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2021.09.18

安藤政信「愛情ゆえに本気で向き合って、ブチ切れることもあるけれど……」

繊細でどこか憂いのある独特の存在感と高い演技力で、映画界を魅了してきた俳優の安藤政信さん。デビュー25年となった今年、親友でもある山田孝之さんのススメで初めての映画監督に挑戦しました。カメラマンとしては実績のある安藤さんですが、ムービーの監督はどんな経験だったのでしょう?

CREDIT :

文/井上真規子 写真/内田裕介 スタイリスト/川谷太一 ヘアメイク/田中美葉 撮影協力/Fogg Inc.

1996年公開の北野武監督作品『キッズ・リターン』の主演で、アカデミー賞新人賞など多くの賞を総なめにし、鮮烈なデビューを果たした安藤政信さん。繊細でどこか憂いのある独特の存在感と高い演技力で、映画界を魅了してきました。

そしてデビュー25年を迎える今年、山田孝之さんらが発起人となって始まった短編映画制作プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)』で、映画監督という新たなフィールドに挑戦。処女作となった『さくら、』では金沢を舞台に、山田孝之さん、森川葵さんらを主演に据え、男女の揺れ動く心情を安藤さんならではの感性で美しく描き出しました。

写真家としての活動も増え、ここ数年はプロカメラマンとして雑誌や広告など商業撮影も手がけている安藤さん。役者としても再ブレイク中と評されるほど多忙な日々を送るなか、写真家、そして映像作家として、クリエイティブへの思いや人生観について語ってもらいました。

映画人として、自ら映画を撮るというのは度胸が必要でした

—— 安藤さん初の監督作品となる短編映画『さくら、』が公開されます。これまで写真家として “撮る”ことはされてきましたが、映像を撮りたいという想いも以前からあったのですか?

安藤 これまで役者としてさまざまな作品に関わってきたので、そう思わないこともなかったです。ただ、映画人として長くやってきて、国内外の著名な監督ともたくさんお仕事してきた中で、自ら映画を撮るというのはやっぱり度胸が必要でした。どう見せられるか不安もあって、踏み出せない部分はありましたね。

—— そういう中で、今回、監督をすることになったきっかけは?

安藤 孝之(山田孝之)が「安藤さん、映画を撮りませんか?」と言ってくれたんです。僕が大事にしている孝之がそう言うなら、俺はそれに応えたいと思ったし、踏み出してみてもいいかなという気になったんです。もちろん撮るとなればいい加減にやりたくないし、きちんと向き合って作りました。
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—— 撮り終えてみてどうですか。

安藤 やったからには、自信をもつべきだと思っています。大切な仲間がこれだけ集まってくれて、ひとつの作品を作り上げたわけですから。自分の頭の中にある美意識や感覚、創りかたの文脈に自信をもって臨みました。ひとりの表現者としても、いいものを残せたと思っています。

—— 今回は15分の短編映画でした。短編は、表現の仕方も限られてきますが、作品として伝えたいメッセージは最初から固まっていたのですか?

安藤 いや、答えをひとつにして、言葉やシーンで説明していって、こちらが決めたゴールに誘導するようなことはしたくなかったんです。むしろ何通りにも答えがあって、いくらでも解釈の余地があるようなものにしたかった。文脈の中に「快楽」や「欲求」、「倫理を超えた罪と罰」の要素をちりばめたのですが、自由に解釈してほしいです。見終わって、結局わからなかったということでもいいし、すごく伝わったでもいい。そういう人の曖昧さやわからなさも描きたかった部分ですね。
—— 監督として思う作品の見どころとは?

安藤 それは孝之と葵(森川葵)の芝居でしょう。ふたりが素晴らしい芝居を僕にくれたので、ぜひそれを見てほしいです。美しい孝之、今までにない葵が撮れたと思います。といっても、葵のこれまでの作品は実はほとんど見たことがないんです(笑)。「こんな葵は見たことがない」ってみんなが言うから、そうなんだと思って。俺的には葵の演技を見るのは初めてだったけれど、こんな素晴らしい女優さんがいたんだって現場で感動しました。
(C)2021 MIRRORLIAR FILMS PROJECT
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現場でワンカットが終わるたびにふたりを抱きしめてました(笑)

—— ディレクションはかなり綿密にされたのでしょうか?

安藤 クランクインの前夜に、俺とチーフ助監督、孝之、葵の4人で、シーン1から最後まで細かく伝えました。ラブシーンがあったので、特にそこは気を遣いましたね。女優さんが不安にならないように、監督として、男として、そこをきちんとケアするというのは当然のことなので。葵には「絶対に事故らないように撮るし、絶対感情も美しく撮るから俺を信じてほしい」と伝えました。

—— おふたりをすごく大切にされている気持ちが伝わります。

安藤 これまでカメラマンとしても、被写体を大切にしながら撮るということをしてきたけれど、今回監督という立ち位置で映画を作るとなって、脚本を立体化してくれる役者の大切さや彼らへの愛おしさを改めてすごく感じたんです。だからふたりにめちゃくちゃ感謝して、現場でもカットが終わるたびに抱きしめていました(笑)。スタッフにも本当に感謝しかなくて、ひとり一人に「愛してる」って言ってましたね。
—— すごく愛情深い監督さんなんですね(笑)。今まで役者として色々な監督とお仕事されてきて、手本になるような人がいたのでしょうか。

安藤 以前、フランス映画の撮影をした時に、フランス人の女性監督と一緒に仕事をしたんです。彼女はカットが終わるたびに感動して、時には目を潤ませながら「素晴らしい、素晴らしい」って言ってくれて。それで「すべてがOKなんだけど、今度は違うアクションでもう一回見たい。そうすると、違うことをやりたくなるから」って言うんです。

自分が主導権を握って相手を動かす監督もいるけれど、彼女は相手と同じ目線で褒めて、お互いを讃えあいながら、相手の引き出しもちゃんと開けてもらって、自分の引き出しも見せて、っていうスタイルですよね。自分もそういう感覚でした。とにかく感謝して、相手を尊重して、撮影が終わるたびに握手して、ありがとうって伝えてました。
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深作さんの言葉で、大変だけどやらなくちゃダメだってすごく思ったんです

—— やっぱり今まで見てきた監督のスタイルに影響を受けているんですね。

安藤 そうだと思います。本当にいろんな監督と仕事してきましたから。深作(欣二)さん、たけし(北野武)さん、ツァイ・ミンリャン、チェン・カイコー、相米慎二さん……。今回、撮っている時も「このシーンに相米スタイルは向いてないな」とか、そういうことを考えながらやってましたね(笑)。

—— 深作監督とは生前、特に親交が深かったとか。

安藤 若い頃から可愛がってもらいましたね。亡くなる数カ月前も箱根に連れて行ってもらって。僕も深作さんのことが大好きでした。実は、最近も深作さんが遺した言葉に救われて、すごく感謝したことがありました。今年の春頃に、たまたま女優ののんさんが出演する映画※のスペシャル映像で、3人の監督の言葉を引用した『映画と生きる 映画を生きる』というのを見たんです。

そのひとつに深作さんの「OKを出す基準は監督の独断と偏見によるものだ。独断と偏見によるこだわりこそが監督の個性であり、エッセンスであり、だからこそ監督は誰がなんと言おうと確信犯でなければならない」という言葉が出てきて、めちゃくちゃ心に響いて。

なぜかというと、僕は春から連ドラを2本※抱えていたんですが、ちょうどその最中に短編映画の製作時期が重なって肉体的にも精神的にも限界に近いくらい苦しくなっていたんです。映画制作は、自分で脚本書いて、ロケハンに行って、みんなの意見を聞きつつ自分の意見を伝えてって、本当に大変でしたし、初めてだからこその葛藤もありました。そういう時に、深作さんのその言葉を聞いて、大変だけど、やらなくちゃダメだって改めて思ったんです。
※のんさんが監督・脚本・主演を務める長編映画「Ribbon」の応援スペシャル映像『映画と生きる 映画に生きる』。のんさんのYouTube チャンネルで放映中
※『理想のオトコ』(テレビ東京系・4月~)、『ボイスⅡ 110緊急指令室』(日本テレビ系・7月~)
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いつも本気で向き合うんで、ぶつかっちゃうんです

—— 確信犯として臨んだ撮影の現場はどうでしたか?

安藤 みんなにいっぱい感謝して愛して、感情が爆発して本気でブチ切れて、時にはやってらんねぇ! みたいに思って(笑)、でも次の日にはすごく感謝していたり。そういうのがいっぱいあって感情が爆発しまくっていましたね。でも、本番の撮影は楽しむって決めてたので、助監督やスタッフに「明日からの5日間の撮影は楽しむから」って宣言して。実際、撮影始まったら全然苦しいことはなくて、本当にめちゃくちゃ楽しかったです。

—— 安藤さんもぶちキレるんですね!

安藤 もう、キレることなんていっぱいありますよ(笑)。作品にも、相手にも、いつも本気で向き合うんで、ぶつかっちゃうんです。今回の「ミラーライアーフィルムズ」のプロジェクトも、孝之の壮大な遊びに付き合うってことじゃないですか。絶対失敗させたくないから、そこもちゃんと考えつつ、同時に俺からの監督としての発信もあって、葵に対する感謝もあって……。

エンタテインメントは、誰が見ても理解できるわかりやすい表現であるべき

—— 安藤さんは一度、映画界から離れた時期がありましたよね。それまではひとりの時間が好きな一匹狼的なイメージがあったんですが、若い頃から人に対しての愛情は強かったんですか?

安藤 人との向き合い方は変わってないと思います。だって、性格は変わらないじゃないですか。深作さんとか、いろんな監督と深く付き合ってきたのも、人に愛情があるからですよね。ただ気を遣いすぎて、みんな大好きなんですけど、結局誰も好きじゃないってなっちゃうんですよね(笑)。

—— 復帰して、年齢を重ねて、変わったという印象があります。

安藤 相手に対しての受け入れ態勢は変わったかもしれないですね。例えば、ドラマの演出で「これはどうなの?」って思っても、とりあえず1回相手の話を受け入れるようになりました。映画はみんなでセッションしながら作っていくものだけど、ドラマはタイムスケジュールの中でどんどん撮っていくし、セッションは基本しないんですよね。

だから監督や助監督に「これ大丈夫なんですか?」って一度聞きはするんですけど、大丈夫ですって言われたら、素直に受け入れて芝居するようになりました。大人になったでしょ?(笑) 

大前提として映画でもドラマでも、役者は作品のひとつのパーツとして呼ばれていて、俺ならこう撮るってのがあったとしても、ひとつのパーツとしてまっとうするべきだと今は思っています。
—— それは大人だと思います(笑)。

安藤 俺自身はポエティックにやりたいんだけど、この間「安藤さん、ドラマはエンタテインメントで、ポエムじゃない、芸術じゃないんです」って周りの人に言われて。最近は納得しています。エンタテインメントは、誰が見ても理解できるわかりやすい表現であるべきなんですよね。それも含めて自分のクリエイティブだと思うようになったので、引き出しがひとつ増えた感じですね。
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男友達も撮るけど、やっぱり女性を撮りたい

—— 若い頃からずっと写真を撮り続けていらっしゃいますが、大人になって写真の存在は変わりましたか?

安藤 昔も今も、写真を好きで撮るというのは、まったく変わってないですね。若い頃は、女性そのものや女性の快楽に興味があったので、情緒的に写真にするってことをずっとやっていました。傘ライターが本気で傘を好きなのと一緒で、俺は女性が感じる顔がいいんだって本気で思っていたんですよ。

—— 最近は何に興味があるんですか?

安藤 男友達も撮るけど、やっぱり女性を撮りたいですね。最近は、女優さんの化粧をしていない普段の姿がすごくいいなと思っていて。コロナで機会は減っちゃいましたけど、プライベートで撮ったりしています。ただ、商業的にその写真を発表するとなるとやっぱり難しいので、長い目で見て先々に発表できる機会があったらいいなと思っています。撮らないと何も残らないですから。

—— 今後は、役者、写真家、映像作家としてどうなっていきたいですか?

安藤 今は役者として食えているので、いずれは写真家としても、映像作家としても食べていけるようになりたいですね。どの分野でも、ちゃんとクリエイティブに表現して、仕事にしていけるようになりたいです。

● 安藤政信(あんどう・まさのぶ)

1975年5月19日、神奈川県川崎市生まれ。O型。1996年、映画『キッズ・リータン』(北野武監督)で主演を務めデビュー。高い演技力が評価され、多数の映画賞を受賞し話題となった。その後も『イノセントワールド』(1988)、『サトラレ』(2001)、『花の生涯 梅蘭芳』(2009)、『無無眠』(2015)、『KOKORO』(2017)、『スティルライフオブメモリーズ』(2018)、『ゾッキ』(2021)など映画を中心に活躍。テレビドラマへの出演も多く、最近では『DIVER-特殊潜入班-』(関西テレビ系)、『理想のオトコ』(テレビ東京系)、『ボイスⅡ 110緊急指令室(日本テレビ系)に出演。また、初めての監督作品『さくら、』が「ミラーライアーフィルムズ」の1本として公開中。

『MIRRORLIAR FILMS Season1』

山田孝之、阿部進之介、伊藤主税氏が発足した「MIRRORLIAR」(ミラーライアー)による短編映画制作プロジェクト「MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)」Season1が9月17日から全国順次公開中。“変化”をテーマとする同プロジェクトは、俳優、映画監督、漫画家、ミュージシャンなど総勢36名が監督した短編映画を、4シーズンにわけてオムニバス形式で公開。Season1は安藤政信、三吉彩花、漫画家・花田陵が映画監督に初挑戦し、山下敦弘、武正晴、枝優花というベテラン&若手監督、419作品の応募の中から選ばれたクリエイターの西遼太郎、針生悠伺、藤原知之の計9名の監督による作品が公開されている。配給/イオンエンターテイメント
HP/短編映画制作プロジェクト | MIRRORLIAR FILMS

■お問合せ

ヨウジヤマモト プレスルーム 03-5463-1500

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