2025.06.25
尾上松也「LEON世代のイケオジたちは積極的に歌舞伎を観に来てほしい」【後編】
人気オンラインゲーム「刀剣乱舞」を原案とした新作歌舞伎の第2弾歌舞伎『刀剣乱舞 東鑑雪魔縁(あずまかがみゆきのみだれ)』の上演が決定。企画から演出・主演を勤める尾上松也さんに、今作にかける思いと、歌舞伎俳優として40歳を迎えた今の覚悟と抱負を伺いました。
- CREDIT :
/牛丸由紀子 写真/ジェームズ・グレイ スタイリング/椎名宣光 ヘアメイク/岡田泰宜 編集/森本 泉(Web LEON)

前編(こちら)では今作にかける思いをお話しいただきましたが、後編では、歌舞伎初心者でも気になるちょっとした裏話も含め、40歳を迎えた松也氏が考える今の歌舞伎への思いを語っていただきました。
自分にとって演じることだけがチャレンジではなくなってきている
尾上松也さん(以下、松也) これは30代後半から感じていたことなのですが、やりたいことが常に変化していて、自分にとって演じることだけがチャレンジではなくなってきています。今は今回の「刀剣乱舞」のように自分で何かを作っていくこと、自分が誰かに伝えたりチャンスを渡せること、そういうことへのチャレンジに興味が高くなっています。
これまで私にチャンスを与えてくださった先輩方は、私を抜擢することでその責任も同時に背負ってくださっていたことに改めて気がつきました。その決断をしてくださったからこそ、今の自分があります。ですので自分もそういう存在になれたらと、強く思うようになりました。
松也 確かに今は意識的に活動の幅を広げようと思っています。僕自身は他のメディアやジャンルの力をお借りしないと役者として生き残れない、目指すところには到達できないと思っていました。
ですが、今となっては結果的にまったく別の仕事で出会った方や、経験したことが今の自分の色になって物作りができていると実感しています。
松也 そうですね。特にここ何年か、自分で何かを考え企画するという機会が増えてくればくるほど、物事の捉え方についてそう感じますね。物作りをする時に、この劇場は良さそうとか、この題材は良さそうだなとか、経験が自動的に変換されるようになってきました。

モテるたしなみのひとつとして日本文化を守っていく手助けを
松也 確かに。僕らの父親や祖父の世代の方、特に歌舞伎界隈のイケオジの方々というのは、皆さん三味線も弾けますし、小唄も歌える。いわゆる芸事に対して、すごく造詣が深かったと伺っています。だからこそ新橋や神楽坂、京都といった花柳界も、今よりもとても盛り上がっていたそうです。
昔の役者さんたちは自らが花柳界に出向いて宴会を開き、演奏会をするなど積極的にされていたそうです。お座敷遊びもただの遊興というわけではなく、たしなみのひとつとしてあったわけですよね。
60代以上の方たちはそういう文化が色濃い中で生きてこられたわけですが、だんだんとそういった日本の芸能が薄れつつある今、そういう伝統芸能や文化を伝えていくためには、なんとかギリギリでその文化を知っている40代、50代の世代の方にかかっているのではないかと思います。
ですからこれはもう、LEON世代のイケオジの方々に積極的に歌舞伎を観に来ていただいて、お座敷遊びなども含めて(笑)モテるたしなみのひとつとして、日本の文化を守っていく手助けをご一緒にしていただけたらうれしいですよね。

歌舞伎役者は一代で築くもの。すべては自分次第
松也 僕の個人的な感覚で言えば、歌舞伎役者は一代で築くものだと思っています。僕の中では、襲名はあくまでも自分を戒める、引き締めるための儀式というイメージ。それがあるから立派な役者になれるわけでも、立派な人物になれるわけでもなく、どう意識するかという儀式なのではないかと捉えています。
もちろん、歌舞伎という歴史の中では、この名前だけはやはり後世に繋いでいかなくてはならない名跡はありますが、その人自身の一代をどうしていくのかが重要だと思うんです。
松也 今は考えていないですね。ですが一番に思うのは、名前というよりも、個人の生き方と裁量が歌舞伎役者のすべてではないかということ。個人の生き方がまずあって、その結果名前はついてくるものだと思うんです。
歌舞伎役者は基本的に一代で築くもの。名前を良くするのも悪くするのも、それはやはり自分次第だと身を引き締めて感じています。

● 尾上松也(おのえ・まつや)
1985年1月30日生まれ、東京都出身。父は六代目尾上松助。1990年5月、『伽羅先代萩』の鶴千代役にて二代目尾上松也を名乗り初舞台。2015年からは若手が中心となる新春浅草歌舞伎において『魚屋宗五郎』魚屋宗五郎役等の多くの大役を勤め、一昨年は、新作歌舞伎『刀剣乱舞 月刀剣縁桐』にて主演と演出も手がけた。歌舞伎のみならず蜷川幸雄演出の騒音歌舞伎(ロックミュージカル)『騒音歌舞伎 ボクの四谷怪談』(2012)お岩役、ミュージカル『エリザベート』(2015)ルイジ・ルキーニ役、劇団☆新感線『メタルマクベス disk2』(2018)ランダムスター/マクベス魔II夜役など舞台出演も多数。また映画『源氏物語』(2011)、『すくってごらん』(2021)やNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(2022)、TBSドラマ『半沢直樹』(2020)、CXドラマ『ミステリと言う勿れ』(2022)、Netflix『Demon City 鬼ゴロシ』(2025)の演技も話題に。現在開催中の「五大浮世絵師展」(~7/6)の音声ナビゲーターも務める。他にもバラエティ番組など幅広く活躍。

歌舞伎「刀剣乱舞 東鑑雪魔縁(あずまかがみゆきのみだれ)」
人気ゲーム「刀剣乱舞 ONLINE」を原案とした新作歌舞伎、第二弾。歌舞伎本丸の中心人物である三日月宗近を始め、前作にも登場した、髭切、膝丸、同田貫正国、小烏丸の五振りに加え、新たに鬼丸国綱、陸奥守吉行、加州清光の三振りが加わる。『東鑑雪魔縁(あずまかがみゆきのみだれ)』は、その外題にもあるとおり、鎌倉時代の歴史書「東鑑(吾妻鏡)」をふまえ、雪降りしきる鶴岡八幡宮で暗殺された三代将軍源実朝の時代に、刀剣男士が出陣する。尼御台北條政子や源実朝とその妻の倩子姫。そして公暁といった人々に加え、鎌倉の重臣たちの思惑もあって混迷する鎌倉幕府。一方、戦乱のために命を落とした人々の恨みが怨念となり、顕現していく。はたして刀剣男士たちは、人々の思いが交錯するなかで、歴史の改変を防ぐことができるのか……。また大喜利所作事の『舞競花刀剣男士(まいきそうはなのつわもの)』では、刀剣男士たちが華やかに舞い踊る。
原案/「刀剣乱舞ONLINE」より(DMM GAMES / NITRO PLUS)
脚本/松岡亮、演出/尾上菊之丞、尾上松也
出演/尾上松也、中村歌昇、中村鷹之資、中村莟玉、尾上左近、澤村精四郎、上村吉太朗、市川蔦之助、河合雪之丞、喜多村緑郎、大谷桂三、中村獅童 ほか
【東京公演】 7月5日(土)~7月27日(日) 会場/新橋演舞場
【福岡公演】 8月5日(火)~8月11日(月・祝) 会場/博多座
【京都公演】 8月15日(金)~8月26日(火) 会場/南座