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2024.03.12

iPhoneだけで映画を撮る! 三池崇史監督に『ミッドナイト』制作秘話を聞いた

全編iPhoneで撮影されたショートムービー『Midnight(ミッドナイト)』。原作は手塚治虫氏の同名マンガで、主演には賀来賢人さんを迎えた本作は、現在YouTubeなどで好評配信されています。ここでは監督を務めた三池崇史さんにお話を伺いました──。

CREDIT :

写真/前田 晃(Maettico) 取材・文・編集/平井敦貴、編集/森本 泉(ともにWeb LEON)

三池崇史×手塚治虫のショートムービー

iPhoneだけで映画を撮る! 三池崇史監督に『ミッドナイト』制作秘話を聞いた
『クローズZERO』や『殺し屋1』など数々のマンガ作品を実写映画として世に送り出してきた三池崇史監督。その最新のショートムービー『Midnight(ミッドナイト)』が現在、YouTubeなどで無料公開されています。原作は手塚治虫氏の同名マンガ、主人公のミッドナイト役を演じるのは賀来賢人さんという話題性もさることながら、本作は全編「iPhone 15 Pro Max」で撮影が行われたとのこと。

ド派手なカーアクションやグリーンバック合成など、スクリーン映画と遜色のない映像はどのように撮られたのか、三池監督に直接伺いました。
全編iPhoneで撮影されたApple制作のムービーに主演。賀来賢人が“画期的”だと思ったのは?

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iPhoneで撮る方が便利なところもある

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── 今回の『ミッドナイト』は全編iPhoneで撮影されたとのことですが、初めてオファーを受けた時はどう思われましたか?

三池崇史さん(以下、三池) 全てをiPhoneで撮るというのは勇気がいることだけど、それと同時に楽しみでもありました。実際に今の映画界でもiPhoneで撮ったシーンはたくさん使われていますし、個人的にも新しい「iPhone 15 Pro Max」はどんなふうに変わったんだろうって興味もありましたから。ただ、iPhoneだから特別に何かをやろうといういうよりは、自然体で撮ればいいんじゃないかな、と思いましたね。

── 実際にiPhoneで撮ってみて感じたことは?

三池 映画用のカメラと違って存在感がなくなるので、俳優はやりやすいのかなって感じました。もちろんやりにくい人もいるかもしれませんが、より自然な芝居を撮るにはいいですよね。大きいカメラをしっかり向けて「本番!」って構えるのではなく、「まあ一回撮ってみましょうか」という感じでカジュアルに撮れる。本番だけじゃなくテストの時からカメラを回してそれが良ければ使う、アメリカの映画の撮り方に近いことができたと思います。

── iPhoneで撮った方が良かったシーンはありましたか?

三池 今はSNSが生活に入り込んでいるので日常のシーンはiPhoneで撮った方がリアルですよね。普通の人間の普通の物語というか。そういう自然なシーンはiPhoneで撮る方が便利なところもありました。例えば今回、歌舞伎町で撮影をしたのですが、たくさんの観光客や人がいる中で、三脚を立てて映画用のカメラ機材を構えていると「ああ、撮影してるんだな」って周りに気づかれるのですが、iPhoneだと完全に空気になれますから。街に紛れるんです。そういう便利さは感じましたね。
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後からフォーカスを変えられる「シネマティックモード」

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── 技術的なところではiPhoneのどんな機能を使ったのでしょうか?

三池 フォーカスが後で選択できるので、標準カメラアプリの「シネマティックモード」は多用しました。当初はポイントで使おうと思っていたのですが、少し使ってみると調子が良かったので長いシーンをまるまる「シネマティックモード」で撮ったりもしましたね。人物から人物へのフォーカスのチェンジはすべてこのモードで行なっています。

ただ、このモードを使うには一定の光量が必要で、外ロケであれば問題ないんですけど、暗い場所やスタジオだと、中心になる被写体にちょっと強めにライトを当てたりと工夫はしました。とは言ってもフォーカスを変えた時のボケ感も光学レンズに非常に近い感じで不自然さがなく、うまく作られているのには驚きましたね。あんなに薄いレンズなのにどうして?って(笑)。

── 今回の『ミッドナイト』はタクシードライバーが主人公でカーアクションも満載です。動きのある撮影ではいかがでしたか?

三池 iPhoneのスタビライザー(手ブレ補正)はもともと秀逸なのですが、「アクションモード」にすると手持ちで激しく走った時でも全然ブレないんです。それに僕らの感覚だと(ブレ補正を掛けると)画角がもっと狭まるだろうと思っていたんですけど、ちゃんとした画角で撮れる。僕らの工学的な理屈を超えていて面白いなって思いましたね。テクノロジーが我々に合わせてくれるというか、カメラの拡張性が高いなと。本当に進化が早いので、iPhone 16になったらどうなるんでしょうね。
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── メイキング映像を拝見しましたが、グリーンバックのシーンもありました。こちらもiPhoneで撮影されたのでしょうか?

三池 バイクが回転するところとクルマの中でガスが出る冒頭のシーンの2カットですね。もちろん合成する背景の映像もちゃんとiPhoneで撮ってます(笑)。それと車内のシーンではiPhoneで撮影した映像を巨大なLEDウォールに映し出して、それを実際の背景にして撮ったりもしました。普通はCGで作るようなシーンもiPhoneで撮った現場の映像を流しているんです。

── 機能面では、iPhone 15シリーズはUSB-Cになり、データも扱いやすくなったのでは?

三池 撮った映像をMacにそのままミラーリングできるのは確認作業ですごく助かりました。データのコピーもすぐにできますし、撮影現場でも撮った後の編集現場でも、作業効率がかなり良くなったと思います。
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手塚治虫が原点回帰した作品

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── 原作となった『ミッドナイト』は1986〜1987年に発表された手塚治虫さんの晩年の作品です。無免許のタクシー運転手・ミッドナイトが深夜に遭遇する乗客とのさまざまなドラマが描かれています。

三池 作品を最初に読んで感じたのは、ある意味で“新人の描くマンガ”っぽいなと。社会派なテーマもあるのですが、折々に描かれているのは、学校の先生や親に教えられることがすべてじゃなく、実際はどうなんだろうって子供がふと立ち止まって考えて、その答えはそれぞれが見つけるべきだよね、という世界観なんですね。

手塚治虫という誰もが知る大巨匠になり、壮大なテーマも描いてきて、晩年になってどこに戻るのかっていうと“少年に夢と驚きを”という原点に回帰していて。そういうところがなかなかカッコいいなって思いましたね。

── 当時と今の時代背景の違いはどのように表現したのでしょうか?

三池 実際に街やクルマをすべて当時に合わせるわけにはいかないので、ミッドナイトというキャラクターが今の新宿・歌舞伎町に現れる、という設定にしています。ただ、当時も携帯電話が一部で使われていたり、意外と変わっていないことも多いんですよ。

それにマンガ自体は1話完結型でそれぞれのテーマは普遍的で明確です。一見古典的なように見えて、今の時代にも通じる新しい作品でもあるんです。そういう意味では、30年以上前の原作をiPhoneで実写化するというのは、何か運命的なものを感じました。もし手塚先生が生きていらっしゃっても、iPhoneで撮るという新しい試みを面白がってくれたのではないでしょうか。
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これからの映画はiPhoneが当たり前に

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── 改めて監督から今回の作品の見どころやこだわりの映像表現があれば教えていただけますか?

三池 こだわりというか、観ている人にiPhoneで撮ったのを意識させないようにするのが自分の役割だと思うんです。観終わって、「これ全部iPhoneで撮ったんだ。iPhoneがあれば自分も作れるのかな」って思ってもらえればうれしいですね。映画や映画的な動画を作るには、もう皆さんその道具を手に入れて毎日持ち歩いていますよっていうことに気づいてもらいたいですね。

何も台本を書いて役者さんに演技させるんじゃなくて、毎日いつも持っているからこそ切り取れる写真や動画を集めて、それを作品にしていく人たちが増えたらいいなって思ってます。

例えば中学生になって初めて買ってもらったiPhoneで、おじいちゃんとおばあちゃんを主人公に撮るとかね。それって10年、20年経っておじいちゃんおばあちゃんが亡くなってから、ものすごい宝物になるわけじゃないですか。架空の物語をエンタテインメントとして作ることもできるんですけれども、ビジネス的な映画じゃなくても、社会からはそんなに価値がないと思われるものでも、撮っている自分たちにとって、将来ものすごい価値を生み出すというか。尊いもの、お金では買えないものを生み出せると思うんです。

映像の世界でも、もっとピュアな、もっと個人的なものを撮っていって、その中ですごい傑作が生まれるかもわからないですし、その先に映画やテレビのエンターテインメント作品を作っていきたいって人たちが増えると思うんです。iPhoneで育った人たちから、僕らとまったく違った感性を持ったすごい人がどんどん出てきて、わあって何か驚かせてほしいですね。

その刺激を受けると、錆びついた我々も何かパラパラと錆が落ちて、手塚さんのように原点に戻って「これでいいんだよね」って自分の作りたいものを再び作れるんじゃないかと思ってます。
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── 最後に、今後、監督の撮る作品にもiPhoneは使われるのでしょうか?

三池 使うと思います。というか、もう使わざるを得ないですよね。よりリアルな日常を撮ろうとしたら「これiPhoneで撮った方がいいよね」というふうになりますから。iPhoneを使う・使わないという選択肢の中で、僕だけじゃなく使う人はどんどん増えていくんじゃないでしょうか。

── 本作はもちろん、監督の次回作も楽しみにしています。
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● 三池崇史(みいけ・たかし)

1960年、大阪府出身。1991年にビデオ映画『突風!ミニパト隊』で監督デビュー。以降、多岐に渡るジャンルで制作活動を行い、海外からも高い評価を受ける。「殺し屋1」(01)や「クローズZERO」(07/09)シリーズ、、「ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章」(17)などコミック原作作品の評価も高く、「無限の住人」(17)はカンヌ国際映画祭のアウト オブ コンペティション部門に公式選出された。

Midnight(ミッドナイト)

『Midnight(ミッドナイト)』

AppleではiPhoneのみを使って写真や映画を撮影する企画「Shot on iPhone」を世界各国で実施しているが、今回日本では“マンガの実写化映画”を撮影。原作は手塚治虫の最後の週刊誌連載作品となった『ミッドナイト』。舞台は夜の東京。悪徳タクシードライバー「ミッドナイト」は、デコトラを運転していた少女「カエデ」と出会う。カエデがある事情で暗殺者に狙われていることを知ったミッドナイトは、彼女と一緒に逃亡。歌舞伎町を駆け抜け、「第5の車輪」を持つ改造タクシーでのカーチェイスを繰り広げる。監督/三池崇史、脚本/渡辺雄介、出演/賀来賢人、加藤小夏、小澤征悦ほか。
YouTube/iPhone 15 Proで撮影 | ミッドナイト | Apple
©Tezuka Productions ©Apple.Inc

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