことはなかったから、衝撃的だった。やっぱり欧米にはアートを買う文化がすごく根付いているんだと思う。

佐藤 いろんな世代に当たり前のようにアートを買うという選択肢がありますよね。
── ギャラリーでアート作品を選ぶ時のコツはありますか?

佐藤 ギャラリーで買うなら、ギャラリーの人間に作家や作品について怖がらずに質問してみてください。そっけない態度でカウンターに座っていても、質問すればきちんと答えてくれます。「これ、なんか好きかも?」と思った作品の制作背景や作者のことを聞くことで、納得して「買いたい」と思えることもあるはずなので。

もちろん、話しかけたからって売りつけられるわけじゃないですよ(笑)。昔、展覧会場の奥に連れて行かれて版画を買わされる商売もあったみたいだから、悪いイメージのある世代もいるかもしれませんが。

小畑 確かにそういうの、あったよね。

佐藤 一方でギャラリーの人間は、商売として売らなきゃいけないけど、作家の作品を守る意味では無理に売りたくないっていう矛盾したスタンスを抱えています。鑑賞以外を目的とした人の手に渡るのは避けたい。作品のことを大事にしてくれて、理解と共感をしてもらえる人に優先的に買ってもらいたいから、変な人に売るくらいなら売上を我慢しても作家を守るっていう。

小畑 残念ながら、特にストリートアート界隈ではそういう買い手が増えている気もする。

佐藤 そうですね。だから、今は少し懐疑的にならなきゃいけなくて。本当は欲しい人全員にどうぞって言えるのが健全なんですが、その場で判断できない状況だったりして、完全な一見さんはお断りすることもあります。さらに過去に短期的な転売歴があると、お断りしているのも実情です。
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「アーティストの理論に関心を持つようになると、今度は買う側にも理論が生まれてくる」(小畑)

── 最後にこれからアートを買おうと考えている人に、アドバイスをお願いします。

小畑 はじめはジャンルや作者にこだわらず、自分が良いと思ったものを買えばいいと思います。「俺がこの作品を買ったんだ」って実感してはじめて、アートに対する思考が始まってくると思うし。

そうすると、作品を描いたアーティストはどんな人物で、どういう理論でこの作品を作ったのか興味が湧いてきて調べたり、次は何を買おうかな?と考えるようになっていくはず。

佐藤 まずはあれこれ考えずに、純粋に気に入ったものを買って、そこから深めていくということですね。

小畑 アーティストの理論に関心を持つようになると、今度は買う側にも、買う人なりの理論が生まれてくる。「自分のテーマはこれで、こう描く」というアーティストの理論と同じように、なぜ買うのかという理論が見えてくるんです。

アーティストは偉いとか、そんなことはまったくなくて、アーティストも買う人も同じ人間だし、対等に考えるべきだと思う。そうやって選べるようになると、すごく楽しくなっていくはずですよ。

● 佐藤 拓 (さとう・たく)

ギャラリーディレクター。1982年米国生まれ。2004年慶應義塾大学環境情報学部卒。広告制作会社にて展覧会/展示会の企画運営に携わったのち、2007年よりCLEAR GALLERYにてコンテンポラリーデザイン、及びアートを扱う。2012年よりディレクターとして企画に従事。2018年に独立。2019年にPARCELの立ち上げに関わり、6月に開廊。以後同ギャラリーのディレクターを務める。

● 小畑多丘(おばた・たく)

彫刻家。1980年埼玉県生まれ。2008 年、東京藝術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻修了。自らもB-BOYであり、木彫による人体と衣服の関係性や、B-BOY と彫刻を端緒に生まれる空間、動き、重力を追求し、彫刻以外のメディアでも精力的に表現し続けている。

■ PARCEL 

2019年6月、東京の日本橋馬喰町にあるDDD HOTELの一角に開廊したアートスペース。元は立体駐車場だった特徴的な空間は、プロジェクトスペースとギャラリーと、両方の特徴を併せもち、国内外を問わず、現代美術を軸に、様々なカルチャーや価値観を横断するプログラムを形成している。

場所/DDD HPTEL 1F
住所/東京都中央区日本橋馬喰町2−2−1
HP/http://parceltokyo.jp/

現在の展示「6 Paintings From 6 Artists」

6名の日本人作家によるグループ展。オートモアイ、小畑多丘、倉田裕也、BIEN、山口幸士、箕浦建太郎が参加。各世代を代表する作家たちによる最大級の大作を各1点ずつ、抽象から具象までと幅広い作風の未発表・新作を発表する。

期間/〜11月21日(日)
営業時間/水・木・金・日14:00〜19:00、土14:00〜20:00
休日/月・火・祝日、11月3日(水)

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