最上もが。うつ、LGBTQ、未婚シングルマザー。全部持ってる“最強”元アイドルの美学と信念

『さらば雑司が谷』『タモリ論』などの著書で知られる作家の樋口毅宏さんが、時代の先端を走る女神たちの魅力を掘り出す新連載対談企画「樋口毅宏の手玉にとられたい！」。

今回のゲストは、タレントの最上もがさん。2011年にアイドルグループ「でんぱ組.inc」にスカウトされ、加入するや「金色の異端児」というキャッチコピーで一気に頭角を表します。アイドル活動と並行して「週刊ヤングジャンプ」の表紙&グラビア抜擢、1st写真集『MOGA』の大ヒット、女優デビューなど次々に活動の幅を広げ、知名度は揺るぎないものに。

2017年に心身の不調で「でんぱ組.inc」から脱退後、個人事務所を設立。2020年にはシングルマザーになったことを電撃発表しました。現在はタレント業と両立しながら子育てに奮闘する日々。そんな最上さんの“不器用で繊細”な生き様を赤裸々に明かしたフォトエッセイ『も学』（KADOKAWA）も好評発売中ということで、樋口さんが彼女の独自の美学に迫りました！

樋口　僕はアイドルの方に詳しくないのですが、最上さんのことは目立つ方がいるなと認識していました。今回こういう機会をいただいて渡りに船だと思い、楽しみにしてきました。今日はよろしくお願いします。

最上　こちらこそ、よろしくお願いします。

樋口　フォトエッセイ、拝読しました！ 面白かったです。最上さんはHSP（ハイリー・センシティブ・パーソン）だそうですが、僕はこの言葉を初めて知りました。ひと一倍繊細な気質を持って生まれた人で、職場や家庭など生活の中で気疲れしやすく、生きづらいと感じてしまうんですね。

最上　はい。

樋口　さらに本の帯にもありますが、うつでバイセクシャル、シングルマザーだと。これはいい意味で全部持っているなと思いました(笑)。一般社会ではハンデになってしまう手札だけど、芸能界、ロックやお笑いの世界、文芸の世界でもプラスに変わりますからね。全部武器になるんです。

最上　どうなんでしょう！ とにかく、面倒くさい女代表という気持ちがあります（笑）。

樋口　芸能界に入られたのは22歳頃だそうですが、決して早くはないんですね。

最上　遅い方ですね。アイドルは10代から入る人がほとんどなので。こういうものは芸能の星に生まれた人がやるべきだと思っていたし、芸能界は目指してなかったんです。でも職を探していた時に、でんぱ組.incのプロデューサーから「1人辞めるから、かわりに2人入れたいんだけど入らない？」と声をかけられました。

樋口　いきなりプロデューサーからスカウトされたんですね、それはすごい。どこで声をかけられたんですか？

最上　東京タワーで試供品を配ったりする日雇いのバイトをしていたんですが、たまたまでんぱ組.incの関係者を集めたコンベンションの受付でどら焼きを配るお仕事をもらったんです。そこで、プロデューサーの目にとまったみたいです。

樋口　どら焼き！（笑）

樋口　だけどアイドルになりたいわけではなかったのに、迷いませんでしたか？

最上　最初は無理だと思いました。でも父がリストラされて家庭の雰囲気がすごく悪くて。私が働かなくちゃダメな状況だったんです。とはいえ企業の採用面接に行くのも嫌だったし、（でんぱ組.incは）履歴書もいらないというので楽かもと思って決めました。

樋口　なるほど。そうは言っても突然アイドルって(笑)。歌って踊れるようになるまでは、大変だったのでは？

最上　私は、いまだに歌も踊りもすっごい下手くそで、ファンの間でも有名なんです（笑）。ファーストライブもひどかったですよ。小さいステージだから踊りはごまかしがきくけど、歌はごまかせないからガンガン音外してました。ガチガチに緊張もしてましたしね。

樋口　そうなんですか⁉

最上　ニコニコ動画でライブ中継を配信した時なんて「金髪でビジュアルのインパクトは強いけど、歌はすっごい下手」「ヤバいやつ入ってきた」ってめっちゃ書かれてました。

樋口　でもファンにとっては、そういうところからアイドルの成長を見守るのも一つの楽しみなんでしょうね。

最上　でんぱ組.incみたいな事務所も無名で土台がなかったグループというのは1からスタートしてるので、成長を楽しむファンの方も多かったと思います。伸び代や目標があると、わかりやすいですしね。
私も年々場数を踏んで、ファンの方に「もが、ほんとに歌上手くなったよね」って褒めてもらえるようになりました。

樋口　ほとんど保護者ですね！ 最上さん自身は、何年目ぐらいから自分に自信が持てるようになったんですか？

最上　いまだに自信を持てたことはないです。けど、場数を踏めば慣れるので、昔のように緊張することは減りました。恥ずかしいとか、うまくいかないって思うほど失敗しちゃうので、本番中は恥を捨てて、嘘でも「最上もがは、できる！」って思い込んでやってます。終わってからはすごい反省しますけど（笑）。

樋口　大事ですよね。最上さんの本を読んでいて、自信のなさや生きづらさという自意識の檻で苦しむのは、自分にも共感するところがありました。もう50歳を過ぎて、麻痺してきましたが(笑)。

樋口　本に「社会不適合者がアイドルになって成長していくリハビリアイドル」とありましたが、お話を伺っていると、確かに最上さんはアイドルを通して人間的な成長を遂げてきたんだろうなと感じました。

最上　そうですね。昔は、人とご飯を食べるのも、相手の目を見て話すのも苦手でした。この仕事は初対面の方にたくさん会わなきゃいけないので本当に辛かったです。対面取材が嫌すぎて、チャットで取材をお願いしたこともあり、却下されましたけど。私、話すのと同じ速さでタイピングできるんです。

樋口　でも、今はこうやってちゃんと話されてますしね。

最上　ちなみに、撮影は今も苦手です。自分の顔、特に口が嫌いで。少し太い唇とか。だから笑ってる顔もあまり好きではなくて、笑ってって言われて撮影されてもその写真は結局使われず「やっぱり」って思ってました（笑）。アンチから「口が下品」「笑うと気持ち悪い」って指摘されたこともあって、皆が思うってことはやっぱりそうなんだって凹みました。

樋口　なんでですか⁉ 全然素敵ですよ。

最上　ありがとうございます。でも、なかなか自分に自信が持てないですね。綺麗でいたいけど、自分の理想にはほど遠いし、最近は年齢的な焦りも出てきてさらに自信がなくなりました。この仕事は見た目が重視されますし、「劣化」という言葉もよく吐かれてしまいます。みんな若い子の方が好きじゃないですか（笑）。

樋口　どうなんだろう(笑)。でも、ものすごくプロ意識が高いんでしょうね。責任感が強くて驚きます。

最上　いえいえ。ただ、どんなに見栄えを良くしても、人となりが良くなかったらファンは離れてしまうと思っていたので、握手会の前とかはTwitterでリプしてくれる人のアカウントを見に行って皆さんの名前を覚えたり、今日はどんな格好でくるか、何を持ってきてくれるか、どんな話題を私に振ろうとしているか、とかを全部チェックしてメモしていました。

樋口　凄すぎます！ それじゃ潰れちゃいますよ。

最上　それで潰れたんです(笑)。でもでんぱ組.incを大きくするためには、必要なことだと思っていました。ある程度売れた時に、めちゃくちゃアンチが湧いたこともあって。イケメンと言われている若手俳優さんと共演したら、そのファン（？）から叩かれて、インスタの過去記事すべてに遡って誹謗中傷を書かれました。

樋口　ネット見ちゃダメです……（うなだれる）。

最上　そうしたいけど、私はファンの人の言葉を見たいし、対話したいから、見ないという選択肢はないかなって。

樋口　最上さんは、「生き残ったシド・ヴィシャス」だって吉田豪さんが言ってたけど、ホントそんな気がしてきました。セックス・ピストルズのベースも弾けないベーシストで、20代でオーバードーズで死んだロクでもないけど凄い奴。とはいえ彼の責任感のなさとはまったく逆で、最上さんは責任感ありすぎですね。

樋口　もがさんは一昨年出産されたそうですが、我が家にも7歳と1歳の子供がいて、育児は主に僕がやっています。今日はまさかのダブル参観日で、保育園から小学校へ行ってすごく慌ただしかったです。子育てするようになってから、それまで自分に向かっていた意識が子供に向かうようになって生き方が変わりました。もがさんは、母親になって変わったことはありますか？

最上　死ねない、と思うようになりましたね。私はずっとうつ病を持っていて、「いつ死んでもいい」って感情に囚われてきました。でも、今は私が死んだらこの子が1人になってしまう、だから死ねないなと。

樋口　死ねないっていう気持ちはすごくわかります。

最上　今は、うつとうまく付き合っていく方法を考えるようになりました。うつ病って完治が難しくて、今でも自分のどこかに闇が潜んでいる。だから自分で感情をコントロールできるようにならないとダメだなって。あとは健康を意識するようになって、食にもすごく気をつけるようになりましたね。

樋口　元はジャンクフードが好きだったり？

最上　というより、体に何が合うとか考えずに好きなものを食べてましたね。元々仕事柄すごく不規則な生活で、深夜も起きてましたし体のこともまったく気にしてなかったです。

樋口　自分のためだけに、24時間使えますからね。

最上　でも娘がいるとそうはいかなくて。どんなに遅く寝ても、朝は絶対起きなきゃいけない。強制的に健康的な生活をさせてもらっている感じですね。

樋口　わかります。僕も大学時代から、社会人になって雑誌を作っていた時も、作家になってからもずっと朝寝る生活でした。でも子供を育てて保育園や小学校に送り出さなきゃいけないから、朝起きる生活に変わりました。

最上　そうなりますよね。

樋口　あとは自分の苦しみや悩みは自分だけが背負い込めばいいけど、子供のことはそうはいかない。上の子は言葉が遅く「普通学級は諦めてください」と言われたことがあって、その時は人生で一番悩みました。不眠症になってメンタルクリニックに通って、睡眠薬も飲んでました。自分のことで悩んでいた頃を振り返ると、なんて気楽だったんだろうって思いますね。

最上　わかります！

樋口　きっと世のお母さんたちも、自分のことももちろん大事だけど、同じなんだろうなって思います。

最上　私は自分のことは、1ミリも大事じゃないです。綺麗でいようと思うのも自分のためじゃなくて、仕事のため。アイドルになったのも家族のためだし、なってからもグループのため、ファンのためって思ってやってきました。うつで脱退して芸能界を辞めようと思ってたんですが、その後に復帰したのも知り合いに働いてほしいと言われたからでした。

樋口　そうだったんですね。

最上　私は自分のためだと何も行動できないんです。でも娘のためなら頑張ろうと思える。だから娘には本当に救われていると思いますね。

※後編（こちら）に続きます

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