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2023.01.23

イーロン・マスクは世界の救世主か破壊者か?

いま、世界で最も注目を集めている経営者のひとり、イ―ロン・マスク氏。その大胆でスケールの大きい仕事ぶりは多くの人の目を惹きつけ、カリスマ的に崇める人々がいる一方で、非常識なならず者だと酷評する声も。評価が大きく分かれる彼の真実とは?

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文/林 信行 写真/Shutterstock 編集/森本 泉(LEON.JP)

▲ ビバリーヒルズで行われたバニティフェアのオスカーパーティー2015に出席したマスク氏。
今回の特集のテーマは「自分を信じられる大人はカッコいい」。イ―ロン・マスク氏はまさに自分を信じて突っ走っている超特急ではありますが、果たして彼を「カッコいい」と持ち上げてよいものやら? その余りの暴走ぶりは、ときに目に余る場合もあり、彼ほど毀誉褒貶が激しい人物も珍しいでしょう。とはいえ彼が歴史に名を遺す時代のキーパーソンであることに異存はなかろうかと。ではマスク氏とは実際、どんな人物なのか? 意外とわかりづらい、その全体像にITジャーナリスト兼コンサルタントの林 信行さんが迫ります。彼は世界の救世主? それとも破壊者?

何処までも幅広く事業を展開してくイーロン・マスク

イーロン・マスク(Elon Musk)。最近、ほぼ毎週のようにこの名前をニュースで耳にします。注目の電気自動車メーカー、Tesla社のCEOにして、民間の航空宇宙メーカーSpace X社のCEOも兼任。少し前までは世界一の富豪でした。昨年10月には、そのあり余る財力を生かして、世界の人々をつなぐ情報インフラとなっているソーシャルメディアサービス、Twitter社を個人で買収、そこでもCEOの座につきました。

無名な会社を2〜3社経営している経営者なら他にもたくさん見つかります。しかし、マスク氏が経営しているのは、いずれも注目を集める分野で最前線を切り開いているトップ企業ばかり。
Tesla社は言わずと知れた販売台数世界首位の電気自動車メーカーですが、同時に家屋やオフィスの電力を補う巨大な電池、「電池式エネルギー貯蔵システム」でも世界最大のメーカーとなっています。

Space X社は、民間企業として初めて有人宇宙飛行を成功させた企業で、こちらも度々、ニュースに登場しています。1度打ち上げたロケットが、帰還時、垂直着陸し再利用できる設計にしたことで使い捨て型ロケットに対して大幅なコスト削減を実現。日本の富豪でZOZO創業者の前澤友作氏が計画している月旅行プロジェクトも、このスペースXのロケットを使用する予定で、詳細は前澤氏がマスク氏と直接会談をして決めています。現在、同社は人類の火星移民計画も進めているのだとか。
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 ▲ ロサンゼルスにあるSpace X本社。手前右はファルコン9ロケット。
特に有名なのはこの2社ですが、それ以外にもかなり面白い会社に関わっています。

最初に会社を立ち上げたのは1995年のこと。兄弟と共にデジタル版シティガイドを作るZip2社で、New York TimesやChicago Tribuneと業務提携の末、コンピューターメーカーのCompaq社(現在はHewlett-Packard社の一部)に売却しました。

その後、1999年にはオンラインバンキングの会社、X.comを起業します。これが紆余曲折を経て大成功を収めるオンライン送金サービス、PayPal社になり、マスクは一時、そのCEOも務めていました。このPayPal社はやがて世界最大のネットオークションサイト、eBayに買収されてしまい、50人ほどいた創業メンバーのほとんどが辞めてしまいます。

ただ、彼ら創業メンバーは一人残らず超優秀で、退社後も世界に大きなインパクトを与える会社や事業を立ち上げて話題になっており、シリコンバレーでは彼らは「PayPalマフィア」と呼ばれています。
マスク氏は、その「PayPalマフィア」の中でも特に多くの事業を立ち上げています。

最近話題の絵を描くAIや対話ができるAIのブームに火を付けたOpenAI社もマスク氏が創設した会社の1つ。また、人間の脳をコンピューターに直接つなぐNeuraLinkという会社も創設しました(実現すれば頭の中でイメージするだけで文字を入力したり、ロボットを操作したりできるようになります)。

「退屈な会社」と名付けられたThe Boring Companyも創設しています。これはマスク氏が夢見る未来の交通システム、HyperLoop(ハイパーループ)を整備するための会社です。ハイパーループは空気抵抗や摩擦の少ない低気圧のチューブとその中を高速移動する乗り物で、離れた都市の間を移動する未来の交通システム。マスク氏は、この技術を独占せず、世界に広めようと仕様をオープンソースで公開しています。公開仕様に沿って、トンネルを掘るのがThe Boring Companyなのです(実はBoringには「地中に穴を開ける」という意味もあります)。

テクノロジーの最前線で新境地を切り開いているトップ企業ばかり、これだけたくさん関わっていると知ると、彼のニュースを頻繁に聞くのも当たり前の気がしてきます。
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名経営者、それとも迷経営者?

そんなマスク氏だけにIT業界の経営者の中には、彼をヒーローのように崇める人も少なくありません。昨年秋のTwitter社買収では、彼がこの世界的人気のソーシャルメディアサービス企業で、どのような改革を行おうとしていたかが彼自身のツイートによって可視化されていました。
▲ サンフランシスコにあるTwitter本社。
多くの重要な意思決定がすべて即断即決で、不要と思われるサービスを中止とツイートしたら、即実行する。自分の方針に合わなかった広報部などの社員を全世界で一斉に解雇したりと驚くようなスピードで大胆な改革を進めるマスク氏。

重役であっても、稟議を通さないと改革を実行できず歯がゆい思いをしている日本の企業経営者らには痛快だったようで、マスク氏を絶賛する声もよく見かけました。

いや、経営者だけではありません。サービスをどのような方向に持っていったらいいかを社内だけで決めずに、1.2億人いる自分のフォロワーにアンケート機能を使って直接聞く。さすがフォロワーが1億人以上いると、すぐさま何十万人という人からの返答が集まってきます。

このように利用者に対して開かれた開発をしている姿などは多くの一般の人々にも魅力的に見えました。
でも、果たして本当にそうでしょうか。「Twitter社は1日当たり400万ドル(5.2億円)の損失を出しているので不要な社員は次々と解雇する必要がある」と述べるマスク氏、従業員の3分の2を解雇した後、残ったエンジニアのうち、反対意見を述べたエンジニアを解雇してしまいます。しかし、そのエンジニアの意見が正しいばかりか、彼無しではTwitter社の運営上大きなリスクが発生すると知ると、急遽、当人を呼び直接対話をして、本社で仲良く仲直りした写真を撮ってはそれをTwitterに投稿し会社に呼び戻すという珍事がありました。

Twitter社の未来をアンケートツイートで決める作戦も、うまくいくことばかりではありません。マスクにはファンも大勢いますが、それ以上に彼のことを嫌う人も大勢います(マスク氏が経営者である限り、Twitterは使わないと宣言してサービスの利用をやめてしまったIT業界の賢人や有名ジャーナリストなどが少なからずいます)。
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▲ 2015年、カリフォルニア州パロアルトにあるTesla本社の前を歩くマスク氏と安倍晋三首相(当時)。
こうした事態に気がついたマスクは「自分はTwitter社の経営者を辞めるべきか? 結果に従います」とTwitterアンケートを実施。おそらく、この時点でマスク氏は自分のことを応援してくれるファンの方が多いと信じていたのでしょう。ところが1750万票を集めた回答は僅差ながらも57%が辞職を望むという結果になりました。
マスク氏はアンケート集計中、自分が不利だとわかると、Twitterの経営という無謀なことを引き受ける人間はいないとツイートしたり、結果が出てからもマスク支持者の一人が、これはおそらくbotによる投票だろうと指摘すると「そうかも知れない」と投票が無効である可能性を示唆しています(botとは、Twitter上で人間のふりをして投稿をするコンピュータプログラムのこと。このbot排除もマスク氏がTwitter経営者になってやろうと試みていることの1つです)。

一度は「後継者が見つかったらCEOを辞める」とツイートはしたものの1月中旬時点では、経営者退任についてはうやむやな状態になっています。

マスク氏が経営する他の会社はどうでしょう? HyperLoop設立のためのThe Boring Company社は、カリフォルニアのSpace X本社やラスベガスの展示場用のトンネルを掘った後も、ワシントンD.C.やシカゴ、ロサンゼルス、オーストラリアなど様々な場所でHyperLoop用トンネルを設置するための交渉を始め、いくつかでは自治体の了承も得ました。しかし、ほぼすべての開発はストップしたままで、いつからかThe Boring CompanyのWebサイトからHyperLoopについての話題そのものが消えてしまいました。

SFの世界のような脳とコンピュータをつなぐNeuraLink社も、既に脳に電極を繋いだ猿にゲームをさせる実験などでは成功を収めているものの、動物愛護団体の反対やコロナ禍などにあい、2020年から始めるはずだった人体実験の計画は今年(2023年)に先延ばし。MIT Media Labなどいくつかの科学機関が同社の技術に疑いの目を向け始めている他、2022年1月には元従業員が雑誌の取材で、社内は脅しや責任のなすり付け合いばかりといった記事が掲載されるなど、あまりうまくいっていない様子が伝わってきます。

※後編に続きます。

● 林 信行(はやし・のぶゆき)

1967年、東京都出身。ITジャーナリスト、コンサルタント。仕事の「感」と「勘」を磨くカタヤブル学校の副校長。ビジネスブレークスルー大学講師。ジェームズダイソン財団理事。グッドデザイン賞審査員。「ジョブズは何も発明せずに生み出した」(青春出版社)、「iPhoneショック」(日経BP)、「スティーブ・ジョブズ」(アスキー)など著書多数。日経産業新聞「スマートタイム」、ベネッセ総合教育研究所「SHIFT」など連載も多数。1990年頃からデジタルテクノロジーの最前線を取材し解説。技術ではなく生活者主導の未来のあり方について講演や企業でコンサルティングも行なっている。

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