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2023.01.24

イーロン・マスクはポスト・ジョブズなのか?

いま、世界で最も注目を集めている経営者のひとり、イ―ロン・マスク氏。その大胆でスケールの大きい仕事ぶりは多くの人の目を惹きつけ、カリスマ的に崇める人々がいる一方で、非常識なならず者だと酷評する声も。評価が大きく分かれる彼の真実とは? その後編です。

CREDIT :

文/林 信行 写真/Shutterstock 編集/森本 泉(LEON.JP)

▲ 2008年のテスラ会長時代、メンローパークにて。(CC) Brian Solis, http://www.briansolis.com
世界が注目する経営者、イ―ロン・マスク氏とはどんな人物なのか? 彼は世界の救世主か破壊者か? その真相を探るべくITジャーナリスト兼コンサルタントの林 信行さんに分析していただいた本企画。前編(こちら)では、Tesla社、Space X社、Twitter社を始めとして彼が関わってきた数多くの企業の現状と問題点などをお伝えしました。後編ではマスク氏の問題行動が事業に与える影響、そして特異なキャラクターと並外れた才能が併存する彼の人間性の根源に迫ります。

立ち上げた事業に社会性を持たせて継続させていくことは苦手?

Tesla社は、世界一の売れ行きの電気自動車メーカーとして確かに成功をしていますが、それでもマスク氏の奇行で本来の事業と関係のないことで度々、話題になります。

2021年2月には成功している事業資金から15億ドル(1932億円)ほどをビットコインに投資していたことを明かします。この発表の影響で、当時、ビットコインの価格そのものが急騰しました。しかし、わずか3カ月後の2021年5月には、ビットコインは化石燃料を消費して作られていると非難してビットコインの取り扱いをやめてしまうという珍事がありました(これによりビットコインの価格も12%近く下落)。
最近では中国市場のゼロコロナ政策でダブついてしまったTeslaの在庫をうまく処理しきれず、発売されたばかりのモデルを何度かにわたって値下げを行ったところ、既に正規の価格で買ったオーナー達が団結して返金を要求するといった事態が起きるなど混迷しています。

納車台数が当初の予想を大きく下回ったことで、Tesla社の株式も大幅に暴落し、マスク氏は1820億ドル(約24兆円)もの個人資産を失うことになります。ギネス委員会曰くこれは個人による損失としては過去最大のものだそうで、マスク氏は1月、「史上最大の個人資産損失」を記録した男としても認められました(それでも総資産額では世界2位を保っています)。
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▲ 2020年のブリュッセルモーターショーにおけるTesla社の展示。
こうしてみると唯一、順風満帆なのはSpace X社ですが、昨年5月、マスク氏は同社のフライトアテンダントにセクハラをしたとして大問題になりました。プライベートジェット機で、全身マッサージを頼んだ後、相手が来るのを全裸で待ち構えていて、もっと深い行為に及んでくれたら「馬を買ってあげる」と迫ったと言います。

この事件の後、Space Xの従業員たちはイーロン・マスク氏によるツイートなどが会社のイメージに悪影響を与えることが多いといったことを述べたオープンレターが米国のメディアに掲載されました。Space X社は、同時にほとんど休みを取ることができず過剰労働が常態化していることも問題として指摘されています。

マスク氏は、夢いっぱいに新しいビジョンを語って人々の心を奮い立たせ、従業員達に過労を喜びと感じさせるほど頑張ってもらってなんとか形にしたり、1つの夢がある程度、形になったら次の大きな挑戦を見つけてくる能力を疑う人はいないでしょう。

しかし、1度、成功した事業に社会性を持たせて人々に根付かせたり、従業員の和を保って事業を継続したりはどうかというと、疑問が湧いてきます。それどころか、事業が形になると、マスク氏の奇行や不用意なツイートで受けるダメージの影響の方が大きくなってきます。「(事業の)立ち上げ屋」という言葉がありますが、もしかしたら彼の能力はこのイメージに近いのかも知れません。
▲ 2014年、ワシントンで公開されたSpace Xの無人宇宙船ドラゴン。
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自らがアスペルガー症候群であることを告白

イーロン・マスク氏は2021年春、米国の人気コメディ番組「Saturday Night Live」の司会に抜擢され登場すると、突如、自らがアスペルガー症候群であることを告白しています。

自分は時々、変なことを言ったり投稿したりするが、それは「脳の働き方」のせいだとマスク氏。「気分を害した人にはこう言いたいです。私は画期的な電気自動車を考えだしたり、ロケットで火星に人を送ろうとしています。そんな人が、落ち着き払った、普通の人だと思ったんですか?」。

それくらいならまだいいが、2020年春に生まれた自身の息子の、極めて珍妙な名前の綴り「X Æ A-12 Musk」を取り上げて、読み方を「キーボードの上の猫」と紹介しています(別の場所で、読み方は「エックス・アッシュ・エー・トゥエルブ」だと明かしています。A-12は偵察機の名前から取ったのだそうです)。

確かに世の多くの人々とは発想も、物事の捉え方も、ジョークの質も異なっていることを感じさせるし、思いつきをそのまま形にして大勢の社員やユーザーを振り回しておいて、間違ったと分かったら平然とそれを引っ込めるようなやり方は、彼のこうした資質によるものなのかも知れません。

最もこうした障害を持っている人が経営に向かない、と言うつもりはありません。いや、それどころか、実は世の中で世界にインパクトを与えるほどの大きな成功している経営者などを見ると、発達障害/学習障害などと言われる障害を持っている人は少なくないのです。

例えば米Appleの共同創業者、スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)や英Virginの創始者のリチャード・ブランソン(Richard Branson)などはディスレクシアという識字障害を持っていたことが知られています。ビル・ゲイツ(Bill Gates)氏も、その言動や話している間の振る舞いからアスペルガーまたは自閉症の症状があるのではないかと言われています。
▲ 2017年、トルコのエルドアン大統領と。
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他にもチャールズ・ダーウィン(Charles Darwin)やアイザック・ニュートン(Sir Issac Newton)といった歴史的な科学者、作曲家のモーツァルト(W.A. Mozart)、彫刻家のミケランジェロ(Michelangelo)や画家のアンディ・ウォーホル(Andy Warhol)、映画監督のスタンリー・キューブリック(Stanley Kubrick)など、歴史に名を残しているクリエイター達にもこうした障害を持った人たちが多くいて、これまでの歴史を振り返ってみても、世の中で変革をもたらして来たのは、こうした常人とは異なる感性を持った人々ではないか、と言う見方をする人もいます。

2022年に亡くなった日本を代表する精神科医の中井久夫氏は「なぜ統合失調症は世界のどこにおいても人類の1%前後に現れるのか」という問いに対して「人類のために必要だから」という大胆な仮説を打ち出していたそうです。
残念ながら、日本でこうした障害を持って成功している人は少ないですが、それは日本の教育界が、こうした障害を持っている人たちに対応できていないからで、むしろ、それは日本の国力にとって大きな損失だと考える人もいます。東京大学先端科学技術センターのシニアリサーチフェロー、中邑賢龍氏は、そうした異才を持っている生徒達が登校拒否にならずに学び続けられるために「異才発掘プロジェクトROCKET」などいくつかの教育プログラムを開発して来ました(現在は終了)。

マスク氏をポスト・ジョブズと呼んでいいのか?

シリコンバレーに行くと、経営者だけでなくエンジニアにも、そうした変わった性格の人が多く、それだけに職場でも、彼らの奇行を平然と受け入れ、必要なら流してくれる文化が多くの企業で根付いており、人の頭の作りは一人ひとり違うのだから、他の人の考え方にも寛容になろうという「ニューロダイバーシティー(神経多様性)」の考え方も定着しています。
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では、マスク氏の“世界で2番目のお金持ち”になるほどの経済的成功と、事業を振り回して途中で投げ出してしまう事業上の失敗を我々はどのように捉えたらいいのでしょう。

2011年、スティーブ・ジョブズが亡くなった後、日本でも海外でもポスト・ジョブズは誰かという記事が、頻繁に掲載されました。その当時、よく名前があがっていたのが、イーロン・マスクとGoogle共同創業者のラリー・ペイジ(Larry Page)氏、Facebook(現在Meta)の共同創業者のマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)氏、そしてTwitter共同創業者のジャック・ドーシー(Jack Dorsey)氏でした。しかし、今ではラリー・ペイジ氏は後任に経営を譲って目立たなくなり、マーク・ザッカーバーグ氏やジャック・ドーシー氏も以前ほどは目立たない存在になってしまい、結果としてイ―ロン・マスク氏だけが目立ち続ける、と言う状況になっています。
マスク氏は、次々と新しい事業を発表、事業の進捗をTwitterやYouTube Liveの配信などソーシャルメディアをうまく活用して世界に拡散しては多くの共感を集め、それによって多くの事業資金も集め、経済的にも大きな成功を収めています。しかし、その経済的成功こそが、彼にセクハラをさせたり、世界中の人々が愛用するTwitter社を買収して自分の思い通りに変えようと思わせるおごりを生んだりしているのではないでしょうか。
 
スティーブ・ジョブズの言葉にこんなものがあります。
「墓場で一番の金持ちになることには興味がありません。夜眠るとき、我々は素晴らしいことをしたと言えること、それこそが重要なのです。」
その視点からマスク氏の行動を振り返ると、彼の言動からは確かに「未来にどんなテクノロジーを広めてどんな世の中にしたい」と言うビジョンは見えてくるのですが、それを有り余る資金力に頼った極めて雑な試行錯誤で、力づくで形にしている感じがあり、ジョブズのような仕事に対する美意識やエレガントさといったものがほとんど感じられません。だから、最初のうちは面白いと思って応援している人も、いずれ無秩序さに呆れて心が離れてしまうのではないでしょうか。

もし、これからマスク氏すらも超える本当のポスト・ジョブズが出てくるのだとしたら、おそらくその人は、未来に対する美意識も備えた人物であることを期待しています。

● 林 信行(はやし・のぶゆき)

1967年、東京都出身。ITジャーナリスト、コンサルタント。仕事の「感」と「勘」を磨くカタヤブル学校の副校長。ビジネスブレークスルー大学講師。ジェームズダイソン財団理事。グッドデザイン賞審査員。「ジョブズは何も発明せずに生み出した」(青春出版社)、「iPhoneショック」(日経BP)、「スティーブ・ジョブズ」(アスキー)など著書多数。日経産業新聞「スマートタイム」、ベネッセ総合教育研究所「SHIFT」など連載も多数。1990年頃からデジタルテクノロジーの最前線を取材し解説。技術ではなく生活者主導の未来のあり方について講演や企業でコンサルティングも行なっている。

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