2025.06.24
尾上松也「僕たち歌舞伎役者が『これは歌舞伎』と言えば、歌舞伎になる」【前編】
人気オンラインゲーム「刀剣乱舞」を原案とした新作歌舞伎の第2弾『刀剣乱舞 東鑑雪魔縁(あずまかがみゆきのみだれ)』の上演が決定。企画から演出・主演を勤める尾上松也さんに、今作にかける思いと、歌舞伎俳優として40歳を迎えた今の覚悟と抱負を伺いました。
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- 文/牛丸由紀子
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文/牛丸由紀子 写真/ジェームズ・グレイ スタイリング/椎名宣光 ヘアメイク/岡田泰宜 編集/森本 泉(Web LEON)

今年、約2年の時を経て第2弾『刀剣乱舞 東鑑雪魔縁(あずまかがみゆきのみだれ)』の上演が決定。前回に続き、企画から演出・主演を勤める松也さんに、今作にかける思いと、歌舞伎俳優として40歳を迎えた今の覚悟と抱負を伺いました。
プレッシャーを超え、一演者からすべてを担う企画者へ
尾上松也さん(以下、松也) 歌舞伎といっても古典と新作はまったく違います。古典はまず先輩方をお手本に
するところから入ります。先輩という目標があり、舞台で学んできたことを踏まえながら、徐々に自分の世界を作っていきます。
対して新作歌舞伎は、本当にゼロの状態から構築していきます。ですが、前回1作目の「刀剣乱舞」の時もそうだったのですが、自分の中でどう構築したいか、どんなイメージにするべきなのかというビジョンは、お稽古に入る時点では明確になっていましたので、不安や迷いというものはありませんでした。
むしろ、何もないところ、本当にゼロから具現化していく過程がおもしろくて。企画から関わっていますので、自分が思い描いていたものが、目の前に実際に形として見えてくる。それがとても新鮮でした。
松也 確かにファンの方にとっては、「刀剣乱舞」ならこうであるべきと思う部分もあるかもしれません。すでにゲームとして、確固たるキャラクターがあり、それを僕たちが歌舞伎として表現するわけですから。歌舞伎となったキャラクターにどんな反応があるのか、特に上演初日は自分たちが練り上げて作った作品が、皆さんにどう受け止めていただけるのか、そして喜んでいただけるのか、とてもプレッシャーでした。
今作では僕は企画・演出・主演のすべてに関わらせていただきました。そういう意味では演者のみの時には意識しなかった責任の大きさというものをとても感じました。それでも自分が上演させていただきたくて始めたことですので、大変だとは思っていなかったんです。

原作や元のキャラクターはリスペクトしながらも、挑戦も必要
松也 はい。皆さんの「刀剣乱舞」に対するその想いは尊重しつつも、歌舞伎で上演するからには、挑戦も必要だと思っていましたし、歌舞伎だからこそ、というものを作り上げなくてはいけないと思っていました。
やはり歌舞伎の世界ならではということが一番大事で。それぞれの個性的なキャラクターがいて、彼らが歌舞伎の世界に潜り込んだらこうなるかということをお見せしないと意味がありません。
例えば僕が演じる三日月宗近は、ゲームでは短髪のキャラクターですが、歌舞伎ではポニーテールになっています。そういう違いはありますが、それでも三日月として成立していると感じていただけるようにしなくてはいけない。原作と元のキャラクターをリスペクトしながらも、いい意味で挑戦するところも必要で、そのバランスは、とても気をつけた部分です。
逆に歌舞伎ファンの方には、衣裳や型には古典にあるような、まさに歌舞伎らしさはあったうえで、やはり「刀剣乱舞」という新作の驚き、こんな作品は観たことがないと感じていただける。そのような舞台を目指しました。
歌舞伎らしさと意外性、相乗効果が新たな表現に
松也 何が歌舞伎かという定義って意外とないんです。いわゆる見栄を切ったり、七五調のセリフを言ったりするのは、あくまでも歌舞伎の一部。究極なことを言えば、僕たち歌舞伎役者が「これは歌舞伎」と言えば、歌舞伎になる。そんな柔軟性と幅の広さに、歌舞伎のすごさがあると思っています。
ですがそんな歌舞伎だからこそ、新作を作るのはむずかしいのです。新しいことを取り入れて現代的に作ってしまうと、観る方に歌舞伎の本質的な部分、もっと深いところを伝えられないままになってしまう。そしてそれが歌舞伎だと思われて、そのまま離れてしまう可能性もあると思うのです。
松也 例えば三味線を伴奏に独特の節で語る義太夫、ゆったりとした昔の言葉ですので、現代では意味がわかりにくいと思われるような場面もあります。新作の中にもそのような歌舞伎らしい部分も効果的に使えるようでしたら、積極的に織り込んでみることを考えています。
そうすることで、次回歌舞伎で違う演目をご覧いただいた時に、「これ『刀剣乱舞』でもやっていたな」とか「歌舞伎にはこういうシーンが多いんだ」と知っていただくきっかけになればと。新作を作る時には、そういう相乗効果が生まれればいいいなと思っています。

さまざまな失敗を繰り返しながら今がある
松也 僕自身が先輩方の背中で見せていただいたことを追いかけてやってきましたので、後輩たちにもできる限り自分が渡せるものは渡していきたいという意識はもっています。
松也 そうですね。僕自身は本当にチャンスが少なかったですし、自分で切り開いていくしか道がありませんでした。若い時の修行時期は、歌舞伎以外の活動も多かったですし、さまざまな失敗を繰り返しながら今があるという思いです。
ですので自分が少しでもチャンスを与えられる立場になったのであれば、これまで僕を引っ張りあげようとしてくださった先輩方や関係者の方々と同じようにできたらと思っています。
※後編に続きます。

● 尾上松也(おのえ・まつや)
1985年1月30日生まれ、東京都出身。父は六代目尾上松助。1990年5月、『伽羅先代萩』の鶴千代役にて二代目尾上松也を名乗り初舞台。2015年からは若手が中心となる新春浅草歌舞伎において『魚屋宗五郎』魚屋宗五郎役等の多くの大役を勤め、一昨年は、新作歌舞伎『刀剣乱舞 月刀剣縁桐』にて主演と演出も手がけた。歌舞伎のみならず蜷川幸雄演出の騒音歌舞伎(ロックミュージカル)『騒音歌舞伎 ボクの四谷怪談』(2012)お岩役、ミュージカル『エリザベート』(2015)ルイジ・ルキーニ役、劇団☆新感線『メタルマクベス disk2』(2018)ランダムスター/マクベス魔II夜役など舞台出演も多数。また映画『源氏物語』(2011)、『すくってごらん』(2021)やNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(2022)、TBSドラマ『半沢直樹』(2020)、CXドラマ『ミステリと言う勿れ』(2022)、Netflix『Demon City 鬼ゴロシ』(2025)の演技も話題に。現在開催中の「五大浮世絵師展」(~7/6)の音声ナビゲーターも務める。他にもバラエティ番組など幅広く活躍。

歌舞伎「刀剣乱舞 東鑑雪魔縁(あずまかがみゆきのみだれ)」
人気ゲーム「刀剣乱舞 ONLINE」を原案とした新作歌舞伎、第二弾。歌舞伎本丸の中心人物である三日月宗近を始め、前作にも登場した、髭切、膝丸、同田貫正国、小烏丸の五振りに加え、新たに鬼丸国綱、陸奥守吉行、加州清光の三振りが加わる。『東鑑雪魔縁(あずまかがみゆきのみだれ)』は、その外題にもあるとおり、鎌倉時代の歴史書「東鑑(吾妻鏡)」をふまえ、雪降りしきる鶴岡八幡宮で暗殺された三代将軍源実朝の時代に、刀剣男士が出陣する。尼御台北條政子や源実朝とその妻の倩子姫。そして公暁といった人々に加え、鎌倉の重臣たちの思惑もあって混迷する鎌倉幕府。一方、戦乱のために命を落とした人々の恨みが怨念となり、顕現していく。はたして刀剣男士たちは、人々の思いが交錯するなかで、歴史の改変を防ぐことができるのか……。また大喜利所作事の『舞競花刀剣男士(まいきそうはなのつわもの)』では、刀剣男士たちが華やかに舞い踊る。
原案/「刀剣乱舞ONLINE」より(DMM GAMES / NITRO PLUS)
脚本/松岡亮、演出/尾上菊之丞、尾上松也
出演/尾上松也、中村歌昇、中村鷹之資、中村莟玉、尾上左近、澤村精四郎、上村吉太朗、市川蔦之助、河合雪之丞、喜多村緑郎、大谷桂三、中村獅童 ほか
【東京公演】 7月5日(土)~7月27日(日) 会場/新橋演舞場
【福岡公演】 8月5日(火)~8月11日(月・祝) 会場/博多座
【京都公演】 8月15日(金)~8月26日(火) 会場/南座