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2020.12.27

■辻 愛沙子/クリエイティブディレクター

辻 愛沙子「彼女の成長と成功を一緒に喜べる男性がカッコいい」

慶応大学在学中に起業し、数々の商品企画やブランドプロデュースを手掛け、若い女性を中心としたトレンド・カルチャーを創ってきたクリエイティブディレクターの辻 愛沙子さん。年の離れた大人たちと一緒に多くの仕事をしてきた辻さんが考える、カッコいい大人像とは?

CREDIT :

写真/トヨダリョウ 文/牛丸由紀子

「選挙に行ったらタピオカ半額」「ワンコイン・レディースドックの実施」など、世の中の課題をあぶりだしながら、世代が共感するクリエイティブで軽やかに社会を変えていこうと奮闘する話題のクリエイター、株式会社arca(アルカ)CEOの辻 愛沙子さん。

中学生で自ら希望して海外に飛び出し、帰国後は現役大学生でありながら、次世代の消費を支える若者を動かすべく、「社会派クリエイティブ」を標榜して起業。そんな人並外れた行動派の彼女が感じる「大人のカッコ良さ」とは?  若い女性の気持ちが気になるLEON世代の疑問を解くべく、お話を伺いました。

大人とは「自ら決断できる」と言う意味において自由であること

── 辻さんはビジネスの上では、自分の倍以上の年の方たちと仕事をすることも多いと思いますが、さまざまな大人たちと接してきて、辻さんにとって“大人”の定義ってなんでしょう?  カッコいいと思う大人像があれば教えて下さい。

 “大人”とは、自由であることだと思います。時間やお金に縛られないということもありますが、それ以上に、誰かの意思決定ではなく「自ら決断できる」という意味においてです。以前は、社会人になればそんなことは当り前だと思っていましたが、実際に仕事を始めて、何に価値があるかを他人に左右されず、自分で判断することがいかに大変かわかってきたんです。

例えば独立して起業するなど、自分で人生のアクセルを踏むのは、とても勇気がいることだと実感しました。だって人に依存した方が圧倒的に楽ですよね。でも、自分の人生を自分で責任取れる人が本当の大人だし、自分で決断できる強さとセットにあるのが本当の自由だと思うんです。

── ぶれない自分を持っているということですね。

 はい。さらに、自分のことだけではなく、周りの人や社会のことを自分の問題として捉えられることも必要だと思います。もちろん社会をひとりで変えることは難しい。でも「関係ない」と他人事にせず、勉強して考えてさらに未来のためのアクションができる。例えばそれこそ美味しいカフェやワインの話と同じように、社会で起きていることやちょっとした疑問について普通に話ができる人は素敵だなと思います。
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カッコいい大人は“正解”を押しつけない

── 確かに、確固とした信念があっても、自分しか見えない、自分だけでいいというのでは意味がありません。辻さんの周囲には、そういうカッコいい大人っているんでしょうか?

 まず私の師匠である牧野圭太さんという経営者ですね。私が勝手に師匠って呼んでるだけですが(笑)、本当に尊敬しています。

私は、大人になってもいまだに「空はなぜ広い?」みたいな正解のない話を考えるのがとても好きなんです。文化はどのようにして生まれていくのかとか、広告業界の起源はどこにあるのかといった、目の前の利益にすぐ直結するか分からないけれど知的好奇心として考えたいことがたくさんあって。仕事でも利益になるならないではなく、それこそ「幸せって? 組織とかマネジメントって?」と正解のない話を否定せず、ずっとできるのが牧野さんなんです。

上司・部下という立場や年の差があると、普通は良かれと思って「先生と生徒」みたいな関係になってしまうと思うんですが、牧野さんは“俺の正解”を押しつけてこない。私が何を大事にしているのかを理解して、「じゃあやってみれば」と背中を押してくれる。でも困った時には必ず助けてくれるんです。

── 辻さんを理解し信頼してくれる、心強いメンターなんですね。

 牧野さんは私にとって、キャリアの最初の上司でもあり、人生のメンターだと思っています。そして、実は今のプライベートでのパートナーもちょっと年上なんですが、そういうタイプなんです。自分自身が社会に対していろいろ疑問をもつことが多いんですが、そんな時に「男性側から見るとそれはどうなのか」とか教えてくれたり、「じゃあ一緒にできることは何だろう」と考えてくれる。私の問題をふたりの問題にして、ふたりの問題を社会の問題にして語り合ってくれるので、愛情だけではない信頼関係が生まれているなと思います。

女性を“俺がいないと生きていけない子”にしてはいけない

── それは、まさに辻さんにとって最高のパートナーですね。

 はい。でも「ふたりでひとつ」というのではなく、「一人と一人が一緒にいる」という感覚なんです。お互いが独立していられないって、やっぱり健全じゃないと思うんです。私は私、でもだからこそ彼と一緒にいられることが楽しいと感じるんです。

それと私は男性に対しては、お相手が年齢の離れている女性なら特に、“俺がいないと生きていけない子”にするんじゃなくて、彼女が成長して成功していく過程を一緒に喜べる人であってほしいと思います。そういう人には余裕を感じますし、その余裕は彼自身が自分の人生を生きているからこそ生まれているはず。そういう人こそカッコいいと思います。

── それはまさにLEON世代のオヤジさんたちが、若い人とどうつきあったらいいかの大きなヒントになるかもしれません(笑)。

 彼女のためにできることがあれば、ついつい何かしてあげたくなるというのも愛だと思います。でも、子どもでも足を汚してはいけないと、だっこばかりしていたら、いつまでたっても歩く力はつかないですよね。それって彼女の人生を考えたら、絶対正しいことではない。いい関係性を築くには、お互いの人生を尊重することが前提だと思います。
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お互いの人生のファンであるような関係が理想

── その考えがどんなところから生まれたのかが気になります。ご自身の体験からでしょうか?

 両親の影響が大きいかもしれません。ふたりとも働いていて、お財布も別々。それこそ自分のクルマは自分で買うし、自分のキャリアは自分で作っていく。自分たちの趣味や欲しいものがあって、それぞれの人生を楽しんでいながら、でもお互いのことを信頼しあっていて、困った時は助け合いながら夫婦関係を作っている。そして家族も大好きという家庭なんです。

── お互いに依存するのではなく、相手は相手、自分は自分と、違う考え方をもつ相手を尊敬しているんですね。

 父と母が、お互いの人生のファンという感じなんですよね。相手の人生を自分の人生として考えるというより、舞台に立つ相手に対し、自分は一番前の真ん中の席に陣取って一番デカい花束を投げる、みたいな(笑)。観客のムードや表情はきっと役者に影響はあると思いますが、演じているのは自分だというところは揺るがない。私もそうありたいし、そういう相手なら、ちょっとでも大きな花束を投げてもらえるようにきっと頑張れると思います。

── 理想の大人のロールモデルがご両親なんですね。身近にそういう大人がいるのはすごく大事なのでは?

 特に大人になってから、本当に大事だと気がつきました。なにしろ子供の頃は、両親が共働きで留守番も多かったので、ひとりで過ごす時間の中でなかなかそこに気づけなくて。でも私が中学生の時、いきなり海外で勉強したいと言ったり、大学在学中に仕事を始めてそのまま入社してしまったり、起業することだって普通なら相当心配されると思うんですが、最初は驚いても結局「同じ血筋だから」と諦めてくれる。
── 辻さんがどんなことをしても自分たちと同じだと(笑)。否定せずに、ちゃんと理解してくれるというわけですね。

 それでも、私、大学生時代は原宿カルチャーが好きで、ラベンダーの髪でツインテール、パステルの服に厚底靴なんて感じだったので、かなり心配されてたかも(笑)。 喧嘩もしたし、親としては私にこうあって欲しいということもたくさんあったはず。でも子どもだろうと、ひとりの人生だということは尊重してくれました。そのおかげで、結果的にはその時の経験が若者層に対する強みをもった今の仕事にも繋がっているんです。
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海外体験で気づいた“共通した普通”の幻想

── これまでも若者の投票率向上を意図したタピオカのキャンペーン、検診受診率向上のためのワンコイン・レディースドックなど、社会に問題提起をするクリエイティブを展開しています。先ほど自分と違う考えをもつ人を尊重することが大事とも話されていました。そういう社会や他者への視点はどう築かれてきたのでしょうか?

 一番大きいのはやっぱり海外へ出たことですね。それまではエスカレーター式の厳しい女子校だったんです。同じような家庭環境をもった子たちばかりが、幼稚園からずっと一緒。もちろん制服は靴下からすべて決まっているし、まさに同質性のかたまりですよね。家族のような関係性で本当に楽しかったんですが、こんなに偏った世界しか知らなくていいのかな……と不安になることもあって。

でも、今もそうですが、そもそも私は好奇心ドリブンで生きているような性格なので、そこから飛び出してまったく違うところに行きたいと思ったんです。それで人種も宗教も言語も異なる生徒が世界中から集まるスイスの学校を自分で調べて、両親にこういう理由で行かせてくれとプレゼンしたんです。

── それはすごい! それを許すご両親もやっぱりすごい(笑)。その思いが叶い海外に出られたわけですが、実際はどうでしたか?

 もう、自分が信じていたものや普通だと思っていたことが、何ひとつ通用しない世界で、これまで当たり前だったことは全部壊されました(笑)。お米と生魚を普通に食べる、周りにしてみれば不思議な私のような日本人もいれば、朝からお祈りすることが日課の子もいるし、保護者会にイタリアからヘリで来るのが当たり前という人もいる(笑)。

そういうこともあるんだねという相互理解から始めないと、会話が成立しないんです。ひとりひとりに“普通”というものがあるだけで、“共通した普通”なんてないということを体感させられましたね。
── そうやって若い頃から海外を体験して気がついた、日本の大人と海外の大人の違いってあるんでしょうか?

 明確に違うのが、社会のことについて語るか語らないかですね。海外では、大人たるもの社会のことを考え、議論するのは当り前。日本では口に出すこともあまりしないですし、対話したとしても、意見が異なると“議論”ではなく“戦い”になってしまう。

選挙なんてまさにそうだと思うのですが、どちらが正解ってないですよね。その人から見た理想があるだけで。自分の背景や自分が人生で大切にしたいモノについての正解はありますが、それはみんな違うじゃないですか。ただそれが、日本では「正解vs不正解」とか「正義vs悪」のような単純な二項対立になってしまうことが凄く多いなと感じています。
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大人は若者の“師匠”になっても“先生”になってはいけない

── でも、辻さんの周囲にはそうじゃない理想的な大人たちがたくさんいたわけですね。そういった大人との良い出会いは辻さんにどんな影響をもたらしてきましたか?

 私がこうすべきだという考えに対し、目の前にある「社会が敷いたレール」を解体してくれる大人たちがいたんだと思います。自分ひとりでそのレールを剥がそうとすると、時間もかかるし声も届きにくい。でも、彼らが一緒になって解体して自由にさせてくれた。そんな大人がいたことは本当にうれしいです。

私もメラメラ燃えて走っているように見えて、実は不安になったり、くじけることが日々たくさんあります。もしかしたら二日に1回ぐらいあるかも(笑) 。でもそんな時に、彼らが「絶対大丈夫だから」と言ってくれるだけで、大きな力になっています。『鬼滅の刃』の煉獄杏寿郎みたいに「心を燃やせ」と言われた気持ちになっちゃいます(笑)。

── 辻さんに明確な信念があるからこそ、まわりもレールを敷くのではなく、新たな道を作って欲しいと信じるんだと思います。

 サポートしてくれる方や理解してくれる方に出会い、その方々が私の存在を尊重してくれることは、本当にありがたいですね。

人生は一度きりで、それは自分だけが生きている人生。だから本当は他人の正解なんてわからないはず。でも普通の大人はもってる知識とか知恵だけがついつい正解だと思って、それを若い人に良かれと思って押し付けようとしがちです。だけど、それだけでは相手に成長はないと思います。時代に応じて常識は変化し続けますし、特にビジネスにおいては、型はあれど正解はないはずです。教科書からアップルは絶対生まれないですから。

スゴいと思う大人は、師匠にはなっても絶対先生にはならず、常に探求心をもち、学び続けてる気がします。いくつになっても好奇心を絶やさず、自分の足は絶対止めない、私もそんな大人になりたいと思っています。

●辻 愛沙子(つじ・あさこ)

1995年11月24日、東京都生まれ。arca(アルカ)代表取締役社長、クリエイティブディレクター。中高時代をイギリス、スイス、アメリカで過ごし、在学中からアート製作を精力的に行う。大学入学時に帰国し、慶應義塾大学に入学。SFC在学中にエードット(現カラス)に入社し、以降、ナイトプールなどのリアルイベント、スイーツなどの商品企画、ブランドプロデュースまで、幅広いジャンルでクリエイティブディレクションを手がけ、若い女性を中心としたトレンド・カルチャーを創る。2020年春、女性のエンパワメントやヘルスケアを促す「Ladyknows」プロジェクトを発足。現在、報道番組『news zero』(日本テレビ)のレギュラーコメンテーターを務める。

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