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2019.08.31

池波正太郎さん、山口瞳さん「オトコは何をどう食べ、着るべきですか?」

ハウツー本全盛だった70~80年代前半に出版された「礼儀作法入門」(山口瞳)、「男の作法」(池波正太郎)を再読することで、今も昔もかわらないオトコのたしなみとは何か、考えます。

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文/秋山 都

40年を経ていまなお色褪せないオトコの作法とは

ナンバーワンではなくオンリーワンであることが大切、と育てられたミレニアル世代。「個」や「自由」は尊ぶべきものではあるものの、だからといって放逸でいいというわけではありません。ここでは池波正太郎氏の「男の作法」(1981年初版)、山口瞳氏の「礼儀作法入門」(1975年初版)を再読することで、オトコのたしなみとは何であるか、振り返ります。

本書のなかには「電話は受けたらすぐ名乗れ」など、いまの時代にフィットしないものもありますが、40年を経て色褪せぬ教えに「うんうん」とうなづく方も多いのでは。

ちなみにオンリーワンの話でいえば、池波先生は「自分の人生が一つであると同時に、他人の人生も一つであるということだ。自分と他人のつきあいでもって世の中は成り立っているだからね」とおっしゃっておられます。まったく同感。
*本文中の引用は池波正太郎氏「新編男の作法」(サンマーク文庫)、山口瞳氏「礼儀作法入門」(新潮文庫)より。こののち敬称略。
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【衣】オトコの粋な装い

「たとえば、セルリアンブルーのシャツを着て、ズボンもそういう色とする。それで赤い靴を履いたらマンガになっちゃう。そういう服装だったらやっぱり靴は黒しかない。茶なら黒に近い焦茶。明るい茶だとおかしくなってしまう。だから、自分に合う基調の色というものを一つ決めなきゃいけない。そうすれば、あとは割合にやりやすいんだよ」(池波)
「オシャレとは、人前に出て目立たぬ服装をすることである。私はそう思っている。(中略)間違っても黒の背広はつくらないように……。ところが、この間違いを若い人はやってしまうんだな。黒はカッコイイと思いこむ。黒は渋くて地味だと思ってしまう。しかし、黒と白ぐらい派手な色はないのである。(中略)私はほとんど紺無地の背広しか着ないが、困ることもある。洋服ダンスをあけてみると紺一色。いったい、どれがいつつくった背広であるかわからなくなってしまう」(山口)
Navy is new blackの境地にいち早く達していた山口さん。ファッションリーダーがまだいなかった時代、ふたりの作家はなかなかオシャレだったよう。ちなみに、おふたりとも帽子を愛用し、鞄や万年筆など小物にも相当のこだわりをもっていました。
「持ちものというのは、やはり自分の職業、年齢、服装に合ったものでないとおかしい。たとえば青函トンネルでヘルメットをかぶって工事しているときに、ウォルサムでもカルチェでもすごい金づくりの時計をしていたらおかしいでしょう。工事現場で時間を見るときに必要な、役立つ時計でなくちゃね。ということは、まず暗いトンネルの中で働いているんだから文字盤がはっきりしたものでないとまずいんだ。そのことを第一に考えて、それに一番合ったものを選ぶ」(池波)
カルチェという呼び方に時代を感じますね。

「万年筆とかボールペンとかサインペン、そういうものは若い人でも高級なものを持ったほうが、そりゃあ立派に見えるね。万年筆だけは、いくら高級なものを持っていてもいい(中略)男っていうのは、そういうのにかけなきゃ駄目なんだ、金がなくっても」(池波)
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【食】オトコは鮨、うなぎ、蕎麦を粋に食べる

「小料理屋へ行ったら、酒を一本頼んで、それを飲みながら、ゆっくり考えればいい。吸い物で一品、刺身で一品、焼物で一品、野菜で一品というように選べばいい」(山口)

「そこへ坐って、『一人前頼む』こう言えばいいんだ。あるいは、『上等を一人前』とかね。(中略)『お金を払っているんだから、どこへ坐ってもいいじゃないか』なんて言う人がいるけれども、自分が初めて行く店の場合は、常連がいつ来るかわからないんだから。それに対して自分は常連じゃない。やっぱり一番隅のほうへまず坐ったほうがいいんだよ。そして、一通り握ってくださいと言えばいいわけだよ」(池波)
「もう一つ覚えておくといいのは、これはいつかも話したけれども、お刺身を食べるときに、たいていの人はわさびを取ってお醤油で溶いちゃうだろう。あれはおかしい。刺身の上にわさびをちょっと乗せて、それにお醤油をちょっとつけて食べればいいんだ。そうしないとわさびの香りが抜けちゃう」(池波)

「おこうこぐらいで酒飲んでね、焼き上がりをゆっくりと待つのがうまいわけですよ、うなぎが。(中略)昔は、うなぎの肝と白焼きぐらいしかないですよ、出すものは。東京のうなぎ屋はね」(池波)
「そばというのは本当にそのそばがうまければ、何も薬味というのはいらないんだけれども、唐辛子をかけるときでも、だいたい唐辛子というものはおつゆの中に入れちゃう。あれはおかしい。唐辛子をかけたかったら、そばそのものの上に、食べる前に少しづつ振っておくんだよ。それでなかったらもう、唐辛子の香りなんか消えちゃうじゃないか」(池波)

これを読んでから、せいろの蕎麦の上に直接七味唐辛子を振るようにしました。たしかに香りが鮮烈です。おいしいものに目がないおふたりは、お店へ、職人さんへの気遣いも人一倍のようで……。
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【心遣い】チップ、心付け、祝儀……かたちで表す心遣い

「サービス料がある場合はチップはいらないというのは、これは理屈です。だけどね、こういうことをいうとまた誤解されるかもわからないが、かたちに出さなきゃわからないんだよ、気持ちというものは」(池波)
「客の心を敏感に読みとってくれる店。これが最高である。そして、そういう店の出してくれる食べものがまずかろうはずはないのである。そうだとすれば、その従業員が、気持ちよく働けるものを、こっちのほうでも提供しなければならない。お金では失礼だけれど、もっともサッパリとしていて便利なものが金である。お金で具合のわるいときは、私は六本木『綱寿し』のお稲荷、三田の『大坂家』の和菓子、銀座の『空也』の最中を持っていったりする。これは、人間と人間のオツキアイというものではなかろうか」(山口)

ご参考までに六本木「綱寿し=おつな寿司」などこの3軒のお店はいずれも健在。「空也」の最中は予約が必要です。
このふたりの作家が文学賞の選考会など同じ会合に出席するときは、いつも集合時間の30分前に必ず到着する池波が、さらに早く来てそのあたりを散歩しながら時間をつぶす山口に出くわすことがしばしばあったとか。「他人に時間の上において迷惑をかけることは非常に恥ずべきことなんだ」という池波と、「礼儀作法とは他人に迷惑をかけないこと」という山口。大作家ふたりは照れくさそうにちょっと帽子を持ち上げて、微笑みをかわしたでしょうか? 

この2冊は装いや食べ物のみならず、ギャンブルとのつきあいかた、そして女性との別れ方にいたるまで、オトコのあれこれを丁寧に指南してくれています。40年前とは思えぬツボを押さえた教え、再読してみてはいかがでしょう。
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「新編 男の作法」(サンマーク文庫)

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山口瞳「礼儀作法入門」(新潮文庫)

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