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2026.10.01

井口 理(King Gnu)インタビュー。「物事をノーではなくイエスで受け止めることで、不安症を少しずつ克服できた」

King Gnuのボーカル&キーボードを務め、さらに俳優としても飛躍を続ける井口 理さん。主演した映画『逃げろお嬢さん』を通して考えるファンとの関係性や、SNSのコミュニケーションについて、カッコいい大人像など、彼のリアルな思考にたっぷり迫ります。

CREDIT :

写真/土屋崇治(TUCCI) スタイリング/Shohei Kashima(W) ヘアメイク/木村一真(skavati) 文/飯田帆乃香 編集/鎌倉ひよこ、森本 泉(Web LEON)

井口 理  King Gnu  逃げろお嬢さん LEON

『国宝』『横道世之介』で知られる吉田修一の短編小説『逃げろお嬢さん』が、伊藤ちひろ監督により映画化。King Gnuの井口 理さんが、学生時代から推していた元アイドルのために、空回りしながらも奔走する主人公の康太を熱演しています。 作品のことはもちろん、映画を通して考えるファンとの関係性や、 SNSのコミュニケーションについて、自身のプレッシャーとの向き合い方に至るまで、じっくりとお話を伺いました。

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ファンとかアイドルといった肩書きの前に、誰もがひとりの人間

── 『逃げろお嬢さん』の原作となる短編小説、そして今回の映画の脚本を読んだ時、それぞれどのような魅力を感じられましたか?


井口 理さん(以下、井口) 原作で印象的だったのが、登場人物二人の関係性です。元アイドルの鮎川舞子と、そのファンの康太がどうリンクして、物語に重なっていくのか。その描かれ方がすごく魅力的な作品だと思いました。映画の脚本には、ラジオの音声とともに過去のシーンを振り返ったり、ふたりの会話を肉付けしたりして、原作にはない場面がロマンチックに組み込まれていて。これもまた、読み応えがありましたね。


── 伊藤ちひろ監督とタッグを組むのは今作で3度目になります。


井口 改めて感じるのは、人間の滑稽な瞬間を拾い上げる監督の巧みさです。例えば、どんなに辛い状況でも不意に笑ってしまったり、静かなところでお腹が鳴って恥ずかしくなったり……。そういう何気ない日常を描ける方なので、この映画にもところどころ、クスッと笑えるようなスパイスが入っています。


ただ、過去二作品は抽象的な表現が多かったんですよね。それが僕たちの中で反省点になったので、今回は「観ている人に伝わらなければ意味がない」という意識をしっかり監督と共有して臨みました。

井口 理  King Gnu  逃げろお嬢さん LEON
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── 井口さんは音楽活動もされる傍ら、俳優としてドラマや映画の出演も絶えません。お芝居への向き合い方は以前に比べて変化しましたか?


井口 変化はしていると思います。前は、マルチに活躍されているミュージシャンの方を見て、自分も歌とお芝居を両方できないといけないかなと気負っていました。ちょっと、引くに引けなくなっていたというか。でも最近は、純粋にお芝居を楽しめるようになりました。現場で初対面の方々とプライベートな話を交わさずとも、芝居を通じて心が通い合う感覚があるんです。その一種のコミュニケーションの成立に、俳優業の純度が高くなった気がします。技術的な巧拙は別としてですが。


── 今作で演じられた康太は、学生時代からファンだった元アイドルの舞子を必死に助けようとします。その真っ直ぐな姿には技術を超えた説得力がありましたが、役柄をどう捉えて演じられましたか?


井口 康太は今どき珍しいほどピュアな青年です。世間のしがらみやSNSとは無縁の自然豊かな場所で、自分の世界を生きている。舞子とはまったく違うベクトルにいるからこそ、ファンと神格化されたアイドルという枠組みを超えた、新しい関係性を表現できたらと思いながら演じました。

── 井口さんも応援される側の立場ですが、「新しい関係性」とはどのようなイメージでしょうか?


井口 ファンとかアイドルといった肩書きの前に、誰もがひとりの人間で、それぞれに抱えているものがあります。僕自身、他のアーティストの作品や楽曲そのものを好きになるタイプなので、その人の性格を理解したつもりになったり、活動のすべてを追いかけたりする応援の仕方には、あまり馴染みがなくて。だから康太を演じながら、中学時代に聞いていた好きな曲とか、たまに思い出すお世話になった人とか、そういうありふれたものが人生の支えになる尊さを、観る人にも再確認してほしいという願いを込めました。


そんな自分の中の支えを、何があっても信じ抜く覚悟みたいなものが康太の行動に表れています。人生の苦しい時期に支えてくれた恩人や友人のような存在が、康太にとってアイドルの舞子だった。そこには普遍的な情愛、いわゆる「推し」という言葉だけでは括りきれない、人と人との絆の本質があるように思います。

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井口 理  King Gnu  逃げろお嬢さん LEON

── SNSが主流になり、心を通わせる難しさを感じる現代人も多いのではないでしょうか。


井口 SNSは損得勘定や誹謗中傷に溢れているので、一定の距離を保つことは大事だと思います。もちろん人と繋がるうえで便利ではあるけど、やっぱり画面越しではなく対面で話したほうが、お互いの理解が生まれやすいですよね。


── 画面越しの言葉にはない、対面だからこそ伝わる本音や体温は、生身の人間ならではです。


井口 相性の良し悪しはあるにせよ、実際に会ったほうが人の心に変化が生まれる。そこから関係が動き出すのは確かだと思います。


── 普段、井口さんはSNSの反応をご覧になりますか?


井口 自分の活動の情報解禁後に目を通す程度です。もしかして、叩かれてないかな……って(笑)。でも最近は、それを見てもいい意味で響かなくなりました。画面の向こうの言葉が本音なのか、機械的なものなのかもわからないので、そこはちゃんと心の距離を置けるようになっています。

── 鮎川舞子を演じた深川麻衣さんは、まさに元アイドルという経歴をお持ちです。現場での印象はいかがでしたか?


井口 それこそ、実際にお会いしてみると画面ではわからなかった魅力をお持ちの方でした。撮影の合間も壁を感じさせることがなく、思ったことを素直な言葉で伝えてくれる自然体な方、という印象です。


── 偶然にも、ロケ地は井口さんの地元に近いそうですね。緑が生い茂る長野県の景色も本作の見どころのひとつです。


井口 生まれ育った伊那市で撮影する時もあったので、実家に帰ってきたようなニュートラルな気持ちで演じることができました。


── 地元・伊那市の自慢をぜひ教えてください。


井口 住民の柔らかい人当たりも心地いいですし、小高い場所から一望できる南アルプスの景色も格別です。

── 劇中には、舞子が康太に対して「匂いが違う」と言う台詞もありましたね。


井口 そこは共感しました。僕の実家にも薪ストーブがあって、薪割りを手伝った時に薪の香りが服に移るんですよ。山の匂いみたいなものは、そこに住む人たちに沁みついています。

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井口 理  King Gnu  逃げろお嬢さん LEON

自分の発言を忘れがちだからこそ、常に嘘のない生き方を心がけている

── 音楽や俳優業とお忙しい中、仕事と私生活を切り離すオフのスイッチはありますか?


井口 ありきたりなんですけど、家に帰って愛猫の顔を見ると切り替わります。


── 休日の趣味を教えてください。


井口 筋トレとかウォーキングとか、サウナとか、健康的なことをやっている時に幸せを感じます。ここ2年くらいで、時間をみつけては身体を動かすことが好きになりました。


── 芸能界にサウナ仲間がいらっしゃるとか?


井口 全然いないです。人前で裸になるのが気恥ずかしいので(笑)。

── 運動が好きになったきっかけはなんですか?


井口 『逃げろお嬢さん』が決まってからです。康太をちょっとストイックな体で見せたかったので、身体づくりで始めたらハマりました。


── そういうオフの時間は仕事にも良い影響を与えていると思いますか?


井口 そうですね。仕事にもメリハリが出る気がします。あと週1の晩酌もいい気分転換のひとつ。本当はもっと飲みたいんですけど……(笑)。それくらいに留めて、飲む時は思いきり楽しんでいます。

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井口 理  King Gnu  逃げろお嬢さん LEON

▲ シャツ1万7380円/NOILL、その他はスタイリスト私物

── プレッシャーがかかった時に、心を整えるマイルールを教えてください。


井口 もともとすごい不安症だったんですよ。でも昔、お芝居を教わった方に言われた「起きたことに対して『ノー』と言わず、まずは『イエス』と受け止めるのが大事だ」という考えを大切にしてからは、ラクになってきました。要するに、相手が台本とまったく違うアドリブをしたら、その時に「急に何をやってるんだ」と突っぱねるのは簡単だけど、そうじゃなくて「お、面白いな」と一度受け入れて、そこから反応していくということ。


これをやってみると理にかなっていて、音楽とか日常生活にも落とし込めると思いました。だから日頃から、予定通りにいかないことがあっても否定から入らず、まず受け入れるようにしています。


── 紅白歌合戦やドームツアーなど、大舞台で歌う時もそのマインドは生かされていますか?


井口 「歌詞を間違えてもいいや」くらいの気持ちで構えられるようになりました。開き直っているわけではないのですが、そうやってバランスをとっています。

── 肩の力が抜けるとパフォーマンスが向上するとも耳にしますし、やはり理にかなっているんですね。ところで、井口さんにとって“カッコいい大人像”とは?


井口 筋を通せる人がカッコいいです。本当に大事な芯の部分だけは譲らない人。自分の中に「これをやったら格好悪い」という境界線をはっきり持っている人に憧れます。


── 井口さんの芯の強さはどこだと思いますか?


井口 僕は過去に言ったことを忘れてブレてしまうこともあるので、なんとも言えないんですけど……。でも、嘘をつかないことは心がけています。以前、プロデューサーの鈴木敏夫さんも「嘘をつくのが一番疲れる」とおっしゃっていて、すごく納得しました。嘘をつくと、それを隠すためにまた嘘を重ねなきゃいけないし、辻褄を合わせるのもしんどいですよね。僕は自分の発言を忘れがちだからこそ、常に嘘のない生き方を心がけています。


だから面白くもないのに愛想笑いをしたり、求められるリアクションに無理に合わせたりするのも、ちょっと胡散臭く感じます。そういう些細な感情表現もごまかさないようにしようと思えたのは、今僕の周りにいる誠実な人たちの影響です。だから無理に飾らず、等身大の自分でまっすぐ生きていくのが人生のテーマです。

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井口 理  King Gnu  逃げろお嬢さん LEON

── 勝手なイメージですが、ミュージシャンの方は一本筋が通っている人たちが多い気がします。


井口 言われてみると、確かにそうかもしれません。自分たちの作るものにブレがあると、作品そのものが嘘っぽくなってしまうので。


── なるほど! では井口さんが実際に「カッコいいな」と思っている人は誰ですか?


井口 バンドメンバーです。あと他のミュージシャンもそうですし、こうやって現場で会う人たちもみんな、いつもカッコいいなと思って仕事をさせてもらっています。

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井口 理  King Gnu  逃げろお嬢さん LEON

●井口 理(いぐち・さとる)

1993年10月5日生まれ、長野県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科を卒業後、4人組ロックバンド・King Gnuのボーカル&キーボードとして始動。2019年にアルバム『Sympa』でメジャーデビュー。『白日』のメガヒットをはじめ数々の音楽チャートを席巻し、バンド史上最速で5大ドームツアーを達成する。俳優としても精力的に活動を展開し、舞台『キャッシュ・オン・デリバリー』で初舞台・初主演を務める他、映画『劇場』『余命10年』、2026年10月スタートのドラマ『LOST10』などに出演。また、ナレーションやラジオパーソナリティなど幅広く活躍する。

井口 理  King Gnu  逃げろお嬢さん LEON

『逃げろお嬢さん』

親の跡を継ぎ、つつましく山荘を営む青年・康太。代わり映えのない日常を送る彼の前に、おかしな挙動を見せる一台の車が現れる。心配して駆け寄った康太が目にしたのは、高校時代から人生の支えとして推し続けてきた元アイドル・鮎川舞子の姿だった。折しも世間では、舞子の夫が薬物で逮捕され、彼女自身も行方不明になっているというニュースが列島を駆け巡ったばかり。しかし康太は事情を知らないふりを装い、これまで希望をくれた彼女を守るため、自分にできるすべてを捧げようと決意する。しその純粋すぎる思いと大きな勘違いが、事態を思わぬ方向へと転がしていく――。『国宝』『悪人』の吉田修一による短編集『逃亡小説集』所収の「逃げろお嬢さん」を、伊藤ちひろ監督が映画化。主人公・康太を演じるのは、『ひとりぼっちじゃない』に続き主演映画2作目となる井口理(King Gnu)。康太の人生を照らし続けた元アイドル・鮎川舞子役には、繊細な表現力で注目を集める深川麻衣。ただひたすらに相手を信じ抜こうとする男の姿が引き起こす、切なくも温かい小さな奇跡の一日を描き出す。

配給/NAKACHIKA

公式HP/https://nigeroojosan.com/

※掲載商品は税込み価格です

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