美しい人、瀬戸朝香。「19歳で演じた不倫する26歳の女性役。監督には色気を感じないと怒られたけれど」

グラビアと言えば女性の若さとボディを売りにした企画が多いなか、女性であるKaori Oguriさんをプロデューサーに据え、豊かな人生経験を持つ女性たちの、内面から醸し出される“大人の美しさ”に迫る、ファッションと融合した新たな連載グラビア企画「美しい人」。

第8回のゲストとしてご登場いただいたのは瀬戸朝香さんです。1994年、ドラマ「君といた夏」のヒロインとしてブレイク、その後も「Age,35 恋しくて」、「成田離婚」など数々のトレンディドラマで活躍した瀬戸さん。その後、結婚、出産、子育ての休業期間を経て、改めて昨年から女優としての活動を再開しました。変わらぬ若々しさが印象的な瀬戸さんの「美しさ」の秘密とは？

── 瀬戸さんといえば、地元でかわいい子を探して聞き込みをしていた芸能事務所の方から自宅でスカウトされたという話が有名ですが、芸能界には興味があったのですか？

瀬戸朝香さん（以下、瀬戸）　まったくなかったですね(笑)。恥ずかしがり屋で、人の前に出るのも得意じゃなかったので。それが、普通に夏休みにひとりで家にいたらピンポンと鳴って、最初は中学校の新聞の企画で、近所で複数人から名前が挙がった子を訪ねるみたいな話だったんです。それで「写真を撮らせてください」と言われて写真を撮られていたら、そこにスカウトの人もいて「実はこれから芸能事務所を作るんだけど、興味ない？」と言われて。突然のことで「ないです、ないです。親に聞かないとわからないし」と答えたら、「じゃあとりあえず連絡先を置いていくので」と言われたんです。

── その後、どうしたんですか？

瀬戸　すぐに母親に電話をして「スカウトが来たんだけど」と言ったら、「今、仕事中だから帰ってから聞くわ」と言われて。お母さんが帰ってきて説明したら、「そんなのたぶん嘘だからやめなさい」と言われたんです。でも、そこから半年ぐらい、ほぼ毎日のようにそのスカウトの方から電話が来て。うちは父親がいなかったので、お兄ちゃんに電話で断ってもらったりもしたんですけど、「あなたの妹がいいから！」みたいな感じで逆ギレされたり(笑)。

それである日、お母さんが直接会って断ってきてくれることになったんですけど、2時間半ほどして帰ってきたら、「たぶんあの人は嘘は言わないと思うから、あんた、やりゃあ（やりなさい）」と言われて、え～っ！と思いました(笑)。

── それで芸能界に進むことに？

瀬戸　事務所の人に「今度の冬休みに一度、東京に遊びに来たらいいよ。交通費も出すから」と言われて、「じゃあ行きます！」なんて観光気分で行ったら、スタジオでメイクをされて衣装を着せられて、カメラの前で写真を撮られたんです。その写真を見たら、自分でも「なにこれ！ きれい。この仕事おもしろいいかも」と思って。そこからまたさらに説得されて、中学卒業と同時に東京に出てきました。


── 東京での生活に不安はなかったですか？

瀬戸　めちゃくちゃありましたね。マネジャーさんと一緒に住むことになったんですけど、それまで何度か会っていたとはいえ、いきなりこの人と暮らすと言われても、子どもだったので最初は母親に「帰りたい」と泣いて電話ばかりしていました。

── でも、お仕事自体は最初から順調だったイメージがありますが。

瀬戸　上京して3週間で映画のヒロインの役が決まって。それはもともとざっくり決まっていた方がいたみたいなんですけど、マネジャーさんが監督に「いい子がいるんです」と無理やり言って、実際に会っていただいたら「もう絶対あなたがいい」ということになったんです。そこから半年ぐらい空いて、ディズニーランドのCMやコーセーのルシェリのCMが決まって、そこからドラマもどんどん入っていきました。

── お芝居自体は最初から楽しんでやれていたんですか？

瀬戸　もともとやりたくて始めたわけじゃなかったので、本音では楽しくはなかったですね(笑)。なので、10代までは「この作品が終わったら、やめて帰ります」と、ずっと社長に言っていました。でも「いい作品が入ったから、これが終わったらね」ということが続いて。だから自分で勝手に帰る日にちを決めて、カウントダウンの日めくりカレンダーも作って「ゼロになったから帰ります」と言ったんですけど、「いや、まだ仕事入ってるから」と言われて。「もう本当に帰りたいんですけど」と言いながら戦ってました(笑)。

── 実際に帰ってしまったことはなかったですか？

瀬戸　ある日、電車の乗り継ぎでマネジャーの後ろについて渋谷を歩いていた時に、“ここで帰ったらどうなるんだろう？ よし、今だ！”と、何も言わずに逃げ出して新幹線に乗って名古屋まで帰ったことがありました。そしたら車内のアナウンスで私の本名を呼ばれて！ 当時は新幹線に電話ボックスがあって「電話が入っているので、ご乗車でしたらお出になってください」と言われて。なんでわかったんだろう!? 怖い怖い！ と思いながら電話には出なかったんです(笑)。

後で聞いたら、社長が私が乗っていそうな新幹線に片っ端から電話をしていたみたいで。母親にはすぐに連絡がいっていたので、名古屋に迎えに来てくれていました。駅のホームで「どうするの？」と言われて、「帰るのは嫌だけど、どうしたらいい？」と言ったら「何も言わずに帰ってきて、みんな東京で心配してるよ」と説得されて、そのまま新幹線で東京に戻りました。脱走劇ばかりで事務所も大変だったと思います(笑)。

── 当時は何が一番つらかったですか？

瀬戸　やっぱり孤独だったんですよね。家族も友だちもいないし、特に10代の頃は人見知りも激しくて、あまり心を開かなかったので、すぐには人と仲よくなれなくて。でも、徐々にこの世界にも慣れてきて、コミュニケーションの取り方がわかってきてからは、同世代の役者仲間とみんなで海に行ったり花火をしたり、カラオケに行ったりもしましたね。

── その後、女優としてやっていこうと覚悟が決まったタイミングがあったんですか？

瀬戸　19歳の時に出させていただいた「Age,35 恋しくて」（フジテレビ系）というドラマの役作りがすごく大変で。中井貴一さんと不倫をする女性の役で26歳から34歳までを演じたんですけど、光野（道夫）さんという監督に「それは26の笑い方じゃないよな」とか「一つひとつに色気を感じない」とか言われて。事務所の社長にも「もうお芝居の仕方がわからないです」と言っていたんです。

瀬戸　そんな困り果てた私を見て監督が事務所まで来てくださって、この役はこういう役で、全体的にはこう作りたくて、映像的にはカメラに薄いピンクのフィルムを貼って普通の世界観じゃない作品にしたいとか、いろんなヒントをもらって、苦しみながらなんとかやり遂げた作品でした。

そこからオンエアが始まると、業界内でも「見てるよ」とか「すごくおもしろいね」とたくさんの反響をいただいたのがすごくうれしくて。監督からも最後に「よくやったな」と初めて褒めてもらって、私、やれたんだなと涙が溢れました。そこからお芝居を楽しめるようになって、女優でやっていこうと思いましたね。

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