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2020.04.24

【特別編】宇野維正(映画・音楽ジャーナリスト)

【対談/前編】大江千里と渡辺美里って結婚するんだとばかり思ってた×2010s

作家の樋口毅宏さんが今どきの才能溢れる美人に接近遭遇!その素顔に舌鋒鋭く迫る連載……だとばかり思っていたら、今回は同年代のオヤジ(宇野維正さん)が登場。なんでかって? 読めばわかります。

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写真/椙本裕子 構成/井上真規子

本連載のホストである樋口毅宏さんが新刊『大江千里と渡辺美里って結婚するんだとばかり思ってた』を上梓しました。意表を突くタイトルにピンときたアナタは、きっと昭和40年代男子(笑)。もはや先々代となった「昭和」への熱い思いが語られたこの本は、月刊『散歩の達人』の人気連載「失われた東京を求めて」をまとめたエッセイ集なのです。

樋口さんが語る、生まれ育った街・池袋の思い出、愛した音楽やテレビ、ラジオ、プロレスなど、昭和のディープなカルチャーに関するエピソードは、LEON世代のオヤジさんなら、きっと「わかるわかる」と膝を打つような内容ばかり。

そこで、今回は樋口さんと同世代で、以前から親交のある映画・音楽ジャーナリスト宇野維正さんとともに、改めて自身に大きな影響を与えた原体験や昭和カルチャーについてたっぷりと語っていただきました。

「樋口さんの本を読んで、ノース東京とウエスト東京の違いをすごく感じました」(宇野)

樋口毅宏(以下、樋口)
「宇野さんは1月に編集者、DJ、音楽評論家の田中宗一郎さんとの共著『2010s』を上梓されました。大ヒットおめでとうございます! 2010年からの10年間における音楽、映画、海外ドラマなどの世界のポップ・カルチャーシーンを総括した一冊でしたが、宇野さん本だから当然のこととはいえ、最高に面白かったです。色々お聞きしたいことがあるんですが、今回は昔の昭和の話を伺いたいということで」

宇野維正(以下、宇野)
「僕自身はあんまり昔話はしない主義なんですけど(笑)」

樋口 「そこをなんとか! 拙著で地元のことを書いているんですけど、僕は池袋育ちなんです。宇野さんはどちらでしたっけ」

宇野 「吉祥寺です。東京を4エリアに分けると、ウエスト東京ですね。池袋は、ノース東京になるのかな。同じ東京で、しかも僕は1970年生まれ、樋口さんは71年生まれだから、1歳違いの同年代。なんだけど、樋口さんの本を読んで、ノース東京とウエスト東京の違いをすごく感じました」
樋口毅宏さん
PAGE 2
樋口 「なるほど。僕が初めて吉祥寺へ行ったのはずいぶん遅くて、それこそ二十歳過ぎとか。今は無き吉祥寺バウスシアターでエレカシの座って観るライブだったかもしれない」

宇野 「吉祥寺も、池袋も、自分の街に一応すべてが揃ってるから、新宿とか渋谷とか東京の中心地に遊びに行くことはあっても、他の街へは基本的に行かないよね。でも僕は中学と高校が江古田にあって池袋が近かったから、池袋にはわりと親しみがあるんです。高校の時は、放課後によく遊びに行ってましたね」

樋口 「当時の池袋って今より汚いし、ずっと猥雑だったでしょう」

宇野 「特に文芸坐のあたりひどかったよね。今もなかなかだけど(笑)」
樋口 「あれでも全然マシになりました。今は昼間からシャブ中のポン引きと立ちんぼのカップルが歩いてないし。池袋日勝地下なんてスクリーンをゴキブリが這っていたり」

宇野 「映画館の席でタバコを吸ってる客もいた(笑)。前の客の煙越しにスクリーンを観てたりしたからね。飲食店も含めて室内は基本的に完全禁煙となった今とまったく違う世界。当時は、飛行機の座席でもタバコを吸えたりしたわけだから。今考えると普通に危ないよねっていう」

樋口 「大らかな時代でしたね」

宇野 「それにしても『大江千里と渡辺美里って結婚するんだとばかり思ってた』を読んで改めて思ったんだけど、樋口さんって記憶力がすごいよね。「僕が東京で目撃した有名人たち」ってページに書いてあるけど、樋口さんは映画の『マイノリティ・リポート』に出てくる顔認証システム並みの能力を持ってる(笑)」

樋口 「宇野さんに褒めてもらえた! 素直にうれしい(笑)」
宇野維正さん
PAGE 3

「樋口さんが書いているような、個人的な実感を伴った文章や考察が見くびられている時代」(宇野)

宇野 「顔が認識できるのは、対象物の造形を細部まで記憶しているからで、これは一つの才能ですよ。僕は記憶力がなくて、特に人の顔が覚えられない。だから、きっと自分も有名人とすれ違ったりはしてるんだろうけど、自分ではまったく気付かない。気付くのは一緒にいる人が気づいて教えられる時だけですね」

樋口 「ありがとうございます。お金にならない特殊能力のようなものです」

宇野 「でも、そういう記憶力は、過去を語る上で重要なんです。例えば、僕はいま、音楽より映画の仕事の比重が大きくなりつつあるんですけど、40年前だったら映画の批評はできていなかったと思うんです。なぜかいうと、ある時代までの映画評論家って何よりも記憶力が本当にすごいんです。淀川長治さんにせよ、蓮實重彦さんにせよ、山田宏一さんにせよ、彼らは映画を一回見ただけで、細かい所作まで全部記憶していた」

樋口 「映画館でしか見られない時代ですものね。ビデオなんてないわけで」
宇野 「そう。今は配信やDVDで何回も観られるし、インターネットで検索して気になったシーンのことを細かく調べることもできる。そういうものがまったくない時代に、記憶だけで細かく語れること自体がまずすごい能力なんです。僕にはそれが決定的にない。人間の能力は環境に適応するから、僕も当時を生きていたら違ったのかもしれないけど。そういう意味で樋口さんはとにかく記憶力があるし、そういう人じゃないとちゃんと過去を語れないんです。これは前から思っていたし、新著を読んでさらに思ったこと」

樋口 「それなのに宇野さんみたいにいい大学に入れるような頭じゃなかったんですよ。全然勉強ができなかったあ~(涙)」

宇野 「勉強ができたのは、記憶力があまり問われない小学生までですよ(笑)。それにね、樋口さんの本に出てくる過去の話は実感がめちゃくちゃこもっていて、それが一番他と違うなと。『大江千里と渡辺美里って結婚するんだとばかり思ってた』でも自分が『1998年の宇多田ヒカル』に書いたことに触れてくれていたけど、宇多田ヒカルと椎名林檎が登場した時はモーニング娘。がデビューしたばかり、まだ完全にアイドル冬の時代で、宇多田ヒカルや椎名林檎のスタートダッシュをある種のアイドル的な需要が支えていたって話も、あの時代に生きていないとわからないことじゃないですか。でも、その時代を知らない若い人たちはアーティストとして崇められるようになってからの彼女たちのことしか知らないから、「何言ってんだ?」みたいなことを言われがち(笑)」

樋口 「あ~確かに当時を生きていないと、わからないことでしょうね」
PAGE 4
宇野 「だから過去を語るなら、その実感とセットでなければいけない。本やインターネットで調べられることだけで語るなんて、何の価値もないじゃないですか」

樋口 「そうですね。僕は、遠い過去の方が記憶が鮮明だったりするんですよね。ってこれはターザン山本が編集長時代の『週刊プロレス』で、フリッツ・フォン・エリックが表紙だった時のタイトルキャッチですけど」

宇野 「そこそこ(笑)。今は、わりとアカデミックな映画語りとか音楽語りがもてはやされている時代ですよね。でも、もちろんその価値は認めつつ、実際の当時の景色や匂いという実感とセットになったものと、そうでないものは全然違うんです。樋口さんがこの本で書いているような、個人的な実感を伴った文章や考察が見くびられている時代だなと思います」

「 樋口さんは『渡辺美里、BOØWY史観』、僕は『レベッカ史観』かな」(宇野)

樋口 「宇野さんの『2010s』を読んだ僕の感想は、ポップミュージックから読み解く社会学だなと。この本が定義しているのは、今やすっかり死語になっていますが「教養」の復権だと思います。日本では2000年ぐらいから──宇野さんを前にして安易なジャンル分け用語を使って恐縮ですが──“洋楽”に関して90年代で耳の成長を止めてしまっていた人たちにとって、空白の10年を見事に埋めてくれる一冊になっています。俎上に上がっている音楽をSpotifyで聴いていくと無条件に楽しい。自分は追えているつもりでしたけど、まだまだでしたね。それに宇野さんとタナソー(田中宗一郎)さんの論争がガイドの範疇に収まらないエキサイティングさもあって、古い言い方でいえば知的好奇心をくすぐられました」

宇野 「共著の田中宗一郎さんは、元々、僕と同じ出版社(ロッキング・オン)で働いていた編集者で、雑誌『snoozer』を創刊した人でもあるんですけど、学生時代の恩師である文芸評論家の前田愛先生に誓いを立てたとかで、自分名義の著書は作らないと決めていた面倒くさい人だから、彼を引っ張り出して一緒に本を作ったことがこの本の一番の功績かもしれないです」

樋口 「『snoozer』休刊以後、残念ながらタナソーさんの影が薄くなっていた。そのタナソーさんを引っ張り出してポップカルチャーを語らうなんて、宇野さんの編集者目線はさすがとしか言いようがない」

宇野 「樋口さんはいつも僕を褒めてばかりだよなあ(苦笑)」
PAGE 5
樋口 「だって本当にそうでしょう。今でこそ宇野さんはベストセラー連発の著名な映画・音楽ジャーナリストだけど、僕はロッキング・オンで宇野さんがデビューし始めた頃からのファンで、それこそ日本でいちばん最初のウノコレマニアと自負していますからね。宇野さんにとってロッキング・オンに在籍していた過去について語られるのは、世間から色眼鏡で見られそうで嫌でしょうけど、宇野さんは当時からあれほど個性あふれるロッキング・オンの書き手の中でも浮いているというか、異色の存在だった。すぐに思い出せるだけでもプリファブ・スプラウト、『ビター・スイート・シンフォニー』以前のザ・ヴァーヴ、ディアンジェロ、ドレイク、中島美嘉、小田和正など、非ロッキング・オンのアーティストばかりをピックアップしていた。そのセレクト能力の高さと文章力ゆえに信用できました。あ、また宇野さんを褒めてしまった。すいません、どうぞ」

宇野 「それでいうと本にも出てくるけど、樋口さんは「渡辺美里、BOØWY史観」じゃないですか。ロックバンドがメジャーになったのはBOØWY からで、女性シンガーがメジャーになったのは渡辺美里からという」

樋口 「なるほど。言われてみないとわからないものですね」

宇野 「ちなみに、僕はそれでいうと「レベッカ史観」なんですよ。これは以前に小室哲哉さんから聞いた話なんですけど、小室さんがTMネットワークでデビューしたばかりの頃に、レベッカの『フレンズ』が収録されたアルバム『REBECCA IV ~Maybe Tomorrow~』のセールスが100万枚を超えて、バンド界隈にいる人たちがみんな色めきだったそうなんです。「この国でバンドのレコードが100万枚売れるの!?」って。レベッカ、そしてボーカルのNOKKOは、バンドミュージックという点でも、女性ボーカルという点でも、画期的な存在だった。ちなみにNOKKOの夫でもあるプロデューサー、エンジニアのGOH HOTODAさんは宇多田ヒカルの初期作品におけるサウンド面のキーマンで、そういう補助線を引くこともできる。でも、樋口さんの本にはレベッカは出てこないですよね」
樋口 「確かに。なんでだろう。宇野さんのようにハマらなかった。 ちなみに日本のロックバンドの最後のきらめきは、andymoriだったかなって思います。その時リアルサウンドで宇野さんと対談させてもらいました(記事はこちら)」

宇野 「僕も、今のところ最後に心から入れ込んだロックバンドはandymoriかもしれない。バンドミュージックならではの不安定なアンサンブルの妙もそうだし、詞作面においても、彼らは飛び抜けた存在だったと今でも思ってます」

後編【こちら】に続きます

●樋口毅宏(ひぐち・たけひろ)

1971年、東京都豊島区雑司が谷生まれ。出版社勤務の後、2009年『さらば雑司ケ谷』で作家デビュー。11年『民宿雪国』で第24回山本周五郎賞候補および第2回山田風太郎賞候補、12年『テロルのすべて』で第14回大藪春彦賞候補に。著書に『日本のセックス』『二十五の瞳』『愛される資格』『東京パパ友ラブストーリー』など。妻は弁護士でタレントの三輪記子さん。
最新作は月刊『散歩の達人』で連載中の「失われた東京を求めて」をまとめたエッセイ集『大江千里と渡辺美里って結婚するんだとばかり思ってた』(交通新聞社)。樋口さんの連載の一部は『散歩の達人』のWEBサイトでもご覧いただけます⇒【こちら
公式twitter https://mobile.twitter.com/byezoushigaya/

●宇野維正(うの・これまさ)

1970年、東京都生まれ。映画・音楽ジャーナリスト。著書に『1998年の宇多田ヒカル』(新潮新書)、『くるりのこと』(くるりとの共著、新潮文庫)、『小沢健二の帰還』(岩波書店)、『日本代表とMr.Children』(レジ―との共著、ソル・メディア)など。
最新刊『2010s』(田中宗一郎との共著、新潮社)は、世界を制覇したラップミュージック、社会を映す鏡としてのマーベル映画、ネットフリックスの革命……政治や社会情勢とも呼応しながら、遥かな高みへと達した2010年代のポップ・カルチャーの進化と変容、その時代精神を総括した一冊。

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