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2020.11.13

【第5回ゲスト】伊藤沙莉(女優)

伊藤沙莉「陰湿にゴミを漁るとか、人を不愉快にする役を演じてみたいんです」

世のオヤジを代表して作家の樋口毅宏さんが今どきの才能溢れる美人に接近遭遇! その素顔に舌鋒鋭く迫る連載。第5回目のゲストは、俳優の伊藤沙莉さん。個性的なハスキーボイスと確実な演技で大注目。映画にドラマにCMにと、芸能界でひっぱりだこの、今最も旬な女優さんです。

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写真/内田裕介 構成/井上真規子 スタイリング/吉田あかね ヘアメイク/AIKO 撮影協力/東京プリンスホテル

『さらば雑司が谷』『タモリ論』などの著書で知られる作家の樋口毅宏さんが、才能のある美しい女性の魅力を掘り出す、新連載対談企画「樋口毅宏の手玉にとられたい!」。 

第5回のゲストは、俳優の伊藤沙莉さん。9歳でドラマデビューを果たし、以来数多くの作品で活躍。連続テレビ小説『ひよっこ』(2017)で幅広い世代にも認知されるようになり、映画『獣道』(2017)、Netflixドラマ『全裸監督』(2019)など話題作に次々出演。さらに11月には、『タイトル、拒絶』、『ホテルローヤル』など立て続けに映画が公開され、その人気はとどまることを知りません。

個性派女優としての地位を確立しつつある伊藤さんにぜひ、会ってみたかったという樋口さんの念願が叶い、今回の取材が実現しました。幅広い女性層の支持を集める伊藤さんの素顔に迫ります。

「伊藤さんは頭が良すぎて、大人からするとちょっと怖い子どもだったかも」(樋口)

樋口毅宏(以下:樋口)
つ、ついに念願が叶いました! ドラマ『その「おこだわり」私、にもくれよ‼︎』で伊藤さんを初めて見た時、その図抜けた存在感、佇まい、声、すべてに圧倒されました。只者じゃない人が現れたと感じて、ずっとお会いしたいと思っていました。すごいね!って今までにも、言われてきたんじゃないですか?

伊藤沙莉(以下:伊藤)
ありがとうございます! うれしいです。確かに存在感については、何度か比較的良い感想を頂けたことがあるかもしれないです。

樋口 あれから伊藤さんの露出量はどんどん増えていって、着実に名を挙げられているじゃないですか。自分の見る目は正しかったんだなと思いましたよ。

伊藤 そう思っていただけるのはとても光栄です(笑)
樋口 僕は今回、伊藤さんに会えることになって『その「おこだわり」、私にもくれよ‼︎』(2016年放送のドラマ)の松江哲明監督に、伊藤さんの印象を伺ってみたんですよ。パパ友なんで。

伊藤 松江監督!! パパ友なんですか! 緊張するなあ(笑)

樋口 「伊藤さんはすごく頭のいい人で、演出の先を読んでいる。撮りながら、面白い俳優と感じてどんどん出番が増えた。俳優としての素質がある人」とのこと。人間観察力があるのだろう、と言ってました。

伊藤 うれしいです! 確かに人を見るのは面白くて好きです。趣味というほどでもないですが、興味をもった相手はすごい見ちゃいますね。
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樋口 やっぱり! もしかして、小さい頃から大人の顔色とかよく見ちゃうような子供でしたか?

伊藤 ものすごく見てましたね(笑) 

樋口 ワハハ! 語弊があるかもしれないけど、伊藤さんは頭が良すぎて、大人からするとちょっと怖い子どもだったかもしれない。

伊藤 私はわかったと思ったら聞きたい人だから「今、こう思ってると思うんだけど、どうして?」とか小さい頃から母に聞いたりしてました。向こうにしたら「わかってても言わないでよ」みたいな(笑)、可愛くない部分があったと思いますね。

樋口 ハハハ! 我が子ながら隠し事ができないという。そうやって小さい頃から耳で聞いて経験値を得ていたんでしょうね。実際、耳から得たものは女優のお仕事にも生かしている?

伊藤   セリフのニュアンスで迷った時、今まで出会ってきた面白い人を頭の中から引っ張り出して、この人にこのセリフを言わせたら面白いかもって当てはめながら真似したりしますね。例えばやりすぎて滑るなと思ったら、あの人みたいにさらっと面白く言うといいかも、みたいな。

「映画で見た樹木さんの背中が“すごくよく喋っている”と感じて」(伊藤)

樋口 伊藤さんは初めから女優志望だったんですか? 耳がいいというところで、トークするお仕事とか他の職業は考えなかった?

伊藤 初めはダンサー志望でした。そこから歌も練習するようになって、当時はどちらかというと音楽の方に進みたかったんです。

樋口 リズムや間の取り方とか、音楽を経験している人の方が圧倒的に演技がうまいって聞きますものね。
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── デビュー作は、ドラマ『14ヶ月』ですよね。

伊藤 初めての役は、9歳の時で36歳の女性でした。若返りの薬を飲んでしまった36歳の女性科学者が、恋をする度にどんどん若返っていくという話。子供の容姿だけど、台詞は全部大人という。私、何言ってるんだろう? と思いながらやってましたね(笑)

樋口 最初から相当難しい役ですね。目指している俳優さんはいますか?

伊藤 目指しているというのはおこがましいですけど、ずっと憧れていて、リスペクトしていたのは、やっぱり樹木希林さんです。共演させていただくのがず~っと夢だったんです。もう叶えられなくなってしまったのですが……。

樋口 素晴らしい俳優さんです。樹木希林さんのどういうところに憧れたのでしょう?

伊藤 以前から自分の中で絶対的な存在ではあったんですが、大人になってから見た『悪人』という映画で、樹木さんの背中が“すごくよく喋っている”と感じて。この人は、人生を背中に背負っているんだなって。それで生意気ですけど、いつか樹木さんみたいな背中で演じられる俳優になりたいと思うようになりました。
樋口 樹木さんの背中からそれを感じ取れる伊藤さんもすごいです。もう共演できないのは残念ですね。

伊藤 本当にご一緒したかったですね。

樋口 旦那さんの内田裕也さんは破天荒で、樹木さんの人生も波乱万丈のものに巻き込まれていきました。俳優としての裕也さんは、わがままで自分本位な役をやらせたら日本一で。こんな風に生きられたら、って僕の憧れでもあります。今の時代では許されないでしょうけど。

伊藤 あのふたりだからこそカッコいいんですよね。

樋口 もし裕也さんと結婚したら、あれだけの女優人生が約束されるとしたらどうします? 自ら重荷を背負ってそれを背中に反映させるという。

伊藤 アハハハ!! 私はプライベートで悩みがあると仕事にも影響しちゃうタイプなので、うまくいかないんじゃないかな。離婚するか仕事やめるか、どっちかやめちゃうかも。
樋口 俳優は辞めないでくださいよ! 映画界に大きな損失をもたらしますから。

伊藤 ありがたいお言葉ですが、多分そうならないと思うので大丈夫ですよ(笑)。それぐらい惚れられる男性がいたら、それはそれで素敵だと思いますけどね。なかなかいないですよ(笑)
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「見ている観客が、その人物の過去や未来が気になるようじゃないとダメ」(伊藤)

樋口 11月13日公開の映画『タイトル、拒絶』でも、体当たりの演技をされていますね。世界観に溶け込む力が優れていて、伊藤さんの演技を見ていると、初めからその役の人生を生きていて、観客がその人生の一場面を覗いているという感じがするんです。

伊藤 それはものすごくうれしいですね。映画やドラマではワンシーンしか見せないですが、本当ならば登場人物の人生は、そのシーンの前にも後にも続いているはず。見ている観客が、その人物の過去や未来が気になるようじゃないとダメだなと思って演じています。

樋口 本当にその通りですね。優れた作品というのは見終わった後も「あの人たち、どうなったのかな?」って考えさせる力をもっている。それを思うようになったのはいつからですか?
伊藤 高校生の頃に、地元の友達が「この俳優の演技は好きじゃない。ドラマを見ているんだっていう現実に引き戻される」と言っていてハッとさせられて。全然業界に関係のない友達は素直な意見を言ってくれるので、実は気づかされることが多いですね。

樋口 はあ~、なるほど。

伊藤 観客は出ている人たちの人生を覗き見しているぐらいの方が、感情移入できるし、一緒にハラハラできて楽しいじゃないですか。友達はそれを奪われて怒ったんだなって。それから、その部分が演技の軸になりました。

樋口 やっぱり観察力がハンパないです。すごい地頭の良さを感じます。自分の中の哲学があって、日々更新もちゃんとしている。まさに、ナチュラルボーンアクトレスですね! 

「伊藤沙莉って役者自体が嫌い! ってなったら面白いじゃないですか」(伊藤)

樋口 同じく13日には、映画『ホテルローヤル』も公開されます。相変わらず引っ張りだこで。こちらでは、女子高生を演じられています。僕の中で「伊藤沙莉はいつまで制服を着るのだろう問題」っていうのがあって。

伊藤 ハハハ。私は今回が最後だと思ってます。でも童顔って不思議で、子どもっぽく見えるんですけど、逆にすっごい老けて見える時もあって。だからそこはむしろこのお仕事やる上では、ツイてたなって思います。
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樋口 確かに。俳優として幅が広がりますね。だからなのか、伊藤さんのファン層も幅が広いじゃないですか。僕みたいな年が倍くらいあるオジさんからの後押しを得つつ、同性からの支持もすごくありそうです。

伊藤 年齢問わず女性のかたが多いですね。姪っ子感なのかな?

樋口 いい意味でサバサバ、さっぱりした雰囲気があるからなんだと思います。

伊藤 すっごくそう思われるんですよね。でも実際は、サバサバのサの字もないくらいめちゃくちゃ乙女脳で、粘着質(笑)。小さいことも年単位で悩むし、めちゃくちゃ気にしい。姉御肌みたいに言われるけど、末っ子で生粋の妹気質です。

樋口 意外です! 自己像と世間の伊藤沙莉像に乖離があるんですね。

伊藤 イメージは本当にかけ離れていて、自分でもよくわからなくなることがあります。こうやって樋口さんのように期待して会ってくださる方を裏切るんじゃないかって怖いんです。

樋口 裏切るだなんて(笑)。プロレスラーのヒール(悪役)がみんないい人っていうのと同じですね。実際は逆という。
伊藤 あ、でも小さい頃から相談はすごくされます。人にはなんでも言えるんですよね(笑)。みんなそうなのかもしれないですけど。

樋口 なんかわかる気がします。
▲ワンピース1万4000円/TODAYFUL(LIFE's代官山店 TEL 03-6303-2979)、ネックレス1万5000円/FUMIE TANAKA(DO-LE co ltd. TEL 03-4361-8240)
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伊藤 女の子の相談に乗るのは上手いと思います。女の子って相談してきたことに対して私が「これって絶対Aだよね」ってAをチラつかせると、「でも私はBだと思うの」とか言うじゃないですか! 「あれ? 相談じゃなかったの? 意見聞かせたかったならそういって?」ってなるんですけど(笑)。だからAを出してBだなと思ったら速攻Bに切り替える能力だけは身につけましたね。そこはもともと「Bを出す予定でしたよ」と言う顔で(笑)。

樋口 ワッハハ! 空気読む力と反応の速さが半端ない。やっぱりめちゃくちゃ頭がいい。これから演じたい役はありますか? 個人的には韓国映画とかにも出て欲しいな~と。

伊藤 新しいことをやるのが好きなので、機会に恵まれたら韓国映画にもぜひ挑戦してみたいですね。あとは私、今まで役で世間を裏切ってこなかったので、思いっきり裏切ってみたいんです。最近は良い後輩役とかをやらせて頂くことが多いので、いま、世間の方々が私にどんなイメージを抱いているかわからないですが、それがベースになっているのであれば、そこをぶち壊したい。役でつけたイメージは役で壊さないと次に行けないじゃないですか。例えば陰湿にゴミを漁るとか、そういうのでもいいんです(笑)

樋口 主役を務めた『獣道』も突き詰めたなあと思いますが。

伊藤 『獣道』の愛衣は、親からの愛に飢えた女の子だったけど、その分お客さんに愛されたんです。愛衣って一生懸命生きてきた子だ、可哀想な子だとか。パンチのある作品でしたが、愛衣自体はなんだかんだ人を不愉快にさせてないじゃないですか。だとしたら不愉快な気持ちにもさせたいんですよ(笑)。もちろん役で。

樋口 挑戦的ですね~!(笑) 若い俳優さんで、その発言はなかなかできないことですよ。勇気と度胸があります。

伊藤 本当は皆に好かれたいですよ。でも世間が「何これ? 伊藤沙莉って役者自体が嫌い!」ってなったら面白いじゃないですか。

樋口 型にハマろうとしてないんですね。伊藤さんはこんなこと言われたら嫌かもしれないけど、次の安藤サクラはあなたです! 自信をもって言えます。

伊藤 それは恐れ多いです(笑) 

【対談を終えて】

いや、凄かったですね。地アタマの良さ、キュート、反応力、人間的魅力を具現化したような方でした。間違いなく後世において名を残す俳優とお会いできて楽しかったです。対談ではあんな風にお話しましたが、新世代の「内田裕也」と結ばれてこの時代の「樹木希林」をめざすより、これからも「伊藤沙莉」の道を邁進して下さい。おじさんは陰ながら応援しています。
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● 伊藤沙莉 (いとう・さいり)

俳優、声優。千葉県出身。1994年生まれ。2003年放送の『14 ヶ月~妻が子供に還っていく~』(NTV)で子役として9歳で芸能界デビュー。『みんな昔は子供だった』(2005)、『女王の教室」(2005)などの人気ドラマを経て、日本アカデミー賞受賞映画『幕が上がる』(2015)に出演。さらに連続テレビ小説『ひよっこ』(2017)で幅広い世代にも認知される。最近では、映画『獣道』(2017)、Netflixドラマ『全裸監督』(2019)など話題作に次々出演。今年11月には、主演した映画『タイトル、拒絶』、『ホテルローヤル』など立て続けに出演作が公開されている。

● 樋口毅宏 (ひぐち・たけひろ)

1971年、東京都豊島区雑司が谷生まれ。出版社勤務の後、2009年『さらば雑司ケ谷』で作家デビュー。11年『民宿雪国』で第24回山本周五郎賞候補および第2回山田風太郎賞候補、12年『テロルのすべて』で第14回大藪春彦賞候補に。著書に『日本のセックス』『二十五の瞳』『愛される資格』『東京パパ友ラブストーリー』など。妻は弁護士でタレントの三輪記子さん。最新作は月刊『散歩の達人』で連載中の「失われた東京を求めて」をまとめたエッセイ集『大江千里と渡辺美里って結婚するんだとばかり思ってた』
公式twitter https://mobile.twitter.com/byezoushigaya/

■ 『タイトル、拒絶』

舞台演出家、脚本家として活躍する山田佳奈監督が自らの同名舞台を映画化。雑居ビルにあるデリヘル事務所で、世話係として働くカノウ(伊藤沙莉)を中心に、それぞれ事情を抱えながらも力強く生きるセックスワーカーの女たちの姿を描いた群像劇。2019年の第32回東京国際映画祭「日本映画スプラッシュ」部門に出品され、主演の伊藤さんは東京ジェムストーン賞を受賞。新宿シネマカリテ、シネクイントほか全国順次公開中。©DirectorsBox
HP/http://lifeuntitled.info/

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