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2025.07.12

山田裕貴「俺たちは今も決して平和ではないこの世界をがむしゃらに生き抜くしかない」

戦後80年を迎えた今年。俳優の山田裕貴さんが激戦地となった沖縄での実話を基にした映画『木の上の軍隊』で、沖縄出身の若き新兵を演じます。1カ月にわたる過酷な撮影の中で山田さんが感じたことと考えたこととは?

CREDIT :

文/長谷川あや 写真/トヨダリョウ スタイリング/森田晃嘉 ヘアメイク/小林純子 編集/森本 泉(Web LEON)

山田裕貴 木の上の軍隊 WebLEON   LEON
映画『東京リベンジャーズ』で演じた不良組織の副総長・ドラケン役など、多くの当たり役をもつ、俳優・山田裕貴さん。2011年のデビュー以来、作品ごとに新たな一面を見せ、存在感を放っている山田さんが、沖縄戦で激戦地となった伊江島での実話を基にした映画『木の上の軍隊』に出演。木の上に身を潜め、敗戦も知らぬまま2年もの間生き延びたふたりの兵士の物語で、沖縄出身の若き新兵を演じました。

強い光を放つ瞳で見据えるものとは──? 同作で演じたキャラクターを「大好き」と語る山田さんは、どのような心持ちで同作に挑んだのか。そして、俳優という職業への思いについて聞きました。
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自分はこの作品を戦争映画だとは捉えていません

── さまざまな役柄を巧みに演じ分ける山田さんは、カメレオン俳優と評されることも。いつもどんな思いで、新しい役柄に挑んでいるのでしょう?

山田裕貴さん(以下、山田) 自分の中にあるものを膨らませて作っています。もちろん台本という設計図はありますが、自分自身の声と体と感性を使うしかありません。風貌は違うけれど、どの役も俺だなって(笑)。結局は、自分の中にある感情しか使っていないので。役柄によっては、「俺ならここで泣かないだろうな」ということもあるし、「俺はこの台詞は言わないな」ということもあります。そんな時は、「俺がこの台詞を言うとしたらこんな感じかな」といったかたちで演じています。

── まさに天職のように思えるのですが、俳優を目指したのは何かきっかけがあったのですか? 俳優を目指し、高校卒業のタイミングで、いくつかの芸能事務所に履歴書を送ったという記事を読みましたが……。 

山田 俳優という職業にこだわっていたわけではないんです。人間の心理に興味があったので、いろいろな人生を疑似体験できる俳優という職業に興味をもちました。人間が何なのかということを解き明かすことができれば、別に俳優じゃなくても良かったんです。
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── 人間というものに対する興味が強い⁉

山田 人間は好きでもあり、同時に嫌いでもあります。

── そんな山田さんが、ひとりの人間として大切にしていることはありますか?

山田 「自分は本当に正しいのか」ということは、常に疑うようにしています。仕事にしても、プライベートにしても、です。自分が正しいと思っていることも、ほかの視点から見れば、そうじゃないかもしれない。自分の視点だけが正解じゃないということは、考え続けていたいと思っています。

── 7月25日(金)には、沖縄戦で激戦地となった伊江島での実話を基にした映画『木の上の軍隊』が全国公開されます。堤真一さんとダブル主演を果たした同作で、山田さんは沖縄出身新兵・安慶名(あげな)セイジュンを演じました。終戦から80年を迎える今年、どんな思いで、『木の上の軍隊』という作品に臨んだのでしょう?

山田 戦争を題材にしたお話ですが、自分はこの作品を戦争映画だとは捉えていません。堤さん演じる宮崎から派兵された少尉・山下一雄と、僕が演じた安慶名という2人の男が必死で生き抜いた話だと思っています。撮影に入る前に山下と安慶名のモデルとなった、山口静雄さん、佐次田秀順さんの手記を読んだのですが、とにかく生き抜くぞという強い意思が伝わってきて、そこを大事に演じたいと思いました。
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2人が生きようとした思いをきちんと感じたいと思った

── 撮影前に準備したことはありますか。

山田 2年間、まともに食事ができなかった2人の気持ちに近づきたくて、撮影に入る少し前から食事制限を始めました。沖縄に行ってからも、基本は納豆や豆腐を中心とした食生活で、時々、お刺身をちょこっと食べたりしていました。撮影では虫も食べましたよ。虫、大嫌いなのに!

──え! 作中に虫を食べるシーンがありましたが、アレ、本物だったんですか。

山田 本当に虫が苦手なんですけど、撮影が進んでいくうちに、体に虫が止まっていてもあまり気にならなくなっていきました。虫を食べるシーンは、撮影にあたり、スタッフさんが小麦粉で作った偽物の虫を用意してくれたのですが、2人が生きようとした思いをきちんと感じたい、そこで嘘はつきたくないと思ったんです。

── 沖縄ロケは1カ月くらい? 過酷な撮影でしたね。

山田 そうですね、1カ月ほどだったでしょうか。沖縄に行く前は、いつも以上に日常を楽しく過ごすように心がけていました。東京での生活を楽しめば楽しむほど、安慶名が元の生活に帰りたかったように、(東京に)「早く帰りたい」という気持ちになれるかな、と思って(笑)。
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── 実際はどうでしたか? やはり「早く東京に戻りたい!」と思いましたか?

山田 それが最後は帰りたいのか、帰りたくないのかわからなくなってしまって。安慶名が、「帰りたいのか分からない。とにかく生き抜かなきゃ」といったニュアンスのことを言うのですが、まさにそんな感じです。ご一緒した、沖縄のスタッフの方々と離れたくないという気持ちもありました。

── 朝ドラ「ちむどんどん」も沖縄を舞台とした作品でしたね。沖縄への思い入れも深かったりしますか?

山田 「ちむどんどん」の撮影では、タイミングがあわず、沖縄に行くことができなかったんです。なので、撮影が終わってから、ひとりでぴょんと沖縄に行ってみました。それが初めての沖縄で、短い滞在だったのですが、不思議と「帰ってきた!」みたいな懐かしい気持ちになりました。作品をいくつも同時に撮影していることが多くて、いつも台本のことばかり気にしているのに、沖縄にいる間は仕事のことは一切忘れていたんです。不思議な感覚でした。人はやさしいし、沖縄のもつ温かな空気感がとても心地良かったんだと思います!

しばらくして、『木の上の軍隊』のお話をいただき、その時感じた沖縄の独特の空気感は、安慶名というキャラクターを作っていくうえで大切な要素だと思いました。安慶名は、友達と遊びたくて、家族を大事にしていて、海が好きで、日常をとても大切にしている明るい普通の男の子。人を思いやることができて愛情も深い。迷うこともあるけれど、過酷な状況で、必死で生きようともがく、すごく好きなキャラクターです。安慶名のような子が、もっといればいいのにとも思います。
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人間って、置かれた環境があれば順応するものなんですね

── 堤(真一)さんとの共演はいかがでした? 共演は初めてですよね。

山田 以前、プライベートで堤さんのご自宅に招いていただいたことがありましたが、共演は今回が初めてです。山下と安慶名は、最初は対立しています。そういった場合、あえて距離を取って役作りをする方もいますが、堤さんは積極的に話しかけてくださった。僕が自由に投げたボールも、しっかりと返してくれて、もちろん緊張感はありましたけど、ご一緒できてうれしかったです。

── ところで、2人が生活していた木は元からそこにあったのですか? 本物⁉

山田 伊江島の公園内にあるガジュマルに、他のガジュマルの木を移植して組み合わせ、その上にセットを組んでいました。1カ月ほどの沖縄ロケのうち、2、3週間は木の上で撮影していたかな。

── 木の上での撮影って、どんな感じでした? ちょっと想像つかないのですが(笑)。

山田 最初は登るのも大変でしたが、3、4日もするとするっと登れるようになるんです。木の上でも自分にとって居心地のいい場所ができるんですよ(笑)。最終的には、「ここで寝れるな」と思えるくらい落ち着く場所になっていました。人間って、置かれた環境があれば順応するものなんですね。
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山田 ただ、撮影時のことはあまり細かくは覚えていないんです。疑似体験とはいえ、朝から晩まで木の上にいると、木に登る前にあったことがどうでもよく感じてしまって(笑)。でも、実際に沖縄の海や、本物の木の上で撮影できたのは、とても意味のあることだったと感じています。撮影が進んでいくなかで、悲しいことを乗り越えてきたからこそ、沖縄の人たちはこんなに明るいんだとも思うようになりました。

── 冒頭で、「戦争映画とは捉えていない」とおっしゃっていましたが、本作に出演したことで、平和について改めて考えたりもされたのでは……?

山田 戦争って本当に無慈悲ですよね。ある日、突然、爆撃があって死ぬかもしれない。しかも、それは自分の力では避けることができない。改めて戦争の凄惨さを感じました。同時に、終戦から80年が経とうとする今も、決して平和ではないと感じています。ネット上でも、些細なことで罵り合ったり、つぶしあったりと、銃は使わなくても、日々、戦争みたいなことが起こっている。山下と安慶名が木の上でがむしゃらに生き抜いたように、俺たちはこの平和ではない世界をがむしゃらに生き抜くしかないんですよね。
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● 山田裕貴(やまだ・ゆうき)

1990年生まれ、愛知県出身。2011年から2012年にかけて放送された『海賊戦隊ゴーカイジャー』で俳優デビュー。映画『あゝ、荒野』『夜、鳥たちが啼く』『東京リベンジャーズ』『ゴジラ-1.0』、ドラマ「特捜9」シリーズ、「ペンディングトレインー8時23分、明日  君と」、「君が心をくれたから」、大河ドラマ「おんな城主 直虎」、「どうする家康」、連続テレビ小説は「なつぞら」「ちむどんどん」、舞台『宮本武蔵(完全版)』、『終わりのない』など、これまで出演した作品は100作以上。2022年エランドール賞・新人賞を受賞。数々の話題作で存在感を放っている。『山田裕貴のオールナイトニッポン』ではパーソナリティも務めている。映画『ベートーヴェン捏造』は9月12日(金)、映画『爆弾』が10月31日(金)と、主演作が続々と公開予定。

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『木の上の軍隊』

1945年、沖縄県伊江島。日本の敗戦を知らないまま、2年もの間、木の上で生き抜いた2人の日本兵の実話に着想を得た井上ひさし原案の同名舞台劇を、堤真一と山田裕貴のダブル主演で映画化。『ミラクルシティコザ』で知られる沖縄出身の平一紘が監督・脚本を手がけ、全編沖縄ロケを敢行した。
舞台は太平洋戦争末期の沖縄県伊江島。米軍が侵攻し、戦況が悪化するなか、島は壊滅的な状況に陥っていた。宮崎から派兵された少尉・山下一雄(堤真一)と沖縄出身の新兵・安慶名セイジュン(山田裕貴)は、米軍の銃撃から逃れ、葉が生い茂る大きなガジュマルの木の上に身を潜める。圧倒的な戦力の差を目の当たりにした山下は、援軍が来るまでその場で待機することを決断。戦闘経験が豊富で国家を背負う厳格な上官・山下と、島から出たことがなくどこか呑気な新兵・安慶名の2人は、話が嚙み合わないながらも、2人だけで恐怖と飢えに耐え忍ぶ。やがて戦争は日本の敗戦をもって終結するが、そのことに気づかないまま、2人の“孤独な戦争”は続いていく。
©2025「木の上の軍隊」製作委員会
2025年7月25日(金) 新宿ピカデリー他全国ロードショー
公式HP/https://happinet-phantom.com/kinouenoguntai/

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