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2021.06.18

【第10回前編】西田尚美(女優)

西田尚美「親戚に似てるとか、昔の彼女に似てるとか、すごい言われるんです」

世のオヤジを代表して作家の樋口毅宏さんが今どきの才能溢れる女性に接近遭遇! その素顔に舌鋒鋭く迫る連載。第10回目のゲストは、女優の西田尚美さん。若くから人気モデルとして活躍後、女優へ転身。その後26年もの間、映画やテレビの世界で活躍を続け、幅広い層から人気を集める国民的女優さんです。

CREDIT :

写真/椙本裕子 文/井上真規子

『さらば雑司が谷』『タモリ論』などの著書で知られる作家の樋口毅宏さんが、才能のある美しい女性の魅力を掘り出す連載対談企画「樋口毅宏の手玉にとられたい!」。

第10回のゲストは、女優の西田尚美さん。雑誌『anan』『non-no』やCMの人気モデルとして活躍後、23歳で女優に転身。97年に公開された矢口史靖監督の『ひみつの花園』では、日本アカデミー賞新人俳優賞、日本プロフェッショナル大賞主演女優賞を受賞。演者としての地位を確立しました。

その後も、『ナビィの恋』、『ウォーターボーイズ』、『南極料理人』など次々とヒット映画やドラマに出演。長きにわたって第一線で活躍されています。自然体で静かな情熱を秘めた、存在感のある女優として、老若男女から人気の高い西田さんですが、意外と知られていない一面も!? 本日6月18日に公開となる新作映画『青葉家のテーブル』の裏話とともに、樋口さんがその素顔に迫ります!

「失礼かもしれないけど、もうワーカホリックの域を超えてます!」(樋口)

樋口毅宏(以下:樋口) 初めまして。今日はよろしくお願いします。

西田尚美(以下:西田) よろしくお願いします。

樋口 (なぜか緊張気味)あの……、僕の中の西田さんって、世に出始めてからずっと切れ目なく活躍されている女優さんというイメージなんです。

西田 そんなことないですよ~!(恐縮)

樋口 妻に今日の対談のことを伝えたら、西田さんほど綺麗にモデルから俳優業に転身して成功した人を見たことがないと言っていました。僕は男なので、西田さんのモデル時代はよく存じ上げないのですが。

西田 成功だなんてそんなことないですよ(笑)。

樋口 それで、西田さんのキャリアをネットで調べていたら、ドラマ、映画、舞台、CM、ナレーション、その他諸々を含めたら、なんとこれまで300本以上出られていて驚きました。

西田 300!  そんなに仕事してました!?  でも、私はあまりNGがなくて、なんでも興味をもってしまうタイプなんでしょうね(笑)。
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樋口 チェックしてみてください。とてもじゃないけど、追いきれない。失礼かもしれないけど、もうワーカホリックの域を超えてます! だから、ずっと出ている印象が強いんだなって。

西田 そんなに働いてきたつもりないんです! 

樋口 今度公開される映画『青葉家のテーブル』も拝見しました。すごく面白かったです。

西田 ありがとうございます。

樋口 お母さんの世代と、子供の世代で、それぞれ物語が展開していくストーリー。僕はこの歳の男だから、最初のうちは、北欧の家具とか縁ないしって思っていたけれど、自分も過ごした等身大の思春期が描かれていて、いつの間にか楽しんでいました。

西田 それは一番うれしいですね。
樋口 思春期を迎えた主人公の心情を描いた映画って、昔だと親と子が激しく対立するのがお決まりなんですけど、そうわけでもないですよね。むしろ、これが“今”の時代の映画なんだなってすごく思って、素直に楽しめました。

西田 確かに、今の親子のリアルな心情ってこんな感じかもしれないですね。

樋口 『青葉家のテーブル』もそうですが、西田さんは近年、母親役が多いですよね。最近放送されたドラマ『コントが始まる』(日テレ)でもそうだし。見事なキャリアチェンジだと思います。若くしてデビューした俳優さんで、こんなにうまくキャリアチェンジできた方って少ないと思います。

西田 ありがとうございます。じゃあ、お母さんになってよかったな(笑)。
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「想像と違うところに来ちゃったな〜っていうのはありますね」(西田)

樋口 でも西田さんがお母さんっていうのも、どうも想像がつかないんです。役柄で作品に溶け込んでいたとしても、こんなに綺麗なお母さんは民間レベルにはいないですよね。

西田 いえいえ(笑)。 保護者会とか普通に行ってますよ。

樋口 うわ、教室でマスクしてても、西田さん絶対浮いてますよ! なんか綺麗な人がいるよって。

西田 浮いてないです、全然普通!(笑) それに私に似ている人ってたくさんいるんですよ。親戚に似てるとか、昔の彼女に似てるとか、すごい言われますよ。

樋口 その人は血迷ってるんですかね?(笑)  西田さんのすごいところって、これだけ人目にさらされて生活してるのに、どこかミステリアスなんです。ブログで日常のことも書かれていますけど、それでもまだ私生活が見えてこない。神秘的なところが多いなって思います。

西田 そうですか? あからさまに出していると思ってました。じゃあ、それは残しておくべきですよね。
樋口 本当にそう思います。西田さんご自身は、自分がデビューした年頃の俳優さんのお母さん役をやるって、どんな感じですか?

西田 時の流れは早いな〜って、びっくりします。20代の若い俳優さんたちに「小学生の頃、あの映画見ました」って言われると、あの時まだ生まれてなかったの? って驚いて。自分は若い頃から全然気持ちが変わってないのに(笑)。

樋口 めちゃくちゃわかります。そこはかとない青春も、何もない青春も、自分たちの世代と変わらないなって思います。情熱と挫折の繰り返しがあったりして。西田さん演じる今回の映画の主人公・青葉春子も、今の生活が結構楽しいし、否定するつもりはないけど、有名になっている昔の親友に羨ましい気持ちがあったわけですよね。

西田 そうですね、心のどこかでね。

樋口 西田さんは、多くの人から憧れられる人生を送ってきたと思うんですけど、ご自分ではどうなんでしょう。なりたい自分と違ったな〜なんて思ったりする時もありますか? 

西田 私はどうなりたかったのか記憶がはっきりないんです(笑)。でも、なりたかった自分とは違う気がします、なんとなくですけど。想像と違うところに来ちゃったな〜っていうのはありますね。
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「小さい頃から、安定した公務員になれって言い聞かされ育ってきました」(西田)

樋口 ご出身は広島県福山市ですよね。僕の妻も福山市の生まれなんです。今はコロナでなかなか帰省できないのですが、普段は年に1度、子供を連れて帰っています。いいところだなと思って。

西田 そうなんですね! でも、福山は何もないでしょ?(笑)

樋口 だけど珍しい作品が流れている小さい映画館とか、商店街や歓楽街的なものもちゃんとあって、それらがミニマムにまとまっているのが好きですね。日曜日になると、みんな広島の方に出ちゃうから平日よりひっそりしていたり。ここなら住めるって思いました。

西田  私も普段は年に1回お墓参りで親戚に会いに帰ってます。でも、のんびりした空気をたまに味わうぐらいが私にはちょうど良い気がします。

樋口 ワハハ! じゃあそういう思いもあって、高校卒業後に上京されたんですか?

西田 そうですね。ファッションを学ぶために、新宿にある文化服装学院という学校に入ったんですが、何とかして東京に出たかったんですね。

樋口 ご両親は、よく許してくれましたね。

西田 父が厳しくて、なかなか許してくれませんでしたね。うちは親戚一同公務員で、すごく硬い家なんです。小さい頃から、安定した公務員になれって言い聞かされ育ってきました。でも、高校2年生ぐらいになって「なんかおかしくない?」って思い始めて。

樋口 気づいちゃったんですね。
西田 で、どうしても家を出たくなって、この際東京に行くって言っちゃおうって。親の前で何気なく学校の資料をチラつかせたりして、色々頑張ってました。そしたら祖母が「いい加減行かせてあげたら」って言ってくれました。

樋口 東京は人が多いって思いませんでした?

西田 思いました。特に電車が怖くて。目白の自宅から新宿の学校まで、ぎゅうぎゅう詰めの山手線で通ったんですが、何回もお触りしてくる人に遭って(笑)。それで友達に相談したら「そういう人がいたらギュッと手をつねってやるんだよ!」って教えてくれて、それから毎朝、指をつねる格好にして山手線に乗ってました。

樋口 ワッハハ! つねりました?(笑)

西田 つねってないです(笑)。そういう時に限って、現れないんですよね。それに学校では宿題が本当に多くて、あまり遊べなかったですね。真面目に学生をやった感じです。

後編はこちらです

● 西田尚美 (にしだ・なおみ)

1970年、広島県福山市生まれ。CMや雑誌のモデルを経て95年、映画『ゲレンデがとけるほど恋したい。』に出演。97年初主演映画『ひみつの花園』で第21回日本アカデミー賞新人俳優賞他を受賞。近作に映画『凪待ち』『新聞記者』『五億円のじんせい』(すべて2019年)、『空はどこにある』(20年)、『あの頃。』(21年)。テレビでは『半沢直樹』、『にじいろカルテ』、『彼女のウラ世界』(すべて21年)。今後はNHK21年度後期連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』、映画『護られなかった者たちへ』、『かそけきサンカヨウ』などがある。最新作は映画『青葉家のテーブル』。

● 樋口毅宏 (ひぐち・たけひろ)

1971年、東京都豊島区雑司が谷生まれ。出版社勤務の後、2009年『さらば雑司ケ谷』で作家デビュー。11年『民宿雪国』で第24回山本周五郎賞候補および第2回山田風太郎賞候補、12年『テロルのすべて』で第14回大藪春彦賞候補に。著書に『日本のセックス』『二十五の瞳』『愛される資格』『東京パパ友ラブストーリー』など。妻は弁護士でタレントの三輪記子さん。最新作は月刊『散歩の達人』で連載中の「失われた東京を求めて」をまとめたエッセイ集『大江千里と渡辺美里って結婚するんだとばかり思ってた』
公式twitter https://mobile.twitter.com/byezoushigaya/

『青葉家のテーブル』

「フィットする暮らし、つくろう」をテーマに日々の暮らしに寄り添ったさまざまなコンテンツを発信する「北欧、暮らしの道具店」。2018年4月より既に600万回以上再生されている短編ドラマを長編映画化。
シングルマザーの春子(西田尚美)と、その息子リク(寄川歌太)、春子の飲み友達めいこ(久保陽⾹)と、その彼氏で小説家のソラオ(忍成修吾)という一風変わった4人で共同生活をしている青葉家。夏のある日、春子の旧友の娘・優子(栗林藍希)が美術予備校の夏期講習に通うため、青葉家へ居候しにやって来た。そんな優子の母・知世(市川実和子)は、ちょっとした“有名人”。知世とは20年来の友人であるはずの春子だが、どうしようもなく気まずい過去があり…。監督/松本壮史。6月18日より、TOHOシネマズ日比谷ほか、全国公開。
HP/映画『青葉家のテーブル』公式サイト

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