2022.02.19
俳優・瀬戸康史。女子高生からの求婚と初めてのラブシーンは……。
ドラマ、映画、舞台と幅広く活躍する俳優の瀬戸康史さん。今回の主演映画『愛なのに』では、なぜか女子高生に求婚され、昔好きだった彼女に浮気を求められて困っている冴えない中年男性を演じています。新しい自分に出会える仕事しかしたくないという瀬戸さんの仕事と人生観とは?
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文/相川由美 写真/内田裕介 スタイリング/小林洋治郎(Yolken) ヘアメイク/小林純子

今回の映画『愛なのに』では無精ひげを生やし、決してカッコいいとは言えない悩める中年男性を演じ、本格的なラブシーンにも挑戦しました。一昨年には結婚し、公私とも脂の乗り切った瀬戸康史の俳優人生を、本人はいまどう捉えているのでしょう?
あんなにグイグイ来られたら、僕は引いちゃうタイプだと思います
瀬戸 よかったです。ありがとうございます。
── 瀬戸さんが演じられた多田は古本屋の店主で、日がな一日、本を読みながら店番をしている、ある種リタイアした人のような暮らしぶりです。瀬戸さんはこの多田という人物をどのように捉えましたか?
瀬戸 そう、不思議な人ですよね。もともと父親がやっていた古本屋を、今は息子である自分が継いでいるんですけど、本当にゆったりと、のんびりした日々を送っている。ほかの登場人物たちがみんな狂ったような激しい感じの人ばかりですが、その中でも多田は、わりと普通な感じで。ある意味、どこをピックアップすればいいのかわからないような役なので、ヘンにクセをつけたり、色をつけずに演じようと思っていました。
── ヒゲ面の瀬戸さんが新鮮ですが、それはご自身の提案ですか?
瀬戸 そうですね。古本屋だし、ヒゲを生やしてみようかなって現場に行ったら、「あ、じゃあそれで」っていうことになって。メガネは城定(秀夫)監督が「かけたいね」って。

瀬戸 僕は、そういう恋愛に遭遇したことはないんですけど(笑)。なんなんでしょうね。他の登場人物もそうですけど、みんな「何が好き」とか自分でもわからないまま、衝動的に「生き物」として迫ってくる感じがすごいですよね(笑)。そういう、いつ自分の身に不意に飛び込んでくるかわからないものが来ちゃったという感じ。
── その女子高生に対する受け止め方も、キッパリ否定するでもなく、多田の暮らしぶりに似て寛容で大人ですよね。
瀬戸 そう、なんか日本人的なんじゃないですか。あんまり白黒ハッキリつけない感じというか、平和に済ませたい、みたいな(笑)。あとは、多田自身も、誰かに必要とされるとか、求められることが初めてに近かったんじゃないでしょうか。だから、どんどん心を許していったのかなって。
瀬戸 リアルに考えると年齢的にも犯罪っていうか、ちょっと問題があるし(笑)。そもそも、あんなにグイグイ来られたら、僕は引いちゃうタイプだと思います。怖いから「店にも入ってこないで」ってしちゃうと思います。
でも、たぶん多田は、自分の中に満たされないものがあるから、彼女を強く押し返せなかったのかもしれない。それが男としてなのか、人としてなのかわからないですけど。
ラブシーンは相手との呼吸が大事。ある意味、見せる踊りと一緒
瀬戸 究極ですよね、けっこう。男だったら、全然いっちゃう人も多いでしょうね(笑)。僕は怖くて無理だけど、いく人の気持ちもわからなくはない。
── そういう多田という人間を見た時に、瀬戸さん自身と通じるところはありますか?
瀬戸 あの平和主義的なところは、僕もあるかな。人に対してあんまり深いところまで踏み込まなかったりするので、それはすごくわかる。でも、そこぐらいですかね。僕は多田みたいに気持ち的にあまり揺れずに、ダメなことはダメってやっちゃうタイプなので。

瀬戸 高校生の彼女はとっても静かだけど、その眼差しとか手紙に書いてある言葉とか、接していく中に多田は熱いものを感じたんだと思うんです。年齢的な問題とか、いろんなハードルを飛び越えるぐらいの熱量を感じたからこそ、ああいう言葉が出たんじゃないかな。
瀬戸 彼は本をいっぱい読んでいて、いろんなことを知っているけど、実体験が不足していて賢くはないので(笑)。多田も、自分では「愛」だと思っているかもしれないけど、実際はまだ恋とか、そのぐらいのレベルなんじゃないかな。「いいかも」ぐらいだと思いますよ。
── 劇中でかなりハードなベッドシーンを演じられているのは、これまでの瀬戸さんの爽やかなイメージを覆す衝撃と新鮮さがありました。
瀬戸 そうですか(笑)。まず台本が来る前に「こういう企画でベッドシーンもあります」と知らされていて。俳優をやっていれば、いずれそういう機会もあるだろう、それが今回のタイミングだったというだけなんです。
── 特に構えることはなかった?
瀬戸 初めての経験なので、いざそれをやるってなった時は、「どう表現したらいいんだろう?」「生々しく、かつ品もなきゃいけないな。果たして自分にできるだろうか」ってドキドキはしていたんです。でも、今となっては、そういうのもあまり考えなくてもよかったなって。それもお芝居と一緒で、相手との呼吸が大事で、ある意味、見せる踊りと一緒というか。
おもしろかったのが、まずベッドシーンを撮影する前に、城定さんと助監督の男の子で、「こういう感じで」ってやってくれたんです。「あ、なるほど、やってくれるんだ」と思って。僕は笑っちゃいましたけど(笑)。そこでヘンな恥ずかしさやモヤモヤも一切なくなって、「ちゃんとやんなきゃ」ってスイッチが入りました。きれいに撮っていただいたし、あまり時間をかけずに短期集中型なのもありがたかったです。

仕事選びは自分が演じる姿が想像できないというのがポイント
瀬戸 いろんなことを受け入れられる大人はカッコいいですね。年齢が上の人でも、会社とかで自分の意見が一番正しいと思っている人が多くて、年下や経験が浅い人に対して、「おまえ、すげぇな」「その意見いいな」って言える人って少ない気がするんです。僕はそういう、いいところをちゃんと見つけられる人でありたいな、とは思ってます。
── 瀬戸さんは、お母さまの希望で芸能界に入られたそうですが、デビューから16年という経験を重ねてきて、お芝居に対する向き合い方は変わってきましたか?
瀬戸 本当に変わったのは、俳優という職業、表現する仕事が好きになったことが大きいです。だから、人生って何が起こるかわからないなと。僕はいい方向に転がったので、親に感謝しています。この仕事は好きになれなかったら絶対きついです。でも、続けてるってことは好きなんだなって。
瀬戸 若いころは仕事も選べないし、それこそ「かわいい」と言われることもそうなんですけど、あんまり自分を客観視できていないし、自分のそういった部分を受け入れられなかったので、きつかったです。でも、年々いろんな人や作品と出会って、向き合い方も変わってきて。年齢を重ねることで、いろんな経験ができるのは財産です。今は、イヤなことはほぼやらない主義なので、ありがたいことに本当に好きなことだけやらせてもらっている感じです。
── 瀬戸さんは映画も舞台もドラマも、フットワーク軽くいろんな分野をおもしろがっている印象がありますが、何かこだわりはありますか?
瀬戸 たぶんどれも好きだからやっているって感じです。よく舞台では芝居は変わるんですかって聞かれるけど、あんまり自分の中では変わらないと思っていて。ただ、舞台は映像よりもはるかにやれることが幅広いし、作風も含めて可能性がたくさんあるので、舞台はやめられないです。いろんな価値観とか、違った自分が見つけられそうなフィールドなので、やめたくないっていうか。

瀬戸 自分が演じる姿が想像できない、というのがポイントです。自分に試練を与えたい。あ、これはこういうふうにやればいいんでしょっていうのだと、ぜんぜん成長できないので。だから、筋トレみたいなことです(笑)。
── 今回の多田も、想像できなかったからこそ引き受けたということですね。
瀬戸 はい。その濡れ場も含めて。脚本を書かれた今泉(力哉)さんと城定監督と僕っていう変な組み合わせだし。おふたりと今回、初めて出会うことができて、新しく背中の筋肉がついた感じです(笑)。これからも、興味を持ったことはやっていきたいなって改めて思いました。
仕事も人間関係も、自分に対して嘘をつかないで生きて行きたい
瀬戸 あんまり意識してないですけど、僕は絵を描くのが趣味なんです。普段は職業病というか、映画を見ても、小説を読んでも、すべて芝居脳で見てしまうけど、絵を描いている時だけは切り替わってリラックスできるんです。
── 絵はどんな時に描いているんですか?
瀬戸 カフェで描く時もあるし、家で描いたり、現場の合間とか、いろんなところです。いつもiPadで描いているんですが、持ち運びもラクで、間違ったらすぐ消せるし、ペンも豊富で色もいろいろあるし、描きたい時に描けて楽しいんですよ。
── 最近も、PUFFYみたいな双子の女の子の絵を描かれて、かわいいと話題になりましたね。
瀬戸 いつもテーマを決めて描くんですが、その時は双子だったんです。テーマを決める時は、自分のスマホに入ってる音楽をシャッフルして、例えば「夜のなんとか」って曲だったら、夜をテーマに描いたりします。あとは、よく虫とかも描くんですけど、虫は「今度あれ描いてみよう」っていう感じかな。

瀬戸 実はすでにかなりたまっています。デジタルなんで個展の形式というか、やり方は考えなきゃいけないですけど、いずれやりたいなと思うし。あとは、グッズ化してくださいっていう声はけっこう多いので、それもおもしろいかな、と思います。
── 瀬戸さんが「自分らしく生きる」ということを考えた時、どうありたいですか?
瀬戸 果たして何が自分らしいのか、自分ではわからないんですけど。いろんなことに嘘をつかないっていうことじゃないですか。人間関係もそうですけど、自分に対しても嘘をつかないで生きていきたい。そうじゃないと苦しいです。まぁ、我慢しなきゃいけないこともありますけど。
── 40代、50代とこれからさらに筋肉をつけていくうえで、やりたいことはありますか?
瀬戸 今までもそうだったんですけど、あんまり想像ができていないんです。だから、今までどおり「今日あること」をやっていくしかないのかな。これまでいろんな理由でこの世界からいなくなっていく人を何人も見てきたので、続けられるって、大きく言うと奇跡だなって思うんです。定年退職みたいなことがない世界なので、続けていけたら幸せです。
瀬戸 計画は立てられないですね。それこそ旅のしおりとか、そういうのもできない(笑)。本当に行き当たりばったりな性格で「何とかなるでしょ」って感じなんで。未来のことなんてわからないじゃないですか。そうならなかった時にイラッとするよりも、小さな幸せを見つけて「わぁ」ってなるほうがいいかなって。そうやって楽観的でいると自分を追い込むこともしないし、たぶん抜き方が上手なのかなと思います(笑)。
── 最後に、今回の『愛なのに』はLEON読者にどんなふうに見てもらえるといいですか?
瀬戸 読者の方は、大人としていろんな人と会って、いろんな恋愛も経験してきたでしょうから、きっと共感できるところも多いんじゃないかな、と。それぞれの愛の形とか、人間のおもしろさとか、醜さ、かわいらしさみたいなところを見ていただけたらうれしいです。


● 瀬戸康史(せと・こうじ)
1988年5月18日、福岡県生まれ。2005年、俳優デビュー。近年の出演作に映画「合葬」「ミックス。」「寝ても覚めても」「人間失格 太宰治と3人の女たち」「コンフィデンスマンJP-英雄編-」、ドラマ「まんぷく」「海月姫」「透明なゆりかご」「デジタル・タトゥー」「ルパンの娘」「私の家政夫ナギサさん」「男コピーライター、育休をとる。」、舞台「陥没」「23階の笑い」「日本の歴史」「彼女を笑う人がいても」など。2017年には「関数ドミノ」で平成29年度(第72回)文化庁芸術祭の演劇部門新人賞を受賞。また大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に出演が決定し、Amazonオリジナルドラマ「恋に落ちたおひとりさま」が3月より配信するなど、公開作が多数控えている。

「愛なのに」
「性の劇薬」「アルプススタンドのはしの方」の城定秀夫が監督、「愛がなんだ」「街の上で」の今泉力哉が脚本を務め、瀬戸康史の主演で一方通行の恋愛が交差するさまを描いたラブコメディ。城定と今泉が互いに脚本を提供しあってR15+指定のラブストーリー映画を製作するコラボレーション企画「L/R15」の1本。古本屋の店主・多田は、店に通う女子高生・岬から求婚されるが、多田には一花という忘れられない存在の女性がいた。一方、結婚式の準備に追われる一花は、婚約相手の亮介とウェディングプランナーの美樹が男女の関係になっていることを知らずにいた。多田役を瀬戸が演じるほか、一花役を「窮鼠はチーズの夢を見る」のさとうほなみ、岬役を「由宇子の天秤」の河合優実、多田役を「よだかの片想い」の中島歩がそれぞれ演じる。2月25日から新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
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