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2021.07.17

佐藤二朗「威圧感も威厳もなく、ふんわりと優しさが残る」魅力の正体

大柄で、立派な骨格の顔、妙に気になるけど、圧はない。福田雄一・遊川和彦・堤幸彦・三谷幸喜の作品に数多く出演し、いまやクイズ番組や教養番組のMCも務める俳優・佐藤二朗。見るからに優しい、のではない、後味がとても優しい。そんな二郎の魅力とは?

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文/吉田 潮(コラムニスト・イラストレーター)

記事提供/東洋経済ONLINE
画面のどこかにひっそりたたずんでいるだけでも、妙に気になる。大柄だし、立派な骨格の顔だが、不思議と圧はない。口を開けば、文節と息継ぎと躊躇という概念をすっ飛ばして、脳内言語を一気に吐き出す。でもその文言には独特のリズムがあり、語尾もなんだかかわいい。結果、威圧感も威厳もなく、ふんわりと優しさが残る。

見るからに穏やかで優しい、のではない。後味がとても優しい。そんな優しさでできている俳優・佐藤二朗について、書いてみようと思う。

2時間ドラマにローカル局ドラマ、脇役で細かくリアリティや笑いを追求してきた職人気質。テレ東の「勇者ヨシヒコ」シリーズで、空に浮かんで好き勝手言って無茶ぶりする仏の役で爆発的に知名度を上げた。

福田雄一・遊川和彦・堤幸彦・三谷幸喜の作品に数多く出演し、いまやクイズ番組や教養番組のMCも務める八面六臂の活躍ぶり。今回は膨大な量の出演作品の中でも「優しさ」に的を絞ってみる。
写真提供:週刊女性(撮影/山田智絵)

「命令形をやわらげる」新しい方法

いきなり余談だが、今の時代は子供にも年下にも、そして夫婦間であっても敬語を使いつつある。そんな時代の空気感を読んでか、二朗は絶妙な命令形を駆使する。

「やめろ」ではなく「やめれ」、「観ろ」ではなく「観れ」。明らかに命令してはいるが、威圧感はなく懇願する愛らしさ、ふんわりやわらいだ印象になる。もちろん大の大人が使う日本語としては変だが、人柄が伝わってくる。

私が最も好きな作品は『幼獣マメシバ』(2009年)だ。ローカル局と配給会社が共同で制作、放送地域も予算もミニマムなドラマだが、柴犬の可愛らしさと二朗のひきこもりニート中年のマッチングが絶妙で、映画化&シリーズ化も果たした。

二朗が演じたのは、裕福な地主の実家に引きこもる35歳の一人息子・芝二郎。皮肉屋で屁理屈満タンだが、よく言えば裏表がない。近隣住民の醜聞をブログに載せる悪趣味があり、厄介者扱いされている。

父(笹野高史)が亡くなり、母(藤田弓子)は不甲斐ない息子の将来を案じて、ある策を実行。柴犬の子犬・一郎を残し、手がかりを近隣の人に託して自ら失踪したのだ。母に依存していた生活が一変、仕方なく人と接して母の行方を捜すことでひきこもりから卒業する、という物語だ。

二郎には県道や国道、線路や川を渡ろうとすると体が硬直してしまうトラウマもある。些細なことや当たり前のことができない苦しみをもつからこそ、人に対して偏見や差別がない。人の目を見て話せない割に毒を吐くし、常にひとこと余計でもあるのだが、案外おひとよしで優しさにつけこまれる面もある。

偏屈なのに憎まれない二郎を口癖とリズムで表現した二朗。ドラマでは省きがちな「うん」の口癖をリズミカルに入れて、柔和な特性を炙り出した。記憶に残る名キャラクターだ。

リズムと言えば、エレファントカシマシの宮本浩次が初主演したスペシャルドラマ『俺のセンセイ』(2016年・フジ)の二朗も忘れがたい。大ヒット作を描いた後は10年鳴かず飛ばずで困窮している漫画家の宮本を温かく見守る編集長役だ。

劇中、二朗が心地よく鼻歌を歌うように話すシーンがあった。歌うように語られたセリフは、不器用な宮本への応援歌であり、愛がこめられていた(気がする)。というのも、宮本が心折れ、筆をとれなくなった背景を知っているからだ。

歌うような言い回しは軽薄か悪ふざけに見えがちだが、このときは「痛みを知る人の優しさ」の域で、ちょっと感動したわ。宮本の曲も随所で流れる「歌を味わうドラマ」なので、主演と大テーマを独自の手法でひそかに支える名脇役だったと思う。
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迷える父、悩める父、見守る父

佐藤二朗は頼りがい・威厳・大黒柱という父親像とほぼ縁がない。『ノーコン・キッド~ぼくらのゲーム史~』(2013年・テレ東)では、主人公の父親役。このドラマは1980~1990年代に流行したゲームを軸に、3人の男女の青春と成長を描く物語。

バカっぷりが文化財レベルの田中圭、天才ゲームオタクに浜野謙太、ゲーム好き美少女に波瑠と珠玉の面々が甘酸っぱさや恥ずかしさを、ゼビウスやパックマン、ドラクエなど数々の名ゲームが懐かしさをそそる作品だ。

二朗は田中圭の父親でゲームセンター店主。スウェット&半纏姿という定番のダメ男ルック、子供相手のゲーセンの片隅でエロ本を読むような父だ。店番を息子に任せてパチンコに行くわ、息子の勉強を邪魔するわで精神年齢は小学生レベル。

しかもこさえた借金600万! 残念なクズ父と思って観ていたら、別居中の妻(筒井真理子)の登場で真相が判明。仕事で不在がちな筒井の代わりに、二朗は幼い息子と一緒にいる時間を作るためにゲーセンを続けてきたという。劇中、二朗は病に倒れるが、不器用でも逃げなかった父の愛を病床でさりげなく見せつけたのだった。

逆に、逃げたことを悔やむ父を演じたのは『わたしたちの教科書』(2007年・フジ)。女子中学生(志田未来)が学校の屋上から転落死したことが物語の発端。いじめを苦に自殺した可能性から、主人公の弁護士(菅野美穂)が動き出す。なぜなら志田は菅野の娘(元夫の連れ子)だったから。いじめをひた隠す学校、事なかれ主義の教師たち。菅野は孤軍奮闘、裁判で真相を追及していく社会派ドラマだ。

二朗は地味で覇気のない教師役。教師でありながら自分の娘(波瑠)は反抗期で家出中という悩みを抱えている。きっかけは二朗にあった。波瑠は高校の教師に胸を触られ、抵抗して殴ってしまう。父は同業者の手前、抗議するのではなく、その破廉恥教師に対して娘を謝らせたのだ。そりゃ娘、絶望するわな、家出するわな。

「黒いものを黒いと言えなくなる。白いものを白いと言えなくなる。それが大人だ。それが俺だ」と、心の底から悔やむ二朗。それを機に、「いじめ裁判」で重要な証言をすることを決意。法廷で泣きながら真実を吐露するのだ。教師である前に父親、父親である前に人として、己を悔い改めるキーパーソンを演じた。
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のぞきみを後悔する二朗

もうひとつは香取慎吾主演『誰かが、見ている』(Amazonプライム)での父親役。三谷幸喜が猛烈に滑ったという酷評を聞いたが、3話4話と観続ければ失笑ポイントがたまっていくお得なシステムである。

二朗は香取を壁の穴からのぞき見する隣家の父親役。香取に興味をもった娘(山本千尋)は盗撮動画を勝手に配信してしまうが、二朗はのぞき見を始めた自責の念がある。時に電気屋のフリをしたり、メイド姿で食いかけのピザを配達したりで、娘をかばおうともする。シットコムが苦手な人には勧めないが、ここでは珍しくまっとうな父親だ(いや、のぞき・盗撮は犯罪なので、まっとうではないか……)。

二朗が演じるのは、全方位外交で愛想をまきちらす「優しさ」ではない。脛に傷あるいは心に傷を受け、苦しみやつらさがわかるからこその「優しさ」。

その代表作が映画『memo』。自ら監督・脚本そして出演した作品だが、強迫性障害に悩む人の日常を優しさにあふれる目線で描いている。主人公は、意味のない文字を書き殴る衝動に駆られる女子高生(韓英恵)。二十数年も音信不通だったがひょっこり現れる叔父を二朗が演じる。

赤く腫れあがるまで手を洗わずにいられない、会話と会話の間を埋めずにいられない、自分でも制御不能の言動に苦しむ様子が生々しい。強迫性障害をもつふたりが少しずつ心の距離を縮めると思いきや、やりきれない結末。二朗の怪演には息をのんだし、言葉を失った。でも明るさと救いはある。

放送が終了したばかりの主演ドラマ『ひきこもり先生』(NHK)の源流も、ここにあるような気がする。11年ひきこもりだった焼き鳥屋店主が中学校の不登校対策に駆り出され、生徒たちの心の琴線に触れていく物語だ。

不登校児にはそれぞれの理由がある。心を閉ざした生徒たちと同じ目線で向き合える人材として、二朗、このうえなく適役。今回は冗舌な役ではないが、頭の中では配慮と優しさがフル回転している様子がわかる。「寡黙な男の美学」とか賢しげな綺麗事じゃない。発する言葉を考えて気を遣って選んで打ち消して悩んで、を繰り返して脳内温度が上昇してしまうようなタイプ。それこそ佐藤二朗の、他の追随を許さぬ揺るぎない持ち味である。
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クセの強い「二朗調」セリフ

ということで、佐藤二朗優しさ編をお届けしたのだが、やっぱり語彙の面白さにも触れないわけにはいかない。脚本作品では、登場人物の一部にクセの強いセリフがあり、なんというか「二朗調(ジロチョー)」が憑依する面白さがある。

一人語りやつぶやきがやや面倒臭いタイプや、皮肉や嫌味は強烈なのに険がないキャラクター。前述の『memo』では父親役の宅間孝行と教師役の太田善也がそこはかとなくジロチョーで大爆笑。木南晴夏主演のドラマ『家族八景』(2012年・TBS)では須賀健太や石野真子、眞島秀和あたりが明らかにジロチョー憑依。

現在上映中の映画『はるヲうるひと』は売春宿を舞台にした兄妹の物語だ。2014年の舞台は観たが、映画では山田孝之や仲里依紗を迎え、配役も異なるらしい。シリアスな物語ではあるが、きっと劇中にジロチョー憑依者が必ずいるはず……。観て確かめなければ。つうか観れ。

(文中敬称略)
当記事は「東洋経済ONLINE」の提供記事です

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